リアルの幼馴染みがこんなに萌えないものだなんて

石原レノ

2人で支えあってきたから

「うわぁ……広いねぇ…」
「……あぁ…広すぎるくらいだ」
俺と愛華は2人で遊園地に来ていた。時刻はまだ昼時。遊ぶにはちょうど頃合の時間だった。
「まずはどこに行く?」
隣を歩く愛華がそう言うと、俺はとりあえず浮かんだものを口に出した。
「…お化け屋敷……とか?」

「ひっ!」
バット俺の腕にしがみつく愛華。何ともまぁ愛らしい仕草である。
「うぅ……怖いなぁ…」
「愛華はこういう系の物は全面的に無理だもんな」
俺は別にお化け屋敷といった物は苦手ではない。要は本物でなければ怖くないのだ。
「兄さんよく平気だよね…ひゃっ!」
かれこれこのお化け屋敷に入って全部の仕掛けに驚く愛華。さぞかし仕掛け役の人達も嬉しい事だろう。
「こういうのは慣れだ。何回も行ってたら慣れるって」
俺がそう言うと、愛華は「そうかなぁ」と俺の腕にしがみつき、ビクビクしながらそう呟く。多分ご察しの通り愛華はこの後も度々出てくる仕掛け達に身を震わせていた。

「うぅ…太陽が眩しくて頭が痛い」
お化け屋敷から出て少し休憩をしていた。すぐ近くに売店が並んだベンチに腰掛け、辺りの風景を見渡す。
休日という事から、若者のカップルや家族連れがほとんどだった。
「(……俺と愛華も傍から見たらカップルなのかな……)」
ドクンと心臓が高鳴るのを感じるが、何とか押し殺す。
顔には出さないポーカーフェイスが瀧の得意技である。
でも―
「兄さん顔赤いよ?どうかしたの?」
愛華は俺のポーカーフェイスなどいとも容易く見破ってしまう。顔を近づけて俺の様子を伺う愛華に、俺は思わず目線をそらしてしまった。
「い、いや何でもない…それより何か買えたか?」
「うん。フランクフルトとアメリカンドッグとポテトだよ!」
「……コンビニみたいだな……」
と、小声でつぶやく瀧の言葉は愛華には届いていなかった。
「んーっ美味しいね!」
満面の笑みでそう言う愛華の顔を見てるだけで瀧は幸せだった。
たった1人の妹として、誰よりも一番好きなたった1人の異性として、瀧はこの上ない幸福感に浸っていた。
「さ、また回り始めるか…」
既に瀧は食べ終わり、愛華が食べ終わっ事を確認して声をかける。
「次はどこに行こっか?」
「んー……愛華はどこ行きたい?」
俺がそう問いかけると、愛華はしばし考えた。
「……じゃあ―」

「こ、ここは……」
瀧と愛華が行った場所は、瀧にとっては嫌な思い出しかない『メリーゴーランド』だった。
いつか超高速メリーゴーランドに乗せられ、嫌な思いをした覚えがある。
「……やっぱり…嫌かな?」
不安気な顔でそう言ってくる。
―これは断れない……―
愛華には滅法弱い瀧だった。

「楽しかったね兄さん!」
満足気な笑みで瀧の方を向く愛華。瀧は「あぁ」と余裕の顔だが、内心死にそうだった。
あの時の記憶がフラッシュバックしていたのである。
「兄さん顔色悪くない?」
愛華の気を使う一言にビクッと体を震わせる瀧。ここで無理をしたのがバレたらせっかくのムードが台無しになる。
「…い、いや別にそんな事はないぞ(-_-;)」
↑このように誤魔化しが下手くそな瀧だから、愛華には瀧が無理をしている事は丸分かりだった。
「…嘘だ」
「ほ、ホントだって!ほら!」
そう言いながらハキハキと体を動かしながら誤魔化す瀧に、愛華は呆れながらも微笑んでいた。
「ふふっ。変なの…」

「ねぇ愛華さん…本当にこれ乗るの?」
「うん!だって私乗りたいもん!」
乗り気でない瀧と愛華が居るのはジェットコースターの前。こういう絶叫マシンが嫌いな瀧に対して、こういうのが大好きな愛華である。
「………………俺は―」
「さぁ行こう兄さん!」
立ち去ろうとした瀧の腕をガシッと掴む瀧。
瀧の足は歩こうとしているのに、どうも前に進まない。
……行くしかないのだ。
「お、ぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉおお!」
↑ジェットコースターでの瀧である。

「楽しかったなぁ!ね、兄さん!」
無邪気な子供の様な顔をしながらそう言ってくる愛華。
「あ、あぁ…そ、そうでふへぇ…………」
半ば死人状態の瀧。ここまで来てはもう誤魔化すことさえも出来ない。
「さぁ次行こう次!」
先程のジェットコースターでテンションが上がったのか、愛華はいつにも増して乗り気である。こんな愛華を見るのは久しぶりの瀧。断ることも出来ずに、半ば死人状態のままその場を後にした。

それからは絶叫マシン中心でアトラクションを回って行った。
一つ、また一つと、こなして行くうちに瀧はもはや屍の様になっていた。愛華はそんな瀧を連れ回す形で遊園地を満喫していった。
屍状態の瀧も、こんな愛華を見るだけで、何だかドラ〇エでいうザ〇リクを死んで直ぐにかけられているような気分…………つまり楽しかった。

