最弱の英雄

皐月 遊

二章 3話 「アリスとの出会い」

ライトが屋敷を出てから2週間後、ライトは酒場で働いていた。

「いらっしゃいませー!」

ライトはビールを片手に客へ挨拶をする。

「おいラット! そっちのテーブルビール2本追加だ!」

「了解っす!」

ライトの事をラットと呼ぶのはこの酒場の店主だ。 
ライトは王都に来てから自分の名前をライトではなく、ラットと名乗っている。

「ビール2本お持ちしました!」

「おぉサンキューなラット!」

ライトがこの酒場で働き始めたのは1週間前だが、ライトは働き者と酒場でしてちょっとした有名人になっていた。

「よーしラット! もう客も減ってきたから上がっていいぞ。 ほら、今日のぶんの給料」

「あざっす!」

店主はライトにコイの入った袋を渡してくる。 本当はこの酒場の給料は月末支給だがライトは特別に日給制にしてもらっている。 

「んじゃ、お疲れ様でした!」

「あいよー! また明日も頼むな!」 

お辞儀をして酒場から出る、そしてライトはこの前購入した人から顔を覚えられにくくする認識阻害の魔法のかかったローブを被り、顔を隠し今泊まっている宿屋に帰るため歩き出した。
なぜライトが認識阻害のフードを被っているかというと、街でうっかり屋敷の人とあっても大丈夫なようにである。
家出して2週間で発見されてはお話にならない。

「えっと今日の給料も合わせて今俺が持ってるのは20万コイか、まだとうぶんは宿屋生活だな…」

ライトはこれまで貯めてきた20万コイの入った袋を見て呟く、ライトの目標は100万コイを貯めてこのエルキドを出て、どこか遠くの村などで暮らすことだ。

「しかし…俺って思ったよりコミュ力あったんだな! 最近では接客を楽しいと思うようになってきたぜ!」

ライトがそんな事を言いながら歩いていると、路地裏へ手を引かれて無理矢理連れて行かれる女性が目に入った。
今ライトがいる通りは人が少なく、ひったくりなどが多いのだ。 
ガラの悪そうな男に連れて行かれた女性は…

「え…セレナ?」

女性の顔はよく見えなかったが、腰まである長い金髪はライトの知る中で1人しかいなかった。
ライトはいてもたってもいられなくなり、女性が連れて行かれた路地裏へと入っていった。

「あれ…あいつどこ行きやがった?」

ライトが路地裏に入ると、2人の姿はなかった、何処にいるのかと思いながら路地裏を進むと、誰かの声が聞こえた

「おいおい姉ちゃんよぉ…可哀想な俺たちにすこーしだけ、お金を恵んでくれませんかねぇ?」

「な、何言ってるんですか…」

ライトは声のした方に行くと、そこには先ほどの女性と男がいた、それだけではなく、最初に女性を連れて行った男の他にも2人別の男がいて、3人で女性を囲んでいた。
ライトはフードを被ったまま近くにあった木の棒を取り、男達の前に飛び出した。

「おいあんたらやめろよ!」

「あぁ…? なんだテメェ…」

3人組みの1人がライトの方を向く、その顔には見覚えがあった

「あれ…お前ら…あの時の!」

「あ? 俺たちのこと知ってんのかぁ?」

「知ってるも何も……あ…そっかフード被ってたんだ」

その男達はライトが初めてこの世界に来た日にアイリスに絡んでいた3人組だ、ライトは勝手にこの3人組を余分3兄弟と呼んでいる。

「まぁいいや、とにかくその娘を解放してやってくれよ」

「なんだよお前こいつの知り合いか?」

と言って男は女性をライトに見せる、すると…

「…あれ? セレナじゃない?」

女性はセレナではなかったのだ、よく見ればセレナよりも背が小さいし、赤いカチューシャを付けていて全くの別人だった、その女性は震えた声で

「あ…あの…私は大丈夫ですから…」

と言ってきた、大丈夫だから、なんなのだろう。逃げろとでもいうのか? 震えた声で言っても全然大丈夫には見えない。
ライトは木の棒を構え

「待ってろ、今助けてやるから」

ライトは木の棒に電気を纏わせようとする。
電気を纏わせてしまえばどんな棒でも相手を無力化する事が出来る。 
そして一気に女性を助ける。 はずだったが、それは女性の首に突きつけられたナイフによってその計画は崩れる。

