シャッフルワールド!!
二章 温泉と異変(2)
「本っっっ当にすまない! まさか〝魔帝〟の魔力の吸収作業だなんて思っていなかった。冷静さを欠いて物事を見極められないとは……私は騎士失格だ!」
ようやく事情を理解したセレスは、屋上の床を砕いて減り込ませるくらいの勢いで土下座した。普段のセレスならそんな屈辱的な姿勢などプライドが許さないだろう。けれどこれは二度目、いや三度目なのだ。一回目はリーゼを誤解で殺そうとしたこと、二回目は間違って男子シャワー室に入ったことだ。
さらに自分の方がよからぬ妄想をしていたことも重畳しているのかもしれない。さっきから顔が郵便ポストよりも真っ赤だ。
「いや、そこまでして謝らなくてもいいって。けしかけたのは桜居なんだし」
当の桜居のボケは戦闘が始まってすぐに屋上から避難していた。あいつは後で縊り殺す。
「なんでお前がここにいるのよ?」
寝起きのリーゼが眠い目を擦りながら不機嫌さを滲ませた声で問うた。それは俺も気になったが、授業開始前の予鈴がなっている。手短に話してもらおう。
「ああ、そうだった」セレスは土下座から正座に移行し、「誘波殿からこれを預かっている。後で目を通しておいてほしいとのことだ」
セレスはスカートのポケットから四つ折りにしたA4用紙を取り出し、俺に手渡す。後でとは言わず俺はすぐにその紙を広げた。
そこにはタオルで大事な部分を隠しただけのデフォルメされた男女のイラストと共に、でっかくこう書かれていた。
【異界監査局主催・二泊三日の秘湯巡りツアー 発案者:白峰零児】
そんなタイトルの下には日程や場所、持ち物などの細々した内容が書き綴られている。お問い合わせは法界院誘波まで――ってあの着物馬鹿は一体なにを考えているんだ?
しかもこの日程、今週末じゃないか。急だな。場所は秘密です当日発表しますとか、怪しさ満点だ。まったく誰だよこんな企画考えた白峰零児ってアホ野郎は………………俺だ。
「あー、まさか昨日のアレか?」
リーゼを温泉に連れて行ったら喜ぶだろうなと呟いたのを、誘波が耳ざとく聞いてやがったんだ。そういえば早速手配するとか言ってたような気もする。
「セレス、お前はこれ読んだのか?」
「いや、漢字という文字が多くてまだ私には読めないんだ。よければ、なんと書いてあるのか教えてもらえないだろうか」
俺は少し逡巡する。読み聞かせるくらいならしてもいいが、誘波の提案に簡単に乗ってもいいのだろうか。激しく不安だ。
「レージレージ、それなんなの? 面白いこと? 退屈しない?」
楽しそうな匂いを嗅ぎつけたのか、リーゼが眠気など吹っ飛ばして赤い瞳の中でお星様をキラッキラさせていた。ぎゅっと握った両手を胸の前に持ってきたりなんかして、お子様のような上目遣いで俺を見上げてくる。
桜居の言葉じゃねえが、このお嬢様は〝魔帝〟とは思えないほど可愛いなチクショー。
「リーゼ、温泉って知ってるか?」
試しに訊いてみると、案の定、リーゼはふるふると首を横に振った。
「知らない。なにそれ? 楽しいの?」
「俺ん家の何倍も何十倍もでっかい風呂のことだ」
「!」
俺の言葉を聞いたリーゼはぴょんと五センチくらいその場で跳ねた。そして大きな目をまん丸に見開き、少し興奮気味に頬を上気させて言う。
「入る! オンセンってのに入ってみたい! レージ、わたしをそこに連れて行きなさい!」
その瞬間、俺は折れた。乗ってやろうじゃないか、誘波。この風呂好きの〝魔帝〟様を温泉に連れて行ってやりたいと思ったのは俺の本心だからな。
それに日本かぶれの誘波が陳腐な温泉をチョイスするわけがない。たまには旅行なんかして羽根を伸ばすのも悪くないだろう。
「温泉……か。なるほど、それなら私もわかるぞ。ラ・フェルデにもあったからな。何度か湯治に行ったことがある。アレは気持ちのよいものだ」
故郷を懐かしむように目を閉じるセレス。どうやら、彼女の参加も確定のようだ。
「じゃ、みんなで行くか」
レランジェは誘いたくないけど、あいつがいないとリーゼが困る。仕方ない。
決定したところで俺たちは授業開始のチャイムが鳴っていることに気づき、慌てて教室に戻った。
放課後、発案者となっていた俺は、監査局に呼び出されてみっちり三時間ほど副局長の説教をくらった。
