3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

14章 戦士たちの休息

 塔から出る。時間は夕方。

 「久々の外だぁ!」

 「太陽だぁ!」

 「やっぱり開放感有りますね」

 「風が氣持ちいい」

 各々が身体を伸ばす。快適だけど室内にずっといるとね。

 「あ、おい! 出てきたぞ!」

 冒険者風の一団が塔の前に集まっていた。

 「君たちが出てきた塔について話が聞きたい」

 ちょっとさわやかな感じの知的な男性からそう話しかけられた。

 「我々は首都サウソレスの冒険者ギルドの依頼でサラスの街に突如現れたこの塔のことを調査しに来たものだ」

 ギルドプレートを見るとB級パーティ 砂漠の牙。彼はリーダーのロックさん。
 後ろにいる背の高いローブを着ている綺麗な人がカーナさん、
 ごっついおっさんがバランさん。みんなレベル30を超えている。

 「つまり、女神がこの塔を作って、君たちが女神の選んだ戦士だと」

 軽く説明して、僕達が塔から帰ったと聞いて、
 後から来たシスターのラスタと合わせて状況を話した。

 「ふむ、シスターが言うなら間違いないんだろうが。こんな子供達が……」

 そこで思いついたことを聞いてみる。

 「皆さんレベル30位上ですよね? もし失礼でなければステータスを見させていただけませんか? 僕が14、彼女たちは7と8なんですがどれぐらいなものか知りたくて……」

 「ほう、坊主は14か。なかなか頑張っているな。しかし、見たいと言っても鑑定スキルを持っているような上級職員はこの街にはいないだろ?」

 バランさんがちょっと意外そうに話しかけてくる。 

 「あ、この女神様からもらった盾で鑑定を使うことが出来るのです」

 「おお、それは凄い。そうするとますます話は真実だということか。
 いいだろう、私が受け入れるから鑑定を使ってご覧」

 リーダーのロックさんレベルは36だ。

    ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■
 ロック=サンディアル
 Lv36 【剣士】
 HP 1520
 MP 320
 Str 102
 Agi 89
 Vit 76
 Dex 58
 Int 42
 Luk 20

 【スキル】 忍耐Lv4 剣技Lv5 見切りLv4 献身Lv2
 【称号】 サンダワームハンター

    ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■

 なんて言うか、僕がこのレベルになったこうなりそうってステータスだった。

 「どうかね?」

 「こいつは生まれ持っての剣技持ちだからな、若手の期待のホープだ!」

 「僕も目標にしたいと思います!」

 この世界の成長は、僕ぐらいが普通なんだと知って嬉しかった。

 「その歳でそのレベルなら私なんてすぐ抜きますよ」

 褒められて嬉しいのかロックさんはニコニコしてた。

 「バイセツさん3人にステータスとかの話は禁止と伝えて下さい」

 バイセツさんに耳打ちする。
 バイセツさんなら他の人に聞こえないようにみんなに伝言を頼める。

 その後、塔の作りとか内容を話した。
 時間が時間だったので宿屋の横のバーで話をすることになった。
 僕の食事が食べられないことに恨み言を言われたが、明日は一日休みにしてゆっくり作ると話したらみんな目に見えて機嫌が良くなった。
 夜ご飯も砂漠の爪の皆さんにごちそうになった。

 「今のところ首都の方で変化は報告されていない、道中の敵もいつも通りだった。」

 「それにしても剣の塔か、面白そうだな? ロック、カーナ、明日は潜るだろ?」

 「そうね、中も見とかないと報告できないしね」

 「明日は朝から準備して昼には潜ろう。君たちは明日は休むんだろ?
 そろそろ私達も宿に戻る。次の塔の制覇を祈っているよ」

 「ありがとうございます! 頑張ります!」

 砂漠の爪の皆さんは後輩冒険者の僕達に優しくていろんなことを教えてくれた。大変有意義な会話だった。

 夜は塔制覇のご褒美も含めてみんなにしっかりと施術した。
 流石に忍耐スキルは上がらなかった。

 翌朝準備に向かう砂漠の爪のみんなを送って、一度宿屋の部屋で作戦会議を行うことになった。

 「さて、昨日見たロックさんのステータスはこんな感じでした」

 レアスキルである鑑定を持っていることをあんまり広めたくなかったので、
 女神に与えられた盾の機能ということにして代表して僕が調べた。

 「なんか、ワタルがこのレベルになったらこんぐらいッてかんじだね」ボリボリボリ

 ズバッとリクに言われる。

 「あ、ははは、そうなんだよね。僕的には嬉しかったけどね」ボリ

 「私達の成長が異常って考えるべきですよね?」ボリボリ

 「聖剣の力?」ボリボリ

 「そうね、聖剣を持つ勇者は成長に加護を受けていたわ。聖剣の力を取り込んでいる3人は同じようなことが起きてもおかしくないわ」ポリポリ

 『たぶん残りの二人も同じか、それ以下じゃろバラン殿の言からすると』
 バリバリバリバリ

 会議用に作ったポテトチップみたいなジャガイモ薄く切って揚げて塩を振っただけの物がみるみる減っていく。美味しいよね。
 あっという間に無くなってみんなが見つめてくるから、2回も追加した。
 リクとクウとカイが抱きついてくるのに逆らえる男なんているだろうか、いやいない。

