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殺しの美学

山本正純

宮本栞の推測

一方で愛澤春樹は、常連客の大学生のことが気になり、カウンター席から離れ、少女の席へと歩み寄った。
「こんにちは。私は地域密着型グルメ雑誌の記者をしています、愛澤と申します。あなたはこの店の常連ですか?」
唐突に絡んできた初対面の男に対して、宮本栞は微笑む。
「はい。こちらから質問です。まさかその記事に、通り魔事件の容疑者の店なんて書きませんよね?」
「はい。この店の味方であることを約束します。記事には外装や値段。そして常連客のお勧めメニューを載せます。まずなぜこの店の常連になったかを教えてください」
「この店は店長さんが気さくで話しやすいですし、料理は安くて美味しいから、一人暮らしの私には憩いの場です」
宮本栞は疑うことなく、男からの質問に答えていく。
「ではお勧めのメニューを教えてください」
「ミートソーススパゲティーです。ソースも手作りで、兎に角美味しいです」
「では、それを食べて編集部に帰ろうかな。それと世間話でもしましょうか? 同僚が来るまで暇ですからね」
「暇潰しですか? いいですよ」
宮本栞はニッコリと笑い、愛澤は彼女の目の前の席に座った。
「それにしても、奇妙ですね。通り魔事件の容疑者の店だというのに、刑事がいません。外にも刑事が張り込んでいる形跡もありませんし。もしかしたら、あなたは大学生ではなく刑事なのではありませんか?」
改めて周囲を見渡しながら愛澤が疑問を投げかけると、宮本栞はクスっと笑った。
「面白いことをいいますね。私が刑事だったら、板利さんが嘘を吐いたことになりますよ?」
「なるほど。近所の大学に通う大学生だっていう紹介が嘘になるということですね」
「少なくとも私がこの店を訪れている時間帯は、刑事が張り込んでないみたいですよ」
「警察もあからさまな捜査はしないということでしょうか? 昨今の警察組織の不祥事問題によって、一般人の警察不信は強まっていますから」
次の瞬間、宮本栞は笑顔を消し、目の前に座る男に疑いの視線を向けた。
「あなたは雑誌記者ではない。違いますか?」
「どういうことでしょう?」
「刑事が張り込んでいる形跡がないと言いましたね? そんなことを気にするのは、やましいことをする人と相場は決まっています。それに先程の板利さんとの会話を聞く限りでは、例の通り魔事件のことを嗅ぎまわっているようですし……」
「それを言うなら、あなたも怪しいですよ。あの時の会話で出た、林警部補の妹という言葉に反応したように見えました」
「違いますよ。板利さんが会話に夢中で調理しないから見ていただけです」
突然始まった腹の探り合いは、新たな来客の登場によって中断される。金髪の外国人男性と茶髪ショートカットの女は、見知らぬ若い女と話している愛澤の方を向き、無言でカウンター席に座った。
「すみませんね。同僚が来ましたので失礼します」
愛澤春樹は宮本栞に頭を下げ、彼女から離れる。遠ざかる愛澤と入れ替わる形で、板利輝はミートソーススパゲティーを栞の席へ配膳した。

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