優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

優希たちは旅立つことになりました。

移動式ベッドで戻ってきた優希ゆうきの状態に、主李かずいは真っ青になる。

「ま、待ってください‼こ、これって……」

賢樹さかきが告げる。

「歯が二本折れとるんと、それだけやのうて数本欠けるかヒビが入っとるそうや。口のなかも切れとりまして何ヵ所か縫いましたよって。他にも頬のアザ、顔が腫れとるんは、顎骨あごぼねの脱臼と骨折、殴打による外傷。顎の骨は顎関節症がくかんせつしょうになるリスクが高いよってに、ギプスで」
「そ、そんな……」
「本当に……本当は、もう少し様子を見てと思うたんや、何度かこちらに来てからと思た、優希が自分から『うん』と、言うてくれたらと……」

賢樹も紅葉もみじも悲痛な顔である。

「ほんに……あても、ギリギリまで休みをとっとるんどす……病院のせんせと話をしましたんや……」
「竜樹ちゃん、月曜日に、あてらと……おとうはんとおかあはんと、お姉ちゃんと京都に戻りまへんか?」

まばたきをして、即、

「お姉ちゃんと一緒なら行く……ううん、京都に戻ります。おとうはん、おかあはん。お姉ちゃんほど何もできないですが、よろしく……よろしゅうおたのもうします」

頭を下げる。
愕然とするのは実里みのり

「そ、そんなに早く‼今日は、金曜日で‼明日と明後日……お別れですか‼」
「優希のためや……あても、良明よしあきはんやタツエおかあはんに……これ以上辛い思いをさせたない……でも、優希の体にはこれ以上の負担はあきまへんのや。あるくんもしばらくはあかんと、寝台か車イスで移動してくれと言われとりますんや。優希はしばらく……夏が終わるまでは学校は休学させよう思とります。その間に、好きなことをさせてあげようと思うて。学校は、紅葉の卒業した中高一貫の中学校に進学させよと思とりますのや」
「学校‼……でも……仲良くできるかな……」

目をキラキラさせたあとしょぼんとなる竜樹に、紅葉は、

「大丈夫や。竜樹ちゃん。おかあはんにまかせときなはれ。制服も可愛いよってに……そのべべもようにおうとります。あての娘や‼」
「本当?おかあはん‼えへへ……恥ずかしいわぁ……」

竜樹はシンプルだが、刺繍が布と同色の糸で覆うロングドレスを着ている。
その上には白い短めの上着を着ていて、年齢よりも大人びて見える。

その横にはマネキンが、ゴスロリの漆黒の詰襟ミニワンピースに、白いレースを裾に襟に縫い付けられ、後ろにはピンクの強い紫の細いリボンで後ろを絞るようになっていて、アクセントとなっている。
ブーツも黒地の皮の編み上げブーツに、レースと、同じ色のリボンがブーツの紐の代わりになっている。
ヘッドドレスのは、小さい同色の薔薇の花が、一輪ついている。

「えっと、これは……」
「優希ちゃんのよ。この格好に、エプロンドレスをすると、今風のメイドさん」

ただすの一言に男性陣はぶっと吹き出す。

「笑うところじゃないのよ~‼似合うんだから‼主李くん、『ご主人様、お帰りなさいませ』って言われたくない?」
「えぇぇ~‼いや、いや‼か、可愛いけど、ご主人様とかじゃなくて、手を繋いで歩ける格好で……」
「大丈夫よ~‼普段着‼」
「いやいや……デート、困る‼」
「おや、あての娘があきまへんか?」

