最弱の英雄

皐月 遊

一章 12話 「トラウマ」

「おー!竜車って言っても日本の馬車とかと変わらないんだな、乗り心地とかそっくりだ。」

「馬車…って何?」

「い、いやっ…何でもないよ、独り言だ。あ、そういえばさ、雷の魔法ってどんなのがあるんだ?」

「雷魔法?急にどうしたの?」

ライトはこの異世界に来る際、神を名乗る老人から電気系の能力を貰っていた、それがもし本当だったら、この世界でいう魔法がライトにも使えるはずだ

「い、いやー…なんか急に雷魔法がどんなのか気になってさ、ほら、雷ってカッコいいじゃん⁉︎いかにも「最強!」ってイメージでさ!」

「まぁ確かに雷魔法は派手な物が多いから、男の人が雷魔法に憧れるのは分かるけど…」

「けど…?」

アイリスの「けど」で終わる言葉にライトは何か不機嫌になるような事を言ってしまったかもしれない…と思ったが

「風魔法や氷魔法だってカッコいいのよ?」

拍子抜けするようなアイリスの返しにライトは目を丸くした

「そ、そうだな!確かに風魔法とか初めて見たけどめっちゃカッコよかったよ!」

「でしょ?雷魔法も確かにカッコいいけど、他の魔法も負けちゃいないんだから。」

「あぁ!そ、それで…雷魔法がどんな物かって言うのは…」

「あっ、そうだったわね、私が知っている限りの雷魔法の特徴で良ければ教えてあげられるけど」

「それでもいい!どんなのでもいいから教えてくれ!」

今のライトには能力があると分かっていても、その能力の使い方が分からないのだ。なので、自分が持っている能力「電気」と同じ部類の「雷」魔法の特徴を聞けば、どんな物かというイメージがしやすくなると思ったのだ

「うん、それはいいけど、もう中継地点の村に着くから、そこで宿を借りるわ。話は宿の部屋でしましょう」

そう言われ竜車の外を見ると、もう夕方になっていた。

「あぁ、分かった。」

もうライト達の目の前には小さな村が見えていた、そしてその村に着くとアイリスは竜車を停め、竜車から降りた、なのでライトもアイリスに続いて竜車から降りた。

「急に降りてどうしたんだ?」

「村の中や狭いところでは、基本は竜車は走らせるないようにするのよ、だから宿までは竜車と一緒に歩いていくわよ。」

「なるほどね」

そういうとライトはアイリスが持っていた手綱を取り、アイリスの後をついて行く事にした

「ついたわよ、ここが私達が泊まる宿よ」

村に着いてから3分ほどで宿に着いた、その宿を見てライトは

「なんか意外と立派だな」

と言った。宿の見た目は日本でいう民宿とすごく似ていたのだ。

「さっそく受け付けを済ませちゃいましょう」

「あぁ、そうだな」

アイリスが受け付けをしている間に、ライトは宿の人から聞いた竜を休ませておける場所に竜を停めた、竜を停めて宿の前まで戻ると、そこには既にアイリスがいた

「あ、ライトおかえり」

「あぁ、それで、2部屋空いてた?」

「えっとね…2部屋空いてなくて、代わりに2人部屋が1つ空いてたから…」

「えっ…」

もう既に夕方になっていたので部屋が空いてるか不安だったが、まさか一部屋しか空いてないとは思わなかった

「と、とりあえず部屋に行きましょう」

「あ、あぁ」

2人は宿の2階にある2人部屋へと向かった、そして部屋の中に入ると、ベッドが2つあり、そのベッドの横に小さな棚がある部屋だった

「なんか…思ったより普通の部屋だな」

「まぁ安い宿だからしょうがないわよ、さて…じゃあさっそく雷魔法の話する?」

「あぁ、頼む」

2人はベッドに座り、向かい合って話をする体制になる

「まず、魔法には大きく分けて3段階の強さがあって、初級魔法、中級魔法、上級魔法に分かれているの」

「ほう」

「初級魔法くらいなら魔法の才能があれば1週間くらい練習すればできるわ」

「才能がなかった場合は?」

「才能が無くても魔法が使える人が側にいて、その人から教えてもらえれば1ヶ月くらいで初級魔法は使えると思うわよ」

「へぇ…」

「ライトが使おうとしてる雷魔法だと、とりあえず最初に覚えなきゃいけない魔法は初級魔法の「ボルト」ね」

「ボルトかぁ…それはどんな魔法なんだ?」

「えっと、簡単に言うと片方の手から雷の球を出す魔法よ」

「おぉ!どうやって使うんだ⁉︎」

「えっと…まず右手を前に出して、左手で右手の手首を固定するの」

アイリスが口で言った事を実際にやりながら説明する、それにライトも同じ動作をする

「そしたら頭の中でイメージするの、雷を飛ばすくらいのイメージで大丈夫よ」

「なるほどな、えっと…雷…雷…」

ーー雷…電撃…電気…ビリビリ……ビリビリする物……

ーーーースタンガン

「っ⁉︎」

スタンガンを思い浮かべた瞬間、ライトの身体が突然震え出した、身体が思うように動かず、声も出ない

ーースタンガンスタンガンスタンガンスタンガンスタンガンスタンガン怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いビリビリビリビリビリビリビリビリビリ……

「ト……イト!………ライト‼︎」

「はっ…アイ…リス?」

アイリスの呼びかけにより現実に戻されたライトは、自分が酷く汗をかいている事に気がついた

「どうしたの…?イメージしだした瞬間に身体が震え出してたけど…」

どうやらライトは日本でライトが命を落とすきっかけになった事件のせいで、電気がトラウマになってしまっているらしい

「電気がトラウマなのに電気系の能力渡されるって…どうすりゃいいんだよ……」

ライトはそのままベッドに寝転がった

「ライト…?大丈夫?」

「あー…ちょっとキツいかな…嫌な事思い出しちまったよ…」

「ライトが失った記憶って、そんなに酷い記憶だったの…?」

「失った…記憶…?あぁ…そうだったな…俺は記憶喪失だったな…」

さっきの事が衝撃的すぎて頭が全然働かないのだ、そんなライトとアイリスの間に微妙な空気が流れていると、突然部屋のドアがノックされた、その音にライトが身体を起こすが、ライトより先にアイリスがその扉を開ける、すると扉の先に居たのは、この宿の従業員だった、その従業員は小さくお辞儀をして

「失礼しますお客様、お風呂の用意ができましたので報告に参りました。」

「あっ、どうもありがとうございます」

「いえいえ、では、ごゆっくりどうぞ」

そういうと従業員は1度お辞儀をして扉を閉めた、そしてアイリスはライトの方を向いて

「お風呂の準備出来たみたいだけど…どうする?」

別にライトに構わずアイリスだけ行ってきても構わないのだが、そうしないのはきっとライトが心配だからなのだろう、それを察したライトこれ以上心配させてはいけないと、立ち上がる

「よし、んじゃ風呂行くか」

「うん…いいけど…大丈夫なの?」

「さっきの事か?ちょっと嫌な記憶思い出してパニックになっちゃっただけだから、心配いらないよ。」

「で、でも…」

「ほら、早く行かないと風呂がぬるくなっちゃうぞ?」

「もう…分かったわよ、行きましょう」

ライトはアイリスが何かを言おうとするのを意図的に無視し、強引に話を切った、アイリスや他の人に心配をかけてはいけないのだ、これはライトの問題なのだから。

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