最弱の英雄

皐月 遊

二章 1話 「嘘の代償」

「ライトー、起きて朝だよー」

「んん…」

自室に入ってきたソラに揺すられ、ライトは目を覚ます。

屋敷を襲撃した『ピエロ』を撃退したライト達は、ここフローラの屋敷に居候する事になって10日がたっていた。

「あ、起きた? アイリスに、もうご飯出来てるからライトを呼んできてーって言われたんだ。 随分疲れてるみたいだけど、夜更かしでもしてたのかい?」

「あぁ……昨日の夜にセレナと……あっ、いや何でもない!」

ライトは昨日の夜に日課であるセレナ先生による文字の勉強をしていた。  そして決まりとして”3文字覚えるまで終わらない”というのがあるのだが、昨日はその3文字目がなかなか覚えられず、何時間もかかってしまったのだ。
最後の方はセレナすらもあくびをしながらライトに文字を教えていた。
そしてセレナがライトに勉強を教える”条件”として、『絶対に私があなたに文字を教えている事を言わないでください。 もちろんソラさんにもです』と言われていたのだ。
もう既にソラに話してしまっていたライトは、必死にソラに誰にも言わぬように頼んだのだ。

「何かそこだけ聞くといやらしい意味に聞こえるね…まさかとは思うけど」

「は⁉︎ いや違うぞ⁉︎ 」

「信用できないなぁ…最近セレナとライトが会話するのをよく見るようになったって、アイリスとファリアが喜んでたよ?」

「あいつらは俺の親か…」

ソラには一旦部屋を出てもらい、寝巻から私服に着替える。
そして部屋を出てソラと共にリビングに向かった、リビングにはファリアがいた。

「あ、ライト君おはよう。 眠そうだね」

「あぁ、おはよう。 あれ、アイリスとセレナは?」

「えっとね…珍しくセレナが全然起きないの、いつもは早起きしてるのに…だから今アイリスが起こしに行ってるの」

「へ、へぇ…」

「ファリア、実はねライトが昨日の夜セレ…むぐっ⁉︎」

ソラが何かを言おうとするのを口を押さえて止める、そしてライトはソラにだけ聞こえるように小声で

「その事は絶対に言わないでください…‼︎‼︎ 冗談じゃなくマジでセレナから殺されちまうから!」

ソラは喋れないので頷いて肯定する、ライトはソラの口から手を離し

「すまんファリア、何でもないらしいぞ。 な、ソラ?」

「う、うん! ごめんねファリア」

「え? あ、うん」

「セレナ連れてきたわよ」

アイリスがセレナを連れてリビングに入ってくる、セレナは半目になっていて目を擦りながら入ってきた。

「遅れてすみません…昨日夜更かしをしてしまって…」

「それはいいけど…どうかしたの? ライト君もだけど、2人とも夜更かしなんて… 」

ファリアがセレナを心配して質問をする。するとセレナは慌てて

「え⁉︎ えっと…それは…」

セレナは本当に困ったらしく、ライトに目だけで「助けて」を合図してくる。それを悟ったライトはセレナと同じように動揺する、何とか誤魔化そうとしてライトは

「ま、まぁ、セレナにもいろいろあるんじゃねぇの? どうせ夜遅くまで本読んでたんだろ?」

「…!! そ、そうです! 昨日は本を読むのに夢中になってしまい夜遅くまで読書をしていました。 ライトさんも夜更かしをしたと言っていましたが、どうせくだらない事でも考えてたんでしょう?」

「そうそう! 昨日はくだらない事を考えるのに夢中で……っておい! 」

ライトがセレナに抗議の声をあげると、ファリアとアイリスが笑いながら

「ふふ…やっぱり、最近2人とも仲良しね」

「そうね、いつの間に仲良くなったのかしら」

2人が微笑みながらライトとセレナを見ていると、キッチンからソラが料理が乗った車輪付きの台を持ってきた。

「さ、ご飯にしようか」

と言ってソラは皆の前に料理を置く、そして全て起き終わり、いただきますと言って皆食べ始める。

「あ、そういえばライト君、今日って暇?」

「暇だけど…何か用か?」

食事をしながら、ファリアがライトに質問する。

「うん、もう一度ライト君の魔法を見てみたいの」

「俺の魔法?」

「ライト君って『ピエロ』と戦った時に剣に電気を纏わせて戦ってたでしょ? それが珍しいなぁと思って」

「電気…?」

ファリアが電気と言う単語をだしたら、セレナが反応した。

「あ、そうか、セレナは雷の魔女だったな」

「…あなたも雷魔法を使えるんですか?」

「おう、まぁまだ全然弱いけどな」

「いやいや、雷魔法を使える人って凄く珍しいんだよ? 私が知ってる中ではセレナとライト君とソラちゃんだけだもん。 だから、朝ごはんを食べ終わったらまた見せてくれない?」

