日本産魔術師と異世界ギルド

山外大河

23 SランクVSランク外 上

「……ッ」

 跳びかかってきたキースの蹴りをサイドステップで交わす。
 俺の隣を通り過ぎたキースに合わせて蹴りを放つが、何かしらの術で僅かに浮き上がったキースの体の真下を右足が通過し、蹴りの隙を突く様にキースの手からキューブ状の白い何かが放出される。
 それをなんとか地を蹴って回避……したと思った所で、キューブが床に着弾した瞬間に砕け散り、中から散弾が俺に向かって放たれる。

「グ……ッ」

 一発左手に貰った……だけど、軽傷だ。
 ……今度は、こっちから仕掛ける。
 足が地に着いた瞬間、再び地を蹴り、同じく着地したキースに向かって突っ込む。
 そして放つ右拳。

「なに……ッ」

 身を捻られて、躱された。
 躱されて……掴まれた。

「……ッ」

 拳を放った右腕の袖を左手で掴まれ、そのまま右手で襟首を掴まれた。
 そうして放たれるのは……俺の勢いをりようした背負い投げ。
 いや……違う!

「く……ッ」

 途中で手を離され投げ出された。
 本命は……投げた瞬間踏みこんで来た直接攻撃。
 地に足が付くよりも拳の方が早い。躱す事は不可能。
 だったら……どうする?
 決まってる。反撃に打って出るべきだ。

 現状、俺が使えるもう一つの戦闘用魔術。発火術式。
 コイツを……ゼロ距離で叩きこむ! 
 だがしかし……一筋縄ではいかない。
 炎を放った瞬間、俺とキースの間に薄い何かが展開されているのが分かった。
 結界。それは発火術式で燃やしつくせるが、例え薄くても結界を焼き尽くすには僅かながら時間が掛る。
 故に、その攻撃は止められない。

 渾身の、シールドチャージ。
 否……実質的にそれは、ショルダータックル。

「ガハ……ッ」

 真正面から直撃。
 激痛と共に後方に、大きく吹き飛ばされた。
 次の瞬間、突然視界に移る景色が変わる。
 迷いの森の効果が発動して、恐らくは俺達が集まっていたのとは違う、大きな会議室へと転移した。

「……ッ」

 床を転がりながら、なんとか地に足を付け、後方に大きく跳躍。シド達が別の部屋へと再移動している事を確認しながら、キースとの距離を取る。

「ハァ……ハァ……」

 息が、荒い。冷や汗が滴り落ち、頭部からは血液が流れ出す。
 今の一瞬で、一気にやられていてもおかしくなかった。
 ……落ち着け、呼吸を整えろ。
 俺は改めて、今にも跳びかかってきそうなキースを見据える。
 相手はS級。こっちは出力は高くてもベースは最低クラス。
 出力が勝っていたとしても、戦闘経験。使用できる術式の数。ランク。戦術に技能。すべてにおいて俺は劣っていると考えた方が良い。当然の事だ。

 だとすれば……どうやって、俺は戦えばいい?

 次の瞬間、キースが魔法陣の展開と共に天井に向け手を振り上げる。
 その手から放たれたのは、先程よりも一回り大きいキューブ。その数六つ。
 空中で破裂したキューブからは複数の小型キューブが三つずつ放たれ、それらが再び空中で破裂。中からは先程の様な白い何かが放出される。
 地面にバウンドする様に跳び回ったその白い何かに対し身構えたが……やってきたのはたったの数発。
 六×三×α。それだけの内の多くが無駄弾になった?
 ……そんな訳が無いだろう。

 その予想は、間違いなく正しい。S級だとか言われる連中が扱う術が、この程度の結果しか残せない訳が無い。
 ……はっきりとした意図がある。それは解りきっていた。
 そして思い出す。こういう光景を、俺はかつてテレビで見た事がある。
 それと同系統の術式だとすれば……覚悟を決めるしかない。
 文字通り……何かが来る!

 そう思った次の瞬間には、目の前にキースの姿があった。

 あの術式は、攻撃する事が目的の物ではない。否、一定以下の術力者ならば攻撃用となり得るが、それ以上になれば補助用として成り立つ術式。
 飛ばしたキューブ。及び散弾の軌道で疑似的に魔法陣紛いの物を作りだし、疑似的に魔術を発動させる。だが扱いや発動までにキューブ展開という時間が掛るだけあって……その効力は、絶大だ。
 故に彼は目の前に居る。
 強化された動体視力を持ってしても、殆ど見えなかった様な速度で、目の前に居る。

 そして腹部に激痛。もろに喰らったアッパーカットで体内の空気が口から漏れだし、そして俺の体は天井に突きあげられる。
 発動した術式は、シンプルに肉体強化。その猛威はまだ終わらず、落下してきた俺に追い打ちを掛ける様に蹴りを叩きこんで来た。
 咄嗟に左腕で頭部を守る。そして次の瞬間には左腕が嫌な音と激痛と共に、変な方向に曲がって居た。

「う……ガ……ッ」

 そのまま勢いよく蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。
 全身に、激痛が纏わりついていた。左腕は、今の一撃で間違いなく折れている。
 ……それでも。

「……のやろう」

 俺はゆっくりと、立ち上がる。
 まだ、体は動いた。立ち上がれた。まだ……戦える。
 こうしてみると、俺の肉体強化は攻撃よりも防御に割を持っていかれているのかもしれない。
 思い返せば、佐原との喧嘩の際も、俺の体は思ったより佐原の攻撃を耐えていたからな。
 まあどちらに割が持っていかれていようが、変わらない。
 俺がやるべき事は、変わらない。

 キースと渡り合える。
 アリスは、そう言ってくれた。

 ……だったら渡りあえよ。

 その為に……どうすれば勝てるか、考えろ。
 でも、そもそも……俺に色々な策を用意する技量なんてのは、まだない。
 現時点では、まだ真っ正面からぶつかる事位しか出来ない。
 ……だったら……もう、それでいいだろ。
 かっこいい戦い方じゃないかもしれない。泥臭い戦い方かもしれない。
 だけど現状それしかできないのならば、それに全力を注げ。

「……今度は、こっちからいくぞ、キース」

 再び、床を蹴った。
 勝つために。折れた左腕すらも酷使する覚悟を決めて。
 始めよう。唯のシンプルな、殴り合いを。

 さあ、泥試合の始まりだ。

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