最弱の英雄

皐月 遊

一章 13話 「魔法とスタンガン」

「おぉ…意外と普通の温泉なんだな」

部屋からでたライトは宿の大浴場へと向かった、その大浴場の見た目は日本の露天風呂とほぼ同じだった。
ライトは身体を洗い温泉へと入った。

「温度もちょうどいいし…なんか日本みたいで異世界に来たことが嘘みたいだ」

だが温泉にいる人たちを見ると、ここが異世界なのだということが思い知らされる、顔は犬なのに身体は人間の「ハーフ」と言われているらしい人や、背中や顔に切り傷や獣の爪痕のある人間など、日本には絶対にいないのだから。
そこでライトは眼を閉じ先程の事を思い出す。
日本の路地裏でスタンガンを持つ男に殺された時の事を、するとやはり先程のように身体が震え出す。

「あー…ダメだな、こんなんじゃ能力使う以前の問題だぞ…」

神を名乗る老人がライトを異世界に送る際、能力を渡したのはきっとこの世界では能力を使わねば生きていく事は出来ないからだろう、だからライトは一刻も早く能力を使えるようにしなければいけないのだ

「このトラウマはいつかは克服しなきゃな…」

絶対にトラウマを克服する。そう決心し、ライトは大浴場から出る、そして着替えを済ませ廊下に出ると、廊下の椅子にはアイリスが座っていた、お風呂上がりで少し濡れている銀髪と、少しだけ赤くなっている顔は、いつもよりもいっそう美しく見えた。
ライトがそんなアイリスに見惚れていると、こちらに気づいたアイリスがライトの元までやってくる

「ライトおかえりなさい、暑いでしょ?はいこれ」

そう言ってアイリスが渡してきたのは、牛乳が入っている瓶だった、どうやら異世界にもお風呂上がりに牛乳をのむ習慣はあるらしい
、ライトは一言「ありがとう」と言って牛乳を受け取り飲みほす

「はぁーっ!やっぱり風呂上がりの冷たい飲み物は最高だな!」

「ふふ…そうね」

「アイリスはなんでまだ廊下に居たんだ?なんか用事でもあったのか?」

「んー…用事と言えば用事かな…ライト、ちょっとついてきて」

「え? お、おう」

言われた通りアイリスについて行くと、宿の外にでて少し歩いた所にある広場だった。

「こんなとこになんの用があるんだ?」

「えっと…余計なお世話かも知れないけど…ライトに魔法を教えようかと思って、この広場なら魔法の使用は許可されているから」

「魔法? なんで急に…」

「さっき部屋の中で魔法を使おうとした時に、急にライトの様子が変になったでしょ?  その原因が魔法にあるなら、魔法は怖くないんだって事を知ってもらいたいの」

「魔法は怖くない…か」

確かにそうだ、ライトが恐れているのはスタンガンであって、電気でも魔法でもない、なのに身体が勝手に電気は怖いものだと思い込んでるだけだ。

「うん、魔法はね、確かに人を傷つけてしまう事もあるけど、自分を守ってくれる物でもあるのよ」

「あぁ、そうだな」

実際にライトもエルキドで迷った際に、アイリスの魔法に助けられたではないか。

ーー魔法とスタンガンは違う

そう思うと身体が軽くなった気がした、今なら出来るかもしれない。
ライトは深く深呼吸をして、宿でやった時と同じように右手を前に出し、左手で右手首を固定する、そして眼を閉じイメージをする。

ーー電気…ビリビリ…スタンガン…

電気をイメージすると勝手にスタンガンがでてくる、ライトの中にはスタンガンを持つ灰色のパーカーの男が不気味に「ヒヒヒッ…」と笑いながら近づいてくる光景が思い浮かぶ、それだけでライト冷や汗がとまらなくなる。

ーー今お前は関係ない、邪魔をするな。スタンガンと魔法は違う

頭の中ではそう思い込んでも身体はそう思い通りにはいかない、神経を集中している右手が小さく震えだす。
だが震えがなんだ、身体が震えるだけで、別に死にはしない、この世界に「死」より怖いことなんてない。

ーー来い…電気…雷…来い、来い、来い!

するとライトの右手から小さいがビリビリ…という音が聞こえた、驚き眼を開けると、ライトの右手が小さく放電していた。

「で、出来た…! アイリス! 出来たぞ! 次はどうすればいい⁉︎ 」

「よしっ! それじゃあ次はその電気を大きく放電させるようにイメージしてみて!」

アイリスに言われた通りにイメージするために眼を閉じる、そして放電させるイメージをする
すると今度はライトの右手からバリバリバリ!という音が聞こえてきた。

「出来たわね! それじゃあ最後にその電気を遠くに飛ばすイメージをして、そうすれば
「ボルト」が出来るはずよ!」

そのまま右手に全神経を集中させ、右手の電気を手のひらに集める、そして

「ボルト‼︎」

放つ。 すると凄まじい威力の雷が前方に飛んでいった。

「はぁ…はぁ…出来た…」

「おめでとうライト!無理しないで座って!」

アイリスに座るように言われ、倒れるように地面に座る

「やったぞ…出来たんだ」

「うん! おめでとう!」

目の前のアイリスが満面の笑みで祝福してくれる。
あんなに震えていた右手も今は全然震えていない、ライトはトラウマを克服した、と思い右手を見てみる、すると…

「あ、あれ…?」

ライトの右腕が尋常でない程震えていた、なのに震えている感覚がないのだ。

「な、なんだよこれ…」

右腕は神経が麻痺しているだけだった。
ライトはトラウマを克服してなどいなかったのだ。

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