ユズリハあのね
「お店の小さな守り神」
イケメンのヒジリの案内でやってきましたヒーナの修業先、その名も陶芸専門店《大地に槌》。
そして幸先よく会いたかったヒーナに会えた三人は、速攻で作品の整理のお手伝いをお願いされて、今はそれを終えたところでした。
「いやー、ホント助かったッス。かんしゃかんしゃッス!」
八重歯をのぞかせて背の低い少女はにへらと笑いました。
「どういたしまして~。とっても楽しかったよ~!」
両手を合わせてほわわんと瞳は笑い返します。相変わらず癒しのオーラを振りまく、柔らかな笑顔です。
みんなで整理した物は、すべて観光に来たお客さんが作ったものでしたから扱いは丁寧に。それを終始意識し続けていたので気疲れはしてしまいましたが、貴重な体験をさせてもらいました。
普段は木ばかりと触れ合っている指先で土と触れ合う機会があるとは思っていませんでした。
蔵の中に入るのも当然初めてでしたから、興奮は未だに冷めません。
「あの蔵って沢山あるけど、大きいのひとつじゃダメなの~?」
指差す先にはかまくらのような小さな蔵が階段状の斜面にたくさん肩を並べています。
瞳の素朴な疑問でした。小さいのをたくさん用意するより、大きいのをひとつ用意した方がまとめて一括管理できますから、そっちのほうが楽だし確実だし、メリットがたくさんあるように思えます。
頬を掻いて、ヒーナは困ったように笑ってから答えてくれました。
「まあ気持ちはわかるッスけどね。あれは『登り窯』っていって、正確には蔵ではないんッスよ」
登り窯とは、陶磁器焼成用の窯のことで、一番下に火を起こす焚き口、一番上には煙突が付いていて、間に連なる小さな窯たちは連結しています。上に行くほど余熱の効果で高温になり、早く焼き上がるというもの。
こんなやり方を思いつくなんて、昔の人は発想力が違います。そして、そんな伝統のやり方を今代に至るまで綿々と受け継いできていることにも、瞳は感動を覚えました。
「そうだったんだ~。てっきり蔵かなにかだとばっかり思ってたよ~」
どことなく《ヌヌ工房》にある倉庫に似ていたので、勘違いをしていたようです。薄暗い感じとか、冷んやりした感じとか、そっくりですし何かを保管しておくにはうってつけの場所でしょう。
うっかりそんなことをしてしまった日には、炭か灰しか残らないので絶対にやめましょう。あるいは跡形もなく焼滅してしまうかもわかりませんでした。
「よかったら寄ってってくださいッス。手伝ってくれたお礼に、お茶くらいは出させて欲しいッス」
「うあ~い!」
瞳はクルクル回って喜びを表現します。若葉色のエプロンドレス風の制服がふわりと広がり、おおらかな瞳の心を表しているようです。
「ヒーナさんとヒジリさんも、お時間の方はだいじょうぶッスか?」
「うん、大丈夫だよ」
「……じょぶ」
「おっけーッス! じゃあちょっくら準備してくるんで、適当に待ってて欲しいッス!」
そう言うとヒーナは俊敏な動きでお店の中に入っていき、あっという間に姿が見えなくなってしまいました。まるで大昔に存在していたという『忍者』のようです。
もちろん瞳はヒーナの修業先を見にきたので、まずは早速お店の中へ。
ヒーナが消えて行った背中を追いかけるようにお店に入ってみると、まずは独特な土の匂いが鼻を突きました。どことなく埃っぽいような、でもそこまで不快感は感じない不思議な空間が広がっていました。
「ほえ~……なんかもっと茶色いのを想像してたよ~」
店内はほんのりと明るく、落ち着いた雰囲気でした。値段の貼られた陶器があちこちに所狭しと並べられていて、どことなくフリーマーケットのような乱雑さを感じます。
壺であったりお皿であったり、湯呑みであったり茶碗であったり。
形も色も多種多様なものが見る者の目を楽しませてくれます。
瞳はてっきり土から作るものだから土の色、茶色のものが多いと勝手に思っていたようです。もちろん全体的に見れば茶色いものが多いですが、他にも白であったり、着色されて青や緑の模様が走るものなどもありました。
「これなんかテカテカしてる~。どうやってるんだろ~?」
照明の光を反射して存在を主張するものもあり、指先で軽く撫でてみましたがツルツルとしています。元が粘土とはとても思えない滑らかさです。
「およよ~?」
