最弱の英雄

皐月 遊

二章 2話 「さよなら」

「……んぁ…?」

もうすっかり夜になった頃、ライトは自分のベッドで目を覚ました。

「あれ…なんで俺ベッドに…」

ライトは昼間に庭であった出来事を思い出す。 たしか全力でボルトを撃ち…

「あ…そうか…またやっちまったのか」

ライトには痛みで苦しんでる時の記憶もあった、苦しむライトを安心させようと優しく触れてくれていたセレナの事も…

「お礼…しなくちゃな」

ライトはベッドから立ち上がり、部屋を出る

「この時間ならまだ図書室にいるだろ」

いつもセレナ先生の勉強会が始まる時間がこれくらいの時間なので、きっと居ると思い、図書室へと向かった。

「よーし…まずは笑顔でいつも通りに挨拶…」

図書室の前に立ち、そして扉を開け

「セレナ先生〜、いますかー」

図書室に入りセレナの名前を呼ぶが、返事がない。 いつもならライトがこのように呼ぶと、『だからいつ私があなたの先生になったんですか?』と言いながら睨んでくるのだが、それが無いと調子が狂ってしまう。
いや別に睨まれたい訳ではないのだが

「あれ…居ないのか?」

ライトが図書室の中を歩き回ると、すぐに金髪の髪が目に入った、ライトはその後姿に安心して笑いながら

「なんだよ居るんじゃねぇか、無視なんて酷いぜセレナ、下手したらいつもの罵倒よりも傷つくわ」

「…………………」

セレナからの返事がない、後姿なので寝てるのかと思ったが読んでいる本をめくっているので起きているはずだ、ライトは苦笑いになり

「あ、あれ? セレナ先生? もしかして俺が無視の方が傷つくとか言ったからわざと無視してます? やばい俺とんでもない事教えちゃった⁉︎」

「…………………」

それでも無視を続けるセレナにライトは本気で困惑し

「セレナ…? ちょっと本気で心配になってくるからさ、もしこれがただの悪ふざけの無視ならやめてくれないか?

