双眸の精霊獣《アストラル》

果実夢想

#4 悪意に満ちた人造【2nd】

 夜。気づけば、窓から覗く外は暗い。

 途中でお菓子を食べたりゲームをしたり休憩はあったものの、かなりの長時間が経過している。疲れたよ。

 勉強道具を片付け終わった途端、あやめはぐったりと横になってしまった。

 シャウラはまだまだ元気いっぱいで、夕飯を作るとか言って下に降りていった。中篠もまったく疲れている気配はなく、エロ本らしきものをまた読んでいる。こいつらは凄いわ。

 ちなみにミラはずっと見ているだけだったんだが、楽しかったのだろうか。

 中篠が素早く解答を言い、シャウラが解説をする。本当に最高のコンビだと思わざるを得なかった。

 この様子だと、期末テストは問題ないな。いつもより上位に入るかも。赤点さえ免れたらそれでいいんだけどね。

 ところで、今気になっているものが三つほどある。ミラたち精霊獣に関することと、シャウラに関すること、更に鳥山先生にかかずらうこと。

 訊いてみたいとは思うんだが、機会がないというか……勇気がないというか……。だから、未だ聞き出せずにいた。

 でも、もういいや。本当に些細だし、分からなくても困りはしないだろ。

 と、エプロンを身に纏ったシャウラが再びこの部屋に入ってくる。

「どんぶりにするわ。あんたらは何丼がいいの? 何でもいいわよ」

 なるほど、どんぶりか。どうしようかな。そういや飯はいつも俺が作っていたから、他人の料理を食べるのは久しぶりだ。

「じゃあ、カツ丼、かな」

 俺が一番好きなどんぶりを答えると、すかさず中篠が口を挟む。

「……何故親子丼じゃないの」
「それは下ネタなのか? 違うよな、違うと言ってくれ」
「……ふっ」
「無表情なのに鼻で笑うなし!」

 こいつはただ下ネタが言いたいだけだよな、絶対。いくら本人たちは意味が分かっていないとはいえ、幼女もいるんだから自重しなさいよ。

 俺は本来ボケたい人なのに、中篠がボケるからついつっこんでしまう。シャウラもジト目になっていないで、つっこんでやってくれ。

 俺のカツ丼のほか、中篠はやはり親子丼、ミラは牛丼、あやめはうな丼、シャウラは天丼と見事に被らなかった。

 下の階に降りてリビングへ向かい、シャウラが料理をしている間椅子に座ってテレビを見ながら待つ。

「ほら、できたわよ」

 すると、シャウラがお盆の上に人数分のどんぶりを乗せて来た。そして、俺たちの目の前に置く。

 それにしても、よくこんなにたくさんのどんぶりがあったな。予め買っておいたのだろうか。

 ともあれ、カツと米を同時に口へ運ぶ。

 カツはすごく肉汁がジューシーで、米はほかほかもちもちとしている。感想なんて、美味しい。この一言で充分だ。

 料理をする身としては、ちょっと悔しいかも。

 他のやつも食べてみたいところだが、あんまり欲張っちゃダメだよね。

 みんなが同様にその旨味に堪えられず、自然と恵比寿顔になっているのを見て、シャウラは自信あり気にほざく。

「ふふん、どうよ」

 正直、ここまで料理が得意だとは思わなかった。レストランを開いても問題ないんじゃなかろうか。

「うん! 兄貴のごはんに負けず劣らず美味しいよぉ!」
「へ? あんた、料理できるの?」

 口の中を米粒と鰻でいっぱいにしてあやめが喋ると、シャウラが怪訝な表情で問う。我が妹よ、行儀悪いぞ。

「できるけど……お前には負けてるよ」

 素直にそう言ったら、何故か食い下がってくる。

「でも、負けず劣らずなんて言われたままにしてられないわ! 明日の朝食はあんたが作りなさい! 勝負よ!」
「……何でだよ」

 意外と負けず嫌いなんだね。まぁ、作るのは別にいいので、明日は俺が作ることとなった。

