3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

61章 中ボス戦、ポロリもあるよ

 戦闘は比較的開かれたエリアで行われた。
 ダンジョン内は大小様々な部屋が通路によっていくつもつながっているような作りになっている。
 巨大な柱が部屋を支える大部屋も有れば、
 人が10人も入れば一杯になる通路に近い小部屋もある。
 今は体育館程度はありそうな広い空間であった。
 お互いの距離は50mほど。2つのパーティは同時に弾けるように動き出す。
 剣士と槍士が突撃してくる、アサシンは闇移動だ。

 「アサシンはカレンに任せる。俺は剣士、クウは槍を、カイはリクと一緒に後衛を自由にさせるな、
 バッツは行けそうなところを潰していってくれ!」

 ワタルは指示を飛ばす、闇移動するアサシンの看破はカレンが最適だ。
 攻守の要である剣士をワタルが抑える、槍は手強いがスピードで勝るクウなら有利との判断だ。
 ワタルはどんどん勇者としての資質が開花している、
 戦術的なことやその先にある戦略的な才能も開花している。
 そして、身体的能力、魔法能力、その全ても飛躍的に成長している。

 ---アサシン VS カレン-------------

 隠密行動を得意とするアサシンは影を利用する、
 影や死角から無防備な敵を必殺の一撃で倒す。それがアサシンのスタイルだ。
 前衛同士が争っていればその背後を突き、後衛の背後を突然襲う。
 恐ろしい敵だ。しかし、カレンには通用しない。
 全ての隠密を見破る、さらに、隠密行動でもアサシンの上を行く。
 今まで対峙したことのない圧倒的な強者を相手にしている。
 自らの死角から迫る魔法の矢、ギリギリで避けると、それさえも誘導であり、
 いつの間にか矢が突き刺さっている。
 すでに体中がハリネズミのようだ、急所だけを避けてなんとか生きながらえている。
 ただ、それだけだった。
 それも今終わりを迎える、矢さえも捨て駒に、完全な背後から魔法によって首を落とされた。
 最後に見た光景は、次々と打たれる仲間たちの姿だった。

 ---槍士 VS クウ-------------

 槍士は自分のスピードに自身を持っていた。そのすさまじい速度で放たれる連続突きに、
 対応できる冒険者などいなかった。ダンジョンによって記憶と経験を、
 最初から得ることが出来る魔物の身には、
 その経験に基づくプライドのようなものがあった。
 しかし、今そのプライドはズタズタになっている。
 目の前に対峙する冒険者に自分の攻撃がまるで通用しない、
 そればかりか、相手の攻撃が見えないのだ。
 生き物のように迫る二本の剣。槍の利点である距離を完全に潰され、
 気がつけば斬りつけられている。
 ヒーラーの治癒は先程から受けられていない、
 気を回している隙など微塵も無かった。
 自らを護るので限界であった、その限界も直ぐに途切れた、
 剣を受けようと槍を振るうと幻のようにその剣が消えた、
 忍術の一つ、朧。このタイミングで完璧に下手をうった。
 彼がそれを悔やむことはなかった、すでに身体と頭は別れていた。

 ---後衛 VS リク、カイ、バッツ-------------

 いきなり後衛を襲われた、前衛は後衛に迫る敵影に対応する隙を与えられなかった。
 弓手、魔法使い、ヒーラー。前衛に接近された時点で彼らの命数は尽きている。
 さらにその攻めてきた者達は自分より格上なのだ。
 弓矢による牽制、魔法攻撃どちらもまるで効果を発揮しなかった。
 矢をはたき落とされ、魔法はより強い魔法にかき消された。
 今まで一方的に接近を許すことなど一度もなかった。
 ダンジョンに生み出される獣人はそれだけでも人間よりも優れた身体能力を持っている。
 それが完璧なコンビネーションを取るのだから、普通の冒険者にとっては悪魔のように移るだろう。
 今は目の前の冒険者が彼らにとって悪魔に見えている。
 力強い斧の一撃を受けた弓は破壊され、ナイフに切り替えた。
 斧の攻撃をナイフで受ければものの数激で武器が砕け散り、深々と斧が突き刺さる。
 そのまま、もう二度と動くことはなかった。
 魔法対決はもっと圧倒的だ。まるで相手にならない。二回目の攻撃魔法を放った瞬間、
 全身を熱で焼かれ、風によって切り裂かれて崩れ落ちた。
 ヒーラーに戦いを求めるのは酷というものだ、バッツの攻撃を手に持つメイスで3回受けた、
 それだけでも褒められうべきだ。4回めの刃は肩口から身体を2つに分けた。

 ---剣士 VS ワタル-------------

 久々のまともな盾を使った戦闘だった。
 ワタルも片手剣で相手をしている。ふたりとも剣と盾のスタイル。
 違うのは足元や側面から突然打ち込まれる強力な攻撃、パイルバンカーだ。
 ワタルのパイルバンカーは力のベクトルを魔法で操作して無反動砲のようになっている。
 つまりワタルが盾で身を守っていようが、剣で切りつけている途中であろうが、
 お構いなくとんでもない重さと破壊力を持った攻撃がとんでもないスピードで迫るのだ。
 たぶん1対1の純粋な直接戦闘でワタルといい勝負が出来るのは、
 スキル補助のあるリクと天才型のクウぐらいかもしれない。
 つまり、剣士に相手をするのは不可能だ。
 攻撃は全て盾で防がれ、不可避の攻撃に剣士は深手を重ねていく。
 最後まで果敢に攻め続けたが、盾の守りを抜くことは叶わず、
 最後はワタルの魔法でその身を貫かれ、もう動くことはなかった。

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 「ふう、なんとかなったね」

 戦闘を見れば圧倒しているが、それは全部が綺麗にハマった結果であって、
 パーティ同士の戦いでは何が起こるのかはわからない。

 「何もさせず一気に終わらせてよかった」

 「特にめぼしい装備もないようだし、先に進みましょう」

 彼らはいつもの様に死体を通路の端に寄せて手を合わせ先へ進む。
 いままでのダンジョンはそれでよかった。
 しかし、今後は変えなければいけないだろう。
 彼らが進んでいる背後で、天井から落ちてきた黒い塊が、
 5体の死体にずるりと触手を伸ばしたのだ。

 じゃり・・・・・・

 背後の音と気配にワタル達が振り返ると、
 黒い塊によってつなぎ合わされて一つになったもともとは5体の死体が、
 立ち上がるとこだった。

 

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