3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

99章 神の決意

 【ワタル、お疲れ様です】

 魔王の島の開発を終え小休止をとっているワタル達のところに、
 女神の声が届いてきた。同時に女神ベルダンディが顕現した。

 【はぁ・・・・・・私もアルスも見ていましたが、あれほどとは思っていませんでした。アルスの世界にいた頃のバルビタールよりも強い部下が生まれているとか、なんなの・・・・・・】

 「正直、相手の実力さえ図ることも出来ませんでした・・・・・・」

 【しょうがないわよ、はっきり言って私よりも遥かに強いしアルスもあんな強力な存在に出会ったことないって驚いていたもん。たぶん2つの世界を渡り歩いて龍脈っていう自分に相性の良いものと出会ってしまったがゆえのイレギュラーな存在に成ってしまったんだと思う。あー、どうしよ。ほんとに頭痛い。女神だなんて言われてるけど実際はそんなに世界に干渉できないし大した力ないのよね・・・・・・】

 「そういえば魔王の島って女神様の加護で守られていましたよね? 今回はアイツが何かしたんですか?」

 【そう、あっさりと私の自信作のバリア壊されちゃった、魔王ちゃんごめんねまたワタル達に街作ってもらったからそこにもしっかりとバリア貼っとくね】

 「いえ、女神様には今回仲間とともに命を助けてもらいました。本当に有難うございます。アルス様にもお礼をお伝え下さい」

 【そう言ってもらえると嬉しい、ただ現実的な問題としてアレにどう対抗していけばいいか私達でもわからないの・・・・・・アレは桁が違う。なんであんなものが生まれてしまうのか・・・・・・】

 「異なる世界を渡ったという意味なら俺達も次元を渡った聖剣や俺、ユウキも違う次元から来てるんですけどね・・・・・・」

 【確かにあなた達もこの世界では充分すぎるほど強いのよね、でもあれらは異質。異常よ。龍脈の力も同じ数得ているのにここまで能力の差が出るなんて、なにかさらに別の力でも・・・・・・いや、まさか、そんなことしたら・・・・・・でもアイツなら・・・・・・】

 「女神様?」

 【ごめん、ちょっと調べること出来た。わかったらまた来るねごめん。頑張って】


 突然女神様が行ってしまって呆然とするメンバーだったが、少なくとも神の力を持ってしても強力な敵であるということは再認識された。

 「強く・・・・・・強くならないといけませんねワタルさん」

 「そうだな。強くなろう皆で」

 ワタル達は決意を新たに帝都へと帰還する。
 帝都ではオークション日程が発表され過去にない巨大オークションになるということで賑わっていた。
 帝国という巨大な組織でありながら立憲君主制の利点はスピードであった。
 開催日決定、発表までジークフリード皇子は迅速に執り行っていた。
 優れた指導者は最善のことを最高のスピードで執り行う。
 帝都を包むお祭りムードは落ち込んだ女神の盾のメンバーを元気づけることに寄与していた。
 皇子はたぶんそこまで踏まえてスピード決裁を下したんだと思う。

 「とりあえず、俺達は強くならないといけない。このままセイのもとへ駆けつけても配下であるプロポにも手も足も出ずに殺されるだろう」

 「悔しいけど、プロポが背後に移動する気配さえ察せなかった、何も言えない」

 このメンバーで最も速さを誇るのはクウだ。そのクウでさえ動きの素振りさえ感じさせずに自分たちの横を通過させてしまったのだ・・・・・・

 「なぁワタル君。クウさんはどれくらいの速度まで見切れるんだい?」

 「どうだろ、スピードを測ったことはないなぁ・・・・・・どうして?」

 「ちょっと気になることがあるんだ」

 「ふむ、よし。クウちょっと確かめたいことがあるから付き合ってもらっていい?」

 「別に構わない」

 移動してきたのはイステポネの拠点。ここが面積的にも一番広いしまだ未開拓な土地もたくさんある。

 「そしたらクウ。今から石を魔法で投げるから見えるかどうか教えてくれ」

 ワタルは魔法によって日本でのkm/h時速換算にして1,225km/hつまり音速で石を投射する。
 着地点には予めカレンが意志の運動エネルギーを停止させる結界を設置してある。

 「そしたらいくぞー」

 石には予め絵柄を書いてある。もしもクウが見切れれば何が書いてあるかわかるはずだ。
 ワタルが魔法を発すると石がマッハの速度で発射される。ソニックブームは魔法で制御する、そうでないと周りが大変なことになる。
 正直これを認識するとはワタルは思っていなかった。

 「はは、ワタルそれ猫のつもり? へっただなー」

 石に書かれていたのは猫ののつもりだった。

 「い、今の見えるの?」

 クウは完全に石に書かれている模様を目視できていた。

 「ふむ、これでプロポの移動には何らかのタネがある可能性が強くなったな」

 「どうしてそう思うの?」

 「今の速度は私達の世界ではマッハっていう単位で呼ばれる音の速さなんだ、
 今は魔法で抑えたけど実際には音速を越えるか近くなると物凄い衝撃波が生じる、
 マッハの速度を見切れるクウが全く認識が出来ない速度でありながら、
 あの時衝撃波なんかは起きていなかった、さらにそれを抑えるような魔法の残渣は感じなかった。
 さらにカレンさんの持つスキルで幻術のたぐいは否定的になる。
 そうなると動いて移動したというよりは転移したと考えるのが自然と思うんだ」

 「転移でも魔法の気配がわかるのでは?」

 「魔法ではない転移、の可能性もあるし。個人的に考えているのは、あの場にほんとにプロポ一人だったのか? っていうのもある」

 「・・・・・・確かに、背後から声をかけられた瞬間目の前にいたプロポは消えたのか・・・・・・?」

 だれも自信がなかった。あまりの出来事に思考が停止していた。
 少なくともこの実験でクウは音速をも捉える目を持っていることがわかった。
 その後皆チャレンジした結果、カイリはクウ並みの動体視力であること、ワタル、バッツ、リクは石の存在とおぼろげになにか書かれていることは充分把握できる。残りのメンバーも石は認識出来るということがわかった。
 音速の物体を把握出来るだけでもかなりの認識能力だ。
 どんな手段をとっているにしろ脅威には変わりないが、ほんの少し肩の荷が降りたような気がした。

 女神からの連絡を待つしかない。それまでに模擬戦などでそれぞれ強化していく。
 基本的に今後の方針はそう決まった。

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