双眸の精霊獣《アストラル》

果実夢想

#2 本に囲まれた少女【3rd】

 そして月曜日、当日。

 ずっと精霊獣を発見する方法を考えてたから、テストも近いのに座学の内容が全く聞き取れなかった。

 今日からテスト期間に入り、昼間に授業が終わって探索できる時間が長いわけだが、こういう時くらい早く帰らせろよ。ミラのやつ、まさに外道。

 今日と明日は高等部、明後日は中等部、明々後日しあさって弥明後日やのあさっては初等部みたいに、五日に分けたほうがいいか。それでも骨が折れるのに変わりないが。

 鳥山先生とはあれから会っていない。担当科目、社会はなかったし、会ったところで気まずくなるだけだ。

 さて、どうしようかな。

 ミラと契約をした俺なら問題なく見つかるはず……ってどういう意味だよ。結局教えてくれなかった。

 適当に、精霊獣と契約して戦っていてもおかしくなさそうな、怪しい奴に声をかけていこう。

 人を外見で判断するのは駄目だと分かってるけど、大勢いる中から一人を見つけ出すのは厄介だから仕方ないよね。

 うん、ごめんなさい。いい方法が思いつかなかったんだよ。

 とりあえず我がクラス――高等部一年七組の教室を抜け、近辺を見回す。

 すると、前方にいきなり怪しい奴を発見した。

 もうすぐで校舎の天井に到達してしまうほどの巨躯。俺の二倍か三倍はあるんじゃないかというくらい分厚い筋肉。

 背部だけで凄まじい威圧を放っているし、見るからに怪しいな。だって何百人も病院送りにしてそうだもん。

 ありゃ鳥山先生より強いかもしれないぞ。仲間にしたら絶大な戦力になること間違いなし。

 俺はおそるおそる大きな背中に話しかける。

「あの、ちょっと話したいことがあるんですけど……」

 それを聞き、デカい図体の男はゆっくりとこちらを向く。なんか怖いです。

 制服の胸の辺りにあるワッペンは学年を表していて、俺が着ているのは高等部一年の赤色だが、こいつは高等部三年の青色だった。

 その容姿で生徒ってすごいな。初めて見ました。

「ん、何かしら? 私に用でもあるの?」

 …………………………え、ん? 想像してたのと全く違う、甲高い声が聞こえたような気がするんだが。

「ちょっと、何よ。あなたから話しかけてきたんだから、さっさと言いなさい」

 すいません。この状況で戸惑わずにいられるなんて無理です。怖がってたのが馬鹿みたいじゃねぇか。

 俗に言うギャップ萌え……って萌えらんねぇよ。まさかのオネエとか、絶対ふざけてんだろ。

 駄目だ。とにかく後回しにしよう。

「いや、ごめんなさい。何でもありません」

 言って去ろうとするが、後ろから余計な雑音が耳に入ってくる。

「何? もしかして恥ずかしかったのかしら? こんな美少女を前にしたら当然よね。でも安心していいわよ。あなたみたいな、いい男の告白を断るはずないのだもの。また勇気が出たらいつでも来てちょうだいね!」

 黙れ、どこに美少女がいるんだ。何で厳ついオネエなんかに告らなきゃならねぇんだ。もう二度と視界に入れたくねぇよ。

 帰ったら瞳と耳を徹底的に洗おうと心に決めた。

 ……待てよ? そういえば俺は外見も中身も普通じゃないか。性癖は別として。

 だったら今度は、普通の少年少女をターゲットに声をかけてみるか。

 そう考えた矢先。

「五十嵐、何をしている。帰らないのか?」

 不快な美声と共に、鳥山先生が背後からやってくる。

 ……って、あれ? どうなってんだ? 周囲の生徒は普通なのに鳥山先生だけおかしい。

 いや、これは……俺の目が妙なんだ。

 何故か鳥山先生の右半身に色がない。モノクロームで、まるで昔のテレビを見ているかのようだ。

 俺の様子から察したのか、鳥山先生が口を開く。

「そうか。ようやく五十嵐にも訪れたか」
「なに、言ってんだ?」
「最近強烈な眩暈めまいがしなかったか? それは、この現象が起きる前兆みたいなものだ」

 やっぱり、朝の眩暈が関係してやがったのか。にしてもこの現象って何なんだよ。

「まだ分かっていないのか? 精霊獣と契約をしたパートナーの片目は、一般人かそれとも誰かのパートナーなのかを、見分けることが可能なのだ。五十嵐の瞳にも映っているだろう。通常の俺と白黒の俺がな」
「じゃあ半分が白黒に見えた人はみんな、精霊獣のパートナーってわけかよ?」
「ああ、そうだ」

 だからミラは、問題なく見つかるはずと言ったのか。それなら教えてくれてもいいのにな。

 不意に鳥山先生は、顔を俺の耳元に近づけ、囁く。

「もっと強くなり、俺と本気の死闘をしよう。じゃないと君の大切なものを奪ってしまうかもしれない。抵抗する間もなく、死にたくはないだろう?」

 そして、廊下の奥へ去っていった。

 くそ。平和にする方法なら、他にもあるはずだ。精霊獣とパートナーを皆殺しなんて、看過できるわけないだろ。

 だから、絶対に止めてやる。鳥山先生とは違った平和を、俺が掴んでやる。

 と、何の前触れもなく、目の前に一匹の蝶が舞った。

 明確な理由はない。ただ、どうして学校の中にいるのか気になって、の蝶を追いかけた。

 やがて、蝶は図書室に入り、俺も続く。

 中では、一人の女子生徒が椅子に座って、本を読んでいた。

 肩先までのばした、黒髪のセミロング。頭にはカチューシャをつけている。

 綺麗な白い肌に、スリムな体型。制服のスカートから覗く太ももが眩しいです。

 端正な顔立ちの美少女だが、顔は完全な無表情に包まれていた。

 更に右半身はやはり――色がなかった。

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