シャッフルワールド!!

夙多史

一章 滅んだ世界の魔帝様(1)

 で、現在の俺、逃走中。
「だぁあああああああああああああ畜生ぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 予期せず次元旅行してしまったことも不運であるが、到着した先が怪物の群れの中だったことも非常に不運だろう。一体なんの冗談だと言ってやりたい。誰にって? 俺の運命をこんな風に定めたやつだ。もしいるなら出て来い。とりあえず一発殴ってやる。
 俺が走っているのは森の中だった。公立高校にあった植木が百本集まっても足りないような巨木が生え並び、他の植物も伸びたい放題で走りづらいことこの上ない。さらに夜なのか、辺りは真っ暗で視界もよろしくないときた。
 後ろからは血色に輝く不気味な目が百鬼夜行並みの数で俺を追っている。一度戦ったからわかるが、やつら一体一体はそれほど強くない。はっきり言って雑魚だ。律儀に一匹ずつかかってくるのなら相手になってやらんこともない。
 でもそうじゃないだろ。俺の力は多数相手には向かない。いくら相手が最弱モンスターであっても、百まで集まると逃げる以外の選択肢は存在しなくなる。
 俺は右手に握った棍を見る。
 俺の能力〈魔武具生成〉は、練り上げた魔力を右手に集めて武具の形に具現化するものだ。が、なんでもできるわけじゃない。俺の平凡な頭でイメージできるものに限りだ。加えて一度に一つの武器しか作れない。右手を離れると構成している魔力が分解して消えちまうからな。そんなわけで、バズーカとかミサイルで一掃したくても、遠距離系の武器を生成したところで全く役割を果たさないガラクタになる。
 チラリと後ろを振り返ってみるが、数は減るどころかネズミみたいに増加の一途を辿っている。
「畜生! あいつらどんだけ飢えてんだよ! そんなに食糧不足なのかこの世界は!?」
 俺は再び前方を向く。と、横になにかの影が並んだ。
「のあっ!?」
 ギョロリとしたまん丸の目が隣にあった。それは平たい円盤型の生物のもので、その生物は上下に突き出したヒレみたいなもので空中を・・・泳いでいる・・・・・
「ま、マンボウ?」
 空中に浮かぶマンボウが俺に並走、いや、並泳している。まあ、よく見ればマンボウとも言い難いが、この未確認飛行物体をぶん殴る前に確認しなければならない。
「やあ、俺の言葉わかりますか?」
 気さくな感じで声をかけた俺にマンボウはなにも返さない。代わりに円らな目をギョロリと俺に向け――口から火を噴いた。
 迷わず棍で殴ったね。そりゃもう悲鳴上げるくらいバチコーンって感じに。
「ガンボウゥ~」
「鳴き声それっ!?」
 せめて『マンボウ』って鳴けよ! なにを願っちゃったんだよ!
 願い虚しく(?)地面に墜落したマンボウは後ろに流れて角トカゲの餌食となった。
 そこで俺は気づく。
 マンボウは一匹ではなかった。無数の平べったい魚影が森の中を遊泳している。わかっているさ。狙いは俺だろ。
 そう考えて全てを敵に回す覚悟を決めたのだが、どうもこの世界のトカゲとマンボウは食物連鎖の上下が決まってないらしい。互いに食い合いを始めやがった。
 トカゲとマンボウの熾烈な争いは見ようによっては滑稽だが、これがけっこうグロかったりする。血肉や臓器が飛び散って――これ以上はグロすぎて表現したくない。
 そのまま共倒れしてくれればいいものを、両軍ともこちらに攻め入ることを忘れていないようだ。両者で争いつつも俺を追って来ている。
「だーもう、しつこいな!」
 異界監査官として体力には自信のある俺でも流石に息が上がってきた。どこか隠れる場所はないかと周囲の模索を開始する俺だったが、そこで予想外なことが起こった。

 俺を生命活動の糧にしようとしていた異獣たちが、急に方向転換して逃げるように去って行ったのだ。

「なんだ?」
 森の暗闇に消えていく異獣たちを呆然と眺める俺。状況はよくわからないがとにかく助かったらしい。この辺にはアンチモンスターフィールドでも展開しているのだろうか。
 しかし安心してはいられない。一難が去れば次なる問題が発生するわけで、さて――
「ここはどこかな?」
 帰り道である『次元の門』の場所を遁走しながら覚えていられるほど俺の記憶力はよい方じゃない。門が持つ独特の違和感を感じないから、もうとっくに閉ざされているのかもしれない。困った。
「携帯は……まあ、圏外だよなぁ」
 異世界ナビ、なんて機能があったらいいのにな。
「朝を待つか。……朝、あるんだろうか、この世界」
 とにかく今は動きたくない。ちょっと休ませてくれ。異世界人の血のおかげで常人より身体能力が高い俺でも、あんなに走れば息だって切れる。
 俺は手ごろな巨木に凭れかかって座り、何気なく天を仰いだ。星一つない暗天。月が片手の指の数ほどあるように見えるけど驚きはしない。だって異世界だし。
 と、俺は視界の端に巨大な影を見つけた。
 生物ではない。恐らく人工的に作られた建造物だ。シルエットだけでも圧倒的な存在感を醸し出しているそれは――
「城?」
 だった。

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