優しい希望をもたらすものは?
主李は優希のもとに向かうことに決めたのでした。
翌日、学校に行く前に、実里から電話がかかる。
『かず。寝た?』
主李は、言葉少なく、
「ちょっとだけ」
『あのさ、今、醍醐さんから電話があって、曽我部姉妹入院したんだって』
「怪我‼もしかして……」
『違うんだって。曽我部は心……の病気。自律神経失調症……も患ってるって』
「自律神経失調症……」
一応、体育会系でも、知っている。
心とからだのバランスが狂うと、様々な症状が現れ、病院に行っても、原因がわからず病院を転々とする。
「で、竜樹は?」
『自律神経失調症になりかけ』
「って、どうなるんだ⁉優希は?」
『薬で眠らせてるって。昨日、母親と兄が駆けつけたらパニック起こしたらしい』
「会いに‼」
主李は、昨日の荷物を握る。
電話の向こうから、躊躇ったような気配がし、
『かず……やめた方がいい。曽我部は悪くない。でも、回りが悪すぎる。曽我部がボロボロになった。お前も……』
「嫌だ‼」
主李は首を振る。
いつもおとなしい、一歩下がって遠慮がちだった少女が、美術館ではキラキラとした目で嬉しそうにしゃべっていた。
その微笑みは眩しすぎて……可愛くて、手を繋ぐのも照れ臭いものの、嬉しくて……。
「絶対に‼」
『……醍醐さんが、環境が悪すぎるから、ここから引っ越しさせた方がいいって相談してるって』
「両親離婚?」
『詳しくは聞いてないけど……』
「聞いてみる‼」
電話を切り、主李は祐也の電話にかける。
すぐに繋がり、
『もしもし……』
「あ、朝早くからすみません‼主李です。祐也さん‼優希にかずきは‼」
『あ、おはよう~‼主李くん。僕だよ~‼穐斗。祐也はね、早朝練習。柔道と空手の』
「祐也さんも柔道、空手してるんですね……」
お兄さんの一平とどちらが強いか聞いてみたい。
「あの、あの‼優希……かずきだけじゃなく入院って‼」
『あ、あぁ。うん、そうみたい。僕は、ゆーやから聞いただけ。あ、かずき目を開けたよ‼まだ点滴と動けないから、スタッフさんが、寝返りさせたり大丈夫な足さすってあげてるんだって』
「かずき目を開けたんですか‼良かった‼」
『うん……あ、ゆーや。主李くんだよ』
『あぁ、おはよう』
疲れているはずなのに、さっぱりとした声に、
「祐也さん‼優希は……」
『いや、俺はこれから病院に行こうと思っているんだ。穐斗も行くか?』
『うん‼』
「俺も、連れていってください‼お願いします‼」
必死に訴える。
「優希に、昨日、お揃いのキーホルダーを選んだんです。買っていただいたのですが……だから‼」
『今日は学校だろう?大学生の俺たちはある程度と言うか、俺と穐斗は今日は取らなくていい授業とってたから、いいけど……』
「行きます‼お願いします‼」
ため息をつき、
『主李の家はどの辺だ?』
「はい、優希の家の西にあります。祐也さんのおうちの前の道を真っ直ぐ南に出ていくと、僕たちの城北中学校が見えると思うのですが、その手前の大きい道を左におれて、高架橋の前で曲がって行くんです」
『あぁ、老舗の酒屋がある小道か?』
「はい、ご存じなんですか?」
『兄貴が良くあの辺りを車で迷ってた……』
ため息をつくと、
『まぁいい。昨日の服、持っていくから』
「あ、家はまだ……」
『いつでもいいよ。じゃぁ。近くに行ったら、電話する』
「よろしくお願いします‼」
主李は持っていた荷物をバッグに押し込み、学校の制服のまま部屋を出ていった。
「主李?どうしたの?昨日は遅かったし、今日は早朝練習でしょう?」
「母さん。俺、遅刻するから」
味噌汁を飲んでいた兄の和真は2才したの弟を見る。
