双眸の精霊獣《アストラル》
#5 高速の獣【4th】
「レグ、ルス……?」
鳥山先生は衰えた声音で、奴の名を呼ぶ。
だが奴――レグルスは、不敵に笑む。
「ハヤテ、てめェはもう用済みだァ。ここで仲良く死んじまいなァ!」
ずっと隠していたレグルスの本性が、まさかこんな野郎だったなんて。
こいつは一体、何のためにそんなことを。
「レグルス。あんたは何で、鳥山先生と契約したんだよ? あんたが鳥山先生の町を襲ったのなら、契約する必要はねぇだろ」
やっぱり、まずはそれについて訊かないと。
レグルスは、めんどくさそうに答える。
「あァ? ンなもん、面白ェからに決まってんだろォ。ピーピーピーピー情けなく泣いてたからよォ……利用してやろうかってなァ! それにずっと仲間なんてくだらねェことを考えてたハヤテに本当のことを話したとき、どんな絶望を感じてくれるか楽しくてよォ……くくッ」
レグルスは、突然不気味に笑い出す。
ふざけてやがる。鳥山先生のことを、何だと思ってるんだ。
「お前、いい加減にしろよ。人を絶望に追い込んで、何考えてんだよ!」
「はァ? てめェ何言ってんだァ? 他人の絶望ってのはなァ、人生最大の快感じゃねぇかァ! 絶望に歪む顔を見るだけで……くくッ、たまんねェ」
こいつ、狂ってやがる。
絶望なんて……もう二度と、感じたくない。他人にも、見せたくない。
なのにこいつは、わざと他人に絶望を見せようとしてるってのか。自分の、快感のために。
まったく、ふざけた話だ。
「あァー、そうそう。オレたちをつくった研究者どもを殺したのも――オレだぜ」
「――ッ!」
ずっと無言だったシャウラが、レグルスの言葉を聞いて驚愕に目を見開く。
そして、憤然として叫ぶ。
「あんた……ッ! 何でそんなことしたのよ! 確かに許されるような人じゃないけど、それでもあたしたちのパートナーでしょうが! 恵の、両親でもあるのよ……ッ!」
その瞳からは、涙の雫が零れている。
在りし日のことを思い出して、悲しくなったんだろう。無理もない。
自分のパートナーにまで手をかけた理由は、やっぱり絶望なのだろうか。
「あァ? だから何だよ。ンなの知ったこっちゃねェ。自分のパートナーに殺されるってときのジンやトクの絶望を楽しんだあと、どうでもいいてめェら他の精霊獣どもを捨ててやったんだよォ!」
ああ、もうダメだ。今の一言で、完全にキレた。
レグルスは、あの絶望が分からないからそんなこと言えるんだ。
「……て、めぇは……」
腹に溜まっていた痛みや悲しみを全て吐き出すかのように、叫ぶ。
「てめぇは! 捨てられたやつの気持ちを、考えたことあんのかよッ!? ふざけんじゃねぇぞ! お前の勝手な都合で、人を捨てたり殺したりしていいわけねぇだろうがッ」
それは、レグルスに対してだけじゃない。昔の、両親へ言いたい言葉でもあった。
鳥山先生もついに本性を表したレグルスに愕然として、言う。
「レグルス……どういうことだ。お前は、一緒に来いと言ってくれた。一人になった俺を、救ってくれたじゃないか!」
「んあ? オレもちょうどパートナーがいなくなった頃だったからなァ……てめェを利用させてもらっただけだ。深い復讐を持ってるお前なら、都合が良かったんでなァ」
「そん、な……」
鳥山先生が復讐心を持ったのも、精霊獣を滅ぼすなんて考えたのも全部――レグルスのせいじゃないか。
レグルスは、吐き捨てるように続く。
「んで、ハヤテ。てめェはもう、用済みだァ!」
「……ッ! あぐッ!」
レグルスが蹴り、鳥山先生が勢いよくぶっ飛ばされていく。
「先生!」
俺が近くへと駆け寄ると、鳥山先生の頭部から血が垂れていた。
鳥山先生は、レグルスのパートナーだ。ずっと、仲間だったんだろ。
なのに、何だよこの仕打ちは。レグルスだけは、どうしても許せない。
「それとなァ、五十嵐ィ。他人が苦しもうが死のうが、関係ねぇんだよォ!」
狂気の眼差しで、レグルスはほざく。
孤独から救い出してくれたと思っていたレグルスが、本当はこんなやつだったなんて。鳥山先生の気持ちを、踏みにじりやがって。
「レグルス! お前は、絶対に許せねぇ!」
「ザコが粋がってんじゃねェぞッ!」
海聖学園の、屋上。
扉の前には、傷が癒えたもののぐっすりと眠っている中篠と、その傍らで心配そうに見守っているシャウラ。
鳥山先生は、自分のパートナーの性根に、あまりのショックで立ち直れていない。
この状況で、誰がレグルスを止められる?
……俺しか、いない。
「おい、まさかオレに勝てるとか思ってんじゃねェだろうなァ! ハヤテなんかいなくたってよォ……てめェ一人くらい楽勝だァ」
レグルスがそう言った――直後。レグルスが忽然と姿を消した。
いや、消えたんじゃない。
俺は察して後ろを振り向くが、既に遅かった。
「おらよッ!」
レグルスのそんな掛け声とともに頬に激痛が走り、ぶっ飛ばされてしまう。
かなり、速い。瞬間的に俺の背後に回り込んで、頬を殴ってきやがった。
ちくしょう、すごく痛い。
「そういやァ、まだてめェには言ってなかったけかァ? オレの種族をよォ」
レグルスの、種族だと?
