優しい希望をもたらすものは?
お騒がせなブルームーン
その日、病院にはいけなかった主李は、電話で明日がブルームーンのことを聞く。
「えぇ‼そんな日があるのか?」
『そうらしい。で、ネットで調べてたらなんか、ムーンストーンって石があるんだけど、そのなかでブルームーンストーンって言うのがあるんだって。で、家の母さん輸入雑貨品の店、経営してるだろ?』
「あぁ。なんか不思議な店だった」
『そうしたらブルームーンストーンがあるんだって見に来るか?』
主李は躊躇う。
「のり……高くないのか?あんまり高いのを渡すと、優希遠慮しないかなって……」
実里は、
『いや、俺が見たのは、まとめ買いしたもので、スッゴい安かった。指輪だけど、ひとつ500円くらいだった。シルバーで』
「はぁ?ニセ物……」
『いや、原石をそのまま削って、そこまで細かい細工のないと言うか……向こうで一般の細工で、こっちのように、ダイヤモンドの指輪みたいな感じじゃなくて、アンティークっぽい、異国風の指輪だ。どうする?』
「うーん……行く」
最後の日には渡すけれど、その前に記念もいいかもしれないと思ったのである。
翌日、
「父さん、母さん。無理しないようにするから‼帰り、遅くなる‼」
ため息をついた父は、
「怪我だけは注意しなさい。いいね?帰る前に電話をしなさい」
「はい‼」
出ていった主李は自転車にのり、実里の家に行く。
家の一角がお店になっていて、輸入雑貨品や、手作りの商品がおかれていた。
「こんにちは‼実里くんいますか?」
「あら、いらっしゃい。待っていたのよ。話は聞いていたわ」
「こんにちは、実里のお母さん。あのっ!」
「あぁ、こちらよ。もう、実里も探しているの」
「えぇぇ?先取り‼それに誰に‼」
主李の一言に、
「『竜樹ちゃん』っていっていたかしら?何か、主李君が彼女にあげるから、自分も竜樹にあげてあげたら、いいと思う、うん‼とか行ってるから、正直に好きになったと言いなさいって言ったら真っ赤にして……」
「人のことあんなにいっといて、実里め~‼」
「はい、ここよ」
扉を開くと小さいお店の中、ガラスケースの上の指輪の箱を熱心に見ている実里。
「実里‼ずるいじゃないか‼先取り‼」
「あっ……だ、だってさぁ……」
「俺も探す‼」
近づいていき、キョトンとする。
「青い、黒い、赤い、ピンク色、紫色、透明、乳白色、水色、透明の黄色……緑色……どれ?」
「乳白色を透明にした感じの石を探してちょうだい。青いのはラピスラズリ、黒はオニキス、赤はカーネリアン、紫はアメシスト……紫水晶、透明は水晶、水色はハウライト・トルコと言うの、黄色はシトリン。緑の濃い色は瑪瑙、淡いのはアヴェンチュリン……インド翡翠」
「うわぁぁ……凄い‼えーと、えーと……」
さっさととっていく実里の横で、不思議な輝きのある石を見つける。
「おばさん。これ……乳白色なのに、いろいろな色が見える……」
「あら、レインボームーンストーンよ。珍しい。石の内部に傷があるのだけれど、半透明の石を通して、光を跳ね返すから様々な色が現れるのよ。滅多にお目にかかれないものよ」
「えぇぇ~‼じゃぁ、これも、これも……これもだ‼」
4つみつける。
「えぇぇ~‼主李‼レインボームーンストーン見つけたの?どれ、他にない?」
「ない‼でも、この石だけ、違う色‼」
「それがブルームーンストーンよ。オホホホ、レインボームーンストーンよりも屈折が違うのだけど、実里は見えてないわね」
「うぅぅ……悔しい」
と言いつつ、ブルームーンストーンの指輪を握る。
「指輪のサイズは解る?まぁ、大体女の子サイズだけど」
「あ、解らない……です。それに、これ、一個だけ大きい」