「お前なぁ。受験生だろうが‼昨日もふらふら……」
「兄貴と違うよ‼この間だって彼女と……」
「うわぁぁ‼」
「あらぁ?主李?お母さんに教えてちょうだい?」
主李のご飯と味噌汁を置く。
「あ、ご飯も要らない。母さん。もうすぐ出るから‼」
「主李?」
洗面所から顔を覗かせた父親は静かに、
「何か面倒になる前に、いろいろと首を突っ込むのはやめなさい。お前は好奇心が旺盛で……」
「違う‼好奇心じゃない‼俺は、曽我部が……」
「あのこは、悪い子じゃない……けれど、付き合うのはやめなさい」
「受験だから?俺は、ちゃんと勉強するし‼」
父親を見上げる。
「それに優希は、本当にいい子なんだ‼」
「あの家の子だから駄目だ。学校中、校区中の噂なんだよ……あのこの家は、問題だらけで、あのこと関わったらろくなことはない。あのこの親族が……借金を求めてくると……」
「……え?」
「あのこは知らない。けれど、この近所の、数軒のお家にあのこの母親が現れる。そういわれている。『必ず返す』そう言っても音信不通で、家に訴えると『覚えてない』とのらりくらり……それで、あのこの友達だった子達は離れていった。あのこはそれを知らず、自分が悪いと心を痛める……」
「……」
主李が黙り込んだのを了承と受け取った父親は、
「いいね?近づくんじゃない」
「……やだ‼」
「主李?」
「絶対に嫌だ‼優希は悪くない‼それなのに、悪くない優希をもっと苦しめるの?そんなのおかしい‼」
父親の横をすり抜け、走り出す。
「主李‼」
「優希に会いに行くんだ‼泣いてる‼優希に会いに行く‼」
そのまま飛び出していった。
悔しい……哀しい……切ない……。
優希は被害者なのに、何でこんなめに、家族が悪いのに……。
プップー
クラクションの音に、顔をあげると、祐也と穐斗、そして後部座席にすねた顔で……、
「早く乗りなよ。かず」
「のり‼」
慌てて実里の横に座る。
「はい。渡してくれって、頼まれてた」
思った以上の大きな紙袋に、中身を覗き、叫ぶ。
「う、うえぇぇぇ?こ、こ、これ、買いに行くつもりだった、本‼えっ?えっ?一冊じゃない‼それに、さ、サイン入ってる‼」
「すぅ先輩から。先輩が嬉しそうだったよ。主李や実里のような存在がいて優希は幸せだろうって」
運転しながら答える。
「あぁ、主李。上着脱いで、持ってきた昨日の上着に変えておくといい。学ラン、詰め襟。すぅ先輩が泣いて喜ぶと思う」
「あ、待って。二人で写真~‼」
穐斗が祐也のスマホで撮影すると、それを、ポチポチ操作をする。
「何してるんですか?」
「ん?ママに送っちゃった。えへっ」
18才には見えないかわいさである。
と……、電話がなり、取った穐斗。
『あ、あ、あきちゃぁぁぁん‼萌えをありがとう~‼』
「あ、ママ。あきちゃん止めてって言ったでしょ?僕大学生だよ?」
『ママやめるって言ったのに、やめてないあきちゃんも一緒よ~‼』
「じゃぁ、お母さん。きりっとした子が主李くん。優しい顔は実里くんだよ~‼イメージ頑張って‼コンテスト近いんでしょ?あ、主李くん。学校、女の子セーラー服?」
「いえ、えっと、普通にベストと上着です。スカートは膝下です。優希は」
「他の女子は、短くしたりしてますが、優希は普通です」
『いやぁぁ、貴重よ‼優希ちゃんって言うのね。ママ頑張るわ‼あきちゃんありがとう~‼』
電話が切れる。
「えっと……」
「お母さん、今、スランプだったから、僕の学校は私服だったの。で、残念がってたから、学ラン詰め襟写真送っちゃった。これで頑張ってくれるといいなぁ」
主李と実里は悟る。
最強は、この穐斗かもしれない……。
