人生ハードモード
番外編 増宮ヤヨイの負けられない戦い その4
ゲームをするベストな環境というのは、どういったものだろうか?
お菓子を並べて寝転がりながらだとか、キチンと座ってやるのがいいとか、あるいは炬燵に入りながらみかんの隣にノートパソコンを置くのがいいのだとか、人それぞれだと思う。
確か以前、メイっちに聞いたことがあるのは、布団にくるまりながら外に出して真っ暗な部屋の中でやるというものだが、ヤヨイさんは良い子なのでそんな環境でゲームをしようとは思わない。
アリスはというと、私の部屋の右から数えて三つ隣の部屋を使っているわけだが、ノックをして中に入ってみると、普通に行儀よくパソコンの前に座っているものしかみたことがなかった。
ちなみに聞いてみたところ、『メイヤと一緒にやっているときが一番幸せ』などという、その言葉だけを聞けば若干誤解を生むような解答が帰ってきていた。ちなみに、ゲームのことである。
二人の例からわかってもらえると思うが、やはり、ゲームをするときというのは、人間の素が出るものだ。
そもそもゲーム自体が(多くの人にとって)娯楽であり、リラックスをしながらやるものなのだから、当たり前のことなのかもしれない。
ならば、私はいったいどうなのかというと――。
「やっぱり、気になって夜も眠れなくなっちまうよな?」
「そういえば、ヤヨイさんのオンラインの方のゲーム部屋は入ったことがないですね」
「……ヤヨイの中で私の素が一体どういう風になっているのか、よくわかったよ――ってか、オンラインの方って何? ゲーム部屋なんてものがこの屋敷には複数存在するっていうの?」
「そりゃ、私があの部屋に入るときはアリスも自室でパソコンの前だからな。当たり前のこと言えば当たり前」
「確か、ヤヨイさんの部屋の隣でしたよね。なんだか、ワクワクします」
「ちょっと、アリスまで私のツッコミはスルーなの!?」
そんなワイワイガヤガヤと話しながら、不要なくらいに豪華な廊下を私、メイっち、アリスの三人で歩いていた。
ここは、元龍道院邸、現増宮邸。
今ここの屋敷は私、増宮ヤヨイが使用していて、アリスは学校へ行きながら、メイドとして、ここに住み込みで働いているわけだが、ホワイト企業(?)なうちは、今日は日曜日というわけで休日、彼女は久しぶりの私服姿だ。
個人的にはゴスロリを着せてみたくて、わざわざ手配して彼女のクローゼットにそれとなく置いておいたのだが、どうやら失敗してしまったらしく、彼女は白のインナーに灰色のカーディガン、下は黒のスカートという服装だった。
一方、メイっちはというと、生足だ。
どうしてもまずはそこへ目が行ってしまうのは、彼女の足があまりにも白くそこにあり、絨毯の赤とマッチしているからである。藍色のショートパンツにボーダーのシャツ、その上に白の薄いジャケットという服装だが、視線をくぎ付けにさせるために存在しているとしか思えない生足に目が行ってしまう。意外なことに昔からメイっちは、こういうのは恥ずかしくないらしかった。
そして、私はというと……黒のワンピースである。パーティ用というわけではないが、なんか柄でもなく、お嬢様っぽい格好であまり好きではなかった。
どうしてこんな格好をしているのかというと、父に『屋敷を買ったのだから、その中でくらいキチンとした姿で生活しなさい』とかいう意味の分からない命令が下ったからである。しかし、この屋敷を買い取るとき、少しだけお金を出してもらったので文句は言えなかった。かといって、一人だけ制服というのもなんか違う気がしたので、できるだけ目立たない服を選定したつもりだ。
今回は『バースト・サーガ』ではなく、フランスにいる父の知り合いが開発したという、開発途中のオンラインゲームがうちに送られてきたので、せっかくだから、それで遊ぶといった用件でうちに来てもらったわけだ。
なぜうちなのかというと、そのオンラインゲームというのは、おかしなことに誰でも気軽にできるものではなく、ネット環境と、パソコン、それに加えて専用の眼鏡がなければできない、いわゆるヴァーチャルリアリティ(VR)ゲームというやつだった。