「おい兄ちゃん、妙な真似はするなよ? この女を殺されたくないなら、今すぐ今日見た事を忘れてここから消えろ」

「なっ⁉︎」

「そんな木の棒で何が出来るんだ?」

「カッコつけて登場した割には剣の1本も持ってねぇのか」

男3人から言われ、ライトは何も言い返すことは出来ない、女性にナイフが突きつけられている事によって、力で無理矢理助ける手段はなくなった。 
ならば仕方がない、とライトは自分の懐から袋を取り出し。

「お前らは…金が欲しいんだろ? この袋に20万コイ入ってる、頼む、この金をやるからその娘を解放してくれ」

「なっ⁉︎ ダメですよ! あなたがそこまでする必要は…!」

「黙ってろ女、おい兄ちゃん、本当に20万コイ入ってるんだな?」

「あぁ、だからその娘を解放してくれ」

「…分かった、おいブンタ、お前が金を取りに行け、そんでブンジロウ、お前は女を連れてけ」

男2人が歩いてくる、まだ女性にはナイフが突きつけられている、もしライトの金が20万コイなかった時にすぐ殺せるようにだろう。

「さぁ、金をよこしな」

「あぁ」

ライトは男に袋を渡す、男は中身を確認すると、リーダーの方を振り返り

「リーダー! 本当に20万コイありますよ!」

「よし、ブンジロウ、女を返してやれ」

「へいリーダー、ほらよ」

「きゃっ!」

ナイフを突きつけている男が女性をライトの方へ押し出す、バランスを崩した女性は倒れそうになるが、ライトが受け止めた。

「よし逃げるぞお前ら!」

「「へいリーダー!」」

余分3兄弟はリーダーに従い全速力でその場から去っていった。
その場に残されたライト達は

「あ、あの…私のせいで…」

「いやいや! むしろ怖い思いさせて悪かった、俺じゃなくてもっと強そうな奴だったら良かったのにな…通りかかったのが俺でごめん」

女性には首にナイフを突きつけられるという怖い経験をさせてしまった。 ライトにもっと力があれば、あんな奴らなどすぐに倒せたはずだ。

「あなたが謝らないでください! 私の為にあなたが…その…」

「あぁ金か? 大丈夫大丈夫! ちょっと食べる量減らせば全然問題ないから」

ライトは女性に心配させないように笑顔で答える。 実際はかなりショックだが、それを女性に八つ当たりする気などない、お金はまた貯めればいいのだから。

「せめてお礼させてください!」

「え⁉︎ いやお礼なんていいって! 」

「ダメです! あなたが私にお礼させてくれるまで、ずっと後ろについて行きますから!」

「えぇ……分かったよ…でも本当に無理しなくていいからな? なんなら肩もみでも全然満足だから」

「肩もみって…もっと他に要求ないんですか…でもお礼させてくれるならよかったです!」

そういって女性はライトに笑顔を見せる。   綺麗系よりも可愛い系だな。とライトは思った。

「あ、自己紹介がまだでしたね! 私はアリスといいます!」

「俺はライ…んん! ラットだ、よろしくな」

危うく本名を言いそうになったライトは咳払いで誤魔化す、最初は首を傾げていたアリスだが

「ラットさんですね! ではお礼をしたいので、私のお家へ来てください!」

「え…⁉︎ 家⁉︎」

「はい! もしかして…嫌ですか?」

上目遣いで言われてライトは言葉に詰まる、これをもし素でやってるのなら恐ろしい才能だとライトは思った。

「いや…別に嫌じゃないけど…ちなみに、お礼って何してくれるんだ?」

「んー…秘密です!」

ウインクして言うアリスに、ライトは言葉を失う、危うく流れで告白をして振られるところだった。
振られるのが当たり前だと思っている自分に苦笑いをする。

「さ、早く行きましょう!」

「ちょ! 手を握るのはまずいって! 勘違いするぞいいのか⁉︎」

「何を言ってるんですか…?」

ライトの言葉を無視して手を繋いだまま2人は歩き続けた、道中2人を見た王都の人々は
「あらぁ…仲のいいカップルねぇ」
「可愛い彼女さんね、大事にしなさいよ!」
「あのフード野郎俺たちと同じ負け組の匂いがするのに…」
「あんな可愛い彼女さんがいるんだ、文句なしの勝ち組だろ!」

などと好き勝手な事を言っていた。アリスは聞こえていなかったみたいだが、ライトには全て聞こえていたのでめっちゃ恥ずかしかった。
ひとつ言うのなら…俺を負け組と言った男よ、お前は間違ってないぞ。 