「あぁ、いいぜ!」

ライトが肯定すると、セレナが手を挙げ

「それ…私もついて行って良いですか?」

「セレナが?」

「うん、別にいいわよ?」

「ありがとうございます」

そして朝ごはんを食べ終えた後、3人は屋敷の庭に集まった。
ちなみに、アイリスは皆の服の洗濯があり、ソラは読書がしたいらしく、ついてこなかった。

「んじゃまずは、何を見せればいい?」

「えっと、この剣に電気を纏わせてみて」

「了解」

ライトはファリアから剣を受け取ると、意識を集中して剣に電気を流す。
それをみたファリアは

「うん、やっぱり凄いわね」

と感心した。 セレナは

「な、なんですかそれは…」  

と驚いていた

「その電気を纏わせた剣は普通の剣と何が違うの?」

「えっと、ソラが言うにはこの状態の剣に触れると体が痺れるらしくて、剣を当てるだけでいいらしい。 実際に黒魔道士の下っ端に当てただけで気絶したぞ」

「なるぼど…それは確かに強いわね…他には何かある?」

「これの他だとボルトぐらいかな? あ、後はピエロと戦ってる時は身体に電気を纏うこと出来てたんだけど、何故か今は出来ないんだ」

あれは今日から5日前まで遡る…

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ソラに呼び出されたライトは、屋敷の近くの森に来ていた。

「どうしたんだ? こんな所に呼び出して」

「うん、ちょっと確かめたくてね。ライト、ピエロ戦の時にやってた身体に電気を纏うやつって今出来るかい?」

「あぁあれか、ちょっと待ってろ」

ライトはあの時のことをイメージして、身体に電気を纏わせようとするが

「………あ、あれ…?」

「やっぱり、出来ないみたいだね」

「な、なんで? あの時は出来たのに…」

「多分ライトはあの時に無意識に自分の中の能力のリミッターを解除したんだよ。 
本来なら武器に纏わせて強化する技を自分自身に使って無理矢理身体強化なんて危険すぎるよ。 
どこか身体の一部分だけ電気を纏わせて強化するのはボクも出来るし、ライトも特訓すれば出来るけど、全身強化は危険すぎる。
今後もし無意識に能力のリミッターを解除してしまう事があっても、絶対に全身強化だけは使っちゃダメだよ」

「わ、分かった」

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という事があり、全身強化は使えないのだ。

「なら、ボルトを見せてもらえますか?」

「おう! 」

ライトはピエロ戦以来使っていなかったボルトを使うため、右手を前にだす。
ピエロ戦の時にはボルトを使っても身体が痺れる事はなかったので大丈夫と思い、全力でボルトを放った。