お店の奥、扉で隔てて別の部屋では観光客が何人もいて、椅子に座り込んで一心に何かに打ち込んでいました。傍らにはお店の人が立って、アドバイスを囁いています。
それらに頷いて、また真剣に取り組み始めました。
「あれ、何してるんだろ~?」
気になった瞳はこっそりと部屋を覗き込んでみました。手前の、一番近い位置にいるお客さんの手元を凝視します。集中しているので覗いている瞳には気づいていませんが、あまり褒められたことではないので、良い子は真似しないようにしましょうね。
「……なんか目が回ってきた~」
お客さんの手元で、粘土が乗った丸い台がクルクルと回っているではありませんか。中心で固定されている粘土に手を添えて、肘を膝に当てて腕をしっかりと固定し、粘土をゆっくりと成形しているところでした。
右の親指を中央に押し込んでぐにゃりと変形。左の指で周りを押し上げ、徐々に器のような形になっていきます。
「お、お~ほ~……」
覗き込む瞳は無意識に変な声が溢れています。はたから見れば怪しい人ですが、観光客はやはり気づきません。お店の人も気づきません。目の前の粘土にとっても集中しているようでした。
「森井さん。あまり覗くのも失礼だから、こっちで待ってようね」
「あい~、そうしまふ」
見かねたヒジリが瞳の肩を掴んでくるんと方向転換。そのまま背中を押してお店の中ほどまで戻ってきました。
クルクル回る粘土を目で追いかけすぎて視界がクラクラと揺れます。粘土と目は回っていますが、呂律は回っていませんでした。
先ほど瞳が覗いていた部屋ではどうやら体験教室が開かれていたようです。
そこから戻ってきて、今一度乱雑に並べられた商品たちに目を向けました。
「なんかクルクル回ってるように見えるよ~?」
「気のせいだね」
「……です」
苦笑いで即答するヒジリに美星は頷きました。商品が回っていたら怪奇現象もいいところです。怪奇現象はこのお店の外見だけで充分間に合っています。
ほわわんと笑って「わかってるよ~冗談じょうだん!」と後ろ手に組んでゆっくりと店内を歩き始めました。美星は隣、ヒジリは後ろをついていきます。
食器類が目立ちますが、よく見てみると瞳が好きそうな小物なども置いてありました。小物ゆえ、食器の陰に隠れています。
「おや、君はだれかな~?」
目ざとく可愛らしい小物を発見した瞳は、隙間を縫うように指を伸ばし、摘み上げました。
瞳の目にはそれが動物であることはわかったのですが、あいにく水辺に生きる動物しか詳しくない瞳はそれがなんの動物なのかわかりません。
ピンと尖った三角の耳、顔も細長いですが、特徴的なのはおそらく尻尾で、なんと胴体と同じくらいの大きさがあります。
「……それ、なんです?」
美星も知らないのか、瞳の手元を覗き込んでは首を傾げました。
「う~ん、なんだろ~?」
見やすいようにしゃがんであげて、目線の高さに持ってきます。よくよく見てみても、その正体は二人にはわかりません。
「んあ、こっちにもある~」
「……ほんとです。あちこちあるです」
瞳の手の中にあるものと同じものがお店のあちこちに隠れんぼしていました。大きさはまちまちですが基本は小さく、形もポーズもいろいろあります。よくよく見てみると表情まで豊かで、なかなかに楽しませてくれます。
「ああ、それは――」
「――おやおや! さすが瞳さんもう見つけたッスか!」
首を傾げあっている二人にヒジリが声をあげると、それを上回る元気な声が聞こえてきました。
お店の奥に消えていったヒーナが戻ってきたのです。その手にはお盆があり、湯のみが人数分乗っかっています。
中に飲み物が入っているはずなのに、驚異的なバランスを保ったまま素早く近づいてきて、「どぞッス」とお盆を差し出してきました。
それを受け取り、手の平から伝わってくる冷たさを味わってから、舌でも味わいます。
冷たさがお腹の中を流れていく感覚を感じて「ほへ~……」と息をつく瞳を見ながら、ヒーナは言いました。
「さっき瞳さんが見つけたのは、『リス』っていう動物ッス」
「……りす、です?」
美星は小さく首を傾げて疑問符を頭の上に浮かべました。コクッと小首を傾げる姿はなんだか愛らしいです。
頷いて元気にヒーナが答えてくれます。
「はいッス。この森に住んでるリスはフクロウに次ぐ守り神として知られてるんッスよ! もともとは手の平に乗るくらいの小動物なんッスけど、進化の過程ででっかくなったッス!」