「はい! つきましたよ! ここが今私が住んでいるお家です!」

「……え?」

アリスが指をさした方を見て、ライトは言葉を失う、アリスが指をさした家はものすごい豪邸だった、フローラの屋敷と同じかそれ以上の大きさの家に、ライトは開いた口が塞がらなかった。

「あ、アリス…?」

「はい? なんですか?」

ライトはアリスの肩に手を置き

「お前も女の子だもんな…こんな豪邸に住んでみたいよな、だから将来はお前を愛してくれる金持ちな男と結婚しなさい。 大丈夫、アリスなら出来る。 俺はずっと応援してるぜ」

「あなたは私の保護者ですか⁉︎ 冗談じゃなくて本当に私が住んでるお家ですよ!」

「マジで…?」

「マジです!」

腰に手をやり言うアリスにライトはここが本当にアリスの家なのだと確信する。
すると、アリスの家の門から1人の男が急いで出てきた。

「アリス様! いったい何処へ行っていたのですか⁉︎」

「あ、カインさん…」

カインと呼ばれた腰に剣をさした青い髪の男は、アリスが手を握っていたライトを見ると。

「すまないが、君は何者だい? アリス様とどんな関係か聞かせてもらえないだろうか」

「え? 俺はアリスと…どんな関係だ?」

「私に聞かないでくださいよ! 」

アリスはライトの方に手を向け

「えっと…カインさん、こちらにいるのはラットさんといって、先程男の人達に連れ去られた私を助けてくれたんです」

「アリス様が⁉︎ どこかお怪我はありませんか⁉︎」

「えぇ、ラットさんのおかげで何もされずにすみました。だからお礼をしようと屋敷にお連れしたんです」

それを聞いたカインはライトの方を向き、頭を下げ

「先程の無礼な態度、お許しください。 本来ならばアリス様の騎士である僕が守らねばいけないのに、アリス様を助けていただき、ありがとうございます」

「ちょちょ! 頭を上げてくれよ! あんたみたいな人が俺なんかに頭を下げないでくれ」

「……分かりました」

「それではラットさん! さっそくお家の中へどうぞ!」

「お、おう…なんか緊張するな」

ライトとアリスは屋敷の中へ入った、カインは食事の用意があるらしく、メイド達と共にキッチンへ向かった。

「では食事が出来るまで私のお部屋でお話をしましょう!」

「え? あ、おう」

ライト達は階段を登り、三階にあるアリスの部屋へと入った。
アリスの部屋はぬいぐるみやハートのクッションなどが置いてあり、いかにも女の子という感じの部屋だった。

「では私は着替えてくるので、ここで待っててくださいね!」

「おう」

そういってアリスは隣の部屋に入っていった、ライトはずっと被りっぱなしだったフードを脱ぎ、部屋を見回す。

「やっぱ広いなぁ…こんなに広いと、やっぱり思い出しちまうな…」

ライトはこの豪邸をフローラの屋敷と重ねてしまっていた。 
ライトは屋敷での日々を思い出し、懐かしむ。
 ソラにいたずらをされて皆で笑いあった日々を。
アイリスの家事や掃除を手伝っていた日々を。
ファリアの手料理を皆で会話をしながら楽しく食べた日々を。
セレナに罵倒されながらも一緒に文字の勉強をした日々を。

どれもが最近までの出来事で、最近自分で捨てた日々だ。

「ダメだダメだ! 戻らないって決めただろ」

ライトはあの屋敷へ帰りたいと思う気持ちを頭を振って振り払った。
そして部屋の扉が開き、アリスが部屋に入ってきた。
先ほどまで着ていた白と青を基調としたドレスとは違い、今アリスが着ているのは真っ白なワンピースだった。

「お待たせしましたラットさん……って、あなた誰ですか⁉︎」

アリスはライトの顔を見ると驚いた顔をした。

「え?」

「ラットさんはどこに行ったんですか⁉︎ か、カインさん呼ばないと!」

「ちょ! 待って待って! 俺がラットだよ! 初めてフード取って顔みせたから気づかなかったんだろ」

「え? ラットさん?」

「おう、思ってた顔と違かったか? イケメンを想像してたんなら謝るわ、すまん」

「いえ…もっとおじさんかと思ってました」

申し訳なさそうに言うアリスにライトは絶句した。
そんなライトを見たアリスはウインクをして。

「冗談です」

と笑いながら言った。 
ライトは思った、この娘に将来何人の男が騙されるんだろう。と

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