「兄貴のもすごく美味しいんだよぉ?」
「そうです! まるでプロのシェフみたいなんですから!」
「むぅ」

 ちょっとちょっと、君たち。あんまりハードルを上げないで。シャウラもそんな可愛らしく頬をふくらませないで。

「……そう。五十嵐君のそれは美味しいの?」
「お前はさりげなく下ネタ言ってんじゃねぇよ! 股間見んなし! もし俺がもっと変態で、お前の下ネタに乗ってヤっちまったらどうするんだ」
「……殺す。通報する」
「だったら自重しろよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 どうして殺すが先なのかは放っておく。下ネタに乗るつもりはないが、念のため訊いてみたら当然の回答。でも、一応美人な女の子なんだし、下品なことは控えていただきたく思います。

「恵には無駄よ。昔あたしも似たようなことを話したけれど、ただ下ネタが言いたいだけみたいだわ」
「だろうな……」

 なんて会話をしたせいでげんなりはしたものの、とりあえず完食する。

 と、シャウラがみんなの食器をシンクへ運び、洗う。中篠は家事しないのかね。というかできないのかもね。

「じゃあそろそろ風呂にするわよ」

 どうやら洗い終えたらしいシャウラがそう告げ、今度は風呂場へと向かう。忙しすぎだろ。毎日俺も一人でやってるけどさ。

 中篠のエロ本(もちろんBLじゃなくてノーマルな性愛だぞ。必死に探した結果、ロリがヒロインなものはほんの数冊しかなかった。どうしてだ)を拝借してミラに引っ掻かれたり、あやめと携帯型ゲームで対戦をしたりして時間を潰す。ちなみに、あやめにはボロ負けでした。ますます強くなってやがる。

 充分楽しんだところで、風呂が沸いたと知らせる音が鳴り響く。

「誰から入るの?」
「どうせならみんな一緒に入ろうよぉ」

 シャウラの質問に、あやめはそんな提案をする。

「みんな……って、そこまで広くないわよ?」
「大丈夫だよぉ。浸かる人と頭か体を洗う人に別れればいいしぃ、ただでさえあやめとミラちゃんはちっちゃいんだからぁ」
「ちっちゃいって言わないでください!」

 確かにそうすれば四人くらいなら入れるかもな。ミラもちっちゃいのは確かだが、地味にコンプレックスなのかな。小さい女の子は最高なのに。幼女らしくて素晴らしいというのに。

「せっかくのお泊まりだものね。分かったわ、みんなで入りましょ」
「やったぁ!」

 シャウラの言葉に、あやめは本当に嬉しそうな顔で喜ぶ。誰かと一緒に風呂に入るなんて、滅多にないからな。

 うちの親は色々と忙しくて昔からあんまり家にいなかったし、前まで俺が入ってあげたりもしたけど今は丁重に断られる。嫌だからではなく、一人で入れるため必要ないからだそうです。幼女との入浴はいつでも大歓迎だよ。

 と、女子全員が一斉に風呂場に行く。

「絶・対・に! 覗かないでくださいよ?」
「……分かってるよ」

 ミラに念を押されてしまった。まだ何も言ってないよ。俺は変態じゃないってのに酷いな。

 そういや最近この瞳にも慣れてきた。ずっと中篠や鳥山先生の半身は白黒に映ってるし鏡を見たりすると俺の体まで白黒なんだもんな。

 初めはちょっと怖かったが、もう大丈夫。むしろ、急に目が通常に戻ったら物足りなく感じるだろう。

 それほど、馴染んでしまった。

 そろそろ、今日が終わる。

 誰も襲ってくることなく、いつも通りの平和な日常を、家族や友達と永遠に過ごせたらいいのに。

 やっぱり、平和が一番だよね。

 鳥山先生も、分かってるはずだろ。

 だって、あんたは━━。

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