3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

165章 準備の準備

 無数の火球がケイズに迫る、ケイズは空中へ回避して驚くべき速度で火球を避ける、
 飛行魔法ではない、この世界の物理法則を操作しての高速飛行、
 しかしワタル達も負けてはいない、すでに熟練の域に入っている高速空中戦、
 常人の目で捉えられないスピードでケイズとワタル達の影が交差する。
 ケイズは青白く光る魔法の盾と剣を無数身にまといワタル達の縦横無尽な攻撃を見事に捌き続けている。

 「強い!!」

 ワタルが叫ぶ、同時にワタルのもとに無数の光弾が迫るさながらレーザーのようだが不規則な軌道を描き四方八方からワタルに襲い掛かってくる。
 着弾と同時にその威力から激しい土煙が上がる。
 その爆発からすべての攻撃を自らの盾で防いだワタルがケイズに斬りかかる、
 ワタル、リク、クウ、バッツの連携攻撃も全てケイズの光る盾と無数の武器が防いでしまう。
 ケイズの周囲には数十種類の武器がふわふわと浮かんでいてそれらが防御にも攻撃にも激しく動きまわる。
 未だにお互いに大きな攻撃を当てることは出来ずに戦況は膠着状態のままだった。


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 「基本的にはこれのパターンを無数に作って尺を稼いでいるんだよね」

 「あの武器浮かす奴、俺一生懸命使えるようになってるんですけど……」

 「あ、そうなの? じゃぁこれ見てワタル君もヒントを得て使えるように的な展開にしてくね」

 「隠しておきたかった的なセリフをお願いします!」

 動画編集のようにお気楽に画像を作り上げている。
 実際にはとんでもない技術なんだけど、デルスは呼吸するように成し遂げている。

 「どんな感じー?」

 「あ、やってみせますね」

 ワタルは各種武器を重力魔法で自らの周囲に浮かせながらそれを自由自在に動かしている、
 先ほどの画像内のケイズと遜色ないコントロールで操っている。血反吐を吐くほどの鍛錬の賜だ、
 本人はν-ガン○ムを目指して! とか言いながら楽しんで訓練していた。
 実際はとんでもないことをやっている、ワタルもまた天才だった。

 「ほんとワタルすごいよね、カイとかカレンも試したんでしょ?」

 「ええ、とてもじゃないけど戦闘中に魔法管理が追いつきません。
 ワタルさんはどういう頭の構造してるのか不思議です」

 「ワタル様は考えるんじゃなくて感じるんだっておっしゃってました。
 あの方は天才なんですよ」

 「ワタ兄のあの攻撃も反則、アレ使えるようになってからほとんど勝ててない……」

 「ワタルきゅんの鉄壁の盾に変幻自在の攻撃、凶悪よねーアレ」

 「ワタル君には禁止されてますが大砲で撃つくらいしか対策が見当たらないです」

 さらっとユウキが恐ろしいことを言い出しているけど、今のワタルはそれくらい強くなっていた。
 1対1ではこの世界において最強と言ってよかった。
 女神と神獣の加護を得て、物理、魔法など殆どが無効な盾、
 盾の操り方は徹底して鍛え続けてきている。
 魔力で創る盾の強度も飛躍的に成長しており女神の盾のメンバーが全員で相手してやっと一枚破壊できたぐらいだ。
 女神の盾の他のメンバーもそれ以外の冒険者から比べると異次元の強さになっている。

 同時並行で行われている外部へのバックドアの完成と神達へと配布する情報の構成ももう少しだった。
 ケイズが持つ大量の情報をわかりやすく、それでいて正確性を持った客観的なデータとしてまとめた。
 ケイズは不満だったが【中央】を悪とするような方向性はもたせずに事実だけを客観的にわかりやすくまとめた物になっている。
 情報には基本的には発信者の都合のいいようなベクトルが加えられている、
 しかし、情報を受け取った人自身がきちんと考えて答えを出してほしいというデルスの意見が尊重された。

 「よし、大体の準備は終わったね。後は最後の外に出る必然性をもたせるだけだね。
 外に出たら君たちだけが頼りだ、申し訳ないけど頑張って欲しい。
 いざとなったら必ず助けるから。安心して」

 「分かりました」

 ぐっと固い握手を交わす。
 その他のメンバーともしっかりと握手を交わす。
 ケイズは情報が収められたキューブをワタルへと渡す。

 「念じれば即座に情報はネットワークを伝って多方向から同時的に広がっていくようになっている。【中央】の対策もすぐには不可能だろう。君にこれを託すよ」

 ワタルがそれを受け取ると変形してリストバンド状になってワタルの腕に巻き付いた。

 「君のヴァイタル・インフォメーションもこちらでモニターできるようになっている。
 君に何らかの関与があればこちらですぐに察知できるようにしてある、さらに」

 『こんな感じで意思会話もできる』

 『おお、これは便利ですね』

 『この会話は僕とワタル君とケイズにしか絶対に聞こえない、例の魂の回廊を利用した通話システムになっている』

 こうして外界での【中央】との対話の準備は着々と完成していくのでありました。
 

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