3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

93章 魔王の女神の加護

 青龍と紹介されたトカゲはビンからぴょんと飛び出して魔王の方に着地した。

 『こんな姿で悪いな、女神からとりあえず逃げるようにってことで小さくなっちまった。
 抜け殻は今頃大暴れしてると思うが、それでも【黒】の奴らに数で押されるだろうな』

 そしてグルリと女神の盾のメンツの顔を見渡すとじっとカイの事を見つめる。

 『うん、お前だな。ちょっとこっちに来るんだ』

 「え? 私ですか?」

 カイは戸惑いながらも青龍の前に立つ。

 『ちょっと目をつぶれ、そして腕輪がある方の手をこっちに向けるんだ』

 「は、はい」

 青龍はぐわっと口を開けると発光する玉を吐き出して腕輪にくっつける。
 くっついた光の玉が溶けるように腕輪に吸い込まれて行く。
 自動的に鎧が展開されその形が変化していく。
 蒼を貴重として美しい鱗状の装飾、透明などこか水を思わせるフリフリが可愛らしい。
 そして目を引くのがキラキラと輝きを放つ長いマントだ。
 カイのスリムなスタイルと合わさって幻想的で美しい。
 他の二人が動的な機能美とするとこの鎧は静的な芸術美に優れている。 

 「カイの鎧だけ綺麗でずるい」

 「ずるいずるい」

 「まぁまぁ、二人の鎧もカッコいいぜ!」

 全くフォローになっていないフォローを入れるワタルであった。

 「さて、そしたら島の奪還についてだったね」

 魔王ユウキが話し始める。

 「残念ながら【黒】に取り込まれた仲間が元に戻ることはないというのは理解してる、
 だからせめてこの手で皆を眠らせてあげたい」

 「戦ってみた感想はどうでした?」

 カレンの問いかけにユウキは少し考えるような素振りをして、アメリカ人のようなジェスチャーを取る。 

 「魔法は通らないし剣も効かない、正直お手上げだったよ、一応自前の武器はあるんだが味方が多いところでは使いにくい武器でね、まぁそれでも厳しいと思う」

 「まずは女神の塔をさっさとクリアしてもらいましょう、話はそれからです」

 そして多分ワタルとの繋がりを作る必要があるんだろう、女神の一同の考えは一致していた。
 とりあえず魔王ユウキが【黒】と戦うのなら塔で得られる女神の腕輪は絶対に必要になる。
 直ぐにサラスへ移動し塔へと向かう。

 「ユウキの自前の武器ってなんなの?」

 「ああ、これだよ」

 ユウキが取り出したのは、あれだ、拳銃だった。妙に銃身が長いのが気になる。
 こちらの世界の人間は全くそれが何なのか想像もできず ??? という感じだが、
 ワタルだけはわかっている。

 「ピストル?」

 「飛ばすのに魔力を利用した電磁力を使うからレールガンってとこかな」

 「なんか難しいくてよくわかんないけど、戦いになればわかるね」

 程なくして犠牲者達が現れる、ユウキは軽く銃を構えると引き金を引く、
 銃身にパリパリっと電気が帯びたような気がすると、はるか先の壁から爆音がする。

 ドグオォーーーーーン!!

 「は?」

 クレーター状に壁面が凹み、バリバリと放電している。
 時間軸を女神がコントロールしているので外壁まで貫くことはないが、とんでもない威力だ。
 その何かが通過した場所にいた魔物たちは跡形もなく消失していた。

 「・・・・・・なんてもん持ってるんだー!!」

 「だから味方がいないところでしか使えないんだよ」

 なんでもないことのようにサラっとそう答えるユウキ。
 実はワタルも頭のなかでは今の現象を分析して、多分自分でも出来るだろうなぁなんて考えている。
 どーしよーもない二人であった。

 「えっと、ワタル様今の攻撃は魔法なのでしょうか?」

 「うーん、魔法を利用して超高速で物体を飛ばしているッて感じかなー」

 「重力魔法ですかワタルさん?」

 「いや、重力魔法であれほど爆発的な速度は難しいよ、電磁力を利用して加速してるんだけど、僕も細かいことはわからないんだよ」

 「魔法がなければ作れない科学の力だね言ってみれば」

 電磁誘導に必要な電力は魔法で、素材の硬性も魔法で補える、摩擦問題、熱問題も魔法で、
 魔法の力ってすげー!

