双眸の精霊獣《アストラル》

果実夢想

#4 悪意に満ちた人造【4th】

 そして期末テスト当日。

 いつも通り、午前七時過ぎに起床する。

 寝起きでダルい体を無理矢理起こし、俺は高等部の制服にのそのそと着替える。学校指定の鞄に持っていくものを入れ忘れていないか確認し、準備万端だ。

 俺が通っている私立海聖学園では、小中高と同じ日に三日間テストが行われる。それからおよそ二日後に、テストの総合得点と各教科の点数、更に一位から最下位まで学年順位が発表されてしまう。

 下位の人は見られるだけで恥ずかしいだろう。なのにその上、三百人いる学年生徒の中から、二百位以下の者全員には補習が待っている。しかも参加は強制。

 今まで俺は百位前後だったから経験したことはないが、どうやらその補習で配られるテストと類似したプリント九教科分(テストの点数と比例して枚数も変わる)を、一枚五十点以上取らなければ一向に終えられず毎日続くらしい。

 なので、みんなはテストが近づくと必死に勉強するのだ。各教科全部五十点取ればいいのか。二百位以下の人にとっては確かに難題かも。

 ……大丈夫。最近色々と忙しくてあまり勉強ができなかったとはいえ、中篠やシャウラに協力してもらったんだ。

 帰る時間が遅くなって修行する時間もなくなるため補習は嫌だが、さすがにそこまで悪い結果にはならないと思う。

 補習があるのは中等部と高等部だけで、初等部はたとえ二百位以下になっても補習を受けない。

 まぁ、あやめは毎回二十位以上だから心配無用だ。

 ちなみに、当日に体調不良などで休んだ者や、テスト中に体調が悪くなったりとかでその教科分のテストを最後まで受けなかった場合は零点扱いとなる。病気なら仕方ないだろうにね。まさに外道。

 ともあれ、全力を出せば補習は免れるはず。

 自分にそう言い聞かせながら下の階に降り、洗顔をして歯を磨く。さっぱりしたところで、リビングへ向かう。

「あ、おはようございます、蓮さん。今日テストでしたよね、頑張ってください」
「サンキュ、頑張るよ」

 いきなり、リビングの椅子に座っていたミラに挨拶と応援の言葉をもらった。結構嬉しいもんだな。

 と、そこで虚ろな目をこすりながら、初等部の制服姿に身を包んだあやめがリビングへやって来る。

「兄貴ぃ……おはよぉ……」
「おはよ。ちゃんと顔洗ってこい」
「うん……」

 ぼやけた脳でなんとか俺の言葉を認識してくれたようで、あやめはおぼつかない足取りのまま洗面所に行く。

 その間にご飯を作っておくか。

 そう思いエプロンを身に着け、台所に立つ。

 気づけば、ミラと契約してからもう既に二週間以上経ってるんだな。最初は命に係わるほど危険なことなんて当然嫌だったけど、ミラと過ごしているうちにどうやってでも守ってやりたくなった。

 やっぱりロリは偉大だね。何より幼女との同棲は最高です。出来るなら死ぬまで一緒にいたいよ。

 ……何だかプロポーズみたいになってしまったが、これも全部ミラが可愛すぎるのが悪い。

 前聞いたところによると精霊獣は年を取らないらしいし、将来も幼いミラを愛でていられたらいいな。

 でも。精霊獣って、何で━━。

 なんて考えているうちに今日の朝食は完成。目玉焼きとか白米とかウインナーとかポテトサラダとか味噌汁とか超典型的だな。

 出来上がると、ちょうどタイミングよくあやめが戻ってくる。どうやらスッキリしたようだ。

「兄貴ぃ、今日帰ってきたら話すよぉ」

 料理をテーブルに置いている途中、あやめが言う。

 そういえば、テストの日最近悩んでいたわけを話してくれるという約束をしてたな。こっちはてっきり忘れてしまっていたのに、話してくれるみたいだ。

 なら、俺はしっかりと最後まで聞いてあげよう。

「あぁ。分かった、ありがとな」

 素直に礼を言うと、あやめは何故か恥ずかしそうにはにかむ。もしかして恥ずかしいことなのだろうか。

 ……まぁ、いいや。

 他に大して話題はなく、三人は黙々と朝餉を口に運ぶ。

 うん、いつもと変わらず美味しくできている。目玉焼きには醤油派ソース派とかあるけど、個人的には塩胡椒が一番だと思うぞ。

「蓮さん、何時頃に帰ってきそうですか?」

 不意に、ミラが訊ねてくる。

「三時間目までだから、多分十二時くらいじゃないかな」
「そうですか、分かりました」

 そして再び無言になる。ごめんね、話題作りとか恐ろしく苦手なもので。

 食べ終わると食器をシンクに持っていき、洗う。子供二人はまだ食べている途中だ。のうのうと玩味している幼女、ものすごく可愛い。

 あやめの初等部よりも、俺の高等部のほうが授業が始まる時間は早いので、そろそろ行くか。

「んじゃ行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいです。頑張ってください」
「ひってらっはーいぃ」

 学校指定の鞄を肩にかけて告げたら、ミラはわざわざ箸を置いてから、あやめは口の中に米を詰め込んだまま挨拶を返してきた。


 俺はまだ、知らなかった。

 生涯忘れることのできない一日になるなんて。

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