最弱の英雄

皐月 遊

一章 終 20話 「暴走」

「あああぁぁぁっ‼︎‼︎‼︎ 痛い痛い痛い痛えぇっ‼︎」

ライトはピエロに斬られた腹を押さえながらその場でのたうち回る、幸い内臓などにはとどいていなかったが、ライトの腹からは血が出続け、凄まじい痛みがライトを襲っていた。
ピエロはその様子を呆れた顔と声で

「情けないですねぇ…男のくせに斬られただけでそんなに喚き散らすとは…」

「ぐっ…! ああぁ…血がぁ…」

ピエロの言葉になんの反応もせず、ライトは腹から出続ける血を止めようと手で押さえていた。

「ライト君! 大丈夫⁉︎」

「ライト! 待っててね、今治すから!」

ライトの元へついたソラとファリアは至近距離で見るライトの現状に一瞬焦りを見せたが、2人は直ぐに行動に移した。
ソラはライトを抱え後ろへ下がり、ファリアはピエロを行かせまいとピエロの前に立つ。
そしてまたファリアとピエロの高レベルな戦闘が始まった。

「ライト、落ち着いて、ボクが今治してあげるから」

「ああぁ…ソラ…? 」

「うん、ソラだよ。 今傷を塞ぐよ」

ソラはライトの服をたくし上げ、ライトの傷に手を当てる、そして目を閉じ集中する、すると傷に当てているソラの手が緑色に光った。
そして少しずつだが痛みがひいていった。

「もう少しだからね」

ライトに優しい声をかけるソラだが、チラチラとファリアの方を見ていた。きっとファリアが心配で早く自分も加わりたいのだろう。 

「ソラ…もう大丈夫だ、痛くない」

「え…? そんなはずは…」

「俺の事は気にしなくていいから、ファリアを手伝ってやってくれ」

ソラは目を閉じ少し悩んだ後に目を開け

「分かった、ライトは傷が開くといけないからここから動かないでね」

と、ソラは1度ライトに微笑んでからファリアの元へ向かった、ライトは邪魔にならぬように壁際によって2人の勝利を祈っていた。

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「んんん! ファリアさん! アナタは女王候補の中では1番戦い慣れしていますねぇ」

「私の父が騎士だったから、子供の時から訓練させられてたのよ!」

「ほぉう! お父様が騎士! さぞかし裕福な家庭だったのでしょうねぇ」

会話をしながらでも剣を交え合う2人、そしてそこにソラが加わる。

「”雷閃”!」

ソラが自分の右腕に電気を纏わせ、凄まじい威力の打撃を放つ、ピエロはその打撃を剣を持っていない方の手で掴む

「ふぅむ…アナタもなかなかお強いですねぇ」

「ありがとう、でも褒めても何もでないよっ!」

次は足に電気を纏わせ、蹴り上げるが、ピエロは後ろに下がる事によって回避する。

「このままアナタ達と戦っているのもいいのですが、ワタクシにも予定がありましてねぇ…名残惜しいですが、終わりにしましょう」

そう言うと、ピエロの姿が消えた、否、実際は動きが速すぎて見きれなかったのだ。
ピエロはファリアの背後に立つと、ファリアの脇腹を思い切り蹴った。

「うぁっ…!」

ファリアはそのまま地面を転がり、壁に当たり気を失う。
たった一度の蹴りでファリアが気絶した事にライトは驚きを隠せなかった、ライトが知る味方の中で1番強いのは間違いなくファリアだ、そのファリアが簡単に気絶させられたという事は…

