3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

47章 首都サウソレス

 「サラマンダーより、ずっとはやい!!」

 「ワタルはサラマンダーに乗ったことあるの?」

 「いや、言ってみたかっただけ」

 「変なワタルさん」

 現在飛竜で飛行中です。
 操手の方の後ろに座っています。二人乗りです。
 サドルというか座席は高級な感じがする。
 落下防止の策もいろいろ取られていて快適。

 いやー、気持ちいいね!
 なんか異世界にいるなーって感じ。
 もうすでにバルテントスの街は見えなくなっている。
 この大陸も結構な大きさなんだなー、地平線がすこし丸みを帯びて見える。
 端の方に海や森も見えるけど基本は砂漠。
 所々にオアシスや小さな集落が見える。
 空には太陽、いい天気、真っ青な広い空。
 こんな世界は地球にいたら絶対に体験できなかったな。

 「ワタ兄、前方で戦闘中の人がいるよー」

 クウに言われて俺も前方に意識を広げる。
 確かに戦闘中だ、ただ問題はなさそうだね。
 操手の人にソッチの方へ飛んでもらうように頼む、

 「カレンーどうー?」

 「問題ないと思われます。ちょっと魔法で身体強化しておいてあげますね」

 「頼むー」

 カレンの万里眼で戦況は把握できた。
 サンドワームと冒険者が戦っていたけど、すでに半数は倒しており冒険者側にも被害はない。
 補助魔法に驚いていたけど声だけ精霊シルフに届けてもらって応援しておいた、
 冒険者の人たちも手を振って送り出してくれる。

 こういうのいいよね、自転車で旅行しててすれ違う人に手を振られると嬉しいのと一緒だ。

 なんだか旅の醍醐味みたいなものを感じながらも飛龍は首都へぐんぐんと迫る。

 「見えてきましたわワタル様!」

 「おお! これはすごい!!」

 首都サウソレスは国家の半分が巨大な洞窟の内部に存在しており、
 王城はその洞窟の岸壁をくりぬくように作られており天然の防壁を構成している。
 一説には大昔に巨大な蟻の巣がありその跡地に作られたという話もある。
 この辺りは砂漠ではなく緑の大地となっている。
 都市の規模はバルテントスの外街を足しても半分にも足らない、それほど巨大な街だった。

 俺たちはまずは王への謁見を許された。
 許されたも何も強制だったんだけどね。
 ヘリポートのような飛龍の発着場から城内へ入る。
 壁もきれいに切り出されて豊富に窓があるために岩壁に掘られたつくりであることは、
 内部からはうかがえない。
 華美に装飾されてはいないが城内はどこか引き締まった空気が満たされており、
 一国の王城の佇まいを十分に満たしていた。

 謁見の間へ通される。
 巨大な空間に巨大な柱、高い天井、本当に洞窟内か疑うほどの荘厳な造りだ。
 正面に見える数段高い雛壇の中央に巨躯の男がいた。
 周囲の近衛も強そうな雰囲気があるが、その男は別格だった。
 強者のオーラと言えばいいか、そういう空気をまとっていた。
 カレンに促されその場にて片膝をつく右の手を握り胸の前で留める。
 さっき習ったこの国での礼だそうだ。

 「砂漠の大迷宮を制覇したカレン=グリーンフィル、それと女神の盾の一行、
 サウソレス王の招聘に応じ参内いたしました」

 かっこいいほうのカレンさん節炸裂です。

 「うむ、余がサウソレスの王、ゲバルト=カイゼル=サウソレスである。
 大迷宮制覇まことに大儀である。ここに褒美を取らす」

 王が手を挙げると次々と侍女がカレンの前に台に載せられた革袋と短剣を置く。

 「もう一つ、ギルド長」

 王が手を上げ促す。

 「はっ、失礼いたします」

 左右に並んでいた文官・武官の先頭にいた立派な鎧を着た男が一歩前に出る。
 この部屋でたぶん二番目に強いのはこの男だと思う。

 「私は冒険者ギルド本部ギルド長のカシュー=ウォルトハイムだ。
 このたび女神の盾パーティをA級パーティとする。
 またパーティメンバーである。
 ワタル=イチノセ、リク、カイ、クウ、以上4名をA級冒険者とする」