「それは男物だからね。3つ彼女にあげて、ひとつは主李くんが持っていたらいいのよ。四つ葉のクローバーは1枚一枚の葉の意味があって、一説には『wealth(富)』『fame(名声)』『faithful love(満ちた愛情)』『glorious health(素晴らしく健康)』それがひとつになって『True love(愛情)』という意味になるの。別々に持っていて、再会したときに揃うって粋よ~?」
「えっ‼……そ、そうします……」
ブシューと顔を真っ赤にして、
「こ、これください……いくらですか?」
「チェーン付きで将来払いでいいわよ」
「将来払いってなんですか‼」
「……将来、大好きな子を幸せにしますって、言ってちょうだい。で、おばさんを式に招待してね?」
へろへろ状態になりつつ、横で実里が、
「母さん。主李がふられて、もしくは向こうのお父さんが見合いさせて結婚できない可能性大‼」
「う、うるさい‼お、お前だってどうなんだよ‼」
「……えっと……」
「お前だって、一緒だ」
主李は拗ねる。
「はいはい。じゃぁ、これ、ね?」
「あ、ありがとうございます‼あのっ‼俺、頑張ります‼」
大切そうに受け取り、頭を下げる。
「じゃぁ、行ってらっしゃい。夜なんだからタクシーで乗り合わせて帰りなさい。良いわね?」
「はい‼」
二人は飛び出していった。
その背中を見つめ、
「やだわぁ……息子が成長するのはうれしいけれど、離れていくようで寂しいなんて。ダメねぇ」
苦笑するのだった。
この日、明日退院をすることもあり、荷物を片付けていた賢樹と紅葉、竜樹は、
「『お手伝い……』」
「駄目」
と優希をたしなめていた。
ノックをする音に、扉が開き、
「なにしよんの。竜樹」
「お、お母さん‼」
「帰るで。何日も帰ってこんと掃除も洗濯もできてないけん、お父さんが怒っとるがね‼」
近づいてくる女……竜樹たちの母に、賢樹が立ちふさがる。
「一体何のようでっしゃろか?あての娘に帰るて、娘が帰るんは娘の家で、あんさんとこの家じゃありまへん‼紅葉」
わかったようにブザーを押すと、
『どうしました?』
「病室に、知らん人が‼娘に‼」
『解りました‼すぐうかがいます‼』
その声がプツリと切れる。
「返してくださいや‼うちに、返してください‼掃除も洗濯も‼うちがする度に皆、文句ばかり‼それにお姉ちゃんはお姉ちゃんで、5才で縫い物編み物、料理、私ができんのをバカにして……妹たちと同じ‼両親と同じや‼私が馬鹿だ阿呆だと……‼ただ長女だから、だから、だから‼うちのことを、お姉ちゃんが馬鹿にするけんや‼だから無視をしてやった‼おらんように振る舞った‼うちは悪くない‼悪いんは、悪いんはお姉ちゃんや‼こんな娘、生むんやなかった‼」
大きく扉を開けた看護師たちにも、廊下を歩く患者やスタッフにも響き渡る。
そして丁度、贈り物をもってやって来ていた主李と実里にも……。
咄嗟に主李は、部屋に走り込み、優希の前に立ちふさがると、
「優希のことをそんな風に言うな‼あんたが生んだんや‼あんたが苛められたから?逆に相手に仕返しならかまんけどな、その仕返しを何で関係ない優希にするんや‼」
「うるさい‼お姉ちゃんがバカにしたからや‼お姉ちゃんはいらん‼竜樹、戻っといで‼」
竜樹に手を伸ばそうとするのを、振り払うのは実里。
「親友の優希がそれだけ必死にできるようになったんは、あんたが最初に育児放棄をしたからやないんか‼子育ても家のこともせずにおいて、よくも優希が悪いって言えるなぁ?おばさん‼優希を今までずっと傷つけておいて、いらんて……自分が言われたけんって、罪もない娘に言うなや‼あんたは、コバンザメか‼それともヒルか‼優希を無視して、家のことやらせといて、おらんなったら今度は竜樹にとりつくんか‼なん考えとんぞ‼」
「竜樹ぃ‼」
看護師に引きずられながら叫ぶ。
「もんてこんかね‼」
「いややーーーーー‼」
竜樹は叫ぶ。
「うちは、曽我部竜樹やない‼賀茂竜樹や‼ゆうちゃんと一緒におるんや‼絶対におるんや‼ばいばい……曽我部のおばちゃん。うちにはちゃんとおかあはん、おるけん。おばちゃんいらん‼」
