3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

147章 変化

 【この世界最古にして最強の龍である儂が、お主に力を与えてやろう!!】

 目の前に現れた巨大な黒竜、
 この世界の最後の聖獣 黒竜。
 この世界の神であるヴェルダンディと同等に近い力を持つ、
 いい話し相手でもあり世界創設からこの世界に生きる黒竜。
 あらゆる聖獣の中でもっとも長く龍脈の中で過ごしており、
 黒竜の巣地下の龍脈は全ての龍脈の源泉、あまりの強大さにバルビタール達はそのエネルギーの利用することができず黒竜ごと封じ込めるという選択肢を取るしかなかった。
 本気になれば黒竜を封じ込めるなんてことは不可能なのだが、
 黒竜にとってバルビタールが来て居座っている数ヶ月なんて人の一呼吸にも満たない時間だった。
 別にいいか、程度で4魔将の戦いの相手を暇つぶしにしていたりしていた。

 今その黒竜が深き地下から地上へと顕現する。
 女神の頼みを聞き、まぁまぁ気に入ってるこの世界の危機に協力してやることにした。
 ほんの気まぐれなのだが今のバルビタールにはこれ以上の助力はありえなかった。

 【これをつけろ、女神の……首輪ってとこだな。儂の力を受け取るために儂自らも手を加えてやった】

 バルビタールの目の前にふわふわとリングが浮いている、
 女神の腕輪に似たデザインだが龍の刻印が水晶に刻まれている。
 バルビタールの首にセイがそれをはめてあげる。

 【行くぞ、女神から【統率者】の力も預かっておる。この程度の試練に打ち勝てねばお主の望みは果たせぬぞ。気張れよ】

 黒竜の姿がずる~っと水晶に吸い込まれていく。
 巨大な体が質量保存の法則を完全に無視してどんどんと小さな水晶に入り込んでいく。
 あっという間に全て水晶に収まってしまう。
 先程まで巨大な存在感を放っていた黒竜の姿は跡形もなく消えており、
 4魔将の偽物達の怨嗟の言葉だけがそこらじゅうから聞こえてくる。

 『何も変わらない……?』

 あれだけの物が納まっているとは思えないほど首輪は静かに佇んでいる。
 周囲にいる4魔将とプロポのまがい物がバルビタールへの精神攻撃を仕掛けながら距離を詰めてきている。

 「仕方ない、まずはこいつらを倒して奴を追うぞ! リクカイクウはセイを守ってやってくれ。
 頼んだぞ!!」

 ワタルはまず周りに迫る敵を倒すことを優先する。
 全員が戦闘態勢に入ろうとした時にそれは始まる。

 ズクン

 まるで自分たちの体がブレるような感覚。
 しかしそれはバルビタールを中心に起きていた。
 一番近くにいたセイは軽く弾かれるようによろめいてしまう。
 バルビタール自身は首輪が怪しく光りながら空中に浮いている。

 『ぬぐっ、ぐぐぐ……これが試練か……』

 「バル!?」

 『大丈夫だセイ、俺はこれを乗り越える! そしてあいつらとの誓を絶対に守ってみせる!』

 ズクッズクッ、脈動する波動が首輪からバルビタールの肉体に響き渡る。
 ウサギの姿をしたバルビタールの体表に黒いウロコのようなものが生え始めていく。

 「みんな、とりあえずは周りの敵に対応しろ、来るぞ!」

 こちらの異常事態など敵は考慮してくれない、
 大量の敵の一部が女神の盾のメンバーに襲い掛かってくる。
 防戦しながらもバルビタールを貫く力の波動が女神の腕輪を通して全員にも影響を与えてくる。

 「こ、これはなかなかしんどいな!」

 「この中心にいるバルビタールはもっと……」

 「やるしかないわよぉ、ワタルきゅーん後ろ危ないわよ-」

 皆すでに一対一でも4魔将たちを圧倒している、
 もちろんこいつらは偽物、本物の4魔将のような『武』ではない。
 力を振り回す『暴力』でしかない。
 そんなものが女神の盾のメンバーに通用するはずもない。
 時折訪れる体への負担を差し引いても相手にもならなかった。
 次から次へと一刀のもとに切り裂かれていく偽物達、
 グズグズと液状に戻り地面へと吸い込まれて消えていく。

 圧倒的に有利に戦闘は展開していた。
 バルビタールはいつの間に黒いウロコに覆われた卵のようになっている。
 時折襲ってくる波動のような衝撃は相変わらずだ、
 すでに何体の偽物を斬り伏せたのかわからなかった。

 そう、圧倒的に有利なはずなのだ。

 「おかしい、敵の数が増えてないか!?」

 「ワタ兄、どうやら後方からどんどん補充されている」

 「ワタル君いい案が「却下!」

 「ワタルさん倒した後地面に消えていくのが後ろでまた元に戻ってるんじゃないですか?」

 「それじゃどんどん数を増やしてるだけだな……」

 「【統率者】の力を利用して結界を作ってみます」

 「カレンできるか?」

 「やります、ユウキ様、カイ様ご協力お願いします」

 実験を却下されて少しふてくされていたユウキも面白そうな事ができそうで機嫌が良くなる。
 ユウキが空間把握、カイが魔力展開、カレンが【統率者】の力を展開する。

 時折襲ってくる波動は魔法のような繊細な物のほうが影響を受けやすい。
 空間認識しそこに魔力による結界を展開、さらにそこに外部の力を定着させる。
 普通の魔法使いだった数十人規模のグループが何ヶ月も準備をして行うような規模の大魔法だ。
 3人が結界を作っている間はワタル、バッツ、クウが敵の迎撃に当たる。リクはセイを守っている。
 襲い掛かってくる敵の数は圧倒的に多いが、なんの協調もせずにただ持て余す力を振りかざしてきているだけだ、なんの問題もなく敵を処理し続けている。

 結界の完成も間近な時今までとは比べ物にならないほどの衝撃が全員を貫く。
 それと同時に鱗の卵がバリバリと振動し始める。
 バルビタールの再誕の時は近づいていた。

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