シャッフルワールド!!

夙多史

四章 壊滅的な死闘(8)

 下からの不意打ち。なすすべなんてあるわけなかった。大型トラックにでも撥ねられたような衝撃に意識が途切れそうになる。
 根性でかろうじて意識を繋ぎ留めた俺が見たものは、全壊した家々が住宅街に直線を引いた光景と、デュラハンと熾烈な戦闘を繰り広げているセレスの姿。
 それらが下に見えるということは、俺は随分と高く打ち上げられたらしい。もう消えてしまったが、咄嗟に斬馬刀を盾にしなかったら五体満足ではいられなかっただろう。
 もっとも、こんな高さから地面に叩きつけられたらいくら普通の地球人より頑丈な俺でも無事じゃ済まない。悲鳴を上げる身体に鞭打って体勢を整えるも、どこから落ちたところで大差ない気がする。
 と。
 ――ん?
「あれは?」
 俺が落下すると予想される付近に、ピンク色の物体が蠢いていた。
 どう見ても昨日逃がした異獣――スライムだ。最終的に自転車サイズに縮んでいたはずなのに、なぜか元の自動車サイズにまで再生していた。
 どうしてこんなところにいるのか謎だが、なんにしても、アレは実にいいクッションになる。
 思い立つ日が吉日。これ、俺の座右の銘にしよう。

 グシュアアアアアアアアンッッッ!!

 レランジェの魔道電磁放射砲すら凌ぎ切る衝撃吸収能力は偉大だった。俺は落下によって擦り傷一つついていない。この前は気持ち悪いなんて言ってごめんなさい。
 グチャ。ベチャ。バチャン。惨たらしい殺人現場の返り血みたいにピンク色の粘体が散乱してるけど、きっとアレはゼリーだ。素行の悪い人間がイタズラで撒き散らしたに違いない。
「いえ、その魔獣を再生困難なレベルまで粉砕したのはゴミ虫様安定です」
 誰だ俺の心の事実変換を否定するやつは!
 破壊を免れた一軒家の影から、無腕のゴスロリメイドが現れた。
「レランジェ。お前もう動けるのか?」
「自己修復安定です」
 どうやら言語能力もしっかり修復されたらしい。こいつは一生口利けなくてもいいのに。……しまった、ついつい本音が。
「それよりゴミ虫様が無駄に豪快に潰された魔獣ですが、マスターの膨張しすぎた魔力に惹かれて来たようです」
 レランジェの後ろにリーゼが横たわっているのが見えた。相変わらず苦しそうだ。
「それが本当なら、リーゼに助けられたようなもんだな」
 たぶん、スライムは隔離結界が張られる前に侵入していたのだろう。ていうか、ゴミ虫様に適応しそうな俺がいるんですけど……。
「マスターに感謝安定です」
「ああ、感謝するさ。感謝ついでに、もう一度〈吸力〉させてもらうぞ」
 こうしている間も、セレスとスヴェンの戦闘が続いているのが音でわかる。実は気合いで立っているだけに近い俺が魔力のないまま駆けつけても足手纏いになるだけだ。
 それに〈吸力〉はリーゼを魔力疾患の苦しみから解放できる。一石二鳥。
「そんな体で戦っても死亡安定です」
「ハッ、誰が死ぬか。俺は監査官の中でも頑丈さには定評があるんだ。さらに言えば、俺には勝算だってある。リーゼの魔力を借りればな」
 あとは俺がリーゼの魔力にどれだけ堪えられるかだが、人間死ぬ気でやればどうとでもなる。たぶん。
 俺はレランジェの横を素通りし、リーゼの熱を持った体を抱き上げる。
「リーゼ、できうる限り魔力もらうぞ。一緒に戦ってくれ」
 身を引き裂きそうな魔力の暴力が、俺に流れ込む。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品