双眸の精霊獣《アストラル》

果実夢想

#1 白き猫は悲劇をもたらす【6th】

「はぁ……」

 本日何度目か分からない溜め息をつく。

 自分でも理解できない。

 俺が追い出したくせに。今更どうなるわけでもないのに。未だにミラのことを考えてしまう。

 あれから、三日が過ぎた。

 授業の内容なんて全く頭に入らないまま、SHRの終わりを告げるチャイムが鳴る。

「はぁ……」

 再び、無意識に溜め息が出た。

「どうした、五十嵐。体調でも悪いのか? さっきから溜め息ばかりだが」

 不意に後ろから低いイケメンボイスが聞こえてきた。

 やべぇやべぇ、人が近づいてきていたとは気づかなかったぞ。忍者にでもなる気かよ。

 ……いや、それだけ俺が深く思い詰めていたということか。

 振り向くと、そこにはこの間我がグラスの副担任になったばかりの鳥山疾風先生が立っている。

 俺は何故か、この教師のことを厭悪えんおしている。別にイケメンだから、とかモテモテだから、とかじゃなくて。

 本当に、どうしてだろうな。本能的なものがこいつを嫌っているのだろう。

 ごめんね、そんな簡単に人を嫌っちゃ駄目だよね。

「大丈夫です。何でもありません」
「そうか? ならばいい……あ、そうだ。五十嵐に訊きたいことがあるのだが」

 と、突然鳥山先生はポケットを探り、中から写真のようなものを二枚取り出す。

 そしてそれを見た途端、全身に悪寒が走った。

 な、何で……こいつが。一体、どうなってやがる。

「どちらでも構わない。目にしなかったか?」
「い、いや……知りませんけど」

 そう答えるしかなかった。

 俺の厭悪な気持ちが何倍にも膨れ上がり、本当のことを言ってしまったら駄目だと、どことなく危険な感じがしたから。

「そうか、すまなかった。気をつけて帰るんだぞ」

 鳥山先生の一言に返事を返すことすら出来なかった。

 畜生。何なんだよ、この胸騒ぎは。

 俺は関係ないんだ。今頃あいつがどうなっていようと……知ったこっちゃない。

 なのに。あの時の悲哀に満ちた表情と酸楚な背中が頭の中に浮かび、自然と足は早まっていく。

 もう、成るようになっちまえ。

 そんな思いで、俺は家路を走り抜けた。


 鳥山先生に見せられた、二枚の写真。

 片方には白い毛並みがふさふさの愛くるしい猫が、もう片方には白銀の髪に猫耳と尻尾をつけた幼女。

 そう。どちらも、見紛うことなきミラの姿が写り込まれていた。

 何で鳥山先生がそんな写真を持っていたのか。何で俺に見せたのか。もっと考えればよかったのに、無我夢中で我が家へと急いだ。

 既に惨劇が起こっているなど露程も知らず。

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