「今までのは全部…遊びだったって事かよ…」

ここにきてようやくアイツが『ピエロ』と呼ばれている理由が分かった、自分の欲望に忠実で、自分の目的のためならば平気で相手を騙す、まさに道化師だ。

次にピエロが狙いを定めたのはソラだ、狙われたソラは恐怖を表に出さずに拳を構える。
ピエロがどんどんソラに向かって歩いていく

「…めろ…」

「ピエロ、君には絶対に誰も渡さないよ」

「そうですかぁ…なら、守り切ってみなさい」

「…やめろ…」

このままではソラも確実にやられてしまう、ライトは立ち上がり、まだ少し痛む腹を押さえ

「…やめてくれ…」

必死に声を出すが、声が小さすぎて誰もライトに気づいていない。
そしてついにピエロがソラの前に立つ、ソラは速攻で打撃を放つが、ピエロは簡単に片手で受け止める、そして歪んだ笑顔で

「アナタも眠りなさい」

ファリアと同じようにソラの脇腹を思い切り蹴った、ソラはライトがいる方向へ吹き飛び、ライトの近くで止まった。
ライトはすぐにソラの所へ向かい

「ソラ⁉︎ 大丈夫か⁉︎」

「ら、ライト…はやく…逃げて」

「何言ってんだよ! 俺だけ逃げれるわけないだろ!」

「い…い…から…逃げ…」

そこでソラは気を失う、ライトは絶望し、目の前まで来ていたピエロに気がつかなかった、ピエロはライトの髪を掴み持ち上げる。

「さぁて…後はアナタだけですが、どうしますか? このまま今日の事は全て忘れるなら、逃がしてあげますが」

「な、何を…!」

「拒否しますか?」

「当たり前だろ! ふざけてんのか!」

ピエロは溜息を吐き、ライトを睨む

「どこまでも、アナタはどうしようもない人ですねぇ…」

「…あ?」

「その白髪の女性が可哀想ですねぇ…せっかくアナタを必死に守って、最後に「逃げて」とまで言ったのに、その本人のくだらない意地によって全てが無駄になってしまうなんて…」

「何を言って…」

「その白髪の女性にはアナタは釣り合わない」

そう言ってピエロはライトの事を殴る、ライトはそのまま吹っ飛び、壁に激突する、衝撃によって傷口が少し開き、少しずつ血が出てくる

「最初は女王候補の3人だけのつもりでしたが、この白髪の女性も売りにだしましょうかねぇ、この女性も、言うことを聞いてくれない役立たずの男よりも、自分を愛してくれる金持ちの男の方が幸せでしょう」

「何…言ってんだ…ふざけんなよ…! ここに居る人達は全員渡さねぇ!」

「うるさいお方ですねぇ…もうアナタ、死になさい」

いつの間にかライトの目の前に来ていたピエロに反応できず、傷口のある腹を思い切り蹴られる、ライトはまた吹っ飛び、傷口が完全に開き、血が大量に出てくる。

「うああぁぁっ‼︎‼︎」

ライトが痛みに苦しむのに構わずに、ピエロはどんどん近づいてくる、ライトは血が足りてないせいでまともな判断が出来なくなってきていた。

ーー死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、この血の量は確実に死ぬ、あれ? 死ぬとどうなるんだ? 死んだらあの世に行って…そもそもあの世ってなんだ? 分からない、わからない、分かラナイ、ワカラナイ。
自分が死んだ後のこの世界はどうなる、きっとピエロが4人を連れ去り、奴隷として売りに出すだろう。 アイリスが奴隷…ファリアが奴隷…まだ見た事はないがセレナが奴隷…ソラが奴隷…

そしてライトはソラが気絶する直前に言ってくれた言葉を思い出す、ソラはライトに「逃げろ」と言ったのだ、自分が殺されるかもしれないのに、ライトの心配をしてくれていたのだ。
そんな優しい少女が、このままでは奴隷として売りにだされ、顔も知らない奴に買われてしまう。 そんなのは…

