優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

祐也の実家の動物病院は、とても有名です。

 主李かずいは、かずきを抱いていたのだが、段々ぐったりとしてくるのに気がついた。

祐也ゆうやさん‼かずきが、かずきの様子が‼」
「解ってる。多分、腹部の損傷と、頭部を打っている筈だ。悪いけれど、この電話で電話してくれないか?一番冷静だから」

 信号で止まっている間に操作したスマホを差し出す。
 コール音が3回すると、

『もしもし?ゆーにーちゃん?』
「あ、す、すみません‼お、俺は守谷主李もりやかずいと申します‼祐也さんの車に乗って、電話を借りて、お話ししています‼」
『あ、守谷主李くん?城北中学校の野球部の?私は安部媛あべひめです。何かありました?焦ってますね?』
「安部さん……あのっ‼優希ゆうきの……えっと、クラスメイトの曽我部優希そがべゆうきさんの可愛がっている飼い犬のかずきが、様子がおかしいんです‼」

必死に伝える。

『えーと、曽我部優希ちゃん……あ、城北中学校の万能薬エリクサー‼癒し系可愛い子だ‼』
「万能薬?」
『あ、知らないの?あの子、吹奏楽部の大会でクリクリお目目の小さい子って、可愛いって有名なのよ?彼女にしたい子ナンバーワンって、うちの学校の吹奏楽部の男の子が言ってた。でも、全部スルーするって。でも、それも可愛いって』
「それ困る‼せっかく両想いになったのに‼」

 主李が叫ぶ。

「今日は、ダブルデートで……なのに‼」
『あはは‼守谷くんだっけ?面白い。で、ワンちゃんの様子は?』
「あ、最初は、ホテルで優希の留守電を聞いたら、暴力を振るっている音と、かずきの悲鳴に、慌てて駆けつけたら、ヨロヨロ現れたかずきを車に乗せて来たんです。……最初は元気そうだった。あいさつって言う感じであうあうって声を出しててよしよしって撫でていたら、俺の膝に頭をおいて……わぁぁ‼吐いた‼大丈夫か?かずき‼あ、それに俺はいいけど、祐也さんの車が……」
「それはいい。喉に詰まったら、窒息する。吐かせてやってくれ。出来るか?」

 祐也は焦ったように告げる。

「そこの上着着せていいから、そっと背中をさすって、出来たら、気道確保で指を突っ込んで中にある物をかき出すのがいいんだが」
「やります‼あの、安部さん‼今こんな状態です。すみません‼電話切ります‼」
『切らずにそのまま横においておいて、すぐに父の所に行くから‼父に的確に指示して貰うから、待ってて』

 言われた通りスマホを起き、かずきの心臓が動いているのを確認し、その後口に指を突っ込み、中に残っている嘔吐物をかき出す。
 心臓の音は弱く、細い体はガタガタと震えている。
 怪我に触らないように、そっと抱き締め、

「かずき。頑張れ‼大丈夫だ!もうすぐだから‼」
『はい、電話を変わりました。患者さんだって?状態は?教えてくれるかな?』
「はい、守谷主李です。かずきが、最初は足を引きずりながら近づいてきて、あうあうとお話ししていました。でも、車の中で俺の膝に頭をおいてから、ぐったりとして……さき、吐いて‼今はガタガタと震えていて……祐也さんの上着を着せて、口の中のものは指を突っ込んでかき出しました‼」
『よし。そこはどの辺りだい?』

祐也が、

「父さん‼あと数分で到着‼かずきは、あの曽我部さんの家のだよ‼」
『あの曽我部さんの……。機器の準備と、早めに手術を出来るようにしておくよ。焦らないように、大丈夫だから』

その優しい声に、主李が涙ぐむ。

「かずき……頑張れ……頼むから、頑張れ」



 車が駐車場に入ると、待っていたように寝台が近づき、細身の穏和なおじさんがかずきを抱き上げ乗せると、

「すぐに‼一平いっぺい。車を回して来なさい」
「掃除もしてきてやる」
「傷つけないでくださいね‼兄貴‼まだ分割残ってるんです‼」
「その時は、ワハハ~‼だ」

ほら行けと言う風に手をヒラヒラさせた一平に、祐也が、

「主李。手を洗おう。服も着替えした方がいいと思う。兄貴から借りるから」
「……すみません。俺は……何も出来ないんですね……悔しいです。それに、先輩があんな人とは思わなくて……優希……どんな目に遭ってきたんだろう……」

