3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

166章 対面

 デルスが作る対決動画も架橋に差し掛かっていた。
 お互い千日手の様相になっていたがみんなの力を集めて勇者の技、次元断を放つ決意をするワタル。
 危険だと止めるメンバーをみんなの幸せを掴むためだ、
 それに俺の後ろには皆がいる。必ず勝って戻ってくる。
 皆に背を向け最後の一撃に全ての想いをのせる。

 「あとは俺達の戦いはこれからだ、ですね」

 「そんな感じだね。準備は全員いいかな? 
 これから次元の裂け目に飲み込まれるワタル君をみんなの力で救おうとして、
 その過程で奇跡が起きて外部の世界へと召喚されてしまうって流れになる」

 「「「大丈夫です」」」

 女神の盾の全員、臨戦態勢で待機している。
 あとは動画のタイミングと合わせて外界へバックドアを用いて転移させる。

 「さぁ、動画もとうとうクライマックスだ! 正直何が出るかわからない。
 最大限のバックアップはするけど、君たち自身にかかっていることも大きい。
 無責任なようだが頼んだ!!」

 動画の展開も最終局面、次元断によって生じた歪が周囲の全てを吸収崩壊させる、
 動きを封じられたケイズは転送装置によって【中央】へと送られる、
 もちろんこれはケイズのダブルだ(デルスの作った同位体)
 しかし残された歪は世界おも崩壊させるほど暴走を開始していく、
 それを止めるためにワタルが身を呈して歪を封じ込めようとする、
 そして全員でワタルと世界を守るために最後の力を振り絞る!
 次の瞬間、その場から全ての人達が消え去っていた。
 この世界を救う代わりに女神の盾達は犠牲になったのだ……

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 デルスは内部のデルスと意識化で共有している。
 彼らが転送によってこちら側の世界に飛ばされた後の手続きもきちんと考え終わっている。

 「アレス……ワタル達が……」

 「ああ、ヴェルダンディ。彼らは彼らの身をとして君の愛する世界を守ってくれたんだよ……」

 となりで涙ぐんで片寄抱き合っている二人には少し良心が痛む。

 「ん、なんだこの反応は……?」

 芝居臭さは出ないで言えたと思う。
 デルスは慌てたふりをしてコンソールを取り出す。
 中空に浮かぶコンソールをそういう雰囲気が出る感じでいじる。

 「おかしい、次元のゆらぎがこの辺りで始まる気配があるぞ」

 自分でも何を言ってるんだというような適当なことを言う。

 「え!? デルス様それは……」

 「今の戦いと何か関係が!?」

 やめてまじめに返さないで笑ってしまう、

 「てゅっ、とりあえず行ってみましょう!」

 ごまかせたようなごまかせないような、とりあえず転送先へと移動する。
 転送先は外界のデルスの所有する島、デルスの住居であり開発研究所みたいなところだ。
 転移装置を抜けてデルス、ヴェルダンディ、アレスの3人が駆けつける。
 移動中に【中央】へ【絶対者】が転送成功したことを報告してジャブは打っている。
 特に何の反応もなく「こちらで対処しておく」との言葉だけだった。

 「こ、ココハ……」

 (なんという芋演技。ワタル君……)

 「わ、ワタル!?」

 ヴェルダンディとアレスが駆け寄る。あまりにひどい大根役者がごまかされて本当に良かったとデルスは胸をなでおろす。
 全員無事に外界への転移は成功した。第一ハードルはクリアだ。

 「どういうことが起きたのか検証は後にするとして、【中央】の指示を仰がないといけないね。
 とりあえず【中央】に連絡を取ってみるよ」

 打ち合わせ通りにデルスは中央とのコンタクトを試みる、
 ここでうまくワタル達と【中央】の面会に持っていくためにワタルから衝撃的な発言を……

 「デルスサンマッテクダサイジツハイマ」

 これは酷い。

 「デルスさん、実は次元の歪みに巻き込まれ、この場所に落ちてきたのですが。
 どうやらこの世界の重大な情報に触れてしまったような気もするのです、
 そう【中央】にも関連する、そんな情報に……」

 ユウキのナイスフォローによって事なきを得る。
 ワタルは真っ赤になりながら出来もしない口笛を吹いてごまかしている。
 やめろ、それもおかしい。
 【中央】との会談は全てユウキに任せよう。
 デルスの助けを求めるような目線にユウキは静かに頷く。
 旦那と違って出来た嫁である。

 「わ、わかった。すぐに【中央】に連絡する!」

 わざと緊迫したような感じで【中央】に連絡をする。
 先ほどのユウキの発言を受けた【中央】からしばらく待たされたが、
 彼らの答えは一度【絶対者】の確保にも協力してくれた女神の盾達と会うという話であった。
 場所は【中央】が指定したワールドクリエイターの世界だった。
 これはデルスたちにとっても好都合だったので二つ返事でOKを出した。
 もちろんすでにこちらの意図が読まれており罠の可能性も十分にある。
 しかし保険も含めて相手が打ってくる手立てに対するカウンターもしっかりと準備はできている。
 【中央】との面会。
 そこで明かされる真実はなんなのか、それはこの時点では誰ひとりとして予想できなかった。

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