3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

最終章 受け継がれる意思

 「そっちいったぞケン!」

 「はーい」

 まだ若い剣士だがその剣筋は鋭く飛びかかってきた魔物を一刀両断する。

 「これで全部かな?」

 「いまのは結構多かったな、ま、みんなでかかればこんなもんよ!」

 「もーゼンはすぐ調子に乗る、この前パパに怒られたでしょ!」

 「まぁまぁ、ミカは真面目だなぁ」

 今彼らはGダンジョンの32階層にいる。
 冒険者で32階層と言うのはB~Aランクが適正と言われている。
 彼らはどう見ても10代なかばから後半のパーティであることから、
 かなり有力な実力を持っていると判断できる。

 「早いとこ50階層一番乗りしないとな!」

 「まぁ、一番はパパたちだから一番じゃないけど……」

 「ランはこまけーんだよ! オヤジたち女神の盾以外初の50階層到達は俺らがいただくんだ!」

 「えーそろそろ今回は戻ろうよ、用意してきた準備も半分以上なくなったから約束してたろパパたちと」

 「そうよビッテンフェルトの言うとおりよ、万全をきさないとバッツさんに怒られるよ!」

 「フウ! バッツさんの名前出すのはずるいぜ……わかったよ、今回は35階で帰還しよう」

 彼らはリクの子、ケン。
 カイの子ミカ。
 クウの子ゼン。
 カレンの子フウ。
 ユウキの子ラン。
 ゲーツの子シレン。

 全員ワタルの子どもたちだ。
 そしてもう一人がバルビタールとセイの子ビッテンフェルトだ。
 彼らはすぐに頭角を現し、なんと3ヶ月でA級パーティの称号を得ている。
 小ダンジョンレベルなら難なくクリアできる実力を兼ね備えており、
 ようやくGダンジョンへの入場をワタルに許可された。
 初回にして32階への到達は冒険者記録だ。
 ワタルも我が子の成長を心より喜んでいる。

 すぐ脇で。

 ワタルの性というよりは親ばか全開のバルビタールのせいだ。
 カレンと一緒に精霊魔法で姿を消してこっそりついているのだが、
 事あるごとにすぐに飛び出そうとするバルビタールを抑えるのがワタルの役目になっている。

 『おい! お前の息子は俺の子供の素晴らしい提言に文句を言うとはどういうことだ!
 そもそも最初の取り決め……』

 『わかった! 悪かったから! 出ていこうとするな!
 しっかりやってるじゃないか、ビッテンフェルト君はいい冒険者になるぞ!』

 『お、ま、まぁな! ワタルから言われるとやぶさかでもないな。
 アイツは、まぁ父親の俺がいうのも何だが冒険者として、いや人間としてもでき』

 『進むぞ』

 これも毎度のやり取りだ。
 カレンは何も言わずやれやれと言った感じで結局最後まで付き合ってくれる。
 こんなことしているワタルではあるが、すでに立場としては国王に近い。
 ワタル自身はそんなのは嫌だと頑なだが女神の盾共和国、すでにそれがワタル達の本拠地周囲の呼び名になっている。
 女神の盾商会の推し進める教育制度や医療制度は世界全体を大いに潤わせた。
 世界人口はワタル達がこの世界を訪れてから4倍以上、経済規模も3倍以上になっている。
 急速な人口増加による食糧不足は教育機関、様々なライフラインの整備も女神の盾商会が中心となって大きな問題を引き起こすことなく順調に安全域を確保したまま拡張している。
 ワタルの妻でもあり女神の盾商会統括会長ゲーツとその部下たちの力だ。
 ゲーツはその能力を遺憾なく発揮し、素晴らしい人材を大量に世に出している。
 すでに8児の母ではあるもののその美しさはむしろましており信者にも似た商会職員も少なくない。
 ワタルもきちんと神として尊敬されている。あれ、おかしいな? 宗教団体?

 リクは各国の陸戦技術指南役として忙しく飛び回っている。
 近接戦闘においてはバッツと双璧をなしている。
 8人の子をなしており、その子どもたちの活躍にも期待がかけられている。
 年齢を重ね精悍さが出てきて、一部女性ファンを獲得している。
 本人は気にせずワタルラブは変わらない。

 カイも魔法技術指南役、魔法具協会副会長、大規模土木担当として忙しそうにしている。
 教育としての魔法体系を作り出し、魔法教育の双母として崇められている。
 そのクールな立ち振舞や姿は一部で熱狂的なファンを獲得しており、
 男女を含む一部の人間から貧乳会の女神と呼ばれている。
 本人の耳に入るとたいそう涼しい思いもするのだが、ご褒美らしい。
 子は10人を数えその子どもたち全てが強力な魔法適性を持っている。

 クウは諜報担当、近接戦闘指南役、女神流忍術創始として世界中を暗躍している。
 自己主張の激しすぎる体の一部は9人の子を産みもうとんでもないことになっているが、
 一度彼女が本気になれば万人に気が付かれずにありとあらゆるところへ侵入できる。
 直接戦闘でワタルを倒せる可能性が一番高いのは彼女だろうと言われている。
 彼女を長とした御庭番衆は世界中に存在しており、
 弱気を助け悪をくじく正義の味方みたいなことをしている。
 男性人気もとんでもなく、生写真ともなれば目が飛び出るような値段が付けられ、
 裏社会で取引されている。マッチポンプとも言う。

