最弱の英雄

皐月 遊

一章 17話 「謝罪」

「くそっ!」

ライトは苛立ちをぶつけるために森の木を蹴っていた。
ソラと別れた後、ライトは直ぐに屋敷へ向かおうとしたのだが、屋敷へと続く道には何か見えない壁のような物があり、奥へ進む事は出来なかったのだ。

「俺が…役立たず…? ふざけやがって!」

ライトは先程言われた事を思い出し、また腹がたってきた、ライトは木に向かって右手を前に出し

「ボルト!」

するとライトの手から雷が出て木に向かって飛んで行く、そして木に当たると、その木にはポッカリと穴が空いていた。

「へへっ、どんなもんだよ、これが役立たずになるわけが…」

そう言って右腕を見てみると、やはり凄まじく震えていた、それを見たライトは顔を歪め

「なんで…なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!」

ライトは苛立ちながら右腕を叩く、感覚が麻痺してるせいで痛みも感じない。

「くそっ…これじゃ本当に…」

その場に腰を下ろしうずくまる、そしてソラの言葉を思い出す。

「過信…か、確かにそうかもな…異世界に来て、調子に乗ってたみたいだな俺…」

異世界に召喚されたのだから自分には凄い力がある、自分は選ばれた人間だ、自分は英雄になれる。と淡い幻想を抱いていた自分がひどく恥ずかしく思えてくる。
凄い力? 確かに貰ったが、上手く使えないではないか。
選ばれた人間? 調子に乗るな。
英雄になれる? 現実を見ろ、なれるわけがないだろう。

