3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

60章 中ボス遭遇

 ワタル達は完璧に守られたキャンピングカーの中で快適な目覚めを迎える。
 朝食準備し、温かい食事を口にする。
 ここはダンジョンのまっただ中だ、しかも高難易度の大ダンジョンの中だ。

 試練の場は単純に地下へ潜るダンジョンではないため、
 坂を下ることも有れば登ることもある。
 現在自分がどれくらいの位置にいるのかわかりにくい、
 そして終わりがいつなのかわからない、これが冒険者を苦しめる。
 冒険者の知恵である標石がそのストレスを少しでも減らしている。

 「ワタル様、ここからが深部と呼ばれるエリアになるそうです」

 標石に刻まれている、この先敵強し、注意されたし、という記号を読み取ってカレンが応える。

 「今のところ戦闘的には問題にはなっていないけど気を引き締めよう」

 問題になっていないだけで、楽勝なわけではない。
 それなりに手傷も負っているし油断をしているようなメンバーは一人も居なかった。
 深部最初の戦闘でいきなり大物に当たった。
 ドラゴンである。
 竜種はこの世界でも強者だ、限られたダンジョンで暮らすようなものでも、
 A級冒険者を苦しめるくらいに強い。
 以前女神の塔でドラゴンとは戦っているが、あそこででたのは女神様が、
 あの塔を登る人間に合わせた強さだ。あの時点でこいつにあっていたらワタル達は勝てなかった。

 ドラゴンは岩と似たような薄茶色、体表のウロコは一つ一つに厚みがある。
 ロックドラゴンとでも呼ぼうか、岩の鱗の隙間に刃を入れて剥がすと、
 その下に本来の鱗があった。体表に岩を纏っているようだ、
 剥がれた岩鱗は時間が経つと再生する。硬い砂のような形態だ。
 天然の魔法鎧、理屈はわからないけどさすがはドラゴンだ。

 「スコール」

 ワタルは概念で魔法を発動できるので別に魔法名を言う必要はないが、
 言ったほうが雰囲気が出る、という理由で呪文名は唱えている。
 今ワタルが使った魔法は大量の雨を降らせる、ただそれだけの魔法だ。

 「アクアボール」

 そしてそのまま大量に降らせた雨をドラゴンの身体の周りに保持させる。
 結果ドラゴンを覆う岩鱗に大量の水が含まれる。

 「エターナルブリザード」

 カイも詠唱は必要ないが気分で魔法名をつけている。
 実は自分ではかっこいいと思っていたりする。可愛い子だ。
 絶対零度の吹雪カイが使った魔法は凶悪な魔法だ。
 竜種は魔法に対して強力な抵抗力レジストを持っている。
 しかし、付与された水などにはその影響力は及ばない、
 身体にまとわりつく大量の水分でただでさえとんでもない重量になっていた水が、
 カレンの範囲操作で内側に膨張して凍りつくのだ、
 巨体であるがゆえにその影響は甚大だ。
 寒い環境に生きるドラゴンならもう少し抵抗も出来るだろうが、
 みるみるロックドラゴンの動きが鈍くなる。
 そこに容赦なく物理攻撃を叩きつけられる。
 さすがのドラゴンもなすすべなくその生命活動を終えることになった。

 「ふっふっふ、これで全員ドラゴンハンターだね」

 妙にテンションが高いワタル。

 「ほんとワタルはドラゴンにこだわりあるね」

 「でも~バッティもドラゴン倒したのは初めて。うふふ、ワタルきゅんと初めてを迎えちゃった!」

 誤解を生みそうな発言をワタルはスルーする。
 いけずぅ~とくねらせるバッツも無視だ。

 「ワタルさんのさっきの魔法の連続技は凄いですね、
  アレなら応用がかなり利きそうです」

 「そうですね、それにコレほど巨大なドラゴンをこれだけ綺麗な状態で得られるとは。
 全ての素材が使えると言われるのがドラゴンです」

 カレンの助言に従い果てたドラゴンをそのまま盾のアイテムボックスに収める。
 ドラゴンは宝を守っていたようでその宝もありがたくいただく。
 魔法剣、魔道具、宝石。普通の冒険者なら一生遊んで暮らせる価値のある物だ。

 「ワタ兄と旅していると金銭感覚がおかしくなる」

 「ほんとワタルといられて幸せだよ!」

 「まだたくさんの奴隷も開放しなきゃいけないし、孤児もね、学校も作りたいし。
 出来る限りお金は手に入れたいんだ」

 ワタルの野望とも言えるものは、実はすでにお金を外から稼ぐ必要が無いレベルになっている。
 何と言っても独占商品バイアング、しかも必要な人なら喉から手が出るほど欲しい商品を扱う商会。
 盤石と言ってもいいほどの力をすでに手に入れていたのだが、
 当の会長はそんなことも露とも知らない。
 しかし、ワタルを神として働く者達はワタルの想いを正確に実現するために、
 驕ることもなく謙虚に、誠実に、実直に努力を続けていく。
 そうして女神の盾商会は世界最大の商会になる。(ネタバレ)

 閑話休題

 予想外の宝にテンションが上がっている一同は、突然の襲撃を受ける。

 「ワタル様!!」

 カレンの声にワタルが振り向くとカレンが矢を自分に向かって放った瞬間だった、

 ドスッ

 カレンの矢はギリギリワタルを避け背後の何かに突き刺さる、

 「GYOUA!!」

 禍々しい声がワタルの耳元から聞こえる、
 空中に浮いた影のような物の中から緑色の腕がでており、その手には短剣が握られていた。
 カレンの矢はその手を穿っていた。

 ばっ!! と全員が距離を取る。

 「アサシンゴブリンか……、パーティに出会ってしまったみたいね」

 「パーティ?」

 バッツのつぶやきを疑問に思ったワタルの問いに答えたのはカレンだった。

 「パーティっていうのは魔物同士が編隊を組むことなのですが、
 ダンジョンで生み出されるパーティはその生まれ上、
 共通の意識を持っているために、連携や組織としての練度が著しく高いのです。
 ダンジョンで出会ったパーティは中ボス的に扱われます」

 カレンの言葉通り、影からズルリと出てきた盗賊のような狼男の後ろから、
 剣士、弓手、槍士、魔法使い、ヒーラーが出てきた。

 「しかも、フルパーティね、初めて見たわ、しかも魔獣人ね」

 バッツも口調はとぼけているが表情は真剣だ。
 その表情を見て3人娘とワタルは警戒レベルを最大限に上げる。
 今倒したドラゴンを越える敵がいま眼の前にいると判断した。
 

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