「……………………」

「おいセレ……痛っ⁉︎」

ライトがセレナの肩に触れた瞬間、ライトの手が叩かれた、セレナはゆっくりこちらに顔を向けると

「あら…虫かと思ったら…ゴミでしたか」

「お、おいおい…さすがに手を叩くのはやりすぎだろ…あ、まさか今のって無視と虫をかけたギャグ…」

「出て行ってください」

「え…? なんで…」

「出て行かないなら、あなたはここに何をしに来たんですか?」

「な、何って…昼間のお礼に…」

あきらかに態度がおかしくなっているセレナにライトは本気で焦り始める、セレナはライトを睨み

「なら、お礼なんて結構です。 だからもう出て行ってください」

「なんでそんなに俺をこの部屋から出したいんだよ…? あ、そうだ…ほら、まだ今日文字の勉強してないじゃねぇか、やろうぜ?」

「文字の…勉強…?」

文字の勉強、その単語をだした瞬間、セレナの感じが変わった。
今まではこの部屋から追い出そうという感じだったが、今のはまるで…

「そんな勉強…やって意味あるんですか?」

まるで…ライトに怒っている感じだった。

「え? それは…どういう事だ? 意味あるに決まってるだろ?」

「あなたは…なんで文字の勉強をしてるんですか?」

「そんなの…文字が読めないからに決まって…」

「なんで文字が読めないんですか?」

「だから! 前も言っただろ⁉︎  記憶が無いか……ら…」

そこでライトにある疑問が生まれた、なぜ自分が気を失ってる間にセレナのライトへの接し方がこんなに変わったのか。

いつもはなんだかんだ暴言を吐きながらも、ライトが本心から嫌な思いをしないように気をつけている感じだった。 

なのに先ほどからのセレナの行動は全てライトを不安にさせている。

何故セレナはライトにこんな接し方をするのか、何故文字の勉強をしようとしないのか、何故ライトが文字を読めない事を質問してきたのか。
セレナは…

「嘘を…つかないでください」

セレナは、ライトが記憶喪失じゃないのを知っている。

悲痛な声で言うセレナにライトは困惑しながら

「な…なんで⁉︎」

「なんで…とは、なぜ私があなたが記憶を失ってない事を知ってるのか、という事ですか?」

「あ、あぁ」

「ソラさんから聞きましたよ、あなたとソラさんが幼馴染じゃない事も」

「ソラが⁉︎」

何故ソラが…とライトは疑問に思った。
ソラはそんな事はしないと思っていた。 
だが嘘がバレたのは事実、ライトが恐れていた事が起こってしまったのだ。

「ま、待ってくれ! これには事情があって…!」

「事情? なんですか? また嘘をついて皆を騙そうとするんですか?」

「ち、違う! 事情って言うのは……」

ライトは本当の事を言おうか迷う、ライトが言おうとしてる事は、

ライトは元々この世界の住人ではなく、違う世界から来た。

という事だ。 もしこれが伝われば、今までの事も弁明できる。 信じてくれれば…だが

「お、俺は…本当は…」

「最初に言っておきますけど」

ライトが本当の事を話そうと口を開いた時、セレナがそれを遮る

「私はもうあなたの事を絶対に信用しませんから。 あなたがこれから言う事が何であろうとです」

「なっ…」

「ほら、事情があるんでしょう? 言ってみて下さいよ。 この短時間でどんな嘘を考えたのか、純粋に気になりますから」

ライトを挑発したような言い方にライトは頭に血が上ってしまう、そして乱暴に言い放つ

「あぁ分かったよ‼︎ 言えばいいんだろ⁉︎ 
俺はこの世界の住人じゃない! 別の世界から来た! だからこの世界の文字が読めない! それを信じてもらえないと思ったから皆に記憶喪失って嘘をついた!  以上だ!」

ライトの言葉を聞いたセレナは、パチパチと拍手をして

「へぇ…この短時間でよくそんな嘘を考えましたね。 驚きました、さすが嘘をつき慣れてるだけありますね?」

「だから…! 嘘じゃねぇって言ってるだろ⁉︎ 何で信じてくれねぇんだよ!」

「信じれると思いますか⁉︎」

ライトはセレナの激怒した声と表情で、普段からは想像の出来ない声の変わりように目を丸くした。

「あなたが記憶喪失だと聞いた時、私は可哀想な人だなと思いました。 
あなたが文字を読めないと知った時、何かしてあげようと思いました。
あなたが一生懸命文字を勉強してる時、頑張ってるなぁと思いました。」

