3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

31章 貴族

 「ワタル様の貴重なお時間を私めのような卑しいエルフが消費してしまい、
 お詫びの言葉もありません。どうかこの卑しい豚を踏みつけ御心の休まるまで罵倒してくださいませ、ジュルリ」

 それじゃご褒美じゃないか……
 しばらく放置していたらそれはそれで興奮し始めたので、
 取り敢えず宿を探して部屋にて事の顛末を聞くことにする。

 街長の屋敷を出るとカレンさんがこの街に長期逗留をすると聞きつけた、
 この街一番の宿屋の主人が主人自ら待っていた。

 「かのグリンフィール様がお使いになっているとなれば我がホテルの何よりの名誉となります。宿泊費はいりませんのでどうか、どうか当ホテルをお使いください」

 こうして、最高級のホテルの最高の部屋をただで借りれるようになった。
 やっぱりカレンさんって凄いんだ……
 流石に全額免除は断ってなんとか半額は受け取ってもらうようにする。

 部屋はものすごかった、
 こんな上等な部屋は見たことがない。
 オアシス沿いの立地を最大に利用しており、ベランダにプールがあった。
 浴室もこの世界では珍しい浴槽があり、魔石を利用した各施設は、
 日本の宿泊施設でもかなり一流に匹敵するんじゃないかな?
 泊まったことがないからわからないけど。

 話を聞く前にギルドで滞在届けを出しに行った。
 ダンジョンへ入るにはこの街に滞在する届けを出して、
 ダンジョン入場許可証を貰わなければいけない。
 PTでの登録が必須なので僕らのPTも名前を決めた。

 女神の盾

 安直だけど、これからいろいろやることを女神様の後光にすがろうという魂胆だ。カレンさんが長期でひとつのPTに所属するということで、
 ギルドでは人だかりができていた。
 僕と3人娘を見るとみんなの頭の上に ??? が浮かんでいたけど、
 カレンさんが僕の持つ勇者の盾に導かれたって話でなんとか纏まった。
 本当のことだしね。

 みんなC級のカードに切り替わってPTもC級PTだ。
 FからCへの最短、最少年昇級だそうだ。

 C級冒険者は上級冒険者扱いになる。
 基本的に街への入場料の免除、依頼の達成義務の免除、
 各種宿屋などの割引、馬車などの格安利用など、利点は多岐にわたる。
 Dまでは順当に上がれてもCへは一生上がれない冒険者も少なくない。
 B級になるとギルドから毎月支度金が与えられる。
 普通の暮らしている人の月収の2倍くらいもらえるそうだ。

 まぁ、僕らはお金の心配はないからね、ギルドの人も口座を確認して絶句してた。情報は守られるけど、バレたら面倒なことになりそうだ。
 だからこそカレンさんのS級の扱いが凄いんだけどね。

 なんにせよ、登録を終えて部屋へ戻ってきた。
 まだ昼過ぎだからゆっくりと話す時間はある。



 「その領主 ライス=ニコル=ノイエンシュタット侯爵 とかいう輩が……

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 「おおおおお、お主がかの有名なカレン=グリーンフィル、神弓のカレン殿か!? まさかお目にかかれるとは、ささ、どうぞ、どうぞお座りくだされ」

 ライス=ニコル=ノイエンシュタット侯爵は恰幅のいい中年の男だった。
 貴族らしい上等な作りの服に身を包み、少しだらしないお腹をしている人の良さそうな男だった。

 「いえ、外に人を待たしております。ご用件があればお聞きいたしますが」

 残念そうな顔をする侯爵、

 「そ、それでは外の方々も別室にてお客人として饗そう。
 せめて昼食でもご一緒せぬか!?」

 ワタル様はそういうのが面倒だとおっしゃっていたし、一刻も早く帰らねば。

 「いえ、我らも迷宮制覇のための準備をいち早く整えたいので一刻も早く準備に取り掛からせてください」

 心底残念そうに侯爵は項垂れる。仕方ないのだ私ごときがワタル様をお待たせしていいはずがない。

 「そ、そうか。しかたないカレン殿の足をお引き止めするわけにも行かぬようじゃな、それでは一つだけこの街の代表としてお願いしたいことが有ります」

 「はい、私に出来る事なら」

 「実は最近大規模な魔物の発生がダンジョン内で起きているのです、
 ダンジョン探索者の行方不明数も増加しております。
 もし、内部でそれらの原因や困窮している冒険者がいたら是非お力をお貸しいただきたいのです、この街は冒険者がダンジョンで得た多くの宝や素材で富んでおります。そのようなわけで冒険車の方々には出来る限り恩を返したいと思っております。何卒よろしくお願いします」