ちなみにフクロウももともとは肩に乗る程度の大きさだったのですが、森の大きさに適応して大きくなりました。両腕で抱えるくらいの大きさであるヌヌ店長でも、実は小さい部類です。
瞳が見つけた小物は、ヒーナの話によるとリスをモチーフとしたもののようですが、どうしてこのようなものがあちこちに置いてあったのでしょう? 疑問です。
「ちなみにだけど、森井さんが好きそうな毛並みだそうだよ」
「もっふもふ~?!」
「そう。もっふもふ」
爽やかに補足情報を教えてくれるイケメンです。リスについての情報でヒーナに先を越されてしまいましたが、イケメンの面目は保てたようです。
もっふもふ……と小さく呟いて小物をいじっていますが、粘土で出来ているのでもふもふしません。瞳は少し残念そうな表情を浮かべていますが、こればかりはどうしようもありません。
「会ってみたいな~リスさん……」
「瞳さんなら、もしかしたら会えるかもしれないッスね」
「そうなの~?」
「リスはとっても警戒心が強いんッスけど、瞳さん相手なら警戒しなさそうなんで」
「??? どゆこと~? なんで~?」
「いえいえ。こちらの話ッス!」
言っていることがよくわからず瞳は考え込むように視線をさ迷わせました。指先は跳ねた髪の毛をイジイジ、イジイジ。考え事をするときの癖です。
ヒーナは誤魔化すように手をブンブンと振って、にぱーっと笑います。ヒジリと美星は、同意するように密かにウンウンと頷いていました。
「まぁそんな感じで、森の守り神にあやかってこのお店も守ってもらおうってことで、余った粘土を使って作ってるんッスよ」
実は勝手にやってるんでバレたら怒られるかもしれないッスけどね。とヒーナは舌を出しました。
瞳や美星が割と簡単に見つけられたものですから、お店の人が見つけていないなんてことはないと思いますので、黙認しているのではないでしょうか。リスが守り神として有名なのであれば、それを咎めるのも悪い気がしたのかもしれません。
湯のみのひんやりしたお茶をみんなが飲み干すと、それを見計らっていたかのようなタイミングでヒーナは言いました。
「ところでみなさん! せっかくなんで、陶芸教室なんか、どッスか?」
この言葉に、瞳は目をキラキラときらめかせたのでした。
そして幸先よく会いたかったヒーナに会えた三人は、速攻で作品の整理のお手伝いをお願いされて、今はそれを終えたところでした。
「いやー、ホント助かったッス。かんしゃかんしゃッス!」
八重歯をのぞかせて背の低い少女はにへらと笑いました。
「どういたしまして~。とっても楽しかったよ~!」
両手を合わせてほわわんと瞳は笑い返します。相変わらず癒しのオーラを振りまく、柔らかな笑顔です。
みんなで整理した物は、すべて観光に来たお客さんが作ったものでしたから扱いは丁寧に。それを終始意識し続けていたので気疲れはしてしまいましたが、貴重な体験をさせてもらいました。
普段は木ばかりと触れ合っている指先で土と触れ合う機会があるとは思っていませんでした。
蔵の中に入るのも当然初めてでしたから、興奮は未だに冷めません。
「あの蔵って沢山あるけど、大きいのひとつじゃダメなの~?」
指差す先にはかまくらのような小さな蔵が階段状の斜面にたくさん肩を並べています。
瞳の素朴な疑問でした。小さいのをたくさん用意するより、大きいのをひとつ用意した方がまとめて一括管理できますから、そっちのほうが楽だし確実だし、メリットがたくさんあるように思えます。
頬を掻いて、ヒーナは困ったように笑ってから答えてくれました。
「まあ気持ちはわかるッスけどね。あれは『登り窯』っていって、正確には蔵ではないんッスよ」
登り窯とは、陶磁器焼成用の窯のことで、一番下に火を起こす焚き口、一番上には煙突が付いていて、間に連なる小さな窯たちは連結しています。上に行くほど余熱の効果で高温になり、早く焼き上がるというもの。
こんなやり方を思いつくなんて、昔の人は発想力が違います。そして、そんな伝統のやり方を今代に至るまで綿々と受け継いできていることにも、瞳は感動を覚えました。
「そうだったんだ~。てっきり蔵かなにかだとばっかり思ってたよ~」
どことなく《ヌヌ工房》にある倉庫に似ていたので、勘違いをしていたようです。薄暗い感じとか、冷んやりした感じとか、そっくりですし何かを保管しておくにはうってつけの場所でしょう。
