3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

78章 大草原

 ウェスティア大陸は比較的なだらかな地形が多く、森林や丘陵は散在しているが、
 基本的には草原地帯が国土の多くを占めていた。
 ウェスティア帝国という立憲君主制を執っている。
 現皇帝はジークフリード皇子の父アルフリード=フォン=ウェスティア、現在体調を崩しており帝政は息子であるジークフリード皇子が執り行っている。
 剣聖とも呼ばれ文武ともに並ぶもののない天才ジークフリードのもとでウェスティア帝国は過去類を見ない発展を遂げている。
 ジークフリード皇子の政策は帝国民への慈愛に満ちていた。教育、医療の充実に始まり、貧困対策、雇用対策、インフラ整備など様々な事業を行っている。社会制度をドラスティックに改革していくには優れた専制君主が行うことが最も効率がいい。と、どっかのスペースオペラで言っていた。
 優しいからね。皇子。



 女神の盾一行はキャンピングカーで草原を爆走中だ。
 先程グレートバッファロー(美味しい)の群れを見つけてそこに急行中だ。

 「よーしアレを手に入れたらさくっと熟成させてステーキだー!」

 「カレン頼むよー!!」

 「見えたー!!」

 前方に10体ほどの集団が走っている。
 よく見ると1体、他は赤茶色なのに真っ黒でガタイのいいバッファローがいる。
 それに他のバッファローが追われている。

 「【黒】がいます、皆様お気をつけ下さい!!」

 カレンは同時に弓を放つ、マジックアローが黒バッファローの四肢を撃ちぬく、
 高速で走っていたところを足を狙撃されて派手に転倒する。
 ドバーっと土煙が起き追われていた一団はそのまま黒バッファローから距離を取ることに成功する。

 「肉は惜しいけど、取り敢えず【黒】を退治するぞ!」

 そのまま車で急接近して一気に攻め立てる。
 すでに黒は足の矢傷を黒のオーラで補っており、憤怒の表情でこちらをうかがっている。

 「アースジャベリン!」

 カイの魔法がバッファローを貫く、結構グロい・・・・・・
 カレンが続けざまに弓で追撃を放つ、さらにリクとクウも追撃にかかる。
 黒の紋様が斬撃をうけるとガギンガギンと金属のような音がする。
 傷ができるたびに紋様が広がっていく、このままだとまずいと判断したワタルは、

 「バッツ!! 俺が紋様を集める! 一撃で決めてくれ!!」

 バッツがバチコーーンって音がするようなウインクをしてくる。
 ワタルはそのまま距離を詰めていく、土の槍に貼り付けられている身体から黒い紋様が槍のように迫ってくる。ギリギリで避けながら肉薄する、イメージはランタスさんに教わったとおりに、
 多段突きではなく一突き、まっすぐ静かにインパクトの瞬間だけ力を入れる。

 ストン

 黒い骸殻に深々と剣が突き刺さる。

 「爆炎剣エクスプロージョンソード!!」

 バッファロー内部で爆炎を起こす、そのダメージを補うためか紋様が一時的に体表から引いていく、

 「今だバッツ!!」

 「はぁ~~、い”!!!」

 バッツはすでに跳躍しており、その全体重を乗せた一撃が一刀のもとに首を切り離す。

 「ファイアーストーム!」

 頭部を炎の渦が包む、熱量を凝縮させた一撃にバッファローの頭部は一瞬で燃え尽きる。
 首から蠢く【黒】がすでに灰となった頭部を求めるようにもぞもぞと動き、
 霧になっていく、肉体も霧のように一緒に消えていく・・・・・・


 「ふー、さっすがワタルきゅんね。あの紋様を貫けるとは思わなかったわ」

 「たぶんバッツも出来るよ、余計な力を入れずにスッとやるんだ」

 「ふ~ん、今度試してみるわ。ありがとね。チュッ♪」

 投げキッスを全速力で避けるワタル。彼が音速を超えたのは後にも先にもこの瞬間だけだった(嘘)