 『それにしても、クウの人間離れが深刻じゃな、これ知られたら危ないんじゃないか?』

 「他の二人も大概ですからね、けどロックさんが他の人からの鑑定は抵抗レジスト出来るって言ってましたね」

 「それでもこの先首都とかに行って王様とかに調べられたら抵抗するわけにもいかないわよね」

 「首都サウソレス……そういえば3人はこの世界がどうなってるか知ってる?」

 情報は基本だからね。

 3人の話をまとめると。

 この世界バスタールには大きく4つの大陸がある。それと魔王のいる島。
 ホイス村のある大陸はノーザンラクト、首都ノーザンラクト、この大陸の北の果てに黒竜の巣がある、つまり最終目的地だ。
 その南西にウェスティア大陸、首都はウェスティア。軍事が優れている国らしい。
 魔王の島はウェスティア大陸の東の海に浮かんでいて、その先がイステポネ大陸。女神教の総本山がある国だそうだ。首都はイステポネ。基本的に大陸名が首都名らしい。
 んで、今いるのがサウソレス大陸。砂漠の大陸でオアシスやダンジョンが多く冒険者ギルドの本部が首都サウソレスにある。
 戦争とかは特に無い。海の危険性が高くて別の大陸に攻め込むメリットが少ないんだそうだ。
 本屋さんからもお金に余裕ができたので資料を買ったけどだいたい同じことの裏付けだった。

 あとはスキルレベルの意味も教えてもらった。
 素質があるとスキルが発現する。
 スキルを持っていると行動が最適化したり基本の技を使えたりする。
 剣技で例を挙げるとLv3で中級者、5なら上級者、7で達人、9で剣聖、10だと神業って感じらしい。
 スキルによっては10まで上がると上位スキルになったり、
 2つのスキルが融合して上位スキルになったりすることも伝説にはあるようだ。

 「つまりクウの未来予知は伝説級ってことだ……」

 「でもワタ兄、普通にしてて未来が見えるわけじゃない。戦っている時なんとなく相手が何してくるかわかる」

 『わしは経験でそういうこともできるが、スキルか……ずるいのぉ』

 「さて、そろそろお昼ですがみんなさっきの食べ過ぎでお腹すいてないですよね?」

 「そんなことない!」

 「食べられます!」

 「大丈夫!」

 『わしもまだまだ余裕じゃ!」

 「平気よ!」

 息ぴったりだな。

 「そしたら、みんなの防具とか見てきて、僕は買い出しに行ってきますね」


 リクとクウとバイセツさんが防具選び、僕とカイとメディアスさんが食材など消耗品の買い出しになった。

 予算は昼と夜合わせて15,000zお祝い的だからね、消耗品で15,000z。
 武器防具班に200,000z預けてある。残りは滞在費だ。

 買い出しのついでにギルドになにか手頃な依頼が無いか確認に行く。

 「サンドワーム退治かぁ……素材はもらえるのか、5匹で15,000zは美味しいな。これは昼飯後に軽い運動で持ちかけてみよう」

 僕がギルドで依頼を見ている間もカイとメディアスさんは食材を吟味している。

 「お待たせー」

 「ワタルさんこのマガロって魚はめったにここに来ないそうですよ!」

 カイは魚が好きだなー。完全マグロのマガロを見る。
 なるほど、これはいろいろ使えそうだ。頭の中にアイデアが広がる。

 「よしこれにしよう」

 「13,000zだよ」

 ぐぬぬ、しかし。こいつには無限の可能性がある!

 「はいこれ」

 「カイ、これに氷結魔法を薄っすらとかけて」

 「薄っすらと……大気の水の精霊よ少しだけ歩みを遅くして……」

 持っているマガロがひんやりとしてくる、いー感じだ。
 すぐにアイテムボックスに入れる。
 店主が驚いている。一応レアスキルだもんね。

 「ありがとカイ」

 「今みたいな出力を抑える魔法の使い方は魔力の良いコントロール法になるのよ」

 先生もしっかりと指導が入る。

 調味料とか野菜とかを買って少し予算オーバーしたけど帰宅する。
 あとで依頼で稼ごう。
 そんなことより、大体の異世界転生作品で苦労する、
 醤油、味噌、米が普通に買えた。ビバ!!
 マヨネーズは無かった。自作しよう、リクあたりに頼もう。

