3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

132章 集合的無意識

 夢を見ていた。
 この間の4魔将との戦いだ。
 目の前を豪腕が唸る、生き物のように四方八方から神速のムチが迫る。
 自分が戦っていない相手の攻撃を追体験しているようだ。
 いろいろな視点から、時には目前に迫る攻撃、時にはその攻撃を受けている状態を第三者視点で。
 様々な情報を多角的に見ている。
 そんな夢だ。

 そしてその時が来る、見事に捌かれ体勢を崩され一撃を受けてしまう。
 攻撃した人間からの視野、第三者目線で見た視点。
 よくスポーツでの練習でビデオで取ったフォームをチェックする、そんな感じだ。
 そしてリクの頭が撃ちぬかれそうになる場面。
 わかる、この攻撃は回避できない、スローモーションになる世界。
 すべての動き、変化を捉えそして正確に理解する時間、
 繰り返し繰り返しその体験を何度も何度もその体験を……

 気が付くと、朝になっていた。

 全員が同じ夢を見ていた。
 そしてまったく疲れが取れないばかりか頭はずーーーんと重く、体もだるーーーいというなんともな状態になってしまっていた。

 「ワタルー久しぶりにマッサージしてよー」

 「はい!! はい!! わたしもワタルさんにマッサージして欲しいです!」

 「ずるいワタ兄私も」

 「……(無言で見上げる)」

 「ワタルきゅんのマッサージは最高だからねぇ~」

 「ちょ、皆のやって俺は誰にしてもらうんだよ!」

 「あ、ワタル君私がやってあげるよ。結構自信あるよ」

 しまった! 女性陣の顔に焦りが見えるがもう遅い。

 「ありがとーユウキ! そしたら久しぶりに念入りにやってあげよう、覚悟しろよ」

 にやりとワルーい笑顔を見せるワタル。
 その後宣言通り全員に念入りにマッサージを施してバッツも含めて全員ふにゃふにゃにされた。
 ユウキはワタルにマッサージしてあげてからその神の腕前を堪能した。
 ユウキのマッサージもワタルにとっては女神のようだった。

 マッサージで全身をふにゃふにゃになった一同は仲良くひとっ風呂を浴びて、
 そして帝国への転移に向かうのであった。

 帝国領ではワタル達の予想とは違う妙な状態になっていた。

 「おお、ワタル! イステポネでの活躍は聞いているぞ!
 よくやってくれた!」

 ジークフリード皇子の温かい出迎えを受けたワタル達はタイラー提督の待つ司令部へと案内された。

 「なにかおかしなことになっているそうですね?」

 「ああ、何故か魔人軍の侵攻が止まったんだ。しかも今まで前に出てこなかった4魔将の二人が前面に出てきて、別に攻めてくるわけでもないんだが君たちをご指名なんだ……」

 「俺達……?」

 「ああ、女神の盾を出せ、とか俺達も楽しい戦いをさせろとか、もう自慢されるのは懲り懲りだとか意味のわからない事を言ってくるんだ」

 「ああ~~~~……」

 なんとなく心あたりがある。

 「どうする? 罠の可能性もあるが……」

 「いや、多分罠ではないです。明日俺達が向かうと伝えて下さい。
 たぶんおとなしく待ってくれるんじゃないかなと思うので……」

 「どういうことだ……?」

 ワタル達はイステポネでの4魔将との戦いと彼らの人となりを皇子と提督に話した。
 冗談みたいな話だが、確かにこの戦いにおいても魔人軍は非道な行動はせずに帝国軍とゲームでもするかのように戦いを楽しんでいるような印象を提督は受けていたためにその謎が解けたような気がした。

 「ふむ……まるで子供のようですな」

 「ああ、それは思った。ショウってやつは村にいる男の子みたいだった」

 「ペントもなんか褒められたりしたし変な感じだった……」

 「バルビタールの目的は何なんでしょうね?」

 「バイセツの記憶からだと人間を滅ぼそうとするまさに魔神何だけどねぇ……」

 「メディアスの記憶も残虐非道な魔神ですけどね……」

 「そういえば女神様は前の世界でも何か仕掛けられていたとか話していましたよね」

 「なにかそれに関係があるのかもしれませんね……」

 ここで話し合っていても解決策は浮かばないだろうということで明日へ備えることとなり解散となる。
 明日はたぶんまた激闘になる。
 のこりの4魔将がどれくらいの実力があるかは分からないが、この間の二人以下ということは無いだろう。万全の準備が必要なのは間違いない。

 バッツも怪我の影響は微塵もなくむしろ以前よりも体の調子がいいぐらいと言うほどであった。
 他のメンバーもマッサージの影響か絶好調。激戦のダメージは微塵も感じさせなかった。
 皆で食卓を囲みゆったりと風呂に浸かり。きっちりと体を休める。

 その日は悪夢のような夢を見ることはなくぐっすりと眠ることが出来た。
 おかげで全員最高の目覚めだった。
 ホテルに用意された朝食を取り、戦いの場所へと移動する。

 戦場につくと本当に二人ぽつんと戦場に立っていた。
 あまりのシュールさに少し笑ってしまった。
 着流し風の服装に二本差しの男と巨漢のふくよかな男。
 凸凹って言う表現がぴったりだ。
 ワタル達が前に出ると待ってましたという勢いで話しかけてきた。

 『おいおい、待ってたよ~。ペントとショウから聞いてるぜー。
 やるんだろ? 結構やれちゃうんだろ? いやー、あいつらの自慢をもう聞かなくて済むぜ-!
 さぁ! 俺達ともやろうぜ! な? 早速やろうぜ楽しいバトル!』

 妙に早口で巨漢の男が話す。
 想像と違う高い声と早口のギャップがまた少し笑いを呼ぶ。

 『まぁ落ち着けブトル、よぉ。お前らが女神の盾だな。俺は4魔将の一人ドミ。
 こっちはブトルだ。いやー帰ってきたあの二人がまぁ楽しそうに自慢するから俺らもたまんなくてさ、
 悪いんだけで戦ってくれよ、まぁバルビタール様の邪魔するんだし戦う運命なんだよ。な、やろうぜ』

 二人共こっちの意見は基本的に関係なく戦いたい。
 隠す気もなくそれだけだった。

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