 侯爵は深々と頭を下げる。

 「しかと聞き入れよう。要件がそれだけなら失礼させていただく」

 「もう少し、ゆっくりなさっても、よかったら冒険談などを伺いたいのだが……」

 「申し訳ない。私たちは急いでいるので」

 「そうですか、もし、またお時間があれば是非お立ち寄りください。お困りのこともなんなりとお話ください」

 「わかった、その時には寄らせていただく」

 私の言葉を聞くと侯爵は子供のように嬉しそうにしていた。
 何が楽しいんだか、ああ、ワタル様をお待たせしてしまった。
 これは卑しい私にどのような罰を与えてくださるのだろうか、ぐへへへh




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 「馬鹿野郎!! 領主様めっちゃいい人じゃないか!?
 最低だぞその対応!! フラグ回収とか言っていた自分を殴ってやりたいほどいい人じゃないか!!」

 なぜか土下座になってビクンビクンと動いている。

 「あとでちゃんと顔を出して、今度はゆっくりお話を聞いてあげなよ、
 なんか聞いててそのライスさん? 可哀想になってきたよ」

 「し、しかし私めなどがそのような雑事に捕われ、
 ワタル様のお時間を使うようなことは……」

 「命令だ!」

 命令、という単語を聞くと今までに無いほど全身を震わせた。

 「ぐひん!! は、はぇい。ご命令とあれば身命をとして侯爵のお相手を致します。はぁはぁ……」

 無言で洗浄をカレンさんにかける。なんで、どうしてこんなことになっているんだこの人は……

 「とりあえず、こちらでダンジョン攻略の準備を進めておきますので、
 カレンさんは侯爵様へ先触れでも出してお昼でもご一緒する手はずを整えてあげてくださいね。ワタルさんさっそく準備にかかりますか?」

 カイがまとめてくれた。

 「いや、今日はこのままゆっくりしよう。
 旅を終えたばかりだし、こんなにすごい施設をゆっくり楽しみたい」

 3人が赤い顔してるけど、違うよ、そういう意味じゃないよ。
 土下座してる人にはもう一度洗浄をかける。もうやだこの人。


 ヒャッホーーーーー!!

 広いお風呂は最高だ!! 湯船にじっくりと浸かれるなんて!!
 おっと、最初にちゃんと身体を洗わないとね、
 お、石鹸じゃーーーん! うれしー!
 いやー、洗浄の魔法はあるけど石鹸は気持ちが違うよね!
 シャンプーやリンスは流石にないかー、
 何だろこの容器? 油だなぁ、ほのかに花の香りがする。
 リンス代わりなのかな?
 僕はテンションメーターが振りきれるほどはしゃいでいた。
 久々の湯船だからね!
 備え付けの布で石鹸を泡立てる、ヒョイッと布と石鹸を奪われる。

 「お背中流しますね」

 「ボクはこっちの手洗う!」

 「ワタ兄左手貸して」

 「私めはお足元を、ハァハァ……」

 こうなるのか……

 「あ、あのね、みんな? お風呂はゆっくりと楽しみたいからね?」

 「ワタルさん」

 振り向くとカイにいきなりキスされた、ん、なんか今飲まされたぞ。

 「せっかくですから、楽しみましょう?」

 ああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 汗を流すためにお風呂に入ったのに、汗とか他の物もたくさん出た。

 「なんか4人もいると凄いね!」

 「ええ、あんなこともしちゃうんですねカレンさん」

 「いえいえ、何と言ってもクウ様のアレの凄さは」

 「カレンと一緒にするとワタ兄凄いんだもん、ちょっと悔しい」

 やめてください。寿命が縮んでしまいます。
 まさかカイがあのような手段に出るとは、油断していました。
 いや、凄かったよ確かに、カレンさんとクウのアレがアレをアレして、
 その間でもクウはアレでアレして、カイは耳元でアレだからもう僕は完全にアレになっちゃって。あっという間にアレだった。そのあとも代わる代わる……

 「あれー? ワタルまだ元気だね」

 「うふふ、ワタルさん夜は長いですよ?」

 「い~~~~~~~や~~~~~~~~~」


 ベランダの一角で先生二人はのんびりしていた。

 『若いのぉ~』 「あらあらまあまあ」


 そのあと部屋でルームサービスのように食事が準備された。
 食事も一流の名に恥じない素晴らしい料理の数々だった。
 特にダンジョン産のモンスターの肉が種類も多くやる気を奮い立たせた。

 まぁ、その夜は別のものが奮い立ったんですけどね。



 

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