「…せない」

「何か言いましたかぁ?」

「…るせない…ゆるせない…許せない」

ライトは右手を前にだし

「許さない」

右手からボルトを…いや、ボルトなんて比じゃない程の高威力の電撃を放った。
間一髪でそれを避けたピエロは、驚愕の顔でライトを見る

「今のは…なんですか?」

「お前は…許せない…許さない」

次は両手を前にだし、両手から高威力の電撃を放つ、ピエロふ流石に予想してなかったのか、回避が遅れ、左腕に擦りそこからは血が流れている。

「お前だけは絶対に…殺す」

「こっちの話は聞く気はないんですかぁ?」

ライトは両足に電気を纏い、そして凄まじいスピードでピエロに近づく

「なっ⁉︎」

「…死ね」

そして今度は右腕に電気を纏い、ピエロを思い切り殴る、耐えられなかったピエロはそのまま吹っ飛ぶ

「ぐっ…! アナタ…一体何者なんです…⁉︎」

「…黙れ、喋るな、息をするな、瞬きをするな」

「おぉ…この殺気は…いいですねぇ…」

「変質者が…」

ライトはまた凄いスピードでピエロの元へ飛ぶ

「死ねぇ!」

ライトが右腕に力を込め、この一撃で終わらせようとした時

「ら…ライト…?」

「…⁉︎」

ライトは足を止め、声のした方向を見る、するとそこには、目を覚ましたソラがこちらを見て驚いた顔をしていた。

「そ、ソラ…?」

「ライト…その姿は…なんだい…?」

ソラに言われて自分の姿を確認してみる、すると、ライトは全身に電気を纏っていた

「え…なんだ…これ…?」

ライトは先程まで事をボンヤリとしか覚えてない、覚えているのはピエロにムカついた事だけだ。
そして本来くるはずの身体の痺れが全くなかった。

「なんだか…分かりませんがぁ、ワタクシ、アナタと戦う事が楽しくなってきましたよぉ!」

「そりゃどーも、覚えてないけど、お前をそこまでボコボコにしたのは俺なんだろ? 」

「えぇ! アナタのその未知の力! ワタクシを震え上がらせるぅ!」

「盛り上がってるとこ悪いんだけどさ…もう死ねよ」

最初に右手で電撃を放ち、ピエロが上に飛んで避けた瞬間に、ライトは足に力を入れ、飛ぶ、空中で身動きがとれないピエロに向かって、ライトは空中でピエロの頭に踵落としを食らわせる、地面に勢いよく衝突したピエロに、ライトは電気を纏った拳で上から殴り追撃した。

「うっ…ぐぅ…!」

「まだ死なねぇのかよ、しぶといな」

ライトは地面で動けなくなっているピエロに向かって右手を突き出し

「次で終わらせる」

「ぐっ…! しょうがないですねぇ…! 」

ライトが電撃を放とうとした瞬間、ピエロはポケットから小さな球をだし、地面にぶつける、すると辺りに煙が舞った

「煙玉か…! ソラ! どこだ! 」

「大丈夫! 居るよ!」

煙のせいで周りが見えないため、ライトは声でソラの安否を確認する、そして煙が晴れる

「…! ファリア達は⁉︎」

「大丈夫! 全員いるよ」

「よかった…ピエロは…」

「多分逃げたんだと思うよ」

脇腹を押さえながら立とうとするソラにライトは肩を貸し立たせる。

「とにかく、ライトのおかげで助かったよ、ありがとう」

微笑みながらお礼を言われ、ライトは照れくさくなり窓の方を見る、すると

「ん? なんだこれ」

窓に一枚の紙が挟まっていた、それをとると、紙にはライトの読めない文字が書いてあった

「ソラ、これ読めるか?」

「ん? えっと………
『黒魔道士の幹部である”ピエロ”ことアイアスを撃退したことを褒めてやろう、貴様の戦いぶりは見ておったが、初めて見る力だった、いずれ貴様と会う日が来るだろう、その日まで、せいぜい悔いのないよう生き続けるがいい。    ーーー黒魔道士”総帥”』 だって⁉︎」

「総帥ってことは向こうのボス的存在のやつか」

「そんなのんきな事言ってる場合じゃないよ! 早く皆を起こして!」

ライトはソラの言われた通りにファリア達を起こした。
後から気づいたが、ライトの開いたはずの腹の傷は、傷跡すらもすっかり消えていた。

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