 「あーあ、他のお肉たちは逃げちゃったー・・・・・・」

 「残念だけど、仕方ないね・・・・・・」

 「あのままじゃ全部真っ黒になってしまいますから、大切なお肉を守ったということで」

 「いずれまたリベンジしようぜ!」

 平坦な道のりとはいえ日が傾いて走行すると万が一危険もあるので明るいうちから野営の準備を始めていく。
 キャンピングカーの結界の内部でみんなテキパキと準備をしていく。
 ワタルは折角の肉が取れなくて落ち込んでいる主にリクとクウのためにストックから肉を大奮発だ。

 フライパンで牛脂を溶かす。油が出たら一旦フライパンを冷ます。
 油でニンニクを炒めてニンニクの香りを油に移してあげる。
 一旦カリカリにあがったニンニクを別にとっておく。
 筋を切ったお肉に塩コショウとスパイスを軽く振っておく。
 強火で温めたフライパンに肉を投下だ!
 表面に肉汁が浮いてきたら反対側の面も同じくらい焼く。
 そしたらワインを投入だ! フランベだ。
 火が収まったら直ぐに肉を取り出して保温のために肉を包む。
 そのまま休ませる。
 その間にソースを作る、醤油風味で今日は行く。
 油と肉汁に玉ねぎをたっぷりと入れて炒めていく、
 バター的なものと醤油、塩コショウで味を整える。
 しっかり系のソースはこれで行く。
 もう一つはさっぱりとした柑橘類を利用したソースも作る。

 副菜もいろいろと作っていく。
 あー、熱々の炊きたてのご飯にステーキを乗っけて温泉卵でも乗っけてガッツリ食べたいなぁー、
 そう思うワタルであった。


 「な、なにこのお肉の柔らかさ! それに噛むとたっぷりの肉汁があふれる! これぞ幸せ!!」

 「ガッツリのステーキソースをバケットにつけても美味しいワタ兄美味しいよ!!」

 大事なことだからな。うん。

 「さっぱりしたソースは酸味があってあっさり食べられますね、私はこっちが好きです」

 「ほんとワタルきゅんの料理はたまらないわ、もう最高!」

 「ワタル様のおかげで肉料理も好きになってしまいました!」

 一人頭500gはステーキを平らげて皆とろけるような顔をしている。
 料理をつくる側としてこの瞬間が一番嬉しいんだよねぇ~。

 ワタル自身も満足した表情でワインを飲んでいる。
 今の時期は肌寒い夜の風も結界内に貼られている生活魔法によって快適な温度になっている。
 空を見上げれば満天の星。
 ワタルは特にこういう状況の時に異世界に来たことに感謝の気持ちを覚えていた。
 もともとあまり家族に強い思い入れがなかったことが、
 さらにその気持を素直に感じる要因となっていた。

 「今は皆が居てくれるしな・・・・・・」

 ふと口走った台詞、カレンやバッツは聞こえていたけど特にそのことに触れることはない、
 大人な二人ならではの対応だ。

 この世界は便利すぎる。科学の必要性がないほど魔法で何でもできる。
 大抵のことが魔法によって出来てしまう。
 前世では考えられないようなことだ、さらにワタル自身もこの世界において有数の強者だ。
 地味な高校生活をしていたワタルには縁のない世界だ。
 いまだに自分自身がまるで他人の身体、視点を見ているだけで、
 どっかの誰かの冒険を追体験しているだけじゃないのか?
 そんなふうに考えることも時々あった。

 この世界で沢山の人と出会い、たくさんの戦いを超えてワタルはこの世界で生きていく覚悟というものができつつあった。少なくとも5人もの自分のことを愛してくれる女性たちの側にいたい。
 高校一年生の男の子の可愛らしい、そして真っ直ぐな欲求も含めて。

 (早く、一刻も早くバルビタールを倒しセイちゃんを救う。
 俺のこの世界での人生はそこから初めて始まるんだ!)

 ワタルの小さな決意。
 明確にこの世界で生きていくことを決めたのは、こんなありきたりな普通の夜だった。 

 


 

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