『かず。寝た?』
主李は、言葉少なく、
「ちょっとだけ」
『あのさ、今、醍醐さんから電話があって、曽我部姉妹入院したんだって』
「怪我‼もしかして……」
『違うんだって。曽我部は心……の病気。自律神経失調症……も患ってるって』
「自律神経失調症……」
一応、体育会系でも、知っている。
心とからだのバランスが狂うと、様々な症状が現れ、病院に行っても、原因がわからず病院を転々とする。
「で、竜樹は?」
『自律神経失調症になりかけ』
「って、どうなるんだ⁉優希は?」
『薬で眠らせてるって。昨日、母親と兄が駆けつけたらパニック起こしたらしい』
「会いに‼」
主李は、昨日の荷物を握る。
電話の向こうから、躊躇ったような気配がし、
『かず……やめた方がいい。曽我部は悪くない。でも、回りが悪すぎる。曽我部がボロボロになった。お前も……』
「嫌だ‼」
主李は首を振る。
いつもおとなしい、一歩下がって遠慮がちだった少女が、美術館ではキラキラとした目で嬉しそうにしゃべっていた。
その微笑みは眩しすぎて……可愛くて、手を繋ぐのも照れ臭いものの、嬉しくて……。
「絶対に‼」
『……醍醐さんが、環境が悪すぎるから、ここから引っ越しさせた方がいいって相談してるって』
「両親離婚?」
『詳しくは聞いてないけど……』
「聞いてみる‼」
電話を切り、主李は祐也の電話にかける。
すぐに繋がり、
『もしもし……』
「あ、朝早くからすみません‼主李です。祐也さん‼優希にかずきは‼」
『あ、おはよう~‼主李くん。僕だよ~‼穐斗。祐也はね、早朝練習。柔道と空手の』
「祐也さんも柔道、空手してるんですね……」
お兄さんの一平とどちらが強いか聞いてみたい。
「あの、あの‼優希……かずきだけじゃなく入院って‼」
『あ、あぁ。うん、そうみたい。僕は、ゆーやから聞いただけ。あ、かずき目を開けたよ‼まだ点滴と動けないから、スタッフさんが、寝返りさせたり大丈夫な足さすってあげてるんだって』
「かずき目を開けたんですか‼良かった‼」
『うん……あ、ゆーや。主李くんだよ』
『あぁ、おはよう』
疲れているはずなのに、さっぱりとした声に、
「祐也さん‼優希は……」
『いや、俺はこれから病院に行こうと思っているんだ。穐斗も行くか?』
『うん‼』
「俺も、連れていってください‼お願いします‼」
必死に訴える。
「優希に、昨日、お揃いのキーホルダーを選んだんです。買っていただいたのですが……だから‼」
『今日は学校だろう?大学生の俺たちはある程度と言うか、俺と穐斗は今日は取らなくていい授業とってたから、いいけど……』
「行きます‼お願いします‼」
ため息をつき、
『主李の家はどの辺だ?』
「はい、優希の家の西にあります。祐也さんのおうちの前の道を真っ直ぐ南に出ていくと、僕たちの城北中学校が見えると思うのですが、その手前の大きい道を左におれて、高架橋の前で曲がって行くんです」
『あぁ、老舗の酒屋がある小道か?』
「はい、ご存じなんですか?」
『兄貴が良くあの辺りを車で迷ってた……』
ため息をつくと、
『まぁいい。昨日の服、持っていくから』
「あ、家はまだ……」
『いつでもいいよ。じゃぁ。近くに行ったら、電話する』
「よろしくお願いします‼」
主李は持っていた荷物をバッグに押し込み、学校の制服のまま部屋を出ていった。
「主李?どうしたの?昨日は遅かったし、今日は早朝練習でしょう?」
「母さん。俺、遅刻するから」
味噌汁を飲んでいた兄の和真は2才したの弟を見る。
「お前なぁ。受験生だろうが‼昨日もふらふら……」
「兄貴と違うよ‼この間だって彼女と……」
「うわぁぁ‼」
