優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

紅葉さんは竜樹を連れて、お出掛けです。

しばらくすると、ただす日向ひなた醍醐だいごが現れる。

「あぁ、伯父さん。お久しぶりです」
「醍醐は、京言葉忘れたてしもたんやろかな?大業たいぎょうなことや」
「おいはん。やめてくれはらしまへんか?あての京言葉はこの顔であきまへんのや」

困ったような顔の醍醐にクスクスと紅葉もみじは、

「べっぴんはんや。醍醐はんは。さくらはんによう似て」
「べっぴんはんは娘になる二人に言うたってくれはらしまへんか?二人とも、あての従妹で、大きゅうなったらべっぴんはん間違いなしや」
「そうやなぁ……」

紅葉は、夫を見る。

「だんはん?かましまへんやろか?」
「ん?なんや?」
「あての、お願い聞いてくれまへんやろか?」

ニコッと笑って、首をかしげる。
分かっていても、賢樹さかきは愛妻のこのポーズに弱い。

「なんや?」
「あて、まだ正式には母親やのうても……娘になる二人になんか選んであげたいんどす……そして、家族写真を撮りたいとおもて……二人が正式にあてとこの娘になってもうたら、竜樹ちゃんも優希ちゃんもおばあちゃんやお父さんに会えんようになりますやろ。いえ、あては会ってもろてかましまへん。でもここに来るのは、特に優希ちゃんには辛すぎますやろ?」
「……そうやなぁ。写真はあてもうれしい。紅葉、おいきや。醍醐、ここの何処に……」
「はーい‼おじ様‼おじ様‼私が案内します‼」

糺が手をあげる。

「それに、私、優希ちゃんのサイズ知ってます‼一緒にお風呂入りました‼サイズの合わない下着着けてました‼メジャーで測ってバッチリです‼」
「じゃぁ、お願いしようかな?」
「やったぁ‼ひなちゃん。荷物持ち‼」
「……解った。じゃぁ、行ってきます。賀茂の伯父さん」

日向は、3人の後を追い出ていった。



「……ありがとうございます……。大事に、可愛がってくれるだけで、それだけで私らは……」

タツエは何度も頭を下げる。

優希に再会してから、タツエは一気に老けた。
いや、醍醐は知っているが、優希達の父、良明よしあきも一気に白髪が増えた。
元々若白髪だったらしく、6才年の違う兄、秀明ひであきよりも白髪が多かった。
しかし、益々増えてしまったらしい。
でも、醍醐が良かったなぁと思うのは、毛が太く多いこと。
ストレスから解消されれば、白髪が増えるのが落ち着き、毛が抜けることもないはずである。
同性のため、自分もどちらも心配だが、今のところ父方は髪が太く、母方も柔らかい髪だがそれぞれ年相応である。

「どこを見ているのかな?醍醐」
「いえ、実は、タツエおばあちゃんの息子で二人のお父さんの良明さんは、確か40半ばですが、白髪が多くて……おいはんと年の違わないお兄さんよりも多いんです。心労辛苦でしょうね……竜樹ちゃんに聞いたら、とても美男だったとか」
「若い頃の子供達です」

タツエは鞄から取りだし見せる。

「これが上の息子、この子が長女、で、妹達に囲まれているこの子が良明なんです。自分の子を誉めるのもなんですが、ええ男ですやろ?」
「はぁぁ、若い頃これはえらいええ男やないですか」

醍醐は、感心する。

「優希ちゃんに似てますね?お姉さんや妹さんの顔にそっくりです」
「一人だけはうちに似てしもて……」
「いえいえ、この人は、竜樹ちゃんに似てませんか?竜樹ちゃんもおばあちゃんに似ているんですね」

タツエは寂しげに、

「夫が……曽我部そがべの去年逝ってしもた男の幼馴染と言うか、夫は婿養子で、実家の近所の弟分だったんですよ。うちは守田もりたの家の末っ子で、一番上の兄が戦争で逝ってしもて……他の兄弟は皆嫁や婿に。で、うちが継ぐことに。良明も明るい子で、よう笑とりました。あの男が……話を持ってこんかったら……こがいなことにならへんかったのに‼いや……優希や竜樹が悪いんじゃない、でも……」

はらはらと涙ぐむ老婆に、言葉をなくす……前に、賢樹が、

「お母さん。過去を恨むより、優希ちゃんと竜樹ちゃんのことをかんがえまへんか?お母さんはわるぅないです。二人も、お母さんの息子はんもわるぅないでしょう?」
「だんだん……」