 「リクー、これめっちゃ混ぜて。完全に均一になるまで」

 「はーい」

 リクに卵や調味料を混ぜてもらってる間にマガロによるカツレツの準備。
 勝手に体が動く。最適な部位を切り出し、下味、衣をつけて油にin。

 「リク、そこにこの油入れるから混ぜ続けて」

 リクを横目に油を3回に分けて入れていく。
 付け合せのサラダ、鍋でご飯が炊けた。
 細かく刻んだ野菜の酢漬けをリクに作ってもらったマヨネーズと和えて、
 味を整えればお手製タルタルソースだ。
 ちょうどマガロも揚がった。
 熱々のカツにたっぷりとタルタルソースを乗せて、
 炊きたての白いご飯と提供だ。野菜の切れ端で作ったスープもつける。

 「いただきまーす! うおっ!! 旨!!」

 サックサクの衣の中にはまるで生のような瑞々しいマガロの身、
 口の中で混ざり合い融け合う。
 酸味のきいたタルタルソースとの相性が半端ない。
 急いでご飯をかきこむ。
 我ながら最高の炊き具合だ。旨味と甘味が引き出されている。
 油ものと食べるとご飯ってなんでこんなにうまいんだ。
 余った場所で作ったスープも素朴な味わいにそれぞれの野菜の旨みが引き出され、ホッとする。

 「最高だ!」

 顔をあげるとカイなんかは泣いていた。

 「こ、こんなに美味しいお魚の食べ方があったなんて……」

 無言でご飯をよそいに行くリクとクウ。

 動物コンビも無言で必死に食べている。犬に揚げ物は良くないと聞いたけど、
 神獣みたいなものだし平気だろ。

 「ほんとワタルのご飯は素敵すぎる」

 「ワタルさん、これからも腕は大事にしてくださいね」

 「ワタ兄、私が守る」

 「ははは、ありがと。次は槍の塔攻略後だからねー頑張ろう!」

 「『「「「おおおおおおお!!!!」」』」

 大げさな。

 結局作ったものは綺麗サッパリ無くなった。
 嬉しいね料理人としては。

 料理人じゃないけど。

 夜はタタキと煮物にするかな、
 あとは焼いたのも上手いよね。

 なんか、思考が最近そっちに向かっている。

 満足しているみんなにギルドの依頼の話をする。
 昼寝して夜ご飯までの間に狩りをすることが決定だ、何匹取るか競争だ!とか言ってる。やり過ぎないように言わないと。
 満腹で満たされた状態で昼寝。
 なんか、この世界来てよかったなぁ……


 みんなが目覚めたので、新しい防具の慣らしも含めて町の外でサンドワーム狩り。サンドワームは砂漠に無数にいて行商とかの邪魔になる雑食性のモンスター。
 砂漠に砂埃がモワモワしていたら注意だそうだ、複数の群れになっている可能性があるんだって。
 街の近くは警備隊が巡回して倒しているので、首都方面への順路の近くを掃除しよう。
 砂の上の移動には専用の靴につける道具を借りる。沈みにくくなって動きやすくなる。ちょっと重い。

 「たぶんあそこら辺にいる」

 クウが教えてくれるところにカイが土魔法で地面を掘り返すとサンドワームが3匹掘り返される。
 僕とリクは斧で処理していく、カイは魔法で、クウは面白がって踏んづけて飛び回っている。
 サンドワームは弱い。でもたまに大量に固まっている。
 気持ちは悪いね、女の子たち全然平気なんだね。
 倒した死体はアイテムボックスへ収納。
 出す事考えると僕のに入れるしか無い。
 別次元的なものってわかっているけど、食材と一緒はちょっと嫌になる。
 サンドワームもその肉はうまく砂抜きするといい肉になる。
 ひき肉的な使い方がよく合う。ミミズ肉? ハンバーグ? うっ頭が……
 途中気がついたのは生きてるとしまえない。
 なるほどね。

 数時間狩っていたらとんでもない数になっていた。
 レベルは上がらなかった。
 そう考えると塔の中の経験値効率って凄いんだな。

 山程のサンドワームをギルドに持ち込んだ。
 20匹を超えた頃に解体所に連れてかれた。
 50匹を超えたぐらいで明日にしてくれと言われた。
 報酬は後でまとめてくれるらしい、あと80匹くらいはあるからね。
 そう言ったら物凄い嫌な顔された。
 肉は引き受けるから確認だけしてもらうことにした。
 約150頭のサンドワームの肉を手に入れた。
 一生ひき肉は買わなくていいな。
 合計で152匹。革はギルドで使うそうだ。防具になるんだって。
 450,000zを無事ゲット!!
 これは美味しすぎる。
 しばらくはこの依頼だけで食っていける。

 ホクホクで夜御飯を作る。
 マガロのタタキ、刺し身、ステーキ、根菜との煮物。
 刺し身を食べる習慣は北の方の寒い土地の生まれの3人は問題なく受け入れていた。メディアスさんだけ恐る恐る食べたが、ひとくち食べてからは戦争に参加していた。

 米の消費量が想像以上だ。
 みんな育ち盛りだから仕方ないね。

 一時の休息を得られて、明日からの塔攻略。気合満点で挑めそうだ!!

 

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