賢樹の言葉に、必死に、

「似合いすぎて可愛すぎて、他の男にじろじろ見られたくないです‼普通だってお人形みたいに可愛いんですよ‼それなのに‼」
「それ、恋人の欲目」

突っ込む実里の前に、賢樹は主李に、

「よう言うてくれはった‼あての娘はべっぴんはんや‼」
「そうです‼似合うんです‼絶対に‼」
「う、うん……」

身動きと言うよりも、僅かに口を動かそうとして、痛そうに顔をしかめ、花のつぼみが開くように、ためらいがちに瞳が開かれる。

「優希‼」

何度かまばたきをすると、口を開こうとして痛みに瞳を潤ませる。

「優希?麻酔がきかんなったんやろう」
「……痛み止をもらうさかいに、口開けたらあきまへんえ?」

看護師に来て貰い、点滴になる。
優希は視線をさ迷わせ、途方にくれたような顔になる。

気がついた日向ひなたが、メモとボールペンを差し出す。
たどたどしい文字を、読む賢樹。

「『お父さんとおばあちゃんは……大丈夫ですか?怪我ないですか?やっくんも……』大丈夫や」

安心させるように微笑む義父の頬のガーゼを見つめ、瞳を潤ませる。

「『ごめんなさい、おとうはん。頬は大丈夫ですか?痛いでしょう?お兄ちゃんが……』あてはあの程度かまへんよって……人のことを心配するよりも、自分のことを考えないけまへん。ほら、竜樹。優希に見せてあげてみんさい」
「ゆうちゃん‼見て‼選んでもろた‼似合う?」

妹のワンピース姿に、小さくうんうんと頷くが、痛かったらしい顔をしかめる。

「ゆうちゃんのワンピースもあるんよ‼ほら‼」

祐也ゆうやがマネキンを持ち、穐斗あきとはブーツを見せる。

「これが優希ちゃんのだって可愛いよねぇ、絶対に似合うよ?」
「えっ?『似合わない?』それはないよ。可愛いよ。あ、これ以上言ったら、主李が拗ねるかな」
「祐也さん‼」

焦る主李だが、照れつつ告げる。

「すっごい、可愛い。お姫様みたいだ」

パァァと頬を赤くして、必死に、

『ありがとう。主李くんも王子さまみたいだね』

と書きこみ、それに、デレる親友に、

「主李。さっき言ってたこと、賀茂かものおじさんが優希に伝えるはずだけど?」
「そうだった‼すみません……」
「ありがとう……優希?」

賢樹はゆっくり告げる。

「優希は今日が何曜日かわからしまへんやろうけど……今日は金曜日や」

分かったように、まばたきをする。
「おとうはんらは、月曜日に帰ろ思とるんや……おとうはんも仕事がある。それだけやのうて、優希をここにおいておくのは嫌なんや。あかんと思とるんや」

優希は周囲を見回す。
そして、

「『はい、一緒に帰ります。でも、お父さんとおばあちゃんに会うのは構いませんか?』それはかましまへん。良明よしあきはんも、おかあはんも会いたい思とる。あての友人の病院にカルテと紹介状を送るさかいに……堪忍なぁ……」

小さく首を振り、

「『おとうはん、ありがとう。私のこと考えてくれて、嬉しいです』当たり前や。あては優希のてておやや。幸せにするんが、可愛がるんがあてとおかあはんの一番大事な仕事や‼……元気になって、おばあちゃんのお家に行きたいとか言うのはかましまへん」

優希は微笑む。

「『はい。おとうはん、眠ってもええですか?』……あぁ、かましまへん」

紅葉に、毛布を直して貰い、口を動かす。

「おかあはん、ありがとう……」
「かましまへん……おやすみやす……」

額を撫でてもらうと、ふにゃっと幸せそうに笑い、目を閉ざした。

「堪忍なぁ……」



我儘を言えない娘に、娘にまとわりつく面倒な事情とそしてこの地から引き離すために、強引な手段をとった。
京都の友人に電話を掛け、医師と話して貰い、数日後なら病院の移転を許可をもらった。
だが、車椅子と点滴は義務付けられている。

洋服は一応ゆったりとした格好で帽子をかぶせてあげたいと思っている。

「ほな、竜樹。おかあはんと一緒にべべを選びまひょな?」

紅葉は嬉しそうに微笑んだ。

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