最弱の英雄

皐月 遊

一章 16話 「道具じゃない」

「……で、何か言う事は無いの?」

「す、すみませんとしか言いようが無いです…」

「そうよね、朝起きたらライト居ないし、ちゃんと休んでねって言ったのに、宿の中を全部探しても居ないし、やっと帰って来たと思ったら知らない女の子連れてくるし、こっちが叱ってるのに眠そうな顔で「ごめんなさい」と「すみません」しか言わないし、ソラちゃんはずっと笑ってるし、眠そうだから寝てもいいわよって言ったら一目散に2人で部屋に向かって寝ちゃうし、ソラちゃんは私のベッドで寝ちゃうし…」

「そ、それは申し訳ない…あの時は流石にボクも眠くてね、本来ならば直ぐに自己紹介するべきだったね」

ライトとソラを正座させて腰に手をやって叱るアイリスに2人は何も言い返すことが出来ない。
ライトはもともとボルトの習得で疲労していたし、ソラも後から聞いた話だが、ライトの脳内に話しかけるのはすごく集中しなければいけないらしく、ソラも疲労していたのだ。
そして宿のベッドで再び眠ったのが朝の8時頃で、次に2人が起きたのは昼だった、慌ててライトはソラを起こし、2人でアイリスの元に行って今の状況に至る。

「それで、私はソラちゃんの事を名前でしか知らないんだけど、ソラちゃんはライトとどんな関係なのかな?」

「え⁉︎ ボクとライトは…えっと…」

ソラは何を悩んでいるのだろうか、とライトは考えてみるが、直ぐにソラが悩んでいる理由にたどり着いた。
冷や汗をかいて理由を考えていると、急に頭の中にソラの声が響いた。

『ら、ライト! 聞こえるかい?』

『あ、あぁ、聞こえるぞ、どうする?』

『どうしようか、何て伝えればいいだろう…ボクはライトの電撃の能力です。って言えばいいかな』

『絶対に信じてもらえないだろうな』

『そうだよね…何か案は無いかい?』

『案か……あっ、1つだけあるぞ』

『ほ、本当かい⁉︎』

『あぁ、んじゃ俺に話を合わせてくれ』

『分かった』

「ちょっと? 2人とも目を閉じてどうしたの? ひょっとしてまだ眠いの?」

こちらが突然目を閉じたのでアイリスが心配して声をかけてくる

「いやいや! 流石にもう眠く無いよ! そんでえっと、俺とソラの関係だっけ?」

ライトの言葉にアイリスは頷き、ソラはライトが何を言うのか気になるのか隣でライトをチラチラと見ている。

「実はな…俺とソラは…」

「うん」

「俺が昔いた国の幼馴染だったらしいんだ」

「へ?」

ソラが間抜けな声を出すが、ライトの視線を受けて直ぐに態度を変える。

「そ、そうなんだよ! ボクとライトは幼馴染だったんだ!」

「お、幼馴染…?」

「あぁ、ほら俺って記憶喪失だろ? だから最初は分かんなかったんだけど、ソラの方が俺に気づいたらしくてな」

「えっ⁉︎ 記憶喪失⁉︎ どういう…」

驚いた声で言うソラの口を押さえてまた脳内で話しかける

『アイリスには記憶喪失って設定で通してんだよ、話を合わせてくれ』

『わ、分かったよ』

「そ、そうなんだ、最初はライトが記憶喪失なんてビックリしたんだけどね、なんとかボクが幼馴染だっていうことを分かってくれたんだ」

「あぁ、それでいろいろ話し込んじまってな」

話を聞いていたアイリスは、2人の話を聞くと満面の笑みで

「そうなんだ、ソラちゃんとライトは幼馴染なのね、ライト、知り合いに出会えて良かったわね! 」

「お、おう!」

嬉しそうに言うアイリスに心が痛む、そしてアイリスは手をパンッと叩いて

「さて、話も済んだし、そろそろ出発しましょうか、もしよければだけど、ソラちゃんも来る?」

「良いのかい? ではお言葉に甘えようかな」

あらかじめソラにはライトがこれからアイリスの住む家でお世話になる事は伝えてあったが、ソラも一緒に行って良いかとどうやってアイリスに伝えようかと悩んでいたのだが、アイリスの方から誘ってくれたのは嬉しい誤算だった。

