3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

92章 再会

 「え? なんで? ユウキ!? だってここ、いや、そもそも女? 巨乳? 魔王?」

 ワタルは混乱している。

 「ははは、ワタル君は相変わらずおもしろいな。女神には聞いていたけど、実際に話すと信じるしかないな」

 魔王ユウキはクールにワタルの混乱を楽しんでいる。
 なんだか余裕のある態度と二人の関係に女神の盾女性陣の心には一抹の不安がよぎるのであった。

 「そろそろ説明してもいいかなワタル君?」

 「ふぇ、ああ、うん。そうだよ! 説明してよユウキ! なんで君がこの世界にいるんだ??」

 「ちょ、ちょっとワタ兄。なんで魔王を知ってるの?」

 「そうだね、皆にはそれも合わせて説明するよ。女神の盾のメンバーについても女神から聞いているよ、やるじゃんワタル自分に自信を持てるようになったんだね」

 美しい顔で優しく微笑む姿にワタルの胸は特別な感情が生まれそうになって、
 だが、男だ。と踏みとどまった。

 それからユウキは話しだす。この世界に来た理由。
 なぜ魔王としてこの世界で生きていたのか。

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 前魔王は老いていた。
 人間が大陸を支配するこの世界で魔物による世界制覇など別に望んでいなかった。
 ただ、敵対する気もない魔物や魔族が静かに暮らせる場所を作りたくて、
 そして一つの島にそれを作り上げた。
 その島で自給自足の生活基盤を作り上げた。
 魔王とは呼ばれているものの、そこまで強い力を持っているわけではなかった。
 それでも穏やかに過ごすことが出来たのは魔王の信念に賛同した魔物達の尽力によるところが多かった。
 それでも魔王の寿命はもう間もなく尽きようとしていた。
 魔王という柱がなくなると魔物たちの結束は残念ながら統率力が失われてしまうことは明白だった。
 前魔王は女神に助力を乞うた。
 おのれの魔力を利用し、自らと同じ志を持つものを探しだしていた。
 しかしその物は現実主義者であり自分自身に対してあまり興味はないが、
 自らを頼ってくるものや、困っている人間をなんだかんだ見捨てられない、そんな人間だった。
 問題は、異世界にその人間がいることだった。
 魔王の得意な魔法は空間魔法、異次元への鑑賞ができるほどの精度を誇っていた。
 しかし、異世界の人間を呼び出せるほどの力はなかった。
 そこで女神の力を借りたいと申し出た。

 一方的に呼びつけるのではなく現状を話して対象が望んだ時に限るという条件付きで接触を許された。
 その当時のユウキは、その体と心のアンバランス。性同一性障害に悩まされていた。
 それに自覚した時、離れてしまったワタルへの感情がただの同情だけではなく、
 特別な感情があったことも段々と自覚していっていた。

 賢いユウキは周りの人間にそれを悟らせることはなかったが、
 転校した先の民度が低かった。
 男でありながら美しい容姿で人気が出たユウキをいじめの対象としたのだ。
 しかも、暴力という最低の方法の中でも最もゲスな性を侮辱する暴力を受けていた。
 ユウキはゲスな人間の振る舞いに心を動かされることはなかったが、
 ワタルという暖かな太陽の存在が心の中で大きくなるにつれて、
 暴力に耐えられなくなっているのをはっきりと感じていた。
 さらに追い打ちをかけたのはワタルが死んだという噂、そう噂と思いたかった話だった。
 彼はその噂の真偽を確かめ、そして絶望に落とされてしまった。
 そんな時におとぎ話のような異世界の魔王が自分を必要と声をかけてきたのだ。

 自分が考えている以上にユウキの心は疲弊していた。
 その悪魔の誘いのような誘いに飛びついた。すがりついた。
 冷静で深慮なユウキの姿はそこにはなく、気がつけば自分を救って欲しいと懇願していた。

 二人の利害は完全に一致していた。
 ユウキはすでに自分の世界に絶望してしまっていた。
 魔王は自分のあとを継いでくれる人間を見つけられた。
 女神の力を借りての異世界転送は、同時に起きたあるアクシデントにより思いもよらない事が起きた。
 それが時間軸のズレと前魔王との融合と女性化であった。
 本来の魂の性別と魔王の魔力がなせる奇跡としか説明のしようがない。

 そんな事態を引き起こしたアクシデントとは、
 転移の際に別の世界から無理やり世界がこじ開けられた、
 つまり魔神バルビタールの転移のタイミングだった。
 様々な奇跡とも言える偶然がこの現状を引き起こしているのであった。

 こうして5年ほど過去の魔王と融合し生まれ変わった魔王は魔族の一時的な混乱はあるものの、
 この世界で魔族たちの王として静かに平温に暮らしていた。

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 「そして、そんな平穏を打ち砕いてくれたのがあの【黒】たちだったというわけさ」

 ワタルは淡々と話すユウキの話の内容の凄惨さに胸の中に怒りの炎が渦巻いていた。
 激情に任せて叫びたいのをぐっと我慢して、できるかぎり冷静に問いかける。

 「ユウキ・・・・・・今はもう大丈夫なのか?」

 「・・・・・・うん。やっぱりワタルはワタルだね。大丈夫。魔物の皆との時間は日本での時間とは比較にもならないほどの幸せを僕にくれたよ、そして諦めていた君ともまた会えた。こんなに幸せなことはないよ」

 「そうか・・・・・・よかった・・・・・・」

 ワタルの目から一筋の涙が落ちる。
 それを見るユウキの心のなかでは先程のワタルとは全くベクトルの異なる炎が激しく渦巻いた。
 女神の盾の一同はワタルの天然鈍感モテキャラしぐさに内心ため息をついていた。
 今のユウキの発言や語りの中で話されたことは完全に告白なんだけどね・・・・・・
 女神の盾の一同は同時に魔王である彼女を受け入れる覚悟もしたのであった。ワタルのあずかり知らぬところで。

 「さて、それでは魔王殿、今後の話をせねばならない」

 カレンが場を仕切りなおす。
 そうなのだ、敵の手に落ちた魔王の島には大量の魔物や魔族がおり、
 それが【黒】化することはこの世界においてとんでもない脅威となる。
 龍脈の力はすでに手遅れかも知れないが、【黒】達はなんとかしないといけない。

 「ああ、そうだな。それともう一つ。この子が話しがあるそうだ」

 魔王はゴソゴソと荷物を漁ると中から小さな小ビンを取り出した。
 よく見ると中には半分くらいの水と小さなトカゲが入っている。

 「この子が魔王の島の聖獣 青龍だよ」
 

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