双眸の精霊獣《アストラル》
#3 両者の修行と二人の恋路
現在この部屋では、三人の女と一人の男が向かい合って座っている。
俺から見て左隣にミラ、正面には中篠、左斜め前がシャウラ。
これからの修行方針を話し合うため、中篠の部屋に集まっているのだ。
どうでもいいけど、ここ本当に女子高生の部屋かよ。
あるものといえば、大量の本が入った大きな棚三つに勉強机、そしてベッドのみ。せっかく十畳ほどの広さだというのに、教科書なども含めて大半は本が占めている。
そんなに本が好きなら、将来図書館でも建てろよ。
先程聞いてみたところ、中篠はシャウラと二人暮らしらしい。両親はどうしているのか気になったが、聞かないほうがいいだろう。
何となく。本当に何となく、そんな気がした。
「……まず五十嵐君に足りないのは、三つほどある」
開口一番、中篠がそう言った。
三つって思ったより多いんだな。
「……一つ目は、体力」
「体育の授業だけじゃなくて、普段の生活でも運動する必要があるわ。さっき戦ってみて分かったんだけど、あんたはもっと体を鍛えないと駄目よ」
シャウラの補足に、少し傷つく。
分かってますよ。俺は小さい頃から運動が苦手で、最低限のことしかやってなかったから。
でも、この際にランニングや腹筋背筋などをして鍛えよう。
密かに決意し、再び中篠とシャウラの言葉に耳を傾ける。
「……二つ目は、経験」
「でもこれは仕方ないわね。経験を積むには、より多くの戦闘を行うしかないんだから。まだ素人のあんたじゃ、体がついていけないのも無理ないわ」
うん、それも分かってる。
経験というものは得てして、やったことがあるか否かによって大きく技量差が生じてしまう。
だから、まずは功を奏するまで、何度も修行を繰り返すのみ。
「……三つ目は、技」
「そう。たとえ沢山の経験を積んで大幅に体力をつけても、技が使えなかったら戦いに勝つのは難しいわ。あんたも精霊獣と契約した以上、ちゃんと技を習得しないとダメよ?」
確かに、一理ある。
さっき中篠との勝負で分かったが、やはり多くの技を使用できる者のほうが有利だ。体力や経験の差を除いても。
となると、自ずと修行の方針は見えてくる。
「……これから毎日、この家で私と五十嵐君の戦闘を行う」
毎日って……。一応今はテスト期間中で、およそ二週間後に期末テストを控えているんだが。
俺は勉強が苦手ではなく、今までなかなかに良好な点数と順位をとってきたとはいえ、テスト勉強大丈夫かな。
「そうね。実践形式が、一番効果的な修行方法だと思うわ。攻撃を避けたりとか走り回っていると体力はつくし、経験なんてのは、戦えば戦うほど積まれていくわ」
シャウラの言を聞き、さっきまで黙っていたミラが、口を開く。
「じゃあ、技はどうするんですか?」
ある意味、それが一番の問題だ。
体力や経験などと違って、技は自然と身につくわけじゃないし、教える側としても難しいはず。
中篠は本で俺は刀剣という、異なる武器を用いる。つまり、使える技も違うものになってしまう。
「……技まで教えることはできない。激しい戦闘の途中で、五十嵐君が自ら覚醒する必要がある」
ミラの質問に、中篠は相変わらず無表情で淡々と答えた。
「……そのための、実践修行でもある。だから、あなたをとことんまで追い詰めさせてもらう」
みんなを守れる力が手に入るなら、と覚悟していたつもりなのに。
やっぱり、怖いもんだな。
微かに震えている俺を見て、ミラが励ましてくれる。
「大丈夫ですよ、蓮さんならきっと。それに、もう既にわたしを守ってくれたじゃないですか」
「いや、守ったっていうか。鳥山先生とレグルスが立ち去ってくれたから、助かっただけだ」
実際、奴らが俺に襲いかかってきていたら、守るどころか何もできずに死んでいただろう。
なのに、ミラは。
「同じですよ。あの二人と戦うことになろうとも、最初は嫌がっていたくせにわたしと契約してくれました」