「……‼た……」
「うちの名前を呼ぶなや‼用事言いつけるときだけ思い出したように、うちを見る。ゆうちゃんのことなんか名前も呼ばん‼それで、母親や言うなや‼ど阿呆‼わぁぁぁーん」
泣きじゃくる竜樹は実里にしがみつく。
「いややーーーーー‼ゆうちゃんとおる、おとうはんとおかあはんとおるんや‼帰らん、帰らんーーーーー‼」
「大丈夫‼大丈夫‼帰ってくれ‼おばさん‼二度と会うな‼」
「すみません‼」
二人の看護師に連れ出され、あと二人来ていた看護師が、
「優希ちゃん……」
「竜樹ちゃんも……」
優希はボロボロ涙だけ流し続け、紅葉と主李が涙をぬぐう。
「ゆうちゃん。泣いたらあかんえ。べっぴんはんの顔が台無しや」
「優希?な?笑おう?今日は絶対にいいことがある。明日、お別れや……泣いとる優希の顔よりも笑顔がいい」
しばらくしゃくりあげつつ、何とか泣き止む。
「良かった……月見えるかな?」
時刻は夜8時になった頃。
今日は靄に煙ったような夜の空の青が、所々家の電気の明かりに滲んで混じっている……。
主李と実里と竜樹が南向きの窓からキョロキョロと探す。
横になったまま少し首を動かした優希が、指で示す。
「あっちやって。3人とも」
紅葉は示すと、優希の心の揺れのように、涙ににじんだような月が見える。
周囲はフワッと夜の青がほのかに淡くなり、導くように光る。
『blue moon』だが、青い光ではなく優希の好きなタンポポのような暖かな色である。
「うわぁぁ……綺麗……」
喜ぶ竜樹に、実里が、
「はい。あげる」
「えっ?」
もらった袋と実里を交互に見る。
「気持ち」
「えっ?」
袋を開けた竜樹は、中にチェーンのついた指輪を見つけた。
乳白色なのに青みがかっている。
「ブルームーンストーンだって。今日の記念」
「え、えぇぇぇ~‼……先輩、ゆうちゃん好きじゃなかったんですか?」
「ちっがーう‼なんでそこでボケるんだ~‼」
実里の恋は前途多難である。
「えぇ‼そんな日があるのか?」
『そうらしい。で、ネットで調べてたらなんか、ムーンストーンって石があるんだけど、そのなかでブルームーンストーンって言うのがあるんだって。で、家の母さん輸入雑貨品の店、経営してるだろ?』
「あぁ。なんか不思議な店だった」
『そうしたらブルームーンストーンがあるんだって見に来るか?』
主李は躊躇う。
「のり……高くないのか?あんまり高いのを渡すと、優希遠慮しないかなって……」
実里は、
『いや、俺が見たのは、まとめ買いしたもので、スッゴい安かった。指輪だけど、ひとつ500円くらいだった。シルバーで』
「はぁ?ニセ物……」
『いや、原石をそのまま削って、そこまで細かい細工のないと言うか……向こうで一般の細工で、こっちのように、ダイヤモンドの指輪みたいな感じじゃなくて、アンティークっぽい、異国風の指輪だ。どうする?』
「うーん……行く」
最後の日には渡すけれど、その前に記念もいいかもしれないと思ったのである。
翌日、
「父さん、母さん。無理しないようにするから‼帰り、遅くなる‼」
ため息をついた父は、
「怪我だけは注意しなさい。いいね?帰る前に電話をしなさい」
「はい‼」
出ていった主李は自転車にのり、実里の家に行く。
家の一角がお店になっていて、輸入雑貨品や、手作りの商品がおかれていた。
「こんにちは‼実里くんいますか?」
「あら、いらっしゃい。待っていたのよ。話は聞いていたわ」
「こんにちは、実里のお母さん。あのっ!」
「あぁ、こちらよ。もう、実里も探しているの」
「えぇぇ?先取り‼それに誰に‼」
主李の一言に、
「『竜樹ちゃん』っていっていたかしら?何か、主李君が彼女にあげるから、自分も竜樹にあげてあげたら、いいと思う、うん‼とか行ってるから、正直に好きになったと言いなさいって言ったら真っ赤にして……」
「人のことあんなにいっといて、実里め~‼」
「はい、ここよ」