そして夕時。
「っはぁー楽しかったー!」
満足気な顔をしながら背伸びをする愛華。瀧と愛華が居る遊園地は夜も営業しているので、辺りは各アトラクションのライトが暗くなり始めた空を照らしていた。
「あぁ……楽しかったな……うぷ」
屍状態から独状態に回復(?)した瀧は、まじまじと愛華の顔を見つめた。
「…私の顔に何かついてる?」
若干頬を赤く染めながらそう言う愛華。
瀧はニヤァっとしながらちょっかいを出した。
「やっぱり俺の妹は可愛いと思ってな」
「なっ―」
ボッと真っ赤になる顔。愛華はこういう攻撃に対しては全くの無免疫なのである。
「っもう!急に何言うの!」
お互いの事を知って、こうやって接する。普通の兄妹でもここまではいかないなと瀧は思った。愛華だから、愛華じゃないとここまでの事は出来ない。
あの日に決めた『ずっと側にいる』という目標はある意味愛華の為じゃなくて自分自身の為かもしれない。
「……もしあの時、ここに来てたら―」
不意に愛華がもじもじと口を開く。
「…あぁ」
愛華が言う『あの時』とは、幼い時の交通事故の事だろう。あの時愛華は本当の家族と遊園地に……【ここに】来るはずだったのだ。
「私は兄さんとこんな風になれなかったんだね……」
優しい笑みは悲しみを含み、その表情を可憐なものにさせる。瀧は溢れ出しそうな感情を全て押さえつけた。
「どうだろうな。俺はあの時から愛華の事は好きだったぞ?」
瀧がそう言うと愛華はムッと不機嫌な顔をする。
「もう…また兄さんはそうやって私を―」
「1人の異性としてな…」
目を見開く愛華。驚いた様な表情を浮かべる愛華をよそに、瀧は続けて口を開いた。
「……長い恋だったな…愛華の事が好きだって気付いたのはそんなに最近じゃないんだ……でも―」
瀧は腰掛けていたベンチから立ち上がり、愛華の大好きな表情をとる。
「ここまで好きでいられたのは愛華が大切だからだ」
……ずるい。
兄さんはたまに何も返せないような表情をとる。
優しくて私の一番好きな表情。兄さんがこんな顔をした時は言葉が詰まってしまう。
「……っ」
ほら。顔が熱くて、赤くなってるのかな?恥ずかしいな……。言葉が出ないや。
「わ…わたしは―」
「愛華」
俯きざまに口を開くと、兄さんに私の言葉は遮られた。
ゆっくり顔を上げると、兄さんは私に手を差し伸べている。
私はゆっくりと兄さんの手を握った。
「っ!?」
ガバッと腕を引っ張られ、兄さんに抱きしめられる。
兄さんの香り、心臓の鼓動、視界は遮られ、周りの状況がよく分からない。
「俺は腰抜けだから、こんな風にしか愛華が好きだって表現出来ないんだ…驚かせてごめんな」
「………私は…」
胸が張り裂けそうな思いに、思わず目を瞑ってしまう。言ってしまいたい。兄さんの事が私は好きだって言ってしまいたいのに、何故か言葉が詰まって出てこない。
「愛華…」
もう何度目になるだろうか。兄さんはぼそっと私の名前を呼んだ。
「…?」
顔を上にあげ、疑問を浮かべたような表情をとった私を確認して、兄さんは口を開いた。
「俺は恋人が欲しいわけじゃないんだ…。いつでも会えなくて、会うときはお互いの予定を空けとかなきゃいけない。会いたい時に会えない恋人ってのが俺はあまり好きじゃないんだ…」
「…それって―」
今の兄さんの言葉で、どこかに詰まっていた何かが取れそうな気がした。兄さんは普段滅多に見せない表情でこう言った。
「俺は愛華と家族になりたい」
その言葉と共に、愛華の詰まりは消えていった。涙が自分の頬を伝わり、止まらない。
ポロポロと出る涙を瀧の胸に顔を埋める事によって隠したが、意味の無いこと。
瀧は優しく手で愛華の頭を撫でた。
「……愛華は俺の事嫌いか?」
「……きらい…じゃないよ」
泣いたせいで上手く言葉が出ない愛華に、瀧はなおも優しい笑みを浮かべる。
「愛華は俺の事―」
「待って」
瀧の腕から離れ、瀧と少し距離をとる愛華。
目尻の涙を拭い、瀧の顔を真っ直ぐに見つめる。
「…私は兄さんの事が好き。誰よりも一番大切だって思ってたよ。私が困った時は笑顔で助けてくれたし、私はそんな兄さんに甘えてた…だから私は、兄さんと兄妹なんて絶対に嫌……私は―」
愛華と家族…兄妹になって長い年月がたった。色んな事もあったけど2人で乗り越えてきた。愛華がいれば、兄さんがいれば。
そう思いながら、互いに言いながら支えあってきた。
兄妹なんて絶対に嫌。
だってそれじゃいつまでたっても兄妹のまま終わってしまう。私は―
「…私も兄さんと家族になりたい」
佐々波瀧はラブコメの『幼馴染み』というジャンルが大好きだ。結ばれるまでの過程を見ているとこっちまでワクワクしてくる。それが好きだ。
幼馴染みだった女の子が妹という存在になり、今こうやって兄妹や両親とは違った『家族』になろうとしている。
瀧は愛華の元へ1歩寄り、愛華へと手を伸ばした。

「朝だよ!遅刻しちゃうって!」
「んー……あ、やべぇ!」
ドタバタと階段を降りてきた瀧は、愛華の用意してくれた朝食のパンを加えたまま玄関へと駆け抜けた。
「支度は住んだの?」
「あぁ。こういう事もあろうかと前日にバッチシしておいたぜ!」
「何か悲しいな…予想してたんだ」
呆れ顔で苦笑する愛華の方へ向き、満面の笑みを浮かべる瀧。愛華は一変して頬を赤く染めた。
「初出勤行ってらっしゃい!瀧くん!」

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