「……………」

「私の気持ちは何だったんですか⁉︎ あなたと話してる時に楽しいと思った事も!全部あなたの思い通りだったんですか⁉︎ 」

「ち…ちが…」

「ねぇ…どんな気持ちでしたか? あなたの嘘に騙されている私を見てるのは、楽しかったですか? 」

「違う…」

「お願いですから…これ以上…私を惨めな女にしないでくださいよ…」

「俺はそんな事…! 」

ライトはセレナの姿を見て言葉を失う。
……セレナは泣いていた

「あなたなら…信用できると思ってたのに…」

「せ、セレナ…」

「嘘つき…嘘つきは…嫌いです」

そう言い残し、セレナは図書室を去って行った、ライトはセレナを追う事も出来ず、その場に崩れ落ちた。

「嘘つき……嘘つきか…」

ライトは図書室の壁に背をつけ、うずくまる

「そりゃ…嘘つきの言葉は信じられねぇよな…」

ライトは自分の膝に顔をつけ

「俺だって…お前と話す時は楽しかったよ…」

涙を流し、自分が嘘をついた事を後悔し続けた。

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「……朝か…あのまま寝てたのか俺は…」

ライトが目を覚ますと、もう陽が昇り始めていた。

「セレナが知ってるって事は…ファリアやアイリスも当然知ってるはずだよな…」

ならば、もうこの屋敷には居られない。 ファリアやアイリスは優しいのできっと気にしないと言うと思うが、その優しさに甘えてはいけない。 

「よし…なら早くソラを起こして皆にバレない内に屋敷をでよう」

自分でもクズの考えだなと思う、だが仕方がないのだ、昨夜のセレナの事を思い出すと、とてもじゃないがこの屋敷で生活できる気がしない。

「ソラの部屋に行くにはキッチンの前を通らなきゃいけない…そこは要注意だ」

この時間帯なら確実にファリアかアイリスのどちらかが起きていて料理の下準備をしているのは知っている。
 だからキッチンの前を通る時、ライトは物音1つたてぬようゆっくり歩いた、するとキッチンの中から話し声が聞こえてきた。

「ソラちゃん、コショウとってくれない?」

「えっと…これかな?」

「うん、それであってるよ。 これでもうコショウの入れ物と砂糖の入れ物は間違わないね」

「うぅ…あれは本当にすまないと思ってるよ…」

中から聞こえてきたのは、ソラとファリアの話し声だった。
話し声を聞いた感じではファリアとソラはいつも通りに会話していた

「ファリアは…怒ってないのか?」

ライトはそう考えるが、1つ思い出した。 
嘘をついていたのはライトだけで、ソラは何1つ嘘をついていない、という事に。
それならば、ソラはこの屋敷の人々からは嫌な思いを受ける事は無いだろう。
ならば、ソラを連れて行く事は出来ない。

「さよならだ、ソラ。 皆と仲良くな」

誰にも聞こえないような声でそう呟き、一方的な別れを告げる。 
そしてそのまま玄関へ向かい、手ぶらのまま外へ出た、本来の予定ではソラと共に最低限の荷物を持って屋敷を出ようと思っていたが、いつソラが呼びに来るか分からない。
出るなら、早いほうがいい。

「さて…どこへ行こうか…まずは王都で働いて金稼いで…どこか遠くへ行こう」

ライトは屋敷の門を出て、クルリと回り屋敷の方を見て、頭を下げる。

「11日間、お世話になりました。 嘘をついていてごめんなさい。 ソラを…よろしくお願いします。」

言いたい事を言い終え、ライトは王都へと歩き出した。

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「ソラちゃん、コショウとってくれない?」

「えっと…これかな?」

「うん、それであってるよ。 これでもうコショウの入れ物と砂糖の入れ物は間違わないね」

「うぅ…あれは本当にすまないと思ってるよ…」

「…さ……なら……ソ……なか…」

「…ん?」

「ソラちゃん? どうかしたの?」

「いや、今ライトの声が聞こえた気がして…」

「え? ライト君? もう起きちゃったのかな…昨日できなかった10日目記念のサプライズパーティのことがバレちゃうかも」

「いや、多分ボクの気のせいだよ、ライトがこんな時間に起きるわけないしね」

「なら良かった…ソラちゃんだけじゃなくてライト君にまでバレちゃったらサプライズの意味ないもんね」

ファリアへウインクをしてソラに言う、ソラは苦笑いをして

「あれはたまたまで…」

「まさか私達3人が話してたのを聞かれてたとはね…油断してたよ」

「ははは…でも…セレナは大丈夫かな…?」

「あれからソラちゃんや私達には普通に接してるけど…ライト君の話になると不機嫌になっちゃうからね……」

「ライトとセレナ、結構お似合いだと思うんだけどな…ケンカ…しないでほしいな…」

落ち込むソラにファリアが頭を撫で

「ソラちゃんが落ち込む事ないよ、大丈夫、きっと仲良くできるよ!」

「…うん、そうだね、きっとそうだ!」

「よーし! じゃあ次はケーキを作ろう!」

それからライトが屋敷を出て行ったと皆が気づいたのは、2時間後だった。

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