シャッフルワールド!!
四章 壊滅的な死闘(7)
〈魔武具生成〉――カイトシールド。
十一世紀中期にノルマン人によって西欧にもたらされた盾である。裏側に盾を腕に止める革帯と吊り革紐があり、そう簡単に手から離れることはない。
「君は防具も作れるんだね。知らなかったよ」
「防具だって『武具』だからな。ま、滅多に作ったりしねえんだけど」
「それは貴重なものを見せてもらった。そうなると、こっちもお返ししないと失礼になるね」
スヴェンの二丁拳銃が火を噴く。俺はセレスを抱えたままカイトシールドの影に隠れ、銃弾が止むまでやりすごす。
あの拳銃、映画とかで見るベレッタM92に似ている。その装弾数は確か十発くらいだったはずだが、スヴェンのアレは明らかにそれを上回っている。
「ぅ……」
と、気を失っていたセレスが意識を取り戻す。
「セレス、無事か?」
「ああ、すまない。なんとか、まだ戦えそうだ」
なるべく優しくセレスを抱き起こすと、肩からの夥しい出血が目に入った。生憎とハンカチやタオルは持ち合わせていないので、俺は制服の袖を半分ほど破いて彼女に差し出した。
「止血はしといた方がいい」
本来は俺が手当てするべきなんだろうが、左手だけでやれるほど器用じゃないんだ。
「あ、ありがとう」
受け取ったセレスは手慣れた風に左肩をきつく縛っていく。自分ではやりにくいだろうと思ったけど、流石は騎士様だ。心なしか頬が赤らんで見えるのはきっと激しく動き回ったからだろう。
その時、パキン、という嫌な音を聞いた。魔力で構成された盾に罅が入った音だ。一度欠けた後は脆いもので、瞬く間に亀裂が広がり、カイトシールドは呆気なく砕け散ってしまった。
「ようやく破壊できるとは、なかなか頑丈だったね」
上方から届く気取った声。
「――な!?」
「そんな!?」
俺とセレスはほぼ同時に驚愕する。盾を破壊されて格好の的になったからではない。
ぶっ壊したはずのデュラハンが、再び動き出していたからだ。
「驚くことはない。ただあの程度で動かなくなるほど、僕のデュラハンはポンコツではないということだよ。まあ、再起動に少々調整が必要だったけどね」
そうか。弾幕を張っていたのは盾を壊すためじゃなく、デュラハンを再起動する時間を稼ぐため……。
「そういうことなので、こちらも面白いものを見せてあげよう」
デュラハンが回転式の槍を天高く振り上げる。超速で回るドリルに魔力が宿っていくを俺は感じた。
スヴェンは魔力で戦うような異世界人ではない。とするとアレは、関係のない人々から奪い取ったものだ。
もしリーゼを奪われたら、あんなくだらない物にも利用されることになる。
自由や、意思すらも文字通り奪われて。
永久に、肉体が滅んだとしても縛られるだろう。
――ふざけんな。
「あのデカブツ、今すぐガラクタにしねえとな」
俺はリーゼから吸い取った魔力の残りを右手に集中させる。
〈魔武具生成〉――斬馬刀。
異常なほど長大で肉厚な刀が誕生する。長いリーチで馬の足を潰す現実的な使用法の物ではなく、漫画やゲームであるような騎乗兵を馬ごとぶった斬るための大剣。
「その胴体、もう二度と立てないように真っ二つにしてやる!」
「よせ零児! 無闇に近づくな!」
セレスの制止の声を無視して俺は疾走する。斬馬刀みたいな巨大な得物を生成しても、元は俺の魔力だ。見た目ほどの重量は感じない。だからこそ全力で動けるってもんだ。
「迂闊すぎるね、白峰零児」
スヴェンがデュラハンに指示を出す。
どうせ魔力を得たことで強度や貫通力を大幅に増しただけだ。たとえビーム的なものが出たとしても、軌道さえ読めれば避けるくらい造作もない。
――――甘かった。
魔力を纏ったドリルが地面を貫き抉る。その瞬間、俺に向かって地面に一直線の亀裂が走った。
亀裂から魔力の光が漏れたかと思うと、爆発的な勢いで地面が隆起した。
気がついた時、俺は十メートル近く盛り上がった巨大な地塊にゴミのように突き飛ばされた。