「竜車の借りれる時間もあまり無いし、早めに行くわよ」

3人は急いで竜車に乗り、全速力でアイリスの住む家へと向かった、その途中にいろいろな話をした

「なぁ、これから行くアイリスの家にはどんな人達が住んでるんだ?」

「えっと…読書が好きな人と、戦うのが好きな人と、お料理とお掃除が好きな人と、人を見るのが好きな人…かしら」

「全部趣味かよ…てか、戦うのが好きな奴と人を見るのが好きな奴って…やばい奴なんじゃ…」

「ううん、皆良い人よ? 2人とも直ぐに仲良くできるはずだわ」

「読書が趣味か…ボクと気があうかもね」

そんな会話をしていると、目の前に村が見えてきた

「ついたわよ、ここがマガラ村よ」

「マガラ村…この村にアイリスが住んでる家があるのか?」

「いえ、ここからは特別な竜車以外は歩いてじゃないと行けないのよ」

「へぇ」

「ちなみに、どれくらい歩くんだい?」

「5分くらいで着くわよ」

「結構近いんだな」

「あれ、じゃあ竜車はどうするんだ?」

「あぁ、竜車なら契約日数を過ぎたら勝手にテレポートして帰るっていう魔法の掛かった首輪がついてるから、このままでも大丈夫よ」

「へぇ、便利な首輪だねぇ」

そんな話をしながら道を歩いていると、看板が目に入った、ライトは読もうとしたが、こちらの世界の文字はライトには読めないようだ

「なぁ、これなんて書いてあるんだ?」

「この看板かい? えっと、この先フローラの屋敷って書いてあるね」

「お、お前文字読めるのか⁉︎」

「なんかその部分だけ聞くと、ボクが凄く馬鹿にされてるみたいに聞こえるけど…文字くらいは分かるよ、それくらい分からないとライトをサポート出来ないしね」

ウインクをして言うソラにライトは頼もしいなと思い、先程疑問に思った事を質問する

「なぁアイリス、フローラの屋敷ってなんだ?」

「え? あぁ、言ってなかったわね、私が住んでる家は、フローラって言う人の家なの、私達はそこに住まわせてもらってるのよ」

「なるほどな」

そんな会話をしていると、目の前に大きな屋敷が見えてきた。見たことも無いような豪邸にライトとソラは唖然とする。

「さ、ついたわよ、此処がフローラの屋敷よ」

「で、でけえええええぇぇぇぇええ!!!」

屋敷の庭にライトの大声が響きわたる、ライトはずっと驚きっぱなしだったが、ソラだけは驚くだけじゃなかった。

「ねぇアイリス、この屋敷っていつもこんなに騒がしいのかい?」

「どういうこと?」

ソラの疑問にアイリスは首を傾げるが、そんなのもお構いなしにソラは真面目な顔のまま続ける。

「いや、ボクは耳が良いのが自慢なんだけどね、この屋敷の中からいろんな音が聞こえるんだよ。 金属と金属がぶつかる音や、誰かの怒声とかがね」

「な⁉︎ それって…」

ライトはアイリスの方を見ると、アイリスは驚きに口に手をやり目を見開いていた。

「う、嘘でしょ…? まさか、今日なんて…」

「なぁ、アイリスどういう事だ?」

「知ってる事があるなら教えて欲しい、ボク達でも力になれるかもしれない」

「いいえ、大丈夫よ、あなた達を巻き込むわけにはいかないもの、本当に申し訳ないんだけど、今日のところはマガラ村に泊まってもらってもいい?」

ライトにでも分かるくらいにアイリスは無理矢理笑顔を作ってお願いする

「な、何を言って…」

「きっと明日にはいつも通りの屋敷に戻ってるはずだから、そしたらまた屋敷に来て頂戴、歓迎するから」

「何言ってんだ! 俺たちも…」

「ごめんなさい、これは、私達の問題だから」

アイリスがそう言った瞬間、ライトとソラの体は宙に浮いていた、いや、飛ばされていた。

「な、なんだよこれ!」

「どうやらアイリスの風魔法のようだね、アイリスはどうしてもボク達を関わらせたくないらしい」

「なんで!」

「それは分からない、でも明らかなのは、あの屋敷には襲撃者が来ているという事だ」

ソラがそう言い終わると同時に、2人の足は地面に着いた、周りを確認すると、そこは先程通ったばかりのマガラ村だった。

「ここがマガラ村なら助かった! 直ぐに屋敷に戻るぞ!」

屋敷に向かって走り出そうとするライトの腕をソラが掴んだ。

「な、何すんだよソラ!」

「よく考えてごらん、君が行って何が出来る?」

「…は?」

「だから、屋敷には襲撃者が居るんだよ? その襲撃者に会って、君は何が出来るのかな?」

「何がって…そりゃもちろん…」

「能力かい? 確かに電撃を使えば襲撃者を倒せるだろうね」

「なら…!」

「でも能力を使った後はどうする? 君は能力を使った後に身体が痺れてしまうんだろう? そんな状態でどう戦うんだい?」

「そんなの…! なんとかしてみせる!」

ライトがそう答えるとソラはため息をついた、よかった、どうやら分かってくれたみたいだ。
というライトの希望は、次のソラの言葉によって打ち砕かれた。

「あまり、自分を過信するのはやめたまえよ、イヅナ・ライト」

「……過信だと?」

「あぁそうさ、君は何でも出来ると思い混んでいるんだ、もっと現実を見たまえよ。 実際の君は一発しか攻撃する手段が無い役立たずだ」

そこまで言われてライトは頭に血が上る、そしてライトは大声を上げ怒鳴り散らした

「お前に…! そこまで言われる筋合いはねぇだろうが!」

「あるよ、これでもボクは君のサポート役だからね」

「なら! なんで俺と一緒に来てくんねぇんだ!」

「……1つ、君の間違いを指摘するよ」

ソラは人差し指を立て、ライトをまっすぐ見て、冷めた声で言った。

「ボクは、君の道具じゃない。 ちゃんと意思を持ってるんだ、履き違えないでくれ」

そう言い残し、ソラは村を囲っている森の中へ入って行った。
ライトはその場に無言で立ち尽くしていた。

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