3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

172章 扉の先

 扉を抜ける今しがた扉をくぐる前と同じような小さな部屋に出た。
 元の【中央】の人が言うように呼吸などは問題なく、過ごしやすい温度、
 部屋の壁は一面の白、天井も床も白、壁や天井が薄っすらと光っている。
 全員無事に転送できたようだ。

 「向こう側とあまり変わりはないね……」

 「クウ周囲の気配はどう?」

 「特になにも、生命反応もないよ」

 「じゃぁ、外に出てみますか。一応用心していこう。デルスさんとケイズさんを中央に進もう」

 執事の人が扉を開く、一応女神の盾のメンバーは臨戦態勢を取る。
 扉をひらくとほんのり涼しい風が部屋に吹き込んでくる。

 「ワタ兄、なんかの気配が集まってくる!」

 「曖昧な表現だな、皆注意して!」

 「ご心配なく、マスターの気配です」

 執事は落ち着いた声でそう告げる。

 「そういや、こっちでも魔法使えるんだね」

 デルスの冷静なツッコミに気がつく。たしかにこの世界でもワタル達は魔法を行使できた。

 「マスターのお迎えが到着いたしました。皆様お進み下さい」

 執事に促され外の様子を見ると人の姿に似た光の靄のような物が浮いている。
 その靄は執事に出す腕にまとわりつき、しばらくすると人の形をかたどっていく。

 「Aー、アー、あー、あ~~~。こんニちハ、こんにちは。こんにちは、はじめまして。
 これでいいかな?」

 どんどんと人の形を型どりながら流暢に言葉が変化していく。

 「私の使いのデータを元に作り出してみたけど、どうだろうか?
 問題ない? 私の言っていることわかりますか?」

 「大丈夫です、聞こえていますし理解も出来ます。はじめまして。僕はデルスと言います」

 代表してデルスが手を出しながら挨拶をする。
 まだすこし不完全さの残る人型のマスターと呼ばれる存在は具現化した手でしっかりとデルスの出した手を握りしめて喜びを全身で表現するようにブンブンと両手で掴んだ手を振っている。
 デルスは少し苦笑いを浮かべている。

 「おおおおお、はじめまして。いやー、他の人との会話久しぶりだよ。
 あ、ごめんね。自分はエイベス。なんかその子のデータを見たけど迷惑かけたみたいでごめんね。
 あのときは自分も焦ってて。とりあえず急いで対策をってあんな手段に出てしまったんだけど、
 よく考えればもう少しやりようがあったなぁって反省したよ。
 しかし、なんとか世界の崩壊はくいとめられているんだよ。
 なんといっても君たちの世界からのエネルギーは素晴らしいね!
 その量質ともに感謝しかないよ、
 今ではこの世界も君たちの世界のエネルギーに満ちておりあいつらの駆除も進んでいるし、
 いつの日か他の世界に頼らなくてももう一度維持できる世界に戻せる日も訪れると思う。
 それにしても、ほんと他の人と話すの久しぶりだから緊張するなぁー、
 あ、いろいろ他の世界の話とかも聞きたいしここではなんだから場所用意するよ、
 あ、それと記憶見たけどそっちのワタルさんだっけ? ぜひ貴方の料理を食べたいんだよね、
 食事という形態でのエネルギー摂取なんてもうどれくらいしてないかわからないけど、
 もう、さっきその情報を得てからワクワクが止まらないよ!
 それにワールドクリエイターだっけ? あれすごいよね、どういう理論なのそこら辺の話も……」

 「マスター、皆様が呆気にとられております。少々落ち着かれたほうが良いかと」

 機関銃のように話し始めたエイベスはすっかりきちんとした人の形を作り出していた。
 オールバックの銀髪、不思議な輝きを見せる銀色の瞳。
 彫刻のような美しい中性的な顔立ち、真っ白な生地に金刺繍を施された詰め襟の服。
 肌は透き通るような白さ、身長は180くらいだろうか、モデルのような長い手足。
 神秘的な神々しい姿をしている。
 しかし口調は落ち着きなく、よーしゃべる。
 残念美男子である。

 「おお、ごめんごめん、少し興奮してしまって。まぁとりあえず場所を用意するからついてきて欲しい」

 皆の同意を得る前に振り返って歩きだしてしまう。
 皆は肩をすくめやれやれとその後をついていく。

 「あの、先程の会話でやつらの駆除、という言葉がありましたが何かこちらの世界でトラブルがあるのですか?」

 カレンがあのマシンガントークから非常に重要な言葉を聞き漏らさずいてくれた。
 ワタルなんかはまったく気がつけていなかった。

 「ああ、そうだね、この世界には今厄介な問題があるんだよね。
 いろいろとこの世界について聞いてると思うけど、この世界は言ってみれば僕自身みたいなものなんだよ。んで、長い時間世界全体を漂っている僕のからだの一部に、簡単にいえば病巣ができてしまったんだね。それがやつら、エネルギー消費問題の原因でもある。
 ただ困ったことに僕の体の一部だからまぁ、しつこくてね。
 しかも僕自身だから、僕自体が干渉しようとしてもどうにもうまくいかな、
 結果としてこの世界に住む住民たちにやつらの駆除を頼んで少しづつ退治しているんだよね。
 でもさぁ、増えるのも早くてねぇ・・・でもね、今はなんとか一つの空間に押しとどめられているんだ! だからそこから出さないように少しづつ数を減らし始められているんだ。
 そー、だからワールドクリエイターって言うのがすごく気になっていて。
 その空間を上手いこといじれないかヒントが欲しいんだよね!」

 「それは後で色々話しましょう!」

 技術開発馬鹿気味なデルスは少し楽しそうになっている。ケイズも興味津々なようだ。

 「やつらって何者なんですか?」

 「んー、そうだなぁ。君たちの世界で一番イメージが近いのは巨大なゴキブリかな?」

 「ひっ!」

 ゴキブリという単語でユウキが短い悲鳴をあげる。
 ユウキは大のゴキブリ嫌いだ。
 ワタルも苦手ではあるけどユウキほどではない。
 村育ちのリクカイクウは虫ごときは気にもしない。

 「わ、ワタル君。ま、まさか倒しに行こうとか言わないよね……?」

 「う、うーん。なんか、流れ的にはそうなりそうじゃない……?」

 「いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 長い廊下にユウキの悲鳴がこだました。
 

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