優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

9人で街探検に出掛けました。

到着したのはホテルのレストラン。

松尾まつのおさま。ご予約変更お間違えはありませんか?」
「本当にすみません。急にお願いしてしまって……構いませんか?」

醍醐だいごは微笑むと、コンシェルジュと担当らしい人が頷く。

「大丈夫でございます。どうぞ、テーブルの準備は整っております」
「じゃぁ、皆もおいで」

祐也ゆうやの後ろをついていきつつ、

「ど、どうしよう……俺、違和感ありまくり……」

優希ゆうきと手を繋いだ主李かずいに、同じく竜樹たつきの手を引く実里みのりは、

「醍醐さんが、言ってた。こう言うホテルは観光シーズン以外に空きがあると泊まるお客さんだけじゃなく、昼間のランチとホテルの大浴場、休憩出来る部屋を提供できるんだって。特に女性の好きそうなデザートバイキングとか、お風呂とか。手頃なお値段なんだって」
「手頃って言っても、お金ないなぁ……あのテディベアも買えないし……」

ごめん……。

と主李に謝られ、

「いいえ、見るだけで良いです‼あ、それよりも、パンフレットは、誰が出したんですか?お金払います‼」
「あれ?実里?」
「いや、俺は主李が払ったのかと……」

4人は顔を見合わせ、

「祐也さん‼」
「あ、俺はそれは知らないんだ。本当に」

穐斗あきとの手を引きながら歩く。

「えぇぇ~‼でも、知らないって‼」
「いや、本当に。な?穐斗」
「うん。僕のテディベアも」

穐斗の一言に、

「あぁ、荷物でしたらひなが持っていってますよ。ちょっと忘れ物をしたって家に帰ってますから」
「えぇぇ‼じゃぁ、もしかしてパンフレットとか、絵はがきとか、キーホルダーとか……」

言いかけて、はっと口を閉ざす。

主李は、優希とお揃いが良くて、買えなかったテディベアの飾りのついたものを持っていたのだ。
それも、気をそらせている間になかった。

「うん。別に運ぶって言ってたよ、先輩」
「まぁ、大丈夫だろ」

しばらくいくと、見晴らしの良いテーブルに案内される。
気を聞かせてくれたのかテーブルは二つを近づけてくれている。

「うっわぁ……街が別方向から見える‼少し高い‼丘の上だ」
「良いでしょう?新緑の季節ですし、桜の時期とも違って綺麗ですよね」

どうぞと座っても、気になるのかチラチラと見下ろす。

「わぁぁ……」
「あ、遅れてすまない」
「ごめんなさいね」

手を繋ぎ日向ひなたただすが現れる。

「じゃぁ、ランチバイキングですし、取りに行きますか。メインディッシュは選べるそうですよ。お肉とお魚どっちです?」
「あ、お肉で」
「お、僕も……」
「私も……」

の中に、優希は、

「お魚で。レパートリー増やします‼」
「レパートリーって、魚さばけるのか?」

日向の問いかけに、

「はい。5才の時に三枚下ろししてました。キャベツの千切りも得意です。日本の包丁は引くんです。本当はこうやって切るのが普通なんですが、押しちゃうんですよね……美味しさが落ちるっていつも言われます」

よく子供が教わる包丁を持つ手と逆の手は『猫の手』と言う感じに丸くして、包丁で切るしぐさをする。

「その人差し指は?」

醍醐の問いかけに、

「ぎゅっと柄を握ってしまうと、包丁の刃先がどこに行くかわからない。だからこの指で微調整しつつ包丁を扱いなさい。手を切ってはいけない。時間との勝負で料理をしなさいと父に」
「時間との勝負……」
「はい。父は料理人なんです。家とは離れてますが、お店を開いてて……」