それは、昔の俺みたいにさせたくなかっただけで。一度拾ったミラを、捨てたくなかっただけで。
「疾風さんたちに立ち向かっているときの蓮さんは、すごく格好よ……………………くはなかったですけど……その……」
途中でいきなり頬を染め、俯きながら呟くミラ。
ふふふ、ヤバいね。可愛すぎるよ。
「と、とにかく! 蓮さんは絶対に死なせませんから! だから、怖がらなくても大丈夫です」
そう言って、ミラが可憐に微笑む。
「ミラ……ありがとな。とりあえずは、元気が出たよ」
「にゃ、にゃう……」
優しく頭を撫でると、ミラはまるで猫みたいな声を漏らし(いや実際猫だけど)、気持ちよさそうに顔を綻ばせた。
頭の耳がピクピクと震え、尻尾はユラユラと揺れる。
俺の天使の素晴らしい表情に和んでいたら、中篠とシャウラが告げる。
「……明日から毎日、放課後に来て。今日は帰っていい」
「ま、あんたは一晩かけて体を休ませなさいってことよ。慣れないことしたんだから疲れてるだろうしね」
そういえば、かなりダルい。久しぶりに疲労困憊ですよ。
ここは大人しく従っておく。
「分かった。じゃあまた明日な」
「そ、それじゃ、失礼します」
俺たちは挨拶をしてから中篠宅を後にし、帰路を辿った。
◯●◎●◯
「ただいまー」
家に着いたときには、時刻はもう午後五時近かった。
思ったより長い間、中篠の家にお邪魔してたんだな。
と、リビングのほうからドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。
そして、数秒で俺のいる玄関へ妹が姿を現す。
「おかえりぃー。もう、兄貴たち遅いよぉ!」
「ごめんごめん。ちょっと時間かかっ…………ぶふっ!?」
妹━━あやめの格好に、思わず吹いた。
大人っぽい真っ黒のブラジャーとパンツ、更に何故かガーターベルトまで着用しているのだから。
様々な色や柄のものを集めるのが趣味というほど下着マニアなあやめだが、これは持ってなかったはず。
いつの間に買ったんだ。ってか何だこれ、妙にエロい。
「どうしたのぉ? あ、この下着なら兄貴たちがいないうちに買ってきたんだよぉ。暇だからぁ」
唖然とする俺を見て不思議に思ったのか、あやめが言った。
「へぇ……って、そうじゃなくて! 何でそんな下着を!? 服を着ろよ!」
「? あやめはいつも家では服着てないでしょ?」
そういえばそうだった。すっかり忘れてたよ、てへぺろ。
いつもより、ちょっと大人っぽくなっただけだ。白も黒も似たようなものだ。幼女のニーソだって毎日見て慣れてるんだ。
……でも妹とはいえ、幼女のガーターベルトって最高ですね。
太ももが眩しいよ。あやめ、恐ろしい子!
ふと横を見やると、ミラが赤面しながら狼狽えていた。
「ふぁっ!? れ、れれれ蓮さんは見ちゃ駄目です!!」
「━━ヴァキシッ!?」
いきなり顔面を引っ掻かれ、変な声が出ちまった。痛い。
猫みたいだな、お前は。いや、猫か。
「あやめさん! すぐに服を着てください! ここにはロリコン兼変態がいるんですから!」
誰が変態だ、コノヤロー。
「何でぇ? 兄貴とミラちゃんだけだから気にしないよぉ」
「気にしてください! ほら、早く早く」
「えぇー」
あやめは不満そうだったものの、ミラが風呂場へ連れていく。
とりあえず俺は顔の痛みを耐えつつ、リビングの椅子に座ってテレビを見る。が、あんまり面白いものはやってなかった。
もっと幼女メインのアニメをいっぱい作るべきだと思います。深夜ならそれなりにあるけども。
そんなことを考えていたら、ミラとあやめが風呂場から出てくる。
あやめは、ちゃんと女の子らしくて可愛い洋服とミニスカートに着替えていた。黒のニーソックスを穿いているところを見ると、下着はそのままらしい。
けど、何だろう。どこか、元気がないように思える。
そして、あやめは俺の隣の椅子に座り、小さく溜め息を漏らす。
「はぁ……。鳥山、疾風さんかぁ……」
……え? 今、何て言った?