「ボルト‼︎」

ライトの手から出た電撃は、凄まじい威力で庭にある木を破壊した。

「こ、これがボルト⁉︎」

「下級魔法のボルトはせいぜい小さな球を相手に飛ばして少し痺れさせる程度のはずですが…この威力…まるで上級魔法のライ・ボルトじゃないですか」

驚いていたファリアとセレナが倒れた木から視線をライトに戻す、すると…

「え⁉︎ ライト君⁉︎」

「ライトさん! どうしたんですか⁉︎」

2人が見たとき、ライトは地面に両膝をつき右手を押さえて苦しんでいた。

「…あ…あぁ…! 痛い痛い痛い痛い痛い!」

「痛い⁉︎ どこが痛むんですか⁉︎」

「わ、私ソラちゃん呼んでくる!」

セレナがライトの肩に手を置き、ライトに言葉をかける。
ファリアはソラを呼ぶ為に屋敷へ戻っていった。

「手…! 手がぁぁ…!」

「右手ですか⁉︎ 血は出てませんが…何ですかこれ⁉︎」

セレナがライトの右手を見ると、右手には電気が纏っており、凄く震えていた

「よく見せてください! ……痛っ⁉︎ 」

セレナがライトの右手を近くで見ようと触る、すると触れたセレナの手に激痛が走った、すぐに手を離すと痛みは消えたが…

「これをライトさんはずっと…?」

「あああぁぁぁ……!」

地面に頭を擦り付け、涙を流しながら痛みに耐えるライトに、セレナはライトの背中をさすりながら

「大丈夫…大丈夫ですから…! 落ち着いて…」

そのまま痛みと戦うライトの背中をセレナはさすり続けた、痛みがおさまらないらしいライトにセレナはどうしたらいいか分からず、セレナの瞳からも涙が流れる

「ライト! 大丈夫かい⁉︎」

「! ソラさん! ライトさんが…!」

ようやく到着したソラをセレナは涙目で見る。
一緒に来たアイリスもライトの状況を見て口に手をやり驚いていた。
ソラはライトの右手を見ると、自身の右手にも同じく電気を纏わせ、ライトの右手に触れた。

「ライト、待っててね…すぐに楽にするから!」

ライトの右手に触れると、ライトの右手から徐々に電気が消えていき、逆にソラの右手の電気が強くなる、そしてすべての電気を移し終えると…

「よし、終わったよ」

「ライトさん! 大丈夫です……か」

セレナがライトの顔を覗き込むと、ライトは眠っていた。

「ソラさん、一体何をしたんですか?」

「私の中にライトの右手の電気を全部移したんだよ、そして今は私の力でライトを眠らせてるよ」

それを聞いたセレナは安心したように胸を撫でおろし、セレナは眠るライトを微笑みながら見つめていた。
そしてソラの後ろにいたファリアとアイリスは

「ソラちゃん…これは一体どういう事なの? ただの雷魔法でこんな事になるなんて…聞いた事ないよ」

「うん、私もそれはずっと考えてたのよ、初めてボルトを使った時も、尋常でないくらい手が痺れていたの…ソラ、何か知ってる事があるなら、教えて」

2人の質問にセレナもライトの頭を撫でながらソラの方を見る、ソラは諦めたように息を吐き

「……分かったよ、話せるだけの事は話す、まず、アイリスに言ったボクとライトが幼馴染…と言うのは嘘だ。 すまない」

「……え? でも…ライトは記憶が無くてそれでソラちゃんが必死に説得して分かってもらえたって…」

「……まさか…」

アイリスが困惑し、ファリアが疑問を口にする

「まさか…ライト君が記憶喪失っていうのも…」

「…………それも……嘘だ」

その場に沈黙が流れる、その沈黙を破ったのは…

「な…なんですかそれ…」

沈黙を破ったのはセレナだった、セレナは立ち上がって自分のスカートの裾を握り、顔を下に向けていた。 
顔を下に向けているため表情は見えなかったが、その声は震えていた。

「記憶喪失が嘘…? なら…文字が読めないって事も…」

そこまで言って、セレナは走って屋敷へ走って行った

「あ、セレナ!」

セレナを呼び止めようとファリアが声をかけるが、セレナは屋敷の中へ入ってしまった。
その場にはアイリス、ファリア、ソラ、眠っているライトの4名だけになった。

「…改めて言うよ。 本当に、すまない」

ソラは2人に向かって深く頭を下げる。

ファリアとアイリスはお互いに顔を見合わせ

「ソラちゃん、きっと、嘘をつかなきゃいけない理由があったんでしょ?」

「私達はその事については怒ってないわよ、驚きはしたけどね」

「だからもう、この話は終わり! ね?」

2人の言葉にソラは驚いた顔をする

「さ、早くライト君を運びましょ? 」

「男の人を運ぶのは大変かもね…」

「2人共…ありがとう…」

3人はライトを持ち上げ、ゆっくりと屋敷へ運んだ。

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屋敷の中の部屋……セレナの自室でセレナは自分のベッドでぬいぐるみを抱き、涙を流しながら…

「やっぱり……嘘つきじゃないですか…」

セレナは涙声で呟いた。

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