「ダメダメじゃねぇか…俺はここで…何をすれば良いんだよ…何をすれば、皆に認められるんだ…何をすれば…兄さんに追いつけるんだ…」

ライトの目から涙が出てくる、そして、もう2度と会うことの出来ない兄を思い出す。

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「おーいライトー! 早く来いよー! 」

「待ってよユウト兄ちゃん!」

小学生くらいの男の子が2人、学校からの帰り道に喋りながら帰っていた。

「もうユウト兄ちゃん足速いんだからさ! 先に走って行かないでよ!」

弟は小学3年生のイヅナ・ライトと

「ははっ、悪い悪い、でもライトだってクラスで1番足速いんだろ? 」

兄である小学5年生のイヅナ・ユウトだ。

「確かにクラスでは1番だけどさ、学校で1番足速いのはユウト兄ちゃんじゃん! 6年生の人たちよりも速いじゃんか!」

「たまたまだよ、たまたまこの学校に足が速い人が居なかっただけさ、ライトも5年生になる時には1番になってるはずだよ」

「その時は兄ちゃん卒業してるじゃん! 俺は兄ちゃんに勝ちたいの!」

歩きながら話をしていた2人だったが、急にユウトは足を止めライトの頭を撫で始めた。

「な、なんだよ兄ちゃん!」

「いや? ライトはすげえなぁって思ってさ、実力があるのにそんなに向上心があるなんて、すげぇよ」

「こーじょーしん?」

「今よりもっと上に行こうとする意思の事だよ、それを忘れなければ、ライトはいつか絶対に俺を越えるだろうな」

「兄ちゃんを…越える…? 俺が?」

「あぁ、少なくとも俺はそう思ってるよ、周りがなんと言おうが、ライトは絶対に俺を越える。 だから約束してくれ」

「約束?」

ユウトはライトに向かって小指を前に出す、それにライトも同じように小指を前に出す

「これから先、何があってもその向上心だけは忘れないでくれ。 今の自分に満足しないで、常に歩き続けろ」

「よく分かんねぇよ兄ちゃん…」

そういうライトにユウトは優しく微笑み

「まぁまだ分からなくて当然だよな、でもいつか意味が分かる時が来るから、その時は、兄ちゃんとの約束を守ってくれよな」

「あぁ! 分かったよ兄ちゃん! 俺、絶対にこーじょーしんってやつを忘れない!」

それから月日が経ち、ライトは高校1年生、ユウトは高校3年生になった。

「あぁ分かんねぇ! 兄ちゃんこの問題教えてくれよ!」

リビングで宿題をしているライトは問題が分からずに頭を掻く、そしてユウトに助けを求める。

「ん? どの問題だ?」

「数学!」

「ははっ、ライトは本当に数学が苦手だな」

「だって数字見てると頭がクラクラすんだよ!」

「まぁ俺も苦手だけどな、で、どこが分かんないんだ?」

「これなんだけど」

そう言ってライトはユウトにプリントを渡し、分からない問題を指差す。

「あぁ、この問題か、確かにこの問題文じゃ分かりにくいよな」

「分かるか?」

「あぁ、分かるよ、んじゃ後は頑張ってな!」

「…は!? も、問題は!?」

ユウトはライトが渡したプリントをライトの目の前に置き、立ち上がった。
そしてユウトは笑顔で

「ライト、いつも言ってるだろ、向上心を忘れるな。 俺を越したいんだろ? 俺は高1の時、誰かに問題を教えてもらおうとはしなかったぞ?」

「ぐっ…」

「分からない事は後回しでもいい、できる事からやればいい、時間が掛かってもいいから、1人でやってみろ」

「あーもう! 分かったよ! やりゃいいんだろ!」

「おう、頑張れよ」

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「…向上心か…」

過去に兄と交わした会話を思い出し、涙を流していた目を擦る。
そしてライトは立ち上がり。

「…後回しでいい、出来る事からやれ…」

ライトは思い出した兄の言葉を呟いて、自分の背中を見る、そこには、ずっと存在を忘れていた、武器屋のおっちゃんから貰った剣があった。
ライトは背中から剣を抜き

「出来ない事は後回しでいい、今俺に出来る戦い方は…」

そしてその場で剣を数回振り

「剣術だけだ。」

ライトは剣を背中にしまい、マガラ村へと歩きだす。
そして屋敷へ向かう道の前まで来て、進もうとするが、やはり何か見えない壁に阻まれる。
ライトは深呼吸をする、そして

「おいソラ、居るんだろ? 出てきてくれないか?」

ライトがそう言うと、森の中からガサゴソ…と物音が聞こえてくる、その方向をずっと見ていると、やがて見知った人物の顔が見えてきた。

「よく、ボクが近くに居るって分かったね」

「あぁ、冷静になってみると分かったよ、この壁作ってんのもお前だろ?」

ライトの指摘にソラは一瞬驚いたように目を見開く、だが直ぐに表情を冷たくして

「だったら…どうするんだい? ここを通せと喚き散らすかい?」

「いや、もうそんな事はしない」

「なら、何の為にボクを呼び出したのかな?」

冷たい表情を崩さないソラにライトは姿勢を正し、頭を下げ

「さっきは悪かった、お前の言う通り、この世界に来てから、自分の力を過信してた。俺ならやれる、俺は選ばれたんだって、ずっと思ってた」

「……………」

「さっきは、お前にその事を指摘されて、正直に言うと、お前に何が分かるんだって思ってた」

頭を下げたまま、ライトは続ける。ソラがどんな表情をしているかはライトには分からない。

「そんで1人になってから、いろいろ考えたんだ、俺は昔から、気づけば誰かを頼ろうとして来た、まだ小さい時は、全部自分でやろうって気持ちがあったけど、歳を重ねるごとに、自分でやろうって気持ちが無くなって、誰かを頼ることが当たり前になってた、その方が楽だったから」