 「そんなわけで、とりあえず終わらせちゃおうか?」

 その後散歩するかのようにほぼユウキは一人で全ての塔の攻略を終えてしまった。

 「これが女神の腕輪か、魔王が女神の腕輪をつけるなんて不思議なもんだね。
 それにしてもこの塔は凄いね、レベルが上がったよ。こりゃ今晩は体中が悲鳴を上げるなー」

 「それだったらワタ兄にマッサージしてもらうといい。あとワタ兄の料理も疲労回復に抜群」

 「そうそう、あと拠点の露天風呂も最高だよ! ね、ワタル!」

 「あ、ああ」

 「ワタル様、今日は一旦拠点で今後の方針を決め、明日から反攻作戦を実行しましょう」

 「ユウキちゃんのお洋服も作ってあげなきゃねー、スタイルいいから創作意欲が湧くわぁ」

 妙に連携の取れた一行の提案に従ってサラスの拠点で今晩は滞在することになった。
 反攻作戦はウェスティア帝都からそう遠くない北東に位置する街ベージルから魔王の島への転移ゲートが用意されているので、あすの朝帝都へ戻り、直ぐに車で街へ移動、そのまま侵攻ということで話は纏まった。

 「これは!? ワタル君はこんなに料理がうまかったんだな!」

 冷静なユウキもワタルの料理には流石に驚きを隠せなかった。

 「なんかこっちでスキルが開眼してね」

 サラダに海鮮マリネ、ルビーオークのステーキ、ジャンバラヤに似たライス、フワッフワのブレッド、
 じゃがいもの冷製スープ、デザートには各種フルーツにシャーベット。完全にフルコースだ。
 ワタルはなんだかんだ言ってめっちゃくちゃ張り切っていた。

 「ちょっと食べ過ぎてしまった、恥ずかしいな」

 整ったユウキのはにかむ表情はワタルの心をかき乱す。だが、男だ!

 「そ、そしたらゆっくりお風呂入ってきなよ、レベルアップの痛みはマッサージで大分軽減するから、
 あとでやってあげるよ」

 「そしたらお言葉に甘えさせてもらおうかな、なんだか何から何まで済まないね」

 「いい、いいんだよ!」

 その笑顔でやられてしまう。だが、男だ!

 その光景を見ていた一同は正確にワタルの頭の中を分析していた。
 きっと以前男だった事を気にしてる。これは、また理性をちょちょいとふっ飛ばさないと行けない。
 各人が秘密裏に動き出す。


 -リクとクウ-

 「ユウキさーん」

 風呂場へ移動する途中のユウキを呼び止めるリクとクウ。 

 「ああ、リクさんとクウさんか、どうしましたか?」

 ああ、美人だ。そしてナイスバディ・・・・・・ワタルが夢中になって捨てられたら・・・・・・
 そんなことが脳裏をかすめるが、ワタルを信じている。

 「うん、これ。お風呂の前に飲むと疲れが抜けやすくなるよ」

 リクはバイアングの実をユウキに手渡す。

 「これで飲むといい」

 クウははちみつレモンサワーを渡す。

 「おお、これは美味しいね。向こうを思い出す味だ」

 某社のはちみつれもんを思い出させる。だが、実際には巧妙に濃い目のアルコールが入っている。

 「美味しかった、ありがとう」

 「いえいえー、いい湯をー」

 二人はヒラヒラと手を降ってユウキを浴場へ送り出す。
 第一作戦は成功だ。


 -カイとカレン-

 「ワタル様、私も少しお菓子を作ってみたのですがアドバイスいただけますか?」

 カレンの夢幻泡影は神の料理人であるワタルの嗅覚も味覚も欺く。
 こうしてまんまとバイアング練り込みクッキーを食べさせることに成功する。

 「おいしいよ、ちょっとスパイシーな隠し味もあってると思う。大人向けだね」

 「ワタルさんどうぞ」

 流れるようにカイがレモンサワーを渡す。バイアングの実とアルコール2つ合わさり最強となる。

 「ワタル様も先にお風呂に入ってください汗臭いままではユウキ様もご迷惑でしょう」

 「あ、うん。そう・・・・・・だよね・・・・・・」

 「ではエステポネへ送りますね」

 考えさせる暇を与えずにどんどんと行動をさせていく。これが詐欺の常套手段です。
 エステポネでゆっくりと風呂に浸かりいろいろと準備万端のワタルの元へ、
 同じく準備万端なユウキが訪れる。

 第二作戦も無事成功。

 ワタルとユウキの運命の歯車はすでに回り始めている。

 

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