最弱の英雄

皐月 遊

番外編 2話 「セレナ先生の勉強会」

「はぁ〜〜、見れば見る程広いなこの屋敷」

リビングで何をするか考えていたライトは、この屋敷を見て回ろうと思い、屋敷の中を適当に歩いていた。

「これは何処に何があるのかとか覚えるの大変そうだな」

ライトは適当に部屋のドアを開けながら進み、何処に何があるかを把握しようとしていた。

「お、ここは他の扉に比べて少し大きいな、何かあるのか?」

ワクワクしながら扉を開けると、中には大量の本棚があった。 
ライトはその大量の本を見ながら部屋を歩き始めた。

「おー、この部屋めっちゃ広いしめっちゃ本あるな」

ライトは適当に本を手に取り、本を開いてみた。そしてそっと本を閉じた。

「うん…そういや俺、この世界の文字読めないんだったな…」

本が読めない事を思い出し、ライトは部屋から出ようと扉を開こうとしたが、扉が勝手に開いた。

「え? 」

「あれ? お前…」

「な、なんであなたが…」

部屋の扉を開けたのは、なんとセレナだった、セレナはライトの姿を見ると、溜息をつき部屋の中へ入っていった。
ライトはセレナについていき

「なんでついて来るんですかストーカーですか死んでください」

「ナチュラルな罵倒やめろ! ただ俺はセレナにここにどんな本があるのか聞きたいだけだよ 」

「そんなの、私に聞かずに自分で見て回ればいいじゃないですか、そんな事も出来ないんですか?」

「いや…実は俺、文字が読めないんだよ」

「…はい? 何を馬鹿な事を……あ、まさか、記憶喪失が関係してるんですか?」

「え⁉︎ なんでその事を知ってるんだ⁉︎」

「ついさっきまでアイリスと話してたんですよ、そしたらアイリスが「ライトは記憶が無くていろいろ大変だから、仲良くしてあげて」って言われたんです」

「アイリスが?」

まさか自分が屋敷を徘徊してる間にそんな事があったとは思わなかった。 そして、いろいろな人に自分が記憶喪失という事が広がり、もしそれが嘘だとバレたら…という不安がライトの中に生まれていた。

「でもまさかあなたの記憶喪失が文字までも忘れてしまうものだとは思いませんでした。失礼な事を言い、申し訳ありません」

「えっ⁉︎ いや別に謝らなくても…!」

軽く頭を下げ、謝罪を口にするセレナにライトは驚いた。
そしてすぐに頭を上げ、本棚から本を取り、読みながら

「さて、この図書室にどんな本があるか…でしたっけ?」

「あぁ…教えてくれるのか?」

「えぇ、この部屋にあなたが読むような本がない事を分かっていただいて、はやく退室してもらいたいですから」

「本当に遠慮しないで暴言吐くな…」

「ふん…それで、どんな本を読みたいんですか?」

「え? えっと…すまん、何が読みたいとかは無いんだけど…オススメとかある?」

セレナは読んでいた本を閉じ、「…はぁ」と溜息をつき

「では、今私が読んでいる本はどうですか?」

閉じた本をライトに渡す

「えっと、これはどんな本なんだ?」

「この図書室で1番子供向けの本ですよ」

「子供だと⁉︎ 子供扱いすんなよ!」

「勝手に勘違いしないでください。子供向けの簡単な文字なら読めるかと思ったのですが、その反応だと無理そうですね」

「え…? そうなの?」

「どうやら本を読む以前に文字の勉強をしたほうがいいですね、幸い会話は普通に出来ているので、ちゃんと勉強すれば本を読めるようになるでしょう」

「でも、文字の勉強ってどうやるんだ?」

「簡単ですよ、私が本を読んで、あなたは私が読んだ文字を覚えるだけです」

「……ん? どういう事?」

ライトが分からない事を伝えると、セレナなまた溜息をつき

「実際にやったほうが早いですね、ここに同じ2冊の本があります。片方をあなたに渡すので、私が読んだ文字を見てください」

「あ、そういう事か」

「まずは表紙のタイトルから読みますね」

「おう! 何書いてるか分からんが、セレナ先生! よろしくお願いします! 」

「先生とかやめて下さい、馴れ馴れしい…  まずタイトルは『最強の英雄』と書いてます」

「これで最強の英雄って読むのか」

セレナは本を開き、読む準備をする、ライトも同じように本を開き、セレナが読むのを待つ

「では読みますね、”10年前、この地エルキドに1人の男現る、その者左手に神の力を持ち、数々の魔獣を倒し、数々の村を救う”」

「ちょちょ! ちょっと待って! もうちょっとゆっくり読んでくれない?」

「これでも十分ゆっくり読んでるんですが…分かりました、今は2行目の4文字目ですよ」

「えっと…ここか! サンキュ!」

「”村を救い、人々を笑顔にするその男は、まさに『英雄』そのものだった、数々の困難にも負けず、諦めずに立ち向かう男に、人々は惹かれていった”………っと、このくらいの早さで大丈夫ですか?」

