3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

30章 ダンジョン都市バルテントス

 その後の旅は順調であった。
 アリーシさんは翌朝に顔を出したけど、食欲が無いとすぐに引っ込もうとしていたので、
 こっそりと料理ラワザを食べさせた。
 人は、なんだかんだ言って食事による快楽には逆らえない。
 あれを知ってしまえば死のうなんてことを考えにくくなる。
 メディアス先生のお言葉である。
 心とは裏腹にカッ! と目を見開いて平らげていた。
 ひとまず短絡的な事は考えないでいてくれると助かる。

 生活魔法による気温操作、闇魔法による日差しのコントロール、
 アイテムボックスを駆使した充実した物資。
 この快適な旅は大岩のメンバーに高い目標を与え、
 今後の活動のやる気の糧になることとなっていた。

 何度かサンドワームとか砂鼠、砂狼なんかと戦ったものの、
 苦戦をするような自体にはならなかった。
 さすがカレンさんのパーティだ、大岩のメンツにはそう納得していた。
 私などはワタル様の卑しい奴隷、と、いつもの調子になりそうなカレンさんには、
 僕のためにこのパーティのリーダーを演じてくれ、期待してるよ。
 と、一声かけるだけで外面的に完璧にその役をこなしてくれた。
 ありがとうってお礼を言う度にアヘ顔で失禁さえしなければいいんだけどね、
 僕の心の変な扉を開いてしまいそうで最近怖い。
 戦闘中は戦女神ヴァルキリアのように華麗な弓技、魔法で戦う、
 美しきエルフの戦士。
 それが僕の前だとだらしなく顔を歪ませ、
 その体の全てを献身に投げ出してくる、
 ギャップ萌えと言うには品がないけどね。
 まぁ、深追いはやめよう。この道の先の闇は深い気がする。

 無事に一週間の道程をこなし、ダンジョン都市バルテントスを視界にとらえた。

 「おお、ワタル殿!! 見えてきたぞ!」

 バリオさんの声に馬車で仮眠を取っていた一同は目を覚ます。

 巨大な山、岩石の麓に作られた巨大な街、
 サラスの街が村か? ってぐらいの差がある。
 街全体を砦のように城壁で囲まれている。
 しかもそれだけではなく、城壁の外部にも街が溢れ出ている。

 「俺らは外で宿をとる、ワタルたちはギルドへ行くだろ?
 本当に何から何まで世話になった。困ったことがあればいつでも訪ねてくれ!
 またともに戦うことを楽しみにしている!」

 バリオさんたちとは外街で別れた。

 「私、もう少し頑張ってみます。彼の守ったパーティを強くしてみせます!」

 アリーシさんからとても嬉しい言葉をもらえて、僕も救われた気がした。

 街の正門へ続く通り道は出店なども大量に出ていて、お祭りみたいでワクワクを抑えられなかった。
 ついつい串焼きとかフルーツとかを無駄に買ってしまう、
 味も何故かこういう風に食べると美味しいよね!

 「うーん、どうしてもワタルが作ったら? って考えるようになってしまった」

 「わかる、ワタ兄に陵辱された身体はもう戻らない」

 「人聞きが悪いからそういうこと言わないでよ!」

 僕は別にこれはこれで美味しいと思うんだけどねぇ。
 もともと地球で食生活を送っていたからってのはあるんだろうなぁ……
 正門を入ろうとする人達の列は30人位並んでいた。
 僕らも馬車を最後尾に連なる。
 並ぶとすぐに5人ほどの兵士が近づいてきて先頭の兵士が声をかけてきた。
 チェーンメイルに揃いの革鎧という出で立ちだが、先頭の人は少し立派なスチールアーマーを着込んでいた。

 「失礼、この街を守る守護隊隊長のパーンと申します。
 そちらにいらっしゃるのは、カレン=グリーンフィル様ではございませんか?」

 そういえばカレンさんは有名人だった。

 「はい、カレン=グリーンフィルです」

 いつもそうしていればいいのに、カレンさんは優雅な所作で冒険者ギルドカードを見せる。
 ギルドカードを見せると隊長のパーンさんとお付の4人は急に膝まづいた。

 「S級冒険者のグリーンフィル様にお目にかかれるとは光栄の極み、
 もしよろしければ街への逗留目的をお聞かせ願いましょうか?」

 「私たちは砂漠の大迷宮攻略に来ました、逗留帰還は攻略終了までです」

 周囲で聞き耳を立てていた人達にも大きなざわめきが広がる、

 あの神弓がダンジョン攻略だとよ!
 攻略って全層制覇か!? それにしても他の子供はなんだ?
 奴隷じゃねーのか? 荷物持ちとかよ
 S級が街に居てくれるのか!? そりゃありがてぇ!!