扉を開くと小さいお店の中、ガラスケースの上の指輪の箱を熱心に見ている実里。
「実里‼ずるいじゃないか‼先取り‼」
「あっ……だ、だってさぁ……」
「俺も探す‼」
近づいていき、キョトンとする。
「青い、黒い、赤い、ピンク色、紫色、透明、乳白色、水色、透明の黄色……緑色……どれ?」
「乳白色を透明にした感じの石を探してちょうだい。青いのはラピスラズリ、黒はオニキス、赤はカーネリアン、紫はアメシスト……紫水晶、透明は水晶、水色はハウライト・トルコと言うの、黄色はシトリン。緑の濃い色は瑪瑙、淡いのはアヴェンチュリン……インド翡翠」
「うわぁぁ……凄い‼えーと、えーと……」
さっさととっていく実里の横で、不思議な輝きのある石を見つける。
「おばさん。これ……乳白色なのに、いろいろな色が見える……」
「あら、レインボームーンストーンよ。珍しい。石の内部に傷があるのだけれど、半透明の石を通して、光を跳ね返すから様々な色が現れるのよ。滅多にお目にかかれないものよ」
「えぇぇ~‼じゃぁ、これも、これも……これもだ‼」
4つみつける。
「えぇぇ~‼主李‼レインボームーンストーン見つけたの?どれ、他にない?」
「ない‼でも、この石だけ、違う色‼」
「それがブルームーンストーンよ。オホホホ、レインボームーンストーンよりも屈折が違うのだけど、実里は見えてないわね」
「うぅぅ……悔しい」
と言いつつ、ブルームーンストーンの指輪を握る。
「指輪のサイズは解る?まぁ、大体女の子サイズだけど」
「あ、解らない……です。それに、これ、一個だけ大きい」
「それは男物だからね。3つ彼女にあげて、ひとつは主李くんが持っていたらいいのよ。四つ葉のクローバーは1枚一枚の葉の意味があって、一説には『wealth(富)』『fame(名声)』『faithful love(満ちた愛情)』『glorious health(素晴らしく健康)』それがひとつになって『True love(愛情)』という意味になるの。別々に持っていて、再会したときに揃うって粋よ~?」
「えっ‼……そ、そうします……」
ブシューと顔を真っ赤にして、
「こ、これください……いくらですか?」
「チェーン付きで将来払いでいいわよ」
「将来払いってなんですか‼」
「……将来、大好きな子を幸せにしますって、言ってちょうだい。で、おばさんを式に招待してね?」
へろへろ状態になりつつ、横で実里が、
「母さん。主李がふられて、もしくは向こうのお父さんが見合いさせて結婚できない可能性大‼」
「う、うるさい‼お、お前だってどうなんだよ‼」
「……えっと……」
「お前だって、一緒だ」
主李は拗ねる。
「はいはい。じゃぁ、これ、ね?」
「あ、ありがとうございます‼あのっ‼俺、頑張ります‼」
大切そうに受け取り、頭を下げる。
「じゃぁ、行ってらっしゃい。夜なんだからタクシーで乗り合わせて帰りなさい。良いわね?」
「はい‼」
二人は飛び出していった。
その背中を見つめ、
「やだわぁ……息子が成長するのはうれしいけれど、離れていくようで寂しいなんて。ダメねぇ」
苦笑するのだった。
この日、明日退院をすることもあり、荷物を片付けていた賢樹と紅葉、竜樹は、
「『お手伝い……』」
「駄目」
と優希をたしなめていた。
ノックをする音に、扉が開き、
「なにしよんの。竜樹」
「お、お母さん‼」
「帰るで。何日も帰ってこんと掃除も洗濯もできてないけん、お父さんが怒っとるがね‼」
近づいてくる女……竜樹たちの母に、賢樹が立ちふさがる。
「一体何のようでっしゃろか?あての娘に帰るて、娘が帰るんは娘の家で、あんさんとこの家じゃありまへん‼紅葉」
わかったようにブザーを押すと、
『どうしました?』
「病室に、知らん人が‼娘に‼」
『解りました‼すぐうかがいます‼』
その声がプツリと切れる。
