シャッフルワールド!!

夙多史

二章 風と学園と聖剣士(6)

 店内は意外と空いていた。
 異世界イヴリア出身のリーゼにとって、ハンバーガーとかフライドポテトなんてものは見たことも聞いたこともないんだろうね。「ナイフとフォークは?」って貴女はどこのお姫様ですか? ああ、イヴリアの魔帝様だっけ。
「ご注文は以上でよろしかったですか?」
 俺はカウンターで店員からテリヤキバーガーセットを受け取り、俺が最後だから適当に「はい」と言って頷いた。
 桜居が陣取った窓際のテーブルを見る。リーゼはハンバーガーにかぶりついて酷く感激している様子だった。どことなく微笑ましい。そうやって少しずつこちらの世界に慣れてくれば、無闇に力を使うこともなくなるだろう。たぶん。
「それでは、ごゆっくりしていってくださいゴミ虫様・・・・
 うん、ちょっと待とうか。
「なにやってんだ、レランジェ?」
 俺は店員の顔を確認して言った。横縞の白い上着に緑のスカートとバイザーという格好をしているから最初は気づかなかったが、間違いなくリーゼ専属のメイドロボだ。
「あるばいと、というものです」
「見りゃわかる。つーか、なんでもうこっちの世界に馴染んでんだよ」
 まだ一日も経ってないんだぞ。学校ならまだしも、アルバイトなんてできるのか?
「魔工機械安定です」
「それで納得しろと?」
 いや、よく見たらレランジェを観察するようにチラ見している怪しい客がいる。あいつらは恐らく異界技術研究開発部の連中だ。となると、これもなんかの実験の一つなんだろう。順応性とか。
「レージ、なにして――あ、レランジェ」
 なかなか戻って来ない俺をどう思ったのか知らないが、リーゼと桜居までやってきた。
「マスター、すみません。今はこのような恥ずかしい格好で不安定です」
 もう言っている意味がわからないしゴスロリメイドの方が数百倍恥ずかしいだろ。
「それはいいけど、なにしてんの?」
「あるばいと、というものです。そこのゴミ虫様の世話になりっぱなしなのは癪でしたので、レランジェはレランジェで金銭を稼ぐ安定だと考えました」
「一ついいことを教えてやる、レランジェ。こういう場では俺みたいなのを『お客様』と呼ぶんだ」
「あなた以外はそう呼んでいますが?」
 この木偶人形が。いつか壊してやる。
「あーあー、思い出した思い出した。リーゼちゃんと一緒にいたメイドさんだ。へえ、レランジェさんって名前かぁ。クールビューティーってやつ?」
 ポン、と手を叩く桜居はアホだから無視しといて構わない。
「監視がついてるみたいだから大丈夫とは思うが、あまり変なことすんなよ」
「承知しております。それより、お客様が列を成して不安定ですので、早く席に戻ってくれると安定します」
 俺は後ろを振り返って苛立ちを抑え込んでいる客たちを確認し、その場を離れた。レランジェはその客一人一人に接着剤ででも固めたような顔で機械的に対応していく。まったく、よくあの無表情で接客が務まるな。埴輪の方がまだ愛想いいぞ。
「それじゃあ、レランジェ頑張ってね」
 リーゼはアルバイトに特に面白みを感じなかったのか、「わたしもやってみたい」などと言い出さず、席へと戻ってハンバーガーにかじりついた。今はそっちに夢中らしい。
 そんなリーゼをカメラ越しに見詰めながら、俺の横に座る桜居はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。
「いやぁ、幸せそうな顔して食べてるねえ、リーゼちゃん。オレはその顔見るだけでお腹いっぱいさ」
「そう? じゃあお前のも貰ってもいいわね」
「なぁーっ!? オレのデラックス月見バーガーがぁああああああっ!?」
 自業自得だ、と思いながら俺は適当に摘まんだポテトを口に放り込んだ。
 塩加減が絶妙だった。

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