 カレンは魔道具協会会長、西エルフ王国初代女王、女神の盾大学学長として多忙な日々を過ごしている。
 魔法教育の双母のもう一対だ。
 エルフであることからその美しさは全く変化を見せず、エルフにしては珍しく7人の子をなしている。
 神秘的な美しさに母性としての美しさが加わり芸術とも呼ばれ信仰されている。
 女神の盾商会の協力を得て各地で隠れ住んでいたエルフのうち望むもののために西エルフ王国を築き上げた。今では各国と正式な国交を持ちエルフが安全に暮らせる国造りに邁進している。
 大観光都市となっており、観光収入は莫大なものになっている。

 ユウキは交通開発局長、近代科学開発局長、女神の盾大学福学長、女神の盾病院総院長、女神の盾商会副会長と一番多忙な日々を送っている。
 本人は兵器開発に埋没したいと常日頃からぼやいているが、ワタルから平和開発が終わったらゆっくりと騙されてそちらの方は現在停止中だ。
 女神の盾共和国を守る軍隊の総隊長も勤めているが外敵がこんな恐ろしい国を攻めることはないので、
 もっぱら周辺地域の魔物討伐や国内の治安維持に勤めている。
 8人の子をなしているが転生し魔王の称号を得ているため老化はしていない。
 奥様会議のたびにカレンと一緒に文句を言われている。

 バッツは服飾総責任者、ブランド、バティーズラブ統括デザイナー、近接戦闘指南役、
 冒険者学校校長、刀剣鍛冶協会会長、薔薇の友会長など忙しくしている。
 ワタルやバルビタールの子供にたいそうなつかれていて、本人もこんなに子供がいるならバッティはいいわーと楽しそうに過ごしている。
 バッツの鍛冶技術は惜しみなくたくさんの人に伝えられており、武具だけでなく日用品の質も向上している。バッツ自身はすでに伝説級武具まで生成しており、世界級武具を作る日も近いともっぱらの噂だ。
 また彼の作る洋服は着ることで身体の軽さが増す、病気が治る、鬱が治る、彼氏彼女ができると貴族を中心に争奪戦が起こるほどの人気だ。弟子たちもどんどん巣立っており世界の服飾レベルを高めている。

 バルビタールとセイは穏やかにホイス村で過ごしている。
 13人の子どもたちに囲まれて幸せを満喫している。
 セイは聖女としての資質があるがあまり表立っての活動はしていない、
 たまに教皇様に請われてイステポネ聖堂へ出向いたりもするが、
 母として、妻として穏やかに過ごしていきたいというのが彼女の望みだ。
 バルビタールはそれを守ってやりたし、邪魔するものは全力で排除しようとする。
 そしてそれをワタルが止める。そんな関係になっている。

 デルス、ケイズ、エイドスの3人は世界融合の影響を細かくモニタリングをしながら、
 新しいイベントやいろいろなアイデアを構築している。
 アイツらの減少速度もどんどん加速しているが、最近アイツら内での変化が気になっている。
 減少速度は加速しているのに増加速度が上昇しており生まれてくる個体にたまに強力な個体が生まれる頻度が高くなっているのだ。
 あまりに強力な個体についてはワタル達女神の盾に依頼している、
 強力な個体が群れをなすとどのような事が起こるのか予想できないためだ。
 そのため女神の盾の後進となるパーティの育成を期待している。
 ワタル達の努力により世界全体の冒険者の質も底上げされている。
 ワタル達が年老いて戦えなくなってもしっかりとその想いを継いでくれる人間が育っている。
 実際に強力な個体がたくさん生まれ、ワタル達の仲間や冒険者たちが死力を尽くして戦い続け、
 悠久の刻をへたのち全て葬り去ることになる。

 「終わったよ、ワタル君……」

 長寿であるエルフでさえも天に召されたさらに遥か先、
 一人、世界の過去を知る存在となったユウキは少しさみしそうに、でも満足してそうつぶやいた。
 自分の愛する人の幸せな人生、愛する人が愛した家族の幸せな人生。
 その子孫たちの満たされた人生を優しく見守り続けてくれたユウキの役目も終わった。
 そして、その後は世界を作る3人と共に危険な兵器開発に没頭して幸せに過ごしていく事になる……
 さらにその後ケイズからのしつこ、猛烈なアプローチののち再婚して大切に大切に愛され、
 自らもケイズを大切な人として幸せに過ごしていく事になる。

 ワタルは後の世では建国の父として、
 そして世界最大規模の総合商社女神の盾創立者として讃えられた。
 生前の彼はたくさんの美しい妻と子供に囲まれ、良き父として。
 冒険者としては並ぶもののない猛者として、
 経営者としては女神の盾を一代で巨大商会へと成長させた。
 料理人として現存するレシピの9割は彼が作ったなどと逸話が残るほどの腕前で、
 整体と呼ばれるマッサージ技術を世に定着させていた。
 その実本人は毎日楽しく生きていくことだけをただまっすぐと進めていっただけであった。
 彼の子どもたちはそれぞれ才知に溢れた人間でその後も国家や世界の発展に脈々とその血を残していった。
 世界間移動もすっかり盛んになっていき、彼の血を継ぐものが様々な世界で活躍していった。

 そんなすでに自分の血の始祖が誰であるかもわからないほどの未来、
 ある世界のとある国でその男は一つの作品を作っていた。
 その作品の名は「転生したらバブルスライムだった件」という名前だった。
 その作品を愛した若者が世界を股にかけて壮大な冒険に旅立つとは、
 このとき誰一人知ることはなかった。

 彼らが愛し、守り抜いた世界は今も無限の広がりを見せ永遠の時間を紡いでいるのでありありました。
 もしかしたら、あなたもその物語の主役なのかもしれませんね。




 おしまい。

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