十一世紀中期にノルマン人によって西欧にもたらされた盾である。裏側に盾を腕に止める革帯と吊り革紐があり、そう簡単に手から離れることはない。
「君は防具も作れるんだね。知らなかったよ」
「防具だって『武具』だからな。ま、滅多に作ったりしねえんだけど」
「それは貴重なものを見せてもらった。そうなると、こっちもお返ししないと失礼になるね」
スヴェンの二丁拳銃が火を噴く。俺はセレスを抱えたままカイトシールドの影に隠れ、銃弾が止むまでやりすごす。
あの拳銃、映画とかで見るベレッタM92に似ている。その装弾数は確か十発くらいだったはずだが、スヴェンのアレは明らかにそれを上回っている。
「ぅ……」
と、気を失っていたセレスが意識を取り戻す。
「セレス、無事か?」
「ああ、すまない。なんとか、まだ戦えそうだ」
なるべく優しくセレスを抱き起こすと、肩からの夥しい出血が目に入った。生憎とハンカチやタオルは持ち合わせていないので、俺は制服の袖を半分ほど破いて彼女に差し出した。
「止血はしといた方がいい」
本来は俺が手当てするべきなんだろうが、左手だけでやれるほど器用じゃないんだ。
「あ、ありがとう」
受け取ったセレスは手慣れた風に左肩をきつく縛っていく。自分ではやりにくいだろうと思ったけど、流石は騎士様だ。心なしか頬が赤らんで見えるのはきっと激しく動き回ったからだろう。
その時、パキン、という嫌な音を聞いた。魔力で構成された盾に罅が入った音だ。一度欠けた後は脆いもので、瞬く間に亀裂が広がり、カイトシールドは呆気なく砕け散ってしまった。
「ようやく破壊できるとは、なかなか頑丈だったね」
上方から届く気取った声。
「――な!?」
「そんな!?」
俺とセレスはほぼ同時に驚愕する。盾を破壊されて格好の的になったからではない。
ぶっ壊したはずのデュラハンが、再び動き出していたからだ。
「驚くことはない。ただあの程度で動かなくなるほど、僕のデュラハンはポンコツではないということだよ。まあ、再起動に少々調整が必要だったけどね」
そうか。弾幕を張っていたのは盾を壊すためじゃなく、デュラハンを再起動する時間を稼ぐため……。
「そういうことなので、こちらも面白いものを見せてあげよう」
デュラハンが回転式の槍を天高く振り上げる。超速で回るドリルに魔力が宿っていくを俺は感じた。
スヴェンは魔力で戦うような異世界人ではない。とするとアレは、関係のない人々から奪い取ったものだ。
もしリーゼを奪われたら、あんなくだらない物にも利用されることになる。
自由や、意思すらも文字通り奪われて。
永久に、肉体が滅んだとしても縛られるだろう。
――ふざけんな。
「あのデカブツ、今すぐガラクタにしねえとな」
俺はリーゼから吸い取った魔力の残りを右手に集中させる。
〈魔武具生成〉――斬馬刀。
異常なほど長大で肉厚な刀が誕生する。長いリーチで馬の足を潰す現実的な使用法の物ではなく、漫画やゲームであるような騎乗兵を馬ごとぶった斬るための大剣。
「その胴体、もう二度と立てないように真っ二つにしてやる!」
「よせ零児! 無闇に近づくな!」
セレスの制止の声を無視して俺は疾走する。斬馬刀みたいな巨大な得物を生成しても、元は俺の魔力だ。見た目ほどの重量は感じない。だからこそ全力で動けるってもんだ。
「迂闊すぎるね、白峰零児」
スヴェンがデュラハンに指示を出す。
どうせ魔力を得たことで強度や貫通力を大幅に増しただけだ。たとえビーム的なものが出たとしても、軌道さえ読めれば避けるくらい造作もない。
――――甘かった。
魔力を纏ったドリルが地面を貫き抉る。その瞬間、俺に向かって地面に一直線の亀裂が走った。
亀裂から魔力の光が漏れたかと思うと、爆発的な勢いで地面が隆起した。
気がついた時、俺は十メートル近く盛り上がった巨大な地塊にゴミのように突き飛ばされた。
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