「あらぁ?主李?お母さんに教えてちょうだい?」
主李のご飯と味噌汁を置く。
「あ、ご飯も要らない。母さん。もうすぐ出るから‼」
「主李?」
洗面所から顔を覗かせた父親は静かに、
「何か面倒になる前に、いろいろと首を突っ込むのはやめなさい。お前は好奇心が旺盛で……」
「違う‼好奇心じゃない‼俺は、曽我部が……」
「あのこは、悪い子じゃない……けれど、付き合うのはやめなさい」
「受験だから?俺は、ちゃんと勉強するし‼」
父親を見上げる。
「それに優希は、本当にいい子なんだ‼」
「あの家の子だから駄目だ。学校中、校区中の噂なんだよ……あのこの家は、問題だらけで、あのこと関わったらろくなことはない。あのこの親族が……借金を求めてくると……」
「……え?」
「あのこは知らない。けれど、この近所の、数軒のお家にあのこの母親が現れる。そういわれている。『必ず返す』そう言っても音信不通で、家に訴えると『覚えてない』とのらりくらり……それで、あのこの友達だった子達は離れていった。あのこはそれを知らず、自分が悪いと心を痛める……」
「……」
主李が黙り込んだのを了承と受け取った父親は、
「いいね?近づくんじゃない」
「……やだ‼」
「主李?」
「絶対に嫌だ‼優希は悪くない‼それなのに、悪くない優希をもっと苦しめるの?そんなのおかしい‼」
父親の横をすり抜け、走り出す。
「主李‼」
「優希に会いに行くんだ‼泣いてる‼優希に会いに行く‼」
そのまま飛び出していった。
悔しい……哀しい……切ない……。
優希は被害者なのに、何でこんなめに、家族が悪いのに……。
プップー
クラクションの音に、顔をあげると、祐也と穐斗、そして後部座席にすねた顔で……、
「早く乗りなよ。かず」
「のり‼」
慌てて実里の横に座る。
「はい。渡してくれって、頼まれてた」
思った以上の大きな紙袋に、中身を覗き、叫ぶ。
「う、うえぇぇぇ?こ、こ、これ、買いに行くつもりだった、本‼えっ?えっ?一冊じゃない‼それに、さ、サイン入ってる‼」
「すぅ先輩から。先輩が嬉しそうだったよ。主李や実里のような存在がいて優希は幸せだろうって」
運転しながら答える。
「あぁ、主李。上着脱いで、持ってきた昨日の上着に変えておくといい。学ラン、詰め襟。すぅ先輩が泣いて喜ぶと思う」
「あ、待って。二人で写真~‼」
穐斗が祐也のスマホで撮影すると、それを、ポチポチ操作をする。
「何してるんですか?」
「ん?ママに送っちゃった。えへっ」
18才には見えないかわいさである。
と……、電話がなり、取った穐斗。
『あ、あ、あきちゃぁぁぁん‼萌えをありがとう~‼』
「あ、ママ。あきちゃん止めてって言ったでしょ?僕大学生だよ?」
『ママやめるって言ったのに、やめてないあきちゃんも一緒よ~‼』
「じゃぁ、お母さん。きりっとした子が主李くん。優しい顔は実里くんだよ~‼イメージ頑張って‼コンテスト近いんでしょ?あ、主李くん。学校、女の子セーラー服?」
「いえ、えっと、普通にベストと上着です。スカートは膝下です。優希は」
「他の女子は、短くしたりしてますが、優希は普通です」
『いやぁぁ、貴重よ‼優希ちゃんって言うのね。ママ頑張るわ‼あきちゃんありがとう~‼』
電話が切れる。
「えっと……」
「お母さん、今、スランプだったから、僕の学校は私服だったの。で、残念がってたから、学ラン詰め襟写真送っちゃった。これで頑張ってくれるといいなぁ」
主李と実里は悟る。
最強は、この穐斗かもしれない……。
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