やるならゲーム機一台くらいの値段はするようだが、その分リアルで面白いからやってみろとあの堅物な父は言っていたが……。
そして、いよいよ、私たちはオンラインゲーム部屋へとたどり着く。
私は、扉の前で、「フッフフ……」と笑いながら、メイっちたちの前に立ち、そして、勢いよく、扉を開けた。
「括目せよ! これが恋愛マスターヤヨイ様のゲームスペースだ!」
「これ、は……」
「いや、恋愛マスター関係ないし! スクリーンにソファにゲームパットって、挙句の果てにドリンクバー完備って、どこの貴族のゲームスタイルなのさ!」
驚いているアリスの隣で、部屋を見た瞬間に、反応するメイっちに、ぐっ、と親指を向けながら「ナイスツッコミ、メイっち」という。さすが相方だ。
このオンラインゲーム専用の部屋は、この屋敷を買ってから作ったもので、大体部屋の大きさは学校の教室と同じくらい、部屋の隅にはドリンクバーの機械がおいてあり、正面には巨大なスクリーン、中央にはソファがあり、ジュース片手にソファに座りながらスクリーンにゲーム画面を映してプレイするのが私、ヤヨイ流のゲームの楽しみ方だった。普段はこれに加えてメイドが常に隣にいて好きなものを持ってきてくれるのだが、今回は客人がいるということでそれはなしだ。
「意外と、普通でしたね……」
「アリス、何言ってんのさ! これ、女子高生がゲームするための環境じゃないでしょ!」
ちなみに、オンライン以外の私のゲーム部屋もこことは大きく変わらないので(インターネットの接続が強いか弱いかくらい)、アリスの反応は薄かった。
あっちの部屋では家事の仕事が終わった後によく一緒に遊んでいるから、驚かれると逆に困るのだが。
「ってか、ヤヨイ、この屋敷を買ってからなんかお金の使い方荒くなったんじゃない? 有り余るマネーパワーを解放したって感じ」
「そうか? 別に今まで通りだと思うけどな……」
実を言うと、それは嘘だ。
今まで、メイっちとは何事においても平等な立場でいたかった。だから、お金の力は極力、使わないようにしていたのである。
いや、もしかしたら、メイっちを試していたのかも……。
何もまとっていない私を友として認めてくれるのか、図っていたのかもしれない。
また、お金を持っているだけで、たくさんの人が寄ってくる世界で生まれ育った私は、お金では買えないものがあることを無意識に証明したかっただけなのかもしれなかった。
まあ、そんなことどちらでもいい。
今、メイっちはここにいて、その縁で新たにできた友達がここにいるのだから。
「さて、アリスそっち持ってくれる? ソファ動かさないとできないし」
「はい、わかりました」
「なんで私じゃないのさ?」
「メイっちは意外に非力だからだよ、アリスの方が力持ちだ」
メイっちは納得のいかないような表情をしているが、その隙に私とアリスでソファを部屋の隅に移動させておく。
そして、スクリーンの下に置かれていた段ボールの中から眼鏡なのか、ゴーグルなのか、あるいは正式な名称があるのかわからないが、とにかく、目にかけるものを二つ取り出してメイっちとアリスに向かって投げた。
「これを持ってきたノーパソにbluetoothで接続しておいて、アリスのノーパソはもうここにあるからいいけど、メイっちのやつはLANケーブルさせるやつ?」
「えっ、まあ、させるけど……どうして?」
「いや、試作品だからさ、オンラインとは名ばかりで普通のネット接続じゃできないんだよ」
そういいながら、私は部屋の隅に置かれていた旅館で使うカラオケのような巨大な機械をゴロゴロと転がしてくる。サーバーがどうとかで、ここから接続しないとできないらしい。
事前に一通りゲーム開始までの動作については確認しておいたので、滞ることなく、設定は終わった。
そして、三人そろって、人がかけるにしては少しばかり重い眼鏡をかける。すでに眼鏡の向こう側にはゲーム画面が広がっていた。
「さて、ゲーム開始だ」
「コメディー」の人気作品
書籍化作品
-
-
141
-
-
1978
-
-
3
-
-
52
-
-
314
-
-
310
-
-
104
-
-
841
-
-
0
コメント