名前を言うと、5人はあぁ……と思い出す。

昔ながらのうどんを出すお店である。
昼間は定食をしている。

「時々手伝っているのか?」
「はい。部活動がない日はほとんどです」
「じゃぁ今日も?」

主李の問いかけに、ぱぁぁっと赤くなり、もじもじと、

「美術館にいくからって……父は言いって言ってくれましたが、お祖母ちゃんや叔母さんたちに……でも行ってきなさいって」
「何で、お兄ちゃんや弟にさせないんだろ……ねぇ?お姉ちゃん。ずるいよね」

唇を尖らせる竜樹に、寂しげな表情で苦笑する。

「お兄ちゃんに包丁は持たせないでしょ。康弘やすひろも落ち着きがないからって、仕方ないんよ」
「でも、ずるいよ‼男だからいいの?女だから何でも命令なの?それなら女に生まれるんじゃなかった‼」

竜樹の悔しげな声に、7人は息を飲む。

「生まれるんじゃなかった‼苛められるんなら、馬鹿にされるんなら、無視されるんなら……生んでほしくなかった‼お姉ちゃんが一杯苦労してるのに‼お母さんなんて手伝いにもいかずに、掃除もせずに、洗濯だけ‼料理だってお姉ちゃんがしてるのに‼おかしいよ‼」
「た、たっちゃん‼」
「私やお姉ちゃんがいじめられてても何も言わないくせに‼康弘がいじめられてるって聞いたら学校にいく‼」

マシンガンのように怒りのたまを、どこに向けていいのかわからないと言うように、怒り狂う。

「赦せない‼赦せない‼だから、大嫌い‼」
「たっちゃん‼落ち着いて‼ね?デザート一杯食べさせてもらおう?ね?プリン好きでしょ?それにアイスクリーム‼絶対美味しいよ。お姉ちゃん作らないし」
「……お姉ちゃんのクッキーは大好きだよ」
「本当‼良かったぁ‼」

喜ぶ姉を見て、ニッコリ。

「今年の2月にチョコレートのかわりにって主李先輩に贈るんだって作ってたの、贈ったの?」

ぶしゅぅぅぅ……

顔から火を噴きそうになるほど真っ赤な顔になった優希は、

「な、何でそんなこと言うのぉ~‼」
「だって、何回もお試しって作ってたから、一月からしばらくおやつはクッキーだったもん。美味しかったからいいけど」
「貰ってない……けど」

主李の一言に、

「駄目だよ~‼お姉ちゃん。男のハートよりも胃袋つかめって言うでしょう?」
「どこで覚えてきたのぉぉ‼たっちゃん‼」
「内緒。先輩。クッキー今度お姉ちゃんが作るって」
「あ、ありがとう。楽しみにしてる‼」

真っ赤な顔の初々しい二人に、苦笑しつつ、

「えっと、まずは、バイキング形式の選びに行こうか」

動き出したのだった。



しかし、5人が思うのは、優希がお節介と言うよりも、世話好きなこと。

「たっちゃん。ピーマン嫌いでも、食べようね。一口でいいから。あ、それに実里くん。お肉ばっかり。バランスよく。主李君も、お魚食べなきゃ……」
「ピーマン苦いんだもん……」
「えぇぇ?山盛り野菜?嫌だなぁぁ」
「じゃぁ、煮物とか青椒肉絲チンジャオロースーとか、豆腐も体にいいから麻婆豆腐もね?」

でも大量ではなく少しのせる。

「それに、お魚は運動しているからだにいいんですよ?」
「骨が……苦手で……」
「私が取りましょう‼」

その様子に、

「母親だな……」

呟く日向。

「言うか、可哀想やなぁ……あの子」
「ん?」

醍醐は険しい表情で呟く。

「あれだけ妹はんや、恋人や友人に世話やいて、優希を可愛がるんは誰なんやろ……」
「……」

日向は再び振り返る。
すると歪な何かの欠片が見え隠れするような気がした。



……一粒の心の欠片、どこにいってしまったんだろう……。

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