潤んでいた瞳からポロポロと涙が零れる。

「酷いじゃないですか……あんなに、優しくて人に親切で、俺も何であんなに危ないんだって思うくらい人を信じて、家族の為に色々してるのに‼何で‼」
「……あそこの家、優希ちゃんのお母さんは3人姉妹の長女。すぐ下の妹は、快闊といえばいいけれど、間違った意味の『天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそん』。一人だけ短大卒業した上に、二歳上の姉がトロ臭いっていじめていじめて、自信喪失させてもいじめぬいて、それなのに、長女だから結婚して4人の子供を生んだ。で、姉夫婦をネチネチ苛めたみたいだよ。それに、跡継ぎになれなかったからって、父親に自分の店を建てろって言って建てたけど、性格と浪費のせいで営業が圧迫。借金まみれ」

 何てこった……。

 最悪である。
 しかし、どうして優希は……。

「お母さんの父親……つまり祖父が、自分の子供は女ばかりで、歯がゆかったらしい。で、初孫に生まれたあいつをとことん可愛がった。で、次に生まれた優希ちゃんは、女はいらないって」
「おかしいでしょ‼それが‼優希はあんなに頭がいいのに、気も利くし、優しいし、それを鼻にかけたりしないし……それなのに‼高校進学させないって……」
「借金があるって言ってただろ?増やしているらしい。お父さんは働いて返しているのに、母親の妹さんたちが」
「たち?あ、もう一人いましたね」
「引きこもりらしいよ。周囲に話すのは恥だって隠してる。本当は、仕事でもすれば違うだろうに……あ、母さん、ただ今。後輩の……」

 裏に回った祐也は扉を開けて声をかけつつ、軽く手を洗ってもらおうと蛇口を捻る。

「とりゃぁぁ~‼ゆうにいちゃん‼」
「ストップ‼こんなところで弓を構えるな‼くれない‼」
「紅‼」

 グイッ‼

 すさまじいまでの連続絞め技に、

「お母さん……ごめんなさい……おじいちゃんの弓が折れるから、これ以上は……」
「祐也に近づく人間全員に脅すのをやめなさい……良いわね?」
「ふあぁぁーい。ごめんなさぁぁい‼」

その声に、後ろから出てきたのは小柄な女性。

「本当に困った子ね。祐也。おかえりなさい。それに、貴方は……」
「あ、あの、かずきの飼い主の優希……曽我部優希のこ……」
「こ?」
「母さん?告白して初デートだったんだって。意地悪言わない。守谷主李だよ」
「オホホ……だって、あの暑苦しい一平はともかく、祐也はお父さんとお母さんのいいところを貰っているのに、全然そんな話はなくて、残念だったんだもの。でも、可愛い少年の照れ顔が見れて満足だわぁ」
「母さん?」

 祐也は睨むと、

「主李。俺の母さんのせとか。で、この子が紅。二つ上で……」
「知ってます‼弓道で国体に出場した方ですよね‼え、じゃぁ、媛さんって……柔道の?同じ年ですよね⁉えぇぇ~‼じゃぁ、一平さんも、有名な……それに、もしかして、じゃぁ、あの方は、安部朔夜あべさくやさんだったんですか‼あの剣道に居合道の……」
「方……プククッ‼あの父さんが⁉」
「紅‼」

せとかが絞め技をかける。

「じゃぁ、主李くん。中にどうぞ。お風呂にどうぞ。私が、ご家族に連絡をしておきますからね?電話番号をうかがってもいいかしら?」
「あ、いえ、ご迷惑をおかけしては……」
「良いのよ。心配でしょう?それに、すこし、何か口にいれましょうね」
「……ありがとうございます。では、失礼いたします」

 頭を下げて入っていく。
 祐也が風呂に案内している間に、せとかは電話を掛け、

「夜分に失礼いたします。私、安部動物病院の者です。……あ、いえ、実は主李君ですけど、お出掛けの帰りにお友だちと帰っていたところ、事故で怪我をしていた動物を見つけて、丁度息子が車で通りかかったんです。それで、自分が一緒に病院にと、今、お風呂に入っていただいておりますの。……いえ!本当に、しっかりとされた優しいお子さまですわね。羨ましいですわ。怪我をした動物はこちらで面倒を見ますと言ったのです。けれど、もう少し……と言われるので、落ち着いてから息子に送らせますので、遅くなったと……連絡ができなかったので、叱らないであげてくださいませ。よろしくお願いいたします。はい。主李君は怪我はありませんわ。はい、では、失礼いたします」

電話を切ると、

「あぁ、そうだわ。紅。主李君の着替えを一平の部屋から持ってきて。媛は料理を運んでちょうだい。一品増やしましょう」

うきうきと嬉しそうにせとかは台所に消えていく。
 せとかはお客様をもてなすのが大好きである。
 そして、美味しそうに食べる顔を見るのがもっと大好きだった。

「腕がなるわ‼」

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