涙をぬぐったタツエは微笑む。

「実は、うちと優希は丁度60歳年が違うんです。そして、長男はうちが24の時、末っ子は36の時の子で、優希と同じ年のもう一人の孫もおるんです」
「そろとりますなぁ……」
「うちと良明は30、優希とも30違うんです。偶然とはいえ、うれしいことで本当に喜びました。夫が、優希が生まれる前の年に亡くなりました。誠一郎せいいちろうよりも、優希が生まれたことを、きっと喜んでくれていたと思うんです。夫は……」

大事そうに持っていた写真を示す。

「夫は、若い頃から人のために尽力して、戴いたんですわ。でも、隠居の壁に吊るして……『時計がないけん良かったわ。これでしばらくはかまへんの』って言ってました。止まってしまってでも吊るしていたら、他の孫は興味を示さないのに優希がジーッと」
「あれ……?ですか」
「優希にあげたら、喜んでくれました。偽物やって言うとります」

醍醐は思う。

偽物ですむ問題か?

賢樹は頷き、

「はい。私も、そう伝えます。成人したら話しますね」
「よろしくお願いいたします」
「ですが、お母さん。こないにべっぴんはんの多い家はそうないんと違いますか?べっぴんはん揃いで……」
「孫娘は、家毎に一人ずつ夫に似た子がおるんです。その中でも一番似とるかも知れませんわ」
「べっぴんはん一族‼会ってみたいですわ‼」

賢樹の一言でタツエは笑い始める。

「うふふふふ……気が強い子が多くて、大変や。無理かもしれんわ、優希が大人しい位で」
「じゃぁ、優希ちゃんが結婚したら……べっぴんはんが……いてて‼おいはん。」

賢樹が甥の耳を引っ張る。

「なにをいいはるんかな?あての娘に近づいたら……」
「そ、その前に、優希ちゃんには彼氏がいるんですよ。おいはん。今日、祐也ゆうやくんが連れてくるそうで……あぁ、来ました」

トントンとノックする。

「失礼します。祐也です。見舞いに来ました」
「はい、どうぞ」

タツエの声に扉が横に開き、現れたのは5人。
賢樹は立ち上がる。

「こんにちは、はじめてお目にかかります。あては、賀茂賢樹かもさかきと申します。よろしゅうおたのもうします」

着物姿の50代の男に、一歩進み出たのは中肉中背、しかし、疲れはてた白髪の、

「はじめまして、私は、曽我部良明そがべよしあきと申します。本来でしたら、こちらから伺うのが筋ですが、本当に、本当に……申し訳ございません」

土下座せんばかりに頭を下げる良明だが、すぐによろめき、膝をついた。

「曽我部さん?」
「……くぅっ……」

脂汗を浮かべ、右手で左腕を押さえ、その手は胸を押さえる。

「醍醐‼医者を‼」
「は、はい‼」
「よしよぉぉ‼」

タツエは息子に駆け寄る。

穐斗あきと‼ナースコール‼」
「う、うん‼」

穐斗はボタンを押す。

『どうしましたか?優希ちゃんが……』
「違います‼優希ちゃんのお父さんが‼倒れました‼苦しげで‼」
『解りました‼』

ざわざわとざわめくなか、立ち尽くす二人の少年に、

「こっちや、おいで……多分、狭心症……の可能性やとおもう」
「狭心症‼」
「しーや。ぼんらは、優希のお友達の?」

二人の少年は、はっとしたように頭を下げる。

「はじめまして。僕は、守谷主李もりやかずいと申します。優希の幼稚園時代からずっと一緒で……」

きりっとした瞳の美少年と言うのは、きっと紅葉や妹は喜ぶだろうなぁと思う。

「はじめまして。僕は、元々優希さんの読書友達で、同じ中学校になった菊池実里きくちみのりです」
「あぁ、竜樹が……」

つい吹き出すと、微妙な顔になり、

「『地』か『池』かを論議するんですよね、二人とも……」
「いや、あても気になるなぁ。優希がようなったら、調べてみまひょかとおもて……来はったなぁ」

医師と看護師が駆け付け、緊急に手当てを始める。

「何故、狭心症と?」
「あてのてておやも心臓の病を抱えとった。今はもうのうなったけど、心筋梗塞やったさかい……。優希が悪いわけやない……ほんでも、曽我部はんの辛さは心臓に負担になったと思うて……しっかり療養してもらわな……」

運ばれていく良明を見送ったのだった。

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