優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

優希はこんこんと眠り続けるのでした。

救急医の診察は、

「自律神経失調症、パニック障害、不安神経症、簡単に言えばうつです。お姉さんは眠れていないとかありませんか?」

その問いかけに、竜樹たつきは、

「本を読むのと、ナンプレとかパズルを良く解いています。眠れないって」
「不眠症ですね。それと確認したところ、手足にほぼ治療のされていない傷のあとがあるのですが、ここ……」

着替えさせられたローブを少しめくり、左足の弁慶の泣き所の周囲。の傷を示す。

「ここですが、神経が切れているようです。それに体温が35度を切っています。手足の冷えもひどくて、かなり弱っているようです。精神的にも肉体的にも。元々丈夫ではないのではないですか?」
「よ、良く風邪をこじらせて、肺炎に……。それに、隣町に内科の主治医の先生に、内臓が弱いので……胃腸薬を飲んで、それにアレルギーにアトピーも」
「病院の名前と主治医の先生をお伺いできますか?おねえさんですね?」

竜樹はキョトンとすると、慌てて首を振る。

「いえ、年子の姉妹で、お姉ちゃんです‼私は妹で……」
「そうでしたか、失礼いたしました。ご家族は?」

その声に日向ひなたが、

「実は先生。この子と妹の竜樹は、家族から虐待を受けて育った子供で、ダメなんです。私が知り合いの弁護士さんに頼んで、行政に保護を求めているところです」
「行政に……」
「優希ちゃんはどうですか?」

醍醐は顔を覗かせる。

「そう言えば、お母さんとお兄さんが来ていますが?」
「お姉ちゃん……?」

顔を覗かせた母と兄に、竜樹は声を荒らげる。

「何しに来たん‼」
「お父さんが、お姉ちゃんが倒れたって、お姉ちゃん……」

その声にカッと目を見開き、キョロキョロと周囲を見回し、二人を見つけると、

「ごめんなさい‼ごめんなさい‼そうじと晩御飯、買い物にも行ってない‼ごめんなさい‼すぐに、すぐに行くから、殴らないで‼怒鳴らないで、無視しないでーー‼頑張るから、かずきに酷いことしないで‼ごめんなさい‼ごめんなさい‼愚図で、トロ臭くて、役立たずでごめんなさい‼……いややぁぁぁ、もういやや‼」

頭をかきむしり、泣き叫ぶ優希に、唖然とする母親と兄。

「おい、俺は、おまえが……」
「ごめんなさい‼ごめんなさい‼今すぐ帰る……のは、もういやだぁぁ‼」
「優希さん‼優希さん‼大丈夫ですよ」

医師が優しく言い聞かせ、

「失礼ですが、お二人に退室していただけませんか?患者を苦しめる存在は邪魔です」
「うわぁぁん……」
「スタッフ。精神安定の薬と、睡眠導入剤を。早く‼」
「はい」

ただすと日向が残り、醍醐と竜樹は追い出した母親と兄と共に出ていく。

「で?何しに来たんでしょう?」

うっすらと悪意のある笑みを浮かべる。

「優希を益々苦しめるためですか?」
「一応、保険証と着替えを……お金の方は、今手持ちがなくて……」
「結構です。ないのはお母さんのそのバッグ代とお兄さんの服代と、ブランドの時計代ですね。優希を苦しめるなら、お帰りください。着替えは私たちが準備しますし、それに会いに来ないでくださいませんか?私たちは、優希を守るために弁護士にお願い致しました。お父さんから、弁護士の方の事をお伺い下さい」
「ばいばい。お母さん。お兄ちゃんがいるから、曽我部家も大丈夫だよね?お姉ちゃん、病気なの。お母さんとお兄ちゃんに会うだけで、怯えるの。会いに来ないで。私も会わない。曽我部家には女の子いらないもんね?要らない子を必要とするのは、奴隷として、小間使いだもんね?顎でこきつかうんでしょ?差別だよね?」

手を振る。

「醍醐さん。私は……」
「待合室にいましょう……で、いつまで突っ立っているんですか?あの声聞こえませんか?嫌だって言ってますよ。お帰りください」

顎で示す。

「なっ‼誘拐した‼未成年者をって……」
「じゃぁ、虐待したと逆に警察に訴えますね。裁判もさせていただきましょう。それに、ちなみに私は19ですので未成年です。でも、妹を顎でこき使うなんてあり得ませんよね。帰ってください」
「帰って‼醍醐さん。電話貸して下さい‼警察呼びます‼」
「はい、では警察は……」

スマホを取り出した醍醐に、慌てて逃げ出したのだった。



落ち着きがなかったものの、薬を飲み、点滴を受けて眠り続ける優希に日向と糺は付き添う。

「……あのおうちじゃ……無理だよね」
「そうだな」
「でも、ここにいても辛すぎるよね?」
「……そうだな。どこか転地をさせてあげたいものだな」



竜樹の診察も行われ、軽いものの自律神経失調症の可能性があると診断された。

「君も一日入院しておきなさい」
「……はい。お姉ちゃんと……」
「お姉さんは、疲れているから、個室」
「はい」

素直に頷く。

この素直さは、姉の優希が育てたのかと思うと、まだ義務教育を受けているはずの優希がどれだけ頑張ってきたのだろう……妹の竜樹も姉しかすがるものがいなかったのかと思うと痛々しい、物悲しい、虚しい……。

「じゃぁ、看護師さんにお願いしてお休みなさい」
「はい、醍醐さん。お休みしなさい」

頭を下げて、連れられていく少女を見送り、醍醐は長い夜を思いため息をついた。

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