訝しむ俺をよそに、レグルスは言い放つ。
「オレはチーター。陸上で最も速ェ生き物だッ!」
鳥山先生は衰えた声音で、奴の名を呼ぶ。
だが奴――レグルスは、不敵に笑む。
「ハヤテ、てめェはもう用済みだァ。ここで仲良く死んじまいなァ!」
ずっと隠していたレグルスの本性が、まさかこんな野郎だったなんて。
こいつは一体、何のためにそんなことを。
「レグルス。あんたは何で、鳥山先生と契約したんだよ? あんたが鳥山先生の町を襲ったのなら、契約する必要はねぇだろ」
やっぱり、まずはそれについて訊かないと。
レグルスは、めんどくさそうに答える。
「あァ? ンなもん、面白ェからに決まってんだろォ。ピーピーピーピー情けなく泣いてたからよォ……利用してやろうかってなァ! それにずっと仲間なんてくだらねェことを考えてたハヤテに本当のことを話したとき、どんな絶望を感じてくれるか楽しくてよォ……くくッ」
レグルスは、突然不気味に笑い出す。
ふざけてやがる。鳥山先生のことを、何だと思ってるんだ。
「お前、いい加減にしろよ。人を絶望に追い込んで、何考えてんだよ!」
「はァ? てめェ何言ってんだァ? 他人の絶望ってのはなァ、人生最大の快感じゃねぇかァ! 絶望に歪む顔を見るだけで……くくッ、たまんねェ」
こいつ、狂ってやがる。
絶望なんて……もう二度と、感じたくない。他人にも、見せたくない。
なのにこいつは、わざと他人に絶望を見せようとしてるってのか。自分の、快感のために。
まったく、ふざけた話だ。
「あァー、そうそう。オレたちをつくった研究者どもを殺したのも――オレだぜ」
「――ッ!」
ずっと無言だったシャウラが、レグルスの言葉を聞いて驚愕に目を見開く。
そして、憤然として叫ぶ。
「あんた……ッ! 何でそんなことしたのよ! 確かに許されるような人じゃないけど、それでもあたしたちのパートナーでしょうが! 恵の、両親でもあるのよ……ッ!」
その瞳からは、涙の雫が零れている。
在りし日のことを思い出して、悲しくなったんだろう。無理もない。
自分のパートナーにまで手をかけた理由は、やっぱり絶望なのだろうか。
「あァ? だから何だよ。ンなの知ったこっちゃねェ。自分のパートナーに殺されるってときのジンやトクの絶望を楽しんだあと、どうでもいいてめェら他の精霊獣どもを捨ててやったんだよォ!」
ああ、もうダメだ。今の一言で、完全にキレた。
レグルスは、あの絶望が分からないからそんなこと言えるんだ。
「……て、めぇは……」
腹に溜まっていた痛みや悲しみを全て吐き出すかのように、叫ぶ。
「てめぇは! 捨てられたやつの気持ちを、考えたことあんのかよッ!? ふざけんじゃねぇぞ! お前の勝手な都合で、人を捨てたり殺したりしていいわけねぇだろうがッ」
それは、レグルスに対してだけじゃない。昔の、両親へ言いたい言葉でもあった。
鳥山先生もついに本性を表したレグルスに愕然として、言う。
「レグルス……どういうことだ。お前は、一緒に来いと言ってくれた。一人になった俺を、救ってくれたじゃないか!」
「んあ? オレもちょうどパートナーがいなくなった頃だったからなァ……てめェを利用させてもらっただけだ。深い復讐を持ってるお前なら、都合が良かったんでなァ」
「そん、な……」
鳥山先生が復讐心を持ったのも、精霊獣を滅ぼすなんて考えたのも全部――レグルスのせいじゃないか。
レグルスは、吐き捨てるように続く。
「んで、ハヤテ。てめェはもう、用済みだァ!」
「……ッ! あぐッ!」
レグルスが蹴り、鳥山先生が勢いよくぶっ飛ばされていく。
「先生!」
俺が近くへと駆け寄ると、鳥山先生の頭部から血が垂れていた。
鳥山先生は、レグルスのパートナーだ。ずっと、仲間だったんだろ。
なのに、何だよこの仕打ちは。レグルスだけは、どうしても許せない。
「それとなァ、五十嵐ィ。他人が苦しもうが死のうが、関係ねぇんだよォ!」
狂気の眼差しで、レグルスはほざく。
孤独から救い出してくれたと思っていたレグルスが、本当はこんなやつだったなんて。鳥山先生の気持ちを、踏みにじりやがって。
「レグルス! お前は、絶対に許せねぇ!」
「ザコが粋がってんじゃねェぞッ!」
海聖学園の、屋上。
扉の前には、傷が癒えたもののぐっすりと眠っている中篠と、その傍らで心配そうに見守っているシャウラ。
鳥山先生は、自分のパートナーの性根に、あまりのショックで立ち直れていない。
この状況で、誰がレグルスを止められる?
……俺しか、いない。
「おい、まさかオレに勝てるとか思ってんじゃねェだろうなァ! ハヤテなんかいなくたってよォ……てめェ一人くらい楽勝だァ」
レグルスがそう言った――直後。レグルスが忽然と姿を消した。
いや、消えたんじゃない。
俺は察して後ろを振り向くが、既に遅かった。
「おらよッ!」
レグルスのそんな掛け声とともに頬に激痛が走り、ぶっ飛ばされてしまう。
かなり、速い。瞬間的に俺の背後に回り込んで、頬を殴ってきやがった。
ちくしょう、すごく痛い。
「そういやァ、まだてめェには言ってなかったけかァ? オレの種族をよォ」
レグルスの、種族だと?
訝しむ俺をよそに、レグルスは言い放つ。
「オレはチーター。陸上で最も速ェ生き物だッ!」
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