誘波のやつ、ちゃんと全体の許可を取ってからこういうことしろよ……。
ようやく事情を理解したセレスは、屋上の床を砕いて減り込ませるくらいの勢いで土下座した。普段のセレスならそんな屈辱的な姿勢などプライドが許さないだろう。けれどこれは二度目、いや三度目なのだ。一回目はリーゼを誤解で殺そうとしたこと、二回目は間違って男子シャワー室に入ったことだ。
さらに自分の方がよからぬ妄想をしていたことも重畳しているのかもしれない。さっきから顔が郵便ポストよりも真っ赤だ。
「いや、そこまでして謝らなくてもいいって。けしかけたのは桜居なんだし」
当の桜居のボケは戦闘が始まってすぐに屋上から避難していた。あいつは後で縊り殺す。
「なんでお前がここにいるのよ?」
寝起きのリーゼが眠い目を擦りながら不機嫌さを滲ませた声で問うた。それは俺も気になったが、授業開始前の予鈴がなっている。手短に話してもらおう。
「ああ、そうだった」セレスは土下座から正座に移行し、「誘波殿からこれを預かっている。後で目を通しておいてほしいとのことだ」
セレスはスカートのポケットから四つ折りにしたA4用紙を取り出し、俺に手渡す。後でとは言わず俺はすぐにその紙を広げた。
そこにはタオルで大事な部分を隠しただけのデフォルメされた男女のイラストと共に、でっかくこう書かれていた。
【異界監査局主催・二泊三日の秘湯巡りツアー 発案者:白峰零児】
そんなタイトルの下には日程や場所、持ち物などの細々した内容が書き綴られている。お問い合わせは法界院誘波まで――ってあの着物馬鹿は一体なにを考えているんだ?
しかもこの日程、今週末じゃないか。急だな。場所は秘密です当日発表しますとか、怪しさ満点だ。まったく誰だよこんな企画考えた白峰零児ってアホ野郎は………………俺だ。
「あー、まさか昨日のアレか?」
リーゼを温泉に連れて行ったら喜ぶだろうなと呟いたのを、誘波が耳ざとく聞いてやがったんだ。そういえば早速手配するとか言ってたような気もする。
「セレス、お前はこれ読んだのか?」
「いや、漢字という文字が多くてまだ私には読めないんだ。よければ、なんと書いてあるのか教えてもらえないだろうか」
俺は少し逡巡する。読み聞かせるくらいならしてもいいが、誘波の提案に簡単に乗ってもいいのだろうか。激しく不安だ。
「レージレージ、それなんなの? 面白いこと? 退屈しない?」
楽しそうな匂いを嗅ぎつけたのか、リーゼが眠気など吹っ飛ばして赤い瞳の中でお星様をキラッキラさせていた。ぎゅっと握った両手を胸の前に持ってきたりなんかして、お子様のような上目遣いで俺を見上げてくる。
桜居の言葉じゃねえが、このお嬢様は〝魔帝〟とは思えないほど可愛いなチクショー。
「リーゼ、温泉って知ってるか?」
試しに訊いてみると、案の定、リーゼはふるふると首を横に振った。
「知らない。なにそれ? 楽しいの?」
「俺ん家の何倍も何十倍もでっかい風呂のことだ」
「!」
俺の言葉を聞いたリーゼはぴょんと五センチくらいその場で跳ねた。そして大きな目をまん丸に見開き、少し興奮気味に頬を上気させて言う。
「入る! オンセンってのに入ってみたい! レージ、わたしをそこに連れて行きなさい!」
その瞬間、俺は折れた。乗ってやろうじゃないか、誘波。この風呂好きの〝魔帝〟様を温泉に連れて行ってやりたいと思ったのは俺の本心だからな。
それに日本かぶれの誘波が陳腐な温泉をチョイスするわけがない。たまには旅行なんかして羽根を伸ばすのも悪くないだろう。
「温泉……か。なるほど、それなら私もわかるぞ。ラ・フェルデにもあったからな。何度か湯治に行ったことがある。アレは気持ちのよいものだ」
故郷を懐かしむように目を閉じるセレス。どうやら、彼女の参加も確定のようだ。
「じゃ、みんなで行くか」
レランジェは誘いたくないけど、あいつがいないとリーゼが困る。仕方ない。
決定したところで俺たちは授業開始のチャイムが鳴っていることに気づき、慌てて教室に戻った。
放課後、発案者となっていた俺は、監査局に呼び出されてみっちり三時間ほど副局長の説教をくらった。
誘波のやつ、ちゃんと全体の許可を取ってからこういうことしろよ……。
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