人知れず動揺する俺だったが、あやめの呟きは更に続く。
「かっこよくて、いい人だったなぁ……」
俺から見て左隣にミラ、正面には中篠、左斜め前がシャウラ。
これからの修行方針を話し合うため、中篠の部屋に集まっているのだ。
どうでもいいけど、ここ本当に女子高生の部屋かよ。
あるものといえば、大量の本が入った大きな棚三つに勉強机、そしてベッドのみ。せっかく十畳ほどの広さだというのに、教科書なども含めて大半は本が占めている。
そんなに本が好きなら、将来図書館でも建てろよ。
先程聞いてみたところ、中篠はシャウラと二人暮らしらしい。両親はどうしているのか気になったが、聞かないほうがいいだろう。
何となく。本当に何となく、そんな気がした。
「……まず五十嵐君に足りないのは、三つほどある」
開口一番、中篠がそう言った。
三つって思ったより多いんだな。
「……一つ目は、体力」
「体育の授業だけじゃなくて、普段の生活でも運動する必要があるわ。さっき戦ってみて分かったんだけど、あんたはもっと体を鍛えないと駄目よ」
シャウラの補足に、少し傷つく。
分かってますよ。俺は小さい頃から運動が苦手で、最低限のことしかやってなかったから。
でも、この際にランニングや腹筋背筋などをして鍛えよう。
密かに決意し、再び中篠とシャウラの言葉に耳を傾ける。
「……二つ目は、経験」
「でもこれは仕方ないわね。経験を積むには、より多くの戦闘を行うしかないんだから。まだ素人のあんたじゃ、体がついていけないのも無理ないわ」
うん、それも分かってる。
経験というものは得てして、やったことがあるか否かによって大きく技量差が生じてしまう。
だから、まずは功を奏するまで、何度も修行を繰り返すのみ。
「……三つ目は、技」
「そう。たとえ沢山の経験を積んで大幅に体力をつけても、技が使えなかったら戦いに勝つのは難しいわ。あんたも精霊獣と契約した以上、ちゃんと技を習得しないとダメよ?」
確かに、一理ある。
さっき中篠との勝負で分かったが、やはり多くの技を使用できる者のほうが有利だ。体力や経験の差を除いても。
となると、自ずと修行の方針は見えてくる。
「……これから毎日、この家で私と五十嵐君の戦闘を行う」
毎日って……。一応今はテスト期間中で、およそ二週間後に期末テストを控えているんだが。
俺は勉強が苦手ではなく、今までなかなかに良好な点数と順位をとってきたとはいえ、テスト勉強大丈夫かな。
「そうね。実践形式が、一番効果的な修行方法だと思うわ。攻撃を避けたりとか走り回っていると体力はつくし、経験なんてのは、戦えば戦うほど積まれていくわ」
シャウラの言を聞き、さっきまで黙っていたミラが、口を開く。
「じゃあ、技はどうするんですか?」
ある意味、それが一番の問題だ。
体力や経験などと違って、技は自然と身につくわけじゃないし、教える側としても難しいはず。
中篠は本で俺は刀剣という、異なる武器を用いる。つまり、使える技も違うものになってしまう。
「……技まで教えることはできない。激しい戦闘の途中で、五十嵐君が自ら覚醒する必要がある」
ミラの質問に、中篠は相変わらず無表情で淡々と答えた。
「……そのための、実践修行でもある。だから、あなたをとことんまで追い詰めさせてもらう」
みんなを守れる力が手に入るなら、と覚悟していたつもりなのに。
やっぱり、怖いもんだな。
微かに震えている俺を見て、ミラが励ましてくれる。
「大丈夫ですよ、蓮さんならきっと。それに、もう既にわたしを守ってくれたじゃないですか」
「いや、守ったっていうか。鳥山先生とレグルスが立ち去ってくれたから、助かっただけだ」
実際、奴らが俺に襲いかかってきていたら、守るどころか何もできずに死んでいただろう。
なのに、ミラは。
「同じですよ。あの二人と戦うことになろうとも、最初は嫌がっていたくせにわたしと契約してくれました」
それは、昔の俺みたいにさせたくなかっただけで。一度拾ったミラを、捨てたくなかっただけで。
