JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

第12話 学園の七不思議①

歴史ある学校は、たいてい何かしらのオカルトな噂を抱えているものだが、桜ノ宮学園も例外ではなかった。
そう、たとえば–––––よくありがちな、「七不思議」などの。



「夏ですね!!というわけでこれから桜ノ宮の七不思議を探そうぜ!!」
いつにも増してノリノリな、裏では情報屋を営んでいる少女「三嶋 叶子みしまかなこ」は、拳を突き上げて叫んだ。
彼女のテンションがおかしいのはいつものことと知っている理央は、またかと言いたげにため息を吐いた。逆に、叶子のもう一人の友人・紗英さえは楽しそうにケラケラ笑っている。
「なーにー、またカナちゃんの悪いくせ?いい加減直しなよー」
「カナっぺって、普段からどっかヘンだよねぇ、おもしろーい」
「ふっふっふ、桜ノ宮にはオカルトな噂がけっこうあるって知ってた?夏だし興味あるっしょ?ねえー、一緒に探検しよーよー」
金に近い茶色のゆるふわヘアを揺らしながら紗英がハイハイと手を挙げて賛成する。今ドキっぽい外見とは裏腹に子どもじみたところのある紗英は、早くも参加する気満々だ。
「えー、私はパスしようかな。家族が心配するし……」
あまり遅くまで外に出て、裕臣に余計な心配を掛けさせるのは彼女の本意ではない。やんわりと断わろうとするが、しかし叶子は尚も食い下がった。
「えぇー、理央っちのビビリー!どーせお化けが怖いんでしょ!あーあ、空手段持ちのクセになっさけないなあ」
煽るように言い放たれ、普段は温厚を自称する理央も眉をピクピクさせる。しかも紗英まで叶子に乗っかってきた。
「えっ、理央ってお化け苦手なの?やっだ、ちょうウケるー」
にまにま笑う口元は、明らかにこちらを馬鹿にしていた。極めつけは、叶子のこの言葉だ。
「……ねえ、実は七不思議の中に『家庭科室』も入ってるって知ってた?」
家庭科室は、かのんにとっても理央にとっても大切な安らぎの場所だ。それを幽霊やお化けごときに汚されるのは我慢ならない。
そして、彼女は「学園の七不思議を探し隊」に入隊することになった。



もちろん大反対された。
「いけませーん!深夜の学校に潜入だって?許せるわけないだろう!」
プンスカとにべもなく不許可を出した裕臣に、理央はしょんぼりと肩を落とす。
「……そっか。もうすぐ卒業だし、最後の思い出作りに友達とちょっとした冒険するのもダメなんだね……。悲しいな、どう断わろうかな……」
潤む瞳をそっと閉じ、微かに声を震わせる少女のなんと儚く悲しげなことか。
思わず流されそうになる裕臣だが、さすがにこれはダメだと頭をブルブル振って彼女の作戦から逃れようとする。しかし相手は、旦那を操縦することにかけては天下一品の腕を持つ最強の奥さんだ。
ぎゅっ、と彼の骨ばった手を掴むとウルウルきらきら視線ビームと共に涙声で言い募る。
「お願いっ、今回だけでいいの……ゆるして、ねっ?」
ねっ、のところを砂糖菓子よりも甘ったるくさせると、裕臣は苦虫を何匹も噛み潰した顔で唸った。
「……ううむ。仕方ない、今回だけだぞっ!あと、電話にいつでも出られるようにしておくこと。それからちゃんと時間までに帰ってこいよ!」
「うん、わかった!……ありがとね、ヒロくん」
にぱーっと笑顔を見せ、少女はご機嫌でキッチンへ向かう。お許しのお礼に、今日は彼の好きなメニューを作ってくれるという。
こんなことならいつでもお願いしてくれてもいいのにな、と裕臣は思いながら椅子に腰を下ろした。



というわけで翌日の放課後。
西の空に照り輝く夕陽の赤が、煉瓦作りの校舎と周囲に広がる庭園を柔らかく染め上げている。夏特有の鮮やかな光が美しい風景を作り出していた。
翻って校舎の中に目を向ければ、茜色した長い廊下を三人の女子生徒が談笑しながら歩いていた。それぞれタイプは違うものの全員見目麗しい美少女である。
その中の一人–––––栗色の髪をさらりと肩口までの長さに切りそろえた、可愛らしい顔立ちの少女が不安げに辺りをキョロキョロ見回している。
「……ねぇ、ほんとに巡回の先生はいないの?っていうか、何時にこれは終わるわけ?」
「ダイジョーブだって。研究授業があるから先生たちはもう帰ったよ。……これから呑みに行くみたいだし」
「そうそう、遅くてもテッペンは超えないよーにするしさ!理央はもー心配しすぎなんだからあ!」
彼女の両隣を歩く、派手な顔立ちの美少女「紗英」とやたらと発育の良い大人っぽい顔立ちの美少女「叶子」の二人が揃ってフォローを入れる。
「えぇー、なんか信用しにくいなあ。まあ、いいか……」
ここまできたら、もう逃げて帰るのは彼女の矜持が許さない。最後まで付き合うしかないと腹を決め、理央は前へ進む。




その先に、とんでもないことが待ち構えているとも知らずに。
そして少女たちは未知の領域トワイライトゾーンへと向かうのだった。



……続く。

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