うっかりそんなことをしてしまった日には、炭か灰しか残らないので絶対にやめましょう。あるいは跡形もなく焼滅してしまうかもわかりませんでした。
「よかったら寄ってってくださいッス。手伝ってくれたお礼に、お茶くらいは出させて欲しいッス」
「うあ~い!」
瞳はクルクル回って喜びを表現します。若葉色のエプロンドレス風の制服がふわりと広がり、おおらかな瞳の心を表しているようです。
「ヒーナさんとヒジリさんも、お時間の方はだいじょうぶッスか?」
「うん、大丈夫だよ」
「……じょぶ」
「おっけーッス! じゃあちょっくら準備してくるんで、適当に待ってて欲しいッス!」
そう言うとヒーナは俊敏な動きでお店の中に入っていき、あっという間に姿が見えなくなってしまいました。まるで大昔に存在していたという『忍者』のようです。
もちろん瞳はヒーナの修業先を見にきたので、まずは早速お店の中へ。
ヒーナが消えて行った背中を追いかけるようにお店に入ってみると、まずは独特な土の匂いが鼻を突きました。どことなく埃っぽいような、でもそこまで不快感は感じない不思議な空間が広がっていました。
「ほえ~……なんかもっと茶色いのを想像してたよ~」
店内はほんのりと明るく、落ち着いた雰囲気でした。値段の貼られた陶器があちこちに所狭しと並べられていて、どことなくフリーマーケットのような乱雑さを感じます。
壺であったりお皿であったり、湯呑みであったり茶碗であったり。
形も色も多種多様なものが見る者の目を楽しませてくれます。
瞳はてっきり土から作るものだから土の色、茶色のものが多いと勝手に思っていたようです。もちろん全体的に見れば茶色いものが多いですが、他にも白であったり、着色されて青や緑の模様が走るものなどもありました。
「これなんかテカテカしてる~。どうやってるんだろ~?」
照明の光を反射して存在を主張するものもあり、指先で軽く撫でてみましたがツルツルとしています。元が粘土とはとても思えない滑らかさです。
「およよ~?」
お店の奥、扉で隔てて別の部屋では観光客が何人もいて、椅子に座り込んで一心に何かに打ち込んでいました。傍らにはお店の人が立って、アドバイスを囁いています。
それらに頷いて、また真剣に取り組み始めました。
「あれ、何してるんだろ~?」
気になった瞳はこっそりと部屋を覗き込んでみました。手前の、一番近い位置にいるお客さんの手元を凝視します。集中しているので覗いている瞳には気づいていませんが、あまり褒められたことではないので、良い子は真似しないようにしましょうね。
「……なんか目が回ってきた~」
お客さんの手元で、粘土が乗った丸い台がクルクルと回っているではありませんか。中心で固定されている粘土に手を添えて、肘を膝に当てて腕をしっかりと固定し、粘土をゆっくりと成形しているところでした。
右の親指を中央に押し込んでぐにゃりと変形。左の指で周りを押し上げ、徐々に器のような形になっていきます。
「お、お~ほ~……」
覗き込む瞳は無意識に変な声が溢れています。はたから見れば怪しい人ですが、観光客はやはり気づきません。お店の人も気づきません。目の前の粘土にとっても集中しているようでした。
「森井さん。あまり覗くのも失礼だから、こっちで待ってようね」
「あい~、そうしまふ」
見かねたヒジリが瞳の肩を掴んでくるんと方向転換。そのまま背中を押してお店の中ほどまで戻ってきました。
クルクル回る粘土を目で追いかけすぎて視界がクラクラと揺れます。粘土と目は回っていますが、呂律は回っていませんでした。
先ほど瞳が覗いていた部屋ではどうやら体験教室が開かれていたようです。
そこから戻ってきて、今一度乱雑に並べられた商品たちに目を向けました。
「なんかクルクル回ってるように見えるよ~?」
「気のせいだね」
「……です」
苦笑いで即答するヒジリに美星は頷きました。商品が回っていたら怪奇現象もいいところです。怪奇現象はこのお店の外見だけで充分間に合っています。
ほわわんと笑って「わかってるよ~冗談じょうだん!」と後ろ手に組んでゆっくりと店内を歩き始めました。美星は隣、ヒジリは後ろをついていきます。
食器類が目立ちますが、よく見てみると瞳が好きそうな小物なども置いてありました。小物ゆえ、食器の陰に隠れています。
「おや、君はだれかな~?」
目ざとく可愛らしい小物を発見した瞳は、隙間を縫うように指を伸ばし、摘み上げました。