 おおおお、場が少しざわつく。

 「今後も我が国のギルドの一員として励むように。これからの旅に幸多からんことを」

 王との謁見はそれで終わった。
 それだけでも十分すぎるほどに緊張した。
 カレンに丸投げしてよかった。
 ここでギルドの発表があったことはびっくりしたけど。
 功績的には問題がないとカレンからも太鼓判だったからね。

 そのあとオークションの日程や今後の予定などを文官の方々と打ち合わせをしたりした。
 さすがにカレンは慣れているようでテキパキとこなしてくれた。
 美人秘書って感じだね。かっこいいよカレンさん。

 お昼過ぎについたんだが、解放されたのは日が沈みかけていた。
 宿は首都で最高のホテルをすでに抑えてもらっていた。
 オークションの主賓ですからね。
 バルテントスのホテルもすごかったけど、首都のホテル、しかも最上階のスイートルームだった。
 最上階に空中庭園のような区画がありそのすべてがこの一室のために備えられている。

 「すっごいな……」

 360度首都の街を見下ろせるバルコニー。
 壁面いたるところに付けられた照明が満天の星空のようだった。
 町にも豊富に照明が設けられており日が暮れた後の景色は絶景だ。
 基本的に石造りの建物を風化防止に染料が用いた建物が美しくならぶ、
 湖に映る王都の輝きは表現する言葉がないほどの美しさだった。

 食事も素晴らしかった。
 前菜は魚介のゼリー寄せ、口に入れるとゼリーが溶け出し、
 魚介の旨味をたっぷりと含んだエキスが広がる。
 歯ごたえのある食材ととろけるような食材が舌と歯を楽しませる。
 二品目はサラダ、こういうシンプルな料理は元となる食材の質が料理を左右する、
 間違いなく一級品。うちの野菜も早いとこ流通にのせたいと強く思う。
 メインは肉料理だった。
 ルビーオークと呼ばれる突然変異の希少種の肉、
 特にこの肉は、【絶対にルビーオークを探す】と全員の心が通じ合うほどの味わいだった。
 あえて複雑な味わいのソースではなく、塩と少しの香辛料、それが肉の味を最大限に引き出す。
 体温で溶ける肉。こんなものが世の中にあるのか?
 自分で調理したい、この食材を扱ってみたい……

 ちょっと違う世界に逝ってしまった。
 素晴らしい食事だった。

 庭園に作られた露天風呂も最高だった。
 この街のすべてが自分のものになったような気分になる。
 よく週刊誌のうらにある女の人侍らせて札束の風呂に入っている人みたいな顔になってしまう。 
 4人の甲斐甲斐しい世話がさらにそれを加速させる。
 レベルが上がり、能力が伸びたことによって俺はいろんなことが出来るようになった、
 今では4人を前に遅れをとったりはしない。
 むしろ足腰が立たなくなるまでかわいがってあげることまで可能だ。
 昔の僕とは違うんだよ俺は、ふふふ……

 バッツさんは気を使ってホテル自慢の酒場へ繰り出していた。

 「ワタルきゅん大丈夫気にしないでね、バッティもこんなすごいとこ初めてだから嬉しいわ(^_-)-☆」

 きっと酒場の酒を飲み干すだろうなぁ……

 すでにダンジョンの品物は王都へ運ばれており、
 オークションは6日後に開かれるというお触れは出ていた。
 この国やほかの国の大商人や貴族、またその代理人たちによる大オークション。
 国を挙げての一大イベントになるそうだ。 
 もうしばらくこの街の観光は楽しめそうだ。
 今この瞬間はゆっくりと楽しませてもらう。

 肌触りの良いバスローブの袖に手を通しながら寝室へ向かう。
 4人の子猫ちゃん(古い)が俺を待っている。
 僕はバイアングの実をくいっとブランデーで流し込む。

 夜は長い。





 悪役か!

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