3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

71章 偽善だっていいじゃない

 人助けは出来たが面倒な問題もある。盗賊たちだ。
 取り敢えず夜間は魔法で眠らせて、一晩は身体を休めた。
 猿ぐつわをしていたし、懲罰も含めて食事は与えていない。
  13人もの捕虜の今後の運用はなかなか大変だよなー、と、ワタルは考えていた。
  まずは話を聞こう。バッツとカレンを伴い盗賊に詰問を行う。
  
  「あなたたちのリーダーと話がしたい、リーダーは誰ですか?」

  ワタルは丁寧に対応する、背後でバッツと神業の弓を見せたカレンが睨みを効かせているので逆に威圧感を盗賊たちは感じていた。

  盗賊たちは猿ぐつわをされているので視線で一人の男を示した。
  初老のその男は、リーダーという立場にしては痩せており覇気もなかった。
  よく盗賊たちを見ると皆貧相なイメージを受けた、
 13対4という圧倒的な人数差がありながら戦線が膠着していた理由はそこなんだろう。
  
  「あなたがリーダーですか」

  「もう、どちらにせよ儂らはおしまいじゃ、殺してくれんか?」

 いきなりとんでもないことを言われて絶句してしまう。

 「とりあえず、お話をしていただけませんか?」

 「どうせ儂らは死罪かよくて犯罪奴隷として死ぬまで働かされるだけじゃ、
 儂の村も不作で残してきた女子供も身売りか餓死か病死じゃ、さっさと殺してくれ」

 「黙れじじい」

 いい加減イライラしていたワタルは思ったよりも強い言葉が出たことに自分自身も驚いていた。
 でも止まらない。

 「お前個人の愚痴が聞きたいんじゃないんだよ、俺はお前らがどういう状況で、
 なんで盗賊なんて馬鹿なことをしたのか聞きたいんだよ、それだけ喋れ、
 テメェの要望なんて聞いてねえんだよ」

 「んーーーーっ!! んーーーーー!!」

 ワタルの言葉に隣りにいた男が必死に訴えてくる。
 リーダーと言われた男では話にならない、
 今もブツブツとどうせ無駄じゃ、殺せ、と言っているだけだ。
 必死にアピールしてくる男の猿ぐつわを取ると、深く呼吸を一度して話し始める。
 比較的身なりも整えており、体躯もそれなりに立派な中年の男だ。

 「事の始まりは新規開拓した村が運悪く初年度から長雨の被害にあったんです、
 食料は多く持ち込んでいたのですが、予想以上に続く長雨に痛みだしてしまい、
 さらに、痛むぐらいならと食べたら病人を出すという始末で・・・・・・」

 「それは、運が無い・・・・・・」

 「運だけではないんです、この、一応は村長なんですが、この男の対応は慎重を通り越して臆病。
 それでいて何を言い出すかと思ったら野盗のようなことをすると言い出して、
 まぁ、その時は皆追い込まれて今にして思えば異常だったんでしょう、
 私の反対意見もすぐに潰されてしまいました」

 「ああ、居ますよねそういう人」

 それでいて恐ろしいほど打たれ弱いんだよね・・・・・・

 「どうなさいますかワタル様?」

 「よし、ケーレスの村で土地を借りてこの人達全員そこで働いてもらおう」

 「それではゲーツに連絡して準備をさせておきますね」

 「ちょ、ちょっとまってくれ。私達の家族合わせると30人はいるぞ、
 そ、それに俺らは盗賊行為を行ったんだぞ?」

 「それについては被害者の意見も聞くけど、まぁ奴隷になったらなったで全員世話するよ。
 取り敢えず事情はわかったからあなた達も食事食べるでしょ?」

 盗賊一行はワタルの用意した食事を食べると、皆驚くほど従ってくれるようになった。
 一晩食事を抜いているから空腹がさらに最高なスパイスになったようだ。

 ワタルの元で働けば食料の苦労はさせない、子供には教育を施す、
 基本的な生活の世話もしてもらえる。実際にはとんでもなく快適な生活だ。
 この条件で苦境で盗賊行為までするような人々が逆らうはずもない。

 盗賊たちに食事を提供している間に助けたパーティとも話し合いを行った。

 「被害者はあなた達なので、処分に関してはあなた達の意見を第一にしたいとは考えている、
 えっと、ごめんなさい、お名前を伺っても?」

 ワタルの問に相手PTのリーダーは大事なことを忘れていたことに気が付き頭を下げる。

 「命を救っていただき、さらに治療や食料提供まで受けておきながら、
 名乗ることを忘れていたことを、どうか、許していただきたい。
 私達のパーティは 【シャイニングきのロード】 私がリーダをしているパーヌだ。重戦士をしている」