「返してくださいや‼うちに、返してください‼掃除も洗濯も‼うちがする度に皆、文句ばかり‼それにお姉ちゃんはお姉ちゃんで、5才で縫い物編み物、料理、私ができんのをバカにして……妹たちと同じ‼両親と同じや‼私が馬鹿だ阿呆だと……‼ただ長女だから、だから、だから‼うちのことを、お姉ちゃんが馬鹿にするけんや‼だから無視をしてやった‼おらんように振る舞った‼うちは悪くない‼悪いんは、悪いんはお姉ちゃんや‼こんな娘、生むんやなかった‼」
大きく扉を開けた看護師たちにも、廊下を歩く患者やスタッフにも響き渡る。
そして丁度、贈り物をもってやって来ていた主李と実里にも……。
咄嗟に主李は、部屋に走り込み、優希の前に立ちふさがると、
「優希のことをそんな風に言うな‼あんたが生んだんや‼あんたが苛められたから?逆に相手に仕返しならかまんけどな、その仕返しを何で関係ない優希にするんや‼」
「うるさい‼お姉ちゃんがバカにしたからや‼お姉ちゃんはいらん‼竜樹、戻っといで‼」
竜樹に手を伸ばそうとするのを、振り払うのは実里。
「親友の優希がそれだけ必死にできるようになったんは、あんたが最初に育児放棄をしたからやないんか‼子育ても家のこともせずにおいて、よくも優希が悪いって言えるなぁ?おばさん‼優希を今までずっと傷つけておいて、いらんて……自分が言われたけんって、罪もない娘に言うなや‼あんたは、コバンザメか‼それともヒルか‼優希を無視して、家のことやらせといて、おらんなったら今度は竜樹にとりつくんか‼なん考えとんぞ‼」
「竜樹ぃ‼」
看護師に引きずられながら叫ぶ。
「もんてこんかね‼」
「いややーーーーー‼」
竜樹は叫ぶ。
「うちは、曽我部竜樹やない‼賀茂竜樹や‼ゆうちゃんと一緒におるんや‼絶対におるんや‼ばいばい……曽我部のおばちゃん。うちにはちゃんとおかあはん、おるけん。おばちゃんいらん‼」
「……‼た……」
「うちの名前を呼ぶなや‼用事言いつけるときだけ思い出したように、うちを見る。ゆうちゃんのことなんか名前も呼ばん‼それで、母親や言うなや‼ど阿呆‼わぁぁぁーん」
泣きじゃくる竜樹は実里にしがみつく。
「いややーーーーー‼ゆうちゃんとおる、おとうはんとおかあはんとおるんや‼帰らん、帰らんーーーーー‼」
「大丈夫‼大丈夫‼帰ってくれ‼おばさん‼二度と会うな‼」
「すみません‼」
二人の看護師に連れ出され、あと二人来ていた看護師が、
「優希ちゃん……」
「竜樹ちゃんも……」
優希はボロボロ涙だけ流し続け、紅葉と主李が涙をぬぐう。
「ゆうちゃん。泣いたらあかんえ。べっぴんはんの顔が台無しや」
「優希?な?笑おう?今日は絶対にいいことがある。明日、お別れや……泣いとる優希の顔よりも笑顔がいい」
しばらくしゃくりあげつつ、何とか泣き止む。
「良かった……月見えるかな?」
時刻は夜8時になった頃。
今日は靄に煙ったような夜の空の青が、所々家の電気の明かりに滲んで混じっている……。
主李と実里と竜樹が南向きの窓からキョロキョロと探す。
横になったまま少し首を動かした優希が、指で示す。
「あっちやって。3人とも」
紅葉は示すと、優希の心の揺れのように、涙ににじんだような月が見える。
周囲はフワッと夜の青がほのかに淡くなり、導くように光る。
『blue moon』だが、青い光ではなく優希の好きなタンポポのような暖かな色である。
「うわぁぁ……綺麗……」
喜ぶ竜樹に、実里が、
「はい。あげる」
「えっ?」
もらった袋と実里を交互に見る。
「気持ち」
「えっ?」
袋を開けた竜樹は、中にチェーンのついた指輪を見つけた。
乳白色なのに青みがかっている。
「ブルームーンストーンだって。今日の記念」
「え、えぇぇぇ~‼……先輩、ゆうちゃん好きじゃなかったんですか?」
「ちっがーう‼なんでそこでボケるんだ~‼」
実里の恋は前途多難である。
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