「疾風さんたちに立ち向かっているときの蓮さんは、すごく格好よ……………………くはなかったですけど……その……」
途中でいきなり頬を染め、俯きながら呟くミラ。
ふふふ、ヤバいね。可愛すぎるよ。
「と、とにかく! 蓮さんは絶対に死なせませんから! だから、怖がらなくても大丈夫です」
そう言って、ミラが可憐に微笑む。
「ミラ……ありがとな。とりあえずは、元気が出たよ」
「にゃ、にゃう……」
優しく頭を撫でると、ミラはまるで猫みたいな声を漏らし(いや実際猫だけど)、気持ちよさそうに顔を綻ばせた。
頭の耳がピクピクと震え、尻尾はユラユラと揺れる。
俺の天使の素晴らしい表情に和んでいたら、中篠とシャウラが告げる。
「……明日から毎日、放課後に来て。今日は帰っていい」
「ま、あんたは一晩かけて体を休ませなさいってことよ。慣れないことしたんだから疲れてるだろうしね」
そういえば、かなりダルい。久しぶりに疲労困憊ですよ。
ここは大人しく従っておく。
「分かった。じゃあまた明日な」
「そ、それじゃ、失礼します」
俺たちは挨拶をしてから中篠宅を後にし、帰路を辿った。
◯●◎●◯
「ただいまー」
家に着いたときには、時刻はもう午後五時近かった。
思ったより長い間、中篠の家にお邪魔してたんだな。
と、リビングのほうからドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。
そして、数秒で俺のいる玄関へ妹が姿を現す。
「おかえりぃー。もう、兄貴たち遅いよぉ!」
「ごめんごめん。ちょっと時間かかっ…………ぶふっ!?」
妹━━あやめの格好に、思わず吹いた。
大人っぽい真っ黒のブラジャーとパンツ、更に何故かガーターベルトまで着用しているのだから。
様々な色や柄のものを集めるのが趣味というほど下着マニアなあやめだが、これは持ってなかったはず。
いつの間に買ったんだ。ってか何だこれ、妙にエロい。
「どうしたのぉ? あ、この下着なら兄貴たちがいないうちに買ってきたんだよぉ。暇だからぁ」
唖然とする俺を見て不思議に思ったのか、あやめが言った。
「へぇ……って、そうじゃなくて! 何でそんな下着を!? 服を着ろよ!」
「? あやめはいつも家では服着てないでしょ?」
そういえばそうだった。すっかり忘れてたよ、てへぺろ。
いつもより、ちょっと大人っぽくなっただけだ。白も黒も似たようなものだ。幼女のニーソだって毎日見て慣れてるんだ。
……でも妹とはいえ、幼女のガーターベルトって最高ですね。
太ももが眩しいよ。あやめ、恐ろしい子!
ふと横を見やると、ミラが赤面しながら狼狽えていた。
「ふぁっ!? れ、れれれ蓮さんは見ちゃ駄目です!!」
「━━ヴァキシッ!?」
いきなり顔面を引っ掻かれ、変な声が出ちまった。痛い。
猫みたいだな、お前は。いや、猫か。
「あやめさん! すぐに服を着てください! ここにはロリコン兼変態がいるんですから!」
誰が変態だ、コノヤロー。
「何でぇ? 兄貴とミラちゃんだけだから気にしないよぉ」
「気にしてください! ほら、早く早く」
「えぇー」
あやめは不満そうだったものの、ミラが風呂場へ連れていく。
とりあえず俺は顔の痛みを耐えつつ、リビングの椅子に座ってテレビを見る。が、あんまり面白いものはやってなかった。
もっと幼女メインのアニメをいっぱい作るべきだと思います。深夜ならそれなりにあるけども。
そんなことを考えていたら、ミラとあやめが風呂場から出てくる。
あやめは、ちゃんと女の子らしくて可愛い洋服とミニスカートに着替えていた。黒のニーソックスを穿いているところを見ると、下着はそのままらしい。
けど、何だろう。どこか、元気がないように思える。
そして、あやめは俺の隣の椅子に座り、小さく溜め息を漏らす。
「はぁ……。鳥山、疾風さんかぁ……」
……え? 今、何て言った?
人知れず動揺する俺だったが、あやめの呟きは更に続く。
「かっこよくて、いい人だったなぁ……」
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