「おう! この早さならちょうどいいぜ! 眠くなってくる遅さだ!」

それからセレナによるライトの文字の勉強が続き、物語の中盤の頃…

「”その男はいつしか皆から『英雄』と呼ばれるようになり”……ってあれ?」

セレナが真横のライトを見てみると…

「こっちが教えてあげてるのに…」

ライトは机に突っ伏していつの間にか眠っていた、その様子にセレナは本日何度目か分からない溜息をついた

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「イト…ライトー、起きてー」

「……ぁ?」

「あ、やっと起きた、どうしたのさ、こんな所で眠ってるなんて」

ライトはあくびし目を擦りながら

「だ…誰だ?」

「もう…ボクだよ、ソラだよ」

「ソラ…? あ、あれ? セレナは?」

ライトはそこで意識が覚醒し、勉強の途中で寝てしまった事を思い出す。

「セレナ? セレナがここに居たのかい?」

「あぁ、セレナに文字を教えてもらってて、それでその勉強中に寝ちまって…何やってんだ俺…」

「へぇ…随分仲良くなったんだね」

「別に仲良くなった訳じゃ……あれ、この毛布、ソラが掛けてくれたのか? ありがとな」

「いいや、ボクじゃないよ、ライトと一緒に居たってことはセレナが掛けてくれたんじゃないかな?」

「セレナが…? マジか」

「あ、そうだ、何のためにライトを探してたのか忘れてたよ」

「ん?何かあんのか?」

「うん、もう晩御飯が出来るからライトを連れてきてってファリアから頼まれてね」

「え、もうそんな時間なの⁉︎」

図書室の窓を見るともうすっかり夕方だった、セレナと勉強していた時はまだ昼だったので、ライトは3時間以上寝ていた計算になる。

「俺寝すぎだろ…本の読み聞かせで眠るって、子供か俺は…」

「ははっ、さぁ、はやくリビングに行こうか、そこにセレナもいるだろうし、お礼して謝ればいいじゃないか」

「あぁ、そうだな」

そして2人はリビングへと向かった。

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リビングには既に3人が揃っていた、ライトはまっすぐセレナの方に行き

「セレナ! さっきは眠っちまって悪かった! あと、毛布掛けてくれてありがとな!」

「はい? 何の事ですか?」

「え? 昼間に図書室で……痛っ⁉︎」

ライトが言葉を発しようとすると、足に痛みが走った、足を見てみると、椅子に座っているセレナが笑顔でライトの足を踏んでいた、そしてその足をグリグリしながら

「何を訳の分からない事を言ってるんですか? 何か夢でも見ていたんじゃないですか?」

「あ、あぁ…! そう…かもな…! 多分夢…だな!」

痛みに耐えながらなんとか言い終えると、足の痛みが引いた、どうやら他の者にはバラすな、という事らしい。 
それを見ていたファリアが笑い

「じゃあご飯食べましょうか、ライト君とソラちゃん、嫌いな物があったら言ってね?」

「おう」

「それじゃあ、いただきます」

アイリスの掛け声に皆も同じように言い、食べ始める

「美味っ⁉︎ なんだこれ! めっちゃ美味いぞ!」

「本当に美味しいね、誰が作ったんだい?」

「作ったのはファリアで、私はその手伝いをしてたわ」

「マジか! すげぇな!」

決して大袈裟に言っている訳ではなく、本当に美味しいのだ、まるで、高級レストランで食べる料理のようだった。
高級レストランなんて行ったことないが。

「そんなに喜んでくれたら作った方も満足だよ」

それからいろいろな話をしながら夕食は進み、皆が夕食を食べ終えた後…

「それじゃあ、私とアイリスは片付けがあるから、ライト君たちは自由にしてていいよ」

「あ、ボクも手伝うよ」

ソラがファリア達と共にキッチンに向かう、ライトも手伝おうと前に進もうとすると、誰かに襟首を掴まれ、息が詰まった

「ぐぇっ…何すん…ってセレナ?」

ライトの襟を掴んだのはセレナだった、何故セレナがそんな事をしたのか分からないライトは首を傾げる

「俺に何か用か?」

「あなた、どうせ暇ですよね? さっきの続きをしますよ」

「さっきのって…文字の勉強か?」

「それ以外に何があるんですか? せっかく私が教えてあげてるのに途中で眠るなんて…」

「うっ…それは本当に悪いと思ってる…」

「ふん…では図書室に行きますよ。 」

先に図書室に行こうと歩きだすセレナに、ライトは急いでついていく

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「さて…さっきの本を読み聞かせながら書くという勉強の仕方は、またあなたが眠ってしまうと考えたので」

「うっ…」

「今度は単純に、書いて覚えるやり方にしましょう」

「うえぇ…書くのか…俺嫌いなんだよなぁ…」

落ち込むライトにセレナは溜息をつき

「あなたがそう言うと思ってさっきは読み聞かせにしたのに、眠るからでしょう? ほら、早く紙とペンを持ってください」

「おう…なんだか本当に先生と生徒みたいだな」

「あなたみたいなバカな生徒はお断りです。
ではまずは『あ』から教えますよ」

そう言ってセレナはライトの紙に綺麗な字で何かを書く

「はい、これが『あ』です」

「マジかよ、古代文字みたいだな」

「今私が書いた文字と同じ文字を、目を閉じて書けるようになるまで書き続けてください」

「まじかよ、超スパルタだな」

「あなたが早く覚えられればすぐ終わりますよ」

ライトはセレナが書いた文字を見ながら同じ文字を書く

「……以外と綺麗に字を書くんですね、もっと読めないような字を書くと思ってました」

「お前の中で俺はどんだけ評価低いんだよ…」

ライトの言葉にセレナは首を傾げ

「最底辺に決まってるでしょう?」

「本当に遠慮ないな!」

「ふん…ほら、今日は最低でも3文字覚えるまで終わりませんよ」

「マジかよおおおおおおぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」

図書室にライトの叫びが響き渡り、セレナにうるさいと怒られる。
ライトが何かを言って、それにセレナが罵倒で返す、そんなやり取りをしながら文字の勉強は進んでいった。

その日から、毎日夕食を食べ終わった後に図書室に集まり、文字の勉強をするのが2人の日課になっていた。




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