「……………」

「さっきも、お前が居れば大丈夫って思ってた、この世界に来てからも、無意識に誰かを頼ろうとしてたんだ、憧れてた人の言葉も忘れて、楽な人生を歩もうとしてた」

脳裏に兄の姿が浮かぶ、きっと今の姿を見たら兄は怒るだろう、兄の期待を裏切り、ソラに酷い事を言ってしまった。

「ソラには、凄く酷い事を言っちまった、ソラの事を何も考えないで、自分がしたい事だけを考えてた、それで反対されたらキレるなんて、俺はガキだなって思ったよ」

「…うん、そうだね」

「本当に…悪かった」

さっきよりも深く頭を下げる、これで許してもらえなかったらどうしようなどとは考えず、ただひたすらに誠心誠意謝った。
すると、目の前からため息が聞こえた

「本当に、君は子供だよ、身体だけ大きくて中身は子供なんて、役に立たないね」

「…あぁ」

「だから、サポート役のボクが居るんだ」

「…あぁ」

「だからこれからはボクに感謝して、ボクを一生養ってくれ」

「…あぁ……あ⁉︎」

「おぉ、まさかOKされるとは思わなかったな、不束者ですが、よろしくお願いするよ」

「待て待て待て! 違う! 今のは違うぞ!」

「冗談だよ、ボクも、先程は言い過ぎたと思ってる、すまなかったね」

冗談だとソラは笑い、その後に真剣な顔をして謝ってくる、それにライトは目を丸くする

「い、いや…ソラが謝る必要は…」

「いいんだよ、悪いと思ったから謝る、相手がどう思ってるかなんて知らないよ」

「ははは…お前らしいな」

「だろう? …それで、結局のところ、どうするつもりなんだい? 屋敷に行きたいんだろう? 君の考えが変わったのは認めるけど、戦い方が同じならここは通すわけにはいかないよ」

「えっと、とりあえず電撃は使わずに、剣だけで戦おうと思う」

ライトがそう言うとソラはニコっと笑い

「合格だ、そもそも剣の存在に気づいてなかった時点で、まともな判断が出来てなかった証拠だからね」

「うっ…何も言い返せねぇ…」

「でもね、君は剣に関しては素人だ、素人の剣術なんて敵には通用しないよ」

「そ、それは…」

「でも安心して、そんな時こそサポート役のボクの出番だ」

「…へ?」

「ちょっと剣を構えてみてくれないかい?」

「分かった」

言われた通りライトは剣を構える、するとソラがなんと後ろから抱きついてきた。

「ちょ! ソラ⁉︎」

「なんだい? ほら、集中して」

ソラはライトが剣を握っている右手を掴み、ソラは目を閉じる。

「イメージして、電気を飛ばすんじゃなくて、纏うんだ、右手だけに集中して」

言われた通りにすると、ライトの右手がバチバチと電気を纏っていた、そして案の定右腕が痺れだす。

「やっぱり痺れちまうぞ…」

「大丈夫、そしたらその電気を全部剣に流すんだ」

「剣に…?」

そして全ての電気を流し終えると、剣はバチバチと電気を纏っていて、ライトの右腕からは痺れが消えていた。

「し、痺れが…なんで?」
 
「それは身体中の電気を全て無くしたからだよ、今までは、電気を全部飛ばしていたつもりでも、微量の電気が身体に残っていたんだ」

「なるほど…でも、これでなんの意味が…剣に電気纏わせただけだろ?」

「電気を纏わせてるのが敵にとっては脅威なんだよ、今その剣には君の最大限の電気が流れている、触れただけで身体が痺れて動けなくなるだろう」

「動けなく…!」

「そう、戦いの最中に身体が動かなくなるのは、凄く致命的なんだ。君はその剣を相手に”当てる”だけでいい、斬ろうなどとは考えず、身体のどこかに一度”当てる”だけで、君の勝ちだ」

「そんな使い方があったのかよ! 」

「戦い方が分かれば後は実戦だ、直ぐに出発出来るかい?」

「あぁ! もちろんだ! 」

ライトは剣を背中の鞘にしまう、しまう時にはちゃんと電気が消え、また抜くと勝手に電気が流れるようになっていた。

「よし、では結界を解くよ」

ソラが一度透明の壁に触れると、それだけでその道が通れるようになった。

「よっしゃ! 待ってろよ襲撃者! 全員ぶっ飛ばしてやるぜ!」

「全員ぶっ飛ばす、じゃなくて、全員痺れさせる、だろう?」

そんな軽口を言い合いながら、2人は走って屋敷へと向かった。

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