 「私は魔法使いのスレイヌです」

 痩せているが知的な眼差しが印象的なローブを羽織った男は続いて名乗る。

 「俺はレンジャーをやっている、ウッドゥ」
 「私は神官をしておりますエッティ」
 「儂は戦士ゲムじゃ」
 「僕は魔法剣士のディーダです」

 なんとなく既視感のある方々だ、ドワーフとかエルフとかではなく皆人間の男だけど。
 判断はパーヌさんに任せるという一同。

 「私達も貧しい村の出身なので理解できる面もあります、
 そもそもダンジョンでの負傷が招いた結果、魔獣にでも襲われていても危なかったですから、
 結果として誰一人かけることなく、それどころか治る見込みのない怪我を治せるあなた方に出会えたきっかけを作ってくれたとも言えますから。私たちは女神の盾の皆さんの判断を支持いたします」

 おどけた感じでそう言ってもらえた。

 「ところで皆さん見たところ腕輪をなさっていないということは塔には登っていないのですか?」

 カレンの問いに答えたのはスレイヌだった。

 「塔、と言うと最近聖都の北に出来たというダンジョンですか?」

 確か、女神様はそう言っていたような・・・・・・?

 「その塔を攻略することで得られる女神の腕輪は皆さんの助けになると思いますよ。
 最近厄介な魔物が増えてきていますから、黒い紋様のあるような魔物は別格の強さで、
 それを倒すためにはその腕輪の力が絶対に必要になってきます」

 「なんと、それは知らなかった。ありがとうございます。
 聖都の北となると、一旦拠点へ戻って2週間くらいですかね」

 「よし、そしたら行っちゃいましょ! クウ、バッツ、ちょっと行ってくるからキャンプしててー
 リクとカイで盗賊の村へ行って他の村民も連れて来てもらっておいてもいい?」

 「わかりました。そしたら戻るまでに皆の移動準備も済ましておきますね」

 「はーい、いってらっしゃーい」

 ワタルはカレンとともに【輝きの道】メンバーを転送魔法で、サウソレス大陸のサラスの街の拠点へ、
 有無をいわさず転送させる。

 「い、今のは転送魔法!?」

 「こ、ここは!?」

 「ここはサウソレス大陸のサラスの街です」

 カレンが当たり前のように答えるが、一行の脳みそには正しくその言葉は入っていかない。
 転送魔法の存在は普通の人でも知ってはいるが、大規模な魔法陣構築と、
 何人もの大魔法使いを持って行う国家規模のことであり、
 ちょっとそこまで、みたいな感じで使うものではないのだ。

 そんなことはお構いなしに塔へメンバーを引きずっていく。
 塔も女神の時間操作によって混雑はしておらず、ギルドに許可を得れば、
 誰でも入れるようになっていた。
 むしろサウソレスでは冒険者となると一番最初にクリアする強制クエスト的な扱いだ。

 「じゃあ、行ってらっしゃい! 武器のストックもあげるから頑張って!」

 未だ混乱している【輝きの道】に無理やり装備などを押し付けて塔の中に放り込む。
 数分後、精悍な顔つきのメンバーが出てくる。

 「し、信じられない。レベルアップで痛みを伴うなど何年も体験しておらんかったのに・・・・・・」

 「お帰りなさい、さぁ、次の塔へ行きますよ」

 そのまま女神パワー塔攻略レベリングをさせる。
 もともと自力があったパーティで3本の塔は数分で帰ってきた。
 最後の塔は途中2度の補給に戻ったが、外時間で3時間ほどで攻略を終えてきた。

 「レベル、60だよ、60。そ、そんな雲の上の存在に足を踏み入れている・・・・・・」

 「し、師匠を超えてしまった・・・・・・なんてことだ」

 一同は自分たちに起きたことを喜ぶも混乱していた。
 数十年はかかるであろう成長を外の時間で数時間で成し遂げてしまったのだ。
 驚くのも無理はない。

 「そしたら帰りましょうか」

 先ほどのキャンプ地にマーキングしている場所へ転移を行う。
 ぐにゃっと景色が揺れたと思ったら最初の場所だ。
 お昼すぎに出て、少し日が傾いては来ているが充分に明るい。
 この僅かな時間で自分たちに起きた事を考えて【輝きの道】メンバーは再び頭を抱えることになる。

 まだ【輝きの道】頭を抱えるターンは終わっていない!
 ケイタイで教皇に連絡を取ったワタル達は、今後転送のために発展し人の往来が増えるであろう街路、
 ちょうど半分ぐらいのところへ宿場町代わりの拠点を作る許可を得てしまった。
 村民達とも合流したワタル達は車で先行して場所のあたりをつけると、
 一行を転送魔法で目的の場所へ転移させた。

 宿場町建設予定地についた一行の前でワタルとカイとカレンは手分けして、街を、
 そう街を作った。ほんとにニョキニョキという、シ○シティをやっている人なら分かる感じで、
 地面から街が生えてきた。
 街を囲む外壁、さらに広大な農地、次々と出来ていく建物。
 さらに魔法陣を通してゲーツから送られてくる物資の搬入を、もうどーにでもなーれと手伝う。
 【街】の骸殻が出来上がる頃にはワタル達は神として崇められることになっている。

 計画通り

 ゲーツが満足そうに微笑んでいた。

 

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