瞳の目にはそれが動物であることはわかったのですが、あいにく水辺に生きる動物しか詳しくない瞳はそれがなんの動物なのかわかりません。
ピンと尖った三角の耳、顔も細長いですが、特徴的なのはおそらく尻尾で、なんと胴体と同じくらいの大きさがあります。
「……それ、なんです?」
美星も知らないのか、瞳の手元を覗き込んでは首を傾げました。
「う~ん、なんだろ~?」
見やすいようにしゃがんであげて、目線の高さに持ってきます。よくよく見てみても、その正体は二人にはわかりません。
「んあ、こっちにもある~」
「……ほんとです。あちこちあるです」
瞳の手の中にあるものと同じものがお店のあちこちに隠れんぼしていました。大きさはまちまちですが基本は小さく、形もポーズもいろいろあります。よくよく見てみると表情まで豊かで、なかなかに楽しませてくれます。
「ああ、それは――」
「――おやおや! さすが瞳さんもう見つけたッスか!」
首を傾げあっている二人にヒジリが声をあげると、それを上回る元気な声が聞こえてきました。
お店の奥に消えていったヒーナが戻ってきたのです。その手にはお盆があり、湯のみが人数分乗っかっています。
中に飲み物が入っているはずなのに、驚異的なバランスを保ったまま素早く近づいてきて、「どぞッス」とお盆を差し出してきました。
それを受け取り、手の平から伝わってくる冷たさを味わってから、舌でも味わいます。
冷たさがお腹の中を流れていく感覚を感じて「ほへ~……」と息をつく瞳を見ながら、ヒーナは言いました。
「さっき瞳さんが見つけたのは、『リス』っていう動物ッス」
「……りす、です?」
美星は小さく首を傾げて疑問符を頭の上に浮かべました。コクッと小首を傾げる姿はなんだか愛らしいです。
頷いて元気にヒーナが答えてくれます。
「はいッス。この森に住んでるリスはフクロウに次ぐ守り神として知られてるんッスよ! もともとは手の平に乗るくらいの小動物なんッスけど、進化の過程ででっかくなったッス!」
ちなみにフクロウももともとは肩に乗る程度の大きさだったのですが、森の大きさに適応して大きくなりました。両腕で抱えるくらいの大きさであるヌヌ店長でも、実は小さい部類です。
瞳が見つけた小物は、ヒーナの話によるとリスをモチーフとしたもののようですが、どうしてこのようなものがあちこちに置いてあったのでしょう? 疑問です。
「ちなみにだけど、森井さんが好きそうな毛並みだそうだよ」
「もっふもふ~?!」
「そう。もっふもふ」
爽やかに補足情報を教えてくれるイケメンです。リスについての情報でヒーナに先を越されてしまいましたが、イケメンの面目は保てたようです。
もっふもふ……と小さく呟いて小物をいじっていますが、粘土で出来ているのでもふもふしません。瞳は少し残念そうな表情を浮かべていますが、こればかりはどうしようもありません。
「会ってみたいな~リスさん……」
「瞳さんなら、もしかしたら会えるかもしれないッスね」
「そうなの~?」
「リスはとっても警戒心が強いんッスけど、瞳さん相手なら警戒しなさそうなんで」
「??? どゆこと~? なんで~?」
「いえいえ。こちらの話ッス!」
言っていることがよくわからず瞳は考え込むように視線をさ迷わせました。指先は跳ねた髪の毛をイジイジ、イジイジ。考え事をするときの癖です。
ヒーナは誤魔化すように手をブンブンと振って、にぱーっと笑います。ヒジリと美星は、同意するように密かにウンウンと頷いていました。
「まぁそんな感じで、森の守り神にあやかってこのお店も守ってもらおうってことで、余った粘土を使って作ってるんッスよ」
実は勝手にやってるんでバレたら怒られるかもしれないッスけどね。とヒーナは舌を出しました。
瞳や美星が割と簡単に見つけられたものですから、お店の人が見つけていないなんてことはないと思いますので、黙認しているのではないでしょうか。リスが守り神として有名なのであれば、それを咎めるのも悪い気がしたのかもしれません。
湯のみのひんやりしたお茶をみんなが飲み干すと、それを見計らっていたかのようなタイミングでヒーナは言いました。
「ところでみなさん! せっかくなんで、陶芸教室なんか、どッスか?」
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