 口々に騒ぎ立てている。

 うぉっほん!

 大きな咳払いをしてパーンさんが続ける。

 「分かりました、つきましてはどうか我々とともに
 領主のところまでご足労頂けないでしょうか?
 長期の逗留ということで悪いようにはいたしませんので」

 こうして僕達一行は順番待ちもすることなく、隊長一向に連れられ街の一番奥にある領主の館まで誘導された。
 領主に面会するのはカレンさん一人という話になった、カレンさんは不服そうだったけど、偉い人と面会なんてめんどくさいのでカレンさんにおしつ、任せて僕たちはのんびりと馬車で待機していた。

 それにしてもこの街は大きい。
 壁の外でさえたくさんの家々やお店が立ち並んでいたけど、
 街の中はさらに壮観であった。
 中央門から街に中心部へ向けて大通りが続いており、
 中央には噴水がある。砂漠の中にありながら豊富な水がある。
 東門、西門へ同じような太い道路が続いている。
 中央門は南に位置しており、北にはロックキャニオンのような巨大な岩山がある。
 北西の岩肌そばにこの街の水の供給源となるオアシス、実際にはどういう原理か岩肌中部から滝がそのオアシスに落ちている。
 遠目にも巨大な滝は虹を作り美しかった。
 西地区は職人や商人が多く住む地帯、東が住居が多くあり、
 さらに北東に進むとどんどん高級住宅街となっていく。
 ダンジョンの入口はオアシスの脇、まっすぐと伸びる中央通の終点にある。
 領主の住まいは北東の最も山沿い、背後を切り立った山肌に守られて、
 天然の防壁になっていた。
 入り口には巨大な鉄門、内部へ入ると広大な庭園。ここにも大きな池がある。
 木々も豊富に生えており権力を魅せつけるような作りだった。
 建物自体はインドとかのような天井が玉ねぎみたいになっていた。
 ところどころ黄金色になっており豪華だ、壁も真っ白でこの砂漠ではあれを維持するのは大変だろうなーと思わせた。

 『そういえばこっちの世界の領主は貴族とかなのか?』

 「そうですね、貴族様が領地を持っている場合もありますけど、
 うちの村みたいな小さいところは村長がいましたけど、貴族ではないですね。
 税を納めていたのでその上には領主様がいらっしゃるんだと思うんですけど」

 カイも良くは知らないみたいだ。
 一応本屋で読んだ本によると4大陸それぞれに王が居て、
 その下に貴族と言われる階級の方々がいる。
 ・公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・準男爵・騎士
 騎士は貴族の中では少し変わっているそうだけど詳しくはよくわからない。
 王様から与えられた土地を管理する。
 貴族は平民から税を徴収する代わりに平民を救う権利がある。
 持てる者の義務、ノブレス・オブリージュだっけか?
 なんかのアニメで使われていた。

 『俺等の世界は人間が虐げられておってな、そんなお偉い位は遥か昔に消えておったが、この世界にはあるんじゃな。ある意味幸せなことじゃな』

 「あんな狭い世界でも上下をつけだがる人間は多かったわ、
 胸糞悪い貴族が居ないことを祈るわ」

 フラグっぽいなー……

 結局カレンさんが帰ってきたのは数時間後、日が天頂から傾きかけた頃だった、
 馬車の中で食事を済ませて横になっているとカレンさんが珍しくプリプリして帰ってきた。

 「全く! ワタル様をお待たせしているから帰ると言っているのに!」

 うーん、フラグ回